オラリオの迷宮   作:上帝

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12話 緑死病

 

 

 

「燃え尽きたぜ……」

「か、神様ー!?」

 

 神会へ行ったヘスティアが帰ってきた。前に行っていた《二つ名》のこともあり、この日のためにと気合を入れて服も新調している。

 

「聞いてくれベルくん、ブシドーくん。僕の頑張りの証を……」

 

 ヘスティアから告げられた少年の二つ名は、《未完の少年》となったらしい。どうやらこれ自体はヘスティアが考えたわけではなく、フレイヤ神が提案したのだとか。

 フレイヤと言えばそのファミリアにいるオッタルから刀を借りっぱなしだ。あの場でのやり取りから譲り受けたと捉えてもいいが、いずれ何かお返ししなくてはならないだろう。

 

「そしてブシドーくんは、これだ!」

 

 次に語られたあなたの《二つ名》は、最初にフレイヤ神が提案してその後それでいいと全員が納得したそうだ。

 名づけて……《全てを狩るもの》。あなたは地図をしっかりと書き、素材も1つの階層から全て集め、モンスターも倒して素材として扱い始めた。

 迷宮も、素材も、モンスターも全て制覇せんと言う勢いから、あなたの《二つ名》は決まったらしい。

 

 少年はその意図を聞かされ、目を輝かせているが……あなたは非常に微妙な顔をしていた。

 なぜならその名を持っているモンスターを知っているからだ。そのモンスターと同じ《二つ名》になって、改めて考えてみると……地味に共通点がある。

 

 あなたは非常に苦い顔をしつつも、《二つ名》を受け取った。ヘスティアの手前、喜ばないわけにもいかず非常に硬い声で礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

《二つ名》が付いてから数日が経過する。だが、劇的に日常が変わるわけでもなく、概ねいつもの通りの日々である。

 あなたは少年と朝の鍛錬をしていた。変わっていることと言えばアイズがいないことと、あなたと少年が二刀流で鍛錬していることくらいだ。

 アイズはロキ・ファミリアの遠征に出た。しばらくは戻ってこないだろう。そして、二刀流で訓練している理由は、もう一つの武器の目途が立ったからだ。

 

「そういえば、二刀流のときは構えないんですね」

 

 少年が聞いてくる。あなたの三種の構えはあくまで1本の刀をしっかりと持っているときだけだ。

 故に、二刀流のときのあなたは基本的に無形の位だ。少年は一向に構えないあなたに疑問を持ったのだろう、別に手加減しているわけではないことをあなたは伝える。

 

「じゃあ、いきます……!」

 

 少年は初めての二刀流と言うこともあり、普段より格段に動きが悪くなっていた。慣れていない動きをすることになる以上、それは仕方ない。

 対するあなたは、二刀流の名手だ。普段の構えから出る一閃と違い、二刀流のときのあなたは手数で勝負をする。

 

 あなたは技の一つを放つ。少年は慣れていない二刀流でも、利き手と逆手で受ける。

 

 だが、この斬撃は受けてはいけないものだ。同時に10の斬撃を放つあなたの技を、たった二つの武器で受け切ることなど不可能だ。

 少年の木のナイフを二つとも弾き飛ばし、有り余った斬撃は少年の元へたどり着いた。

 

「ぐっ……!」

 

 鐘の音が少年から聞こえる。少年は苦悶の声を上げるが、決死の覚悟を持って倒れずに向かってくる。

 

 あなたは少年に、いくつかの限界の越え方を教えていた。少年が新たに得たスキル《英雄願望》はあなたで言うフォースブーストやリミットスキルに近いものらしい。

 故に、あなたの技を少年は難なく覚えた。今もしっかりと使えている。……が、今回ばかりは相手が悪かった。

 

 覚悟の上から、容赦なく終の一撃が降る。少年は確かに10回の攻撃に耐えた。

 だが、あなたにはあと1回だけ攻撃が残っていた。どこからともなく出てきたハンマーが少年の頭に落ちてくる。《幸運のハンマー》と呼ばれる、一人専用のリミットスキルだ。

 後頭部を打たれた少年は前のめりに滑り込む。食いしばった身体に、あの頭への衝撃は良く効く。

 あなたは気絶した少年の介抱をしつつも、何か落ちてないか探したが……。あるのは少年の財布だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたとぼろぼろになった少年は、ヘファイストス・ファミリアにいる。武器の作成を依頼していたからだ。

 

「頼まれたものは完成したよ。作った本人が直接手渡したいって言ってるから、ついてきて」

 

 ヘファイストスに案内され、たどり着いた応接間には赤い髪の青年がいた。

 

「よぉ、あんたらが依頼主か。俺はヴェルフ・クロッゾ、今回の武器依頼を受けさせてもらった鍛冶師だ」

 

 律儀に挨拶をしてくる青年に、少年とあなたは名乗り返した。するとあなたの名前を聞いてヴェルフは反応する。

 

「あんたがブシドーだって?あんなクロスボウを依頼した割には、小さいな……?」

 

 青年はあなたを見てそう感想を述べる。どうやらあなたが依頼したクロスボウを作った鍛冶師のようだ。確かに、あなたは少年よりもっと小柄になる。それであの巨大なクロスボウを扱っていると言われると、疑問が残るかもしれない。

 

「まあ使ってもらえてるんならそれに越したことは無いか。いやぁ、今回は苦労したぜ?モンスターの素材を心材として作るのは初めてだったからな」

 

 そう言ってテーブルの上にはナイフと刀が置かれていく。そう、これらはあの血濡れの牛角を使って作られた武器なのだ!

 

「ナイフの方は《牛短刀(みのたん)》、小太刀の方は《牛切り包丁》って名前だ。初めてにしては良い出来だと保証するぜ!」

「み、みのたん……?」

 

 あなたはその小太刀を腰に刺す。《小太刀》を大切に使わせてもらう、とあなたは釘を刺して言う。

 

「くっ……。やっぱ俺のネーミングセンスに時代が追いついていないようだな」

 

 やれやれと言った感じのヴェルフをしり目に、あなたは退出しようとしていた。お金はもう払っているし、これ以上茶番に付き合う必要もない。

 少年の手を引いて、そろそろ行こうとしたとき。ヴェルフが待ったをかけてくる。

 

「すまん。鍛冶の縁で一つ、頼みがあるんだ」

「っと、なんでしょうヴェルフさん」

 

 改まったヴェルフに少年が反応する。鍛冶師の頼みとなると何だろう、やはり鉱石とか、鍛冶ハンマーの入手依頼だろうか。

 だがヴェルフの頼みは、あなたの考えていた依頼内容とは全く別物だった。

 

「俺を、パーティに入れてくれ!」

 

 

 

 

 

 

「それで、パーティ入りした鍛冶師があなたですかぁ」

「ああ、ヴェルフ・クロッゾだ。よろしくなチビ助」

「……リリルカ・アーデです。あいにく、人をチビ呼ばわりする方とはよろしくしたくないです」

「じゃあリリ助だな、よろしくな」

「そういうこと言ってんじゃないんですよ!おちょくってんですか!!」

「まあまあ……」

 

 あなたたちは今、迷宮の前で待ち合わせている。集まった全員での顔合わせは、これが初めてとなる。

 心配していたリリルカとヴェルフの中も良好のようで、あなたは安心していた。

 

「ブシドー様……どこを見れば良好って思えるんですかね?」

「はっはっは、ブシ子は良く分かってるな」

 

 ブシ子とか呼ばれ始めたあなただが、もう深く気にしないことにしている。

 さて、この鍛冶師がパーティ入りした理由は二つある。

 

 一つは売り込み。ヴェルフはダンジョン内での武器の調整を申し出た。ダンジョン内で、武器の整備は必須である、と。

 何故なら武器が破壊されてしまったら、戻るまで武器がなくなってしまうからだ。言われてみれば、確かにそうだ。

 あなたはいくつか武器を兼用しているが、その中でもクロスボウは機構が存在する。流石のあなたも武器は使う側だ。整備する側の人がいるのは心強い。

 

 もう一つはレベル上げ。ヴェルフは戦える鍛冶師を自称していたが、それでもまだレベル1らしい。

 苦行を乗り越えなくてはレベルは上がらない。だが、レベル1では無理も出来ない。そこで武器の依頼をしたあなたたちに白羽の矢が立ったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 あなたたちは今12階層の出口にいる。

 この階層までの戦闘は、あなたと少年は遊撃。ヴェルフはリリルカを守るための護衛として動いていた。

 

「ここから先、13階層以降は中層と呼ばれている危険地帯です。準備してきましたので、皆さんこれを被ってください」

 

 リリルカから《火精霊の護布》と呼ばれる布を渡される。いわゆる火耐性の装備だ。

 中層には《放火魔》と呼ばれる火を吐く猟犬が存在している。そのモンスターのブレスによって、数多くの冒険者が灰と化しているそうだ。

 

「何が起きるか分からない中層。皆、慎重に行こう」

「すぐ撤退も視野ですね。悩んでいるとすぐ無茶をする人がいますから」

 

 リリルカにじとり、とあなたは視線を送られる。無茶という無茶はあまりしていないつもりだが……

 

「はい、自覚なしですね。ベル様、撤退の合図はお願いします」

「うん。分かってるよ」

 

 即座に流されてあなたは思わず抗議する。そこまで言わなくたっていいのではないだろうか。

 

「いやぁ……ブシ子の姉御は頭おかしいからな、間違ってないわ」

 

 ヴェルフがいつの間にかあなたのことを姉御呼ばわりしてくる。そして意見は1:3、あなたの敗北だ。

 

「ベルが1体倒してる間に姉御が何本撃ってるかわかんねぇからな……それだけ出来るからこそ無茶もするってもんだろ?」

 

 何度も言われているが、あなたは無茶をするつもりは一切ない。ただ、状況が悪くなったりするだけなのだ。

 

 愛らしいリスと戯れようとして、糸を盗まれたり。

 中々釣れないザリガニをムキになって手づかみしたり。

 

 ……あなたがふと過去を思い出すと、そういったことに教訓を得てないのでは。と思い始める。

 よし、ここから中層なんだからしっかりやろう。あなたはそのことを全員に伝え、皆が頷く。

 

 中層。探索開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ダンジョン》 13階層--中層--

 

 

  中層に降りて、すぐの広間。あなたたちは兎型のモンスターに囲まれていた。

 

「ベル!そっち行ったぞ!」

「わかってる!」

 

 少年とヴェルフが声を掛け合い、周囲のモンスターに対応していく。その二人の間では、リリルカが小さなクロスボウで支援していた。

 

 一方のあなたは、ひたすら砲弾を詰め込んで撃っていた。周りを囲んでいる前後左右のモンスターのうち、あなたの担当は少年たち以外の三方向だ。

 魔石も精神のことも考えず散弾を撃ち続けて、ようやく一区切りがついて少年たちの加勢に行こうとした瞬間、あなたは進行方向から気配を感じた。

 

 あなたは目を凝らし、その方向を見る……モンスターに襲われている冒険者が、こちらに来ていた。しかも追ってきているモンスターは《放火魔》だ!

 このままではまずい。とあなたは即時に判断をし、冒険者がこちらを通る前提で散弾を打ち上げた。さらにあなたは砲弾を込める。

 

「……すまん!」

 

 案の定、和装のパーティはあなたたちを突っ切って移動していく。

 あなたはそのパーティが通り過ぎた瞬間、《放火魔》たちに氷の散弾を撃ち込んだ。炎を使うと言うのなら氷は代表的な弱点だ。

 氷の散弾で弱ったところを、偏差して撃った散弾が貫いていく。ひとまずこれで、モンスターの対処は完了だ。

 

 

 

 突っ切っていったパーティは、あなたを見て硬直していた。少年たちの戦闘も終わっていたらしく、あなたと少年たちでそのパーティを挟んでいる形となっている。

 

「どういうつもりですか、貴方達。ブシドー様が倒し切れなかったら、これは立派な《怪物進呈》ですよ」

 

 リリルカが低いトーンで言う。《怪物進呈》はモンスターを別のパーティへ流す行為だ。あなたがダンジョン初日に行ったのも、広義で《怪物進呈》に当たるだろう。

 

「……仲間が毒にやられていて、急いでいた。すまないが退いてくれ、一刻を争うんだ」

「はいそうですかって退けるかって言うんです!ぶつかって謝るってレベルじゃないことをしたんで……って、ブシドー様?」

 

 リーダー格の男、カシマ・桜花が言うには仲間が毒にやられているらしい。毒についての知識は少しはある。とあなたはリーダーの男に伝え、仲間を見せるように言った。

 ついでにあなたはリリルカに解毒系のアイテムの取り出しと、少年とヴェルフに周囲の警戒を頼む。意を酌んだのか少年とヴェルフはすぐ動く、がリリルカは納得できないようだが、アイテムだけは用意してくれている。

 

「……良いのか?あんなことをした後、俺が言うのも何だが……」

 

 良いも悪いもない。命が危険だというのなら助けるだけだ。あなたは毒に侵されているという少女の介抱を始める。

 

「すまない!この恩は必ず返す!」

 

 別の少女……ヤマト・命と言うらしい。……が大げさに頭を下げてくる。正直言って検診の邪魔だ、そういうのは後で良い。とあなたが言うと、何故か目を輝かせてこちらを見てくる。やり辛い。

 

 さて、少女の検診を続けるあなただが……少女は毒に侵されてるにしては安らかに眠っている。症状に違和感を感じたあなたは、和装を切り腹部を見る。

 

 

 

 そこには人としての肌の色は無く、腹部を中心に緑色の肌が広がっていた。

 

 

 

 あなたはその少女の様子を見て確信する。これはある植物のモンスターの毒だ。単純な毒ではなく、植物自体が体内に入って悪さをする悪質なものだ。

 この毒に感染したが最後、全身が緑色に変色し花が生えて死に至る。とあなたは説明する。無論、手持ちの解毒薬でこの奇病を治すことは出来ない。

 

「どうすれば治るんだ」

 

 桜花に促されあなたは答える。この毒を治すには火の魔力を体内に取り込んで、原因となっている植物を焼き殺す必要がある。

 あなたが以前にこの奇病を治した時には、緋衣草という深紅の草を使った。それがあれば、特効薬が作れるのだが……

 

「今この場には、無い。だが心当たりならある!」

 

 命が言う。16階層にある《放火魔》の群生地で、深紅の草を《放火魔》が食していたのを見たらしい。

 そうと決まれば後はそれを採取するだけだ。あなたはここまで来て見過ごすのも、と少年たちに言う。

 

「乗りかかった船ですし」

「ま、出会いは悪かったが。ってやつだな、ここまでお膳立てされてやらない冒険者もいないだろうさ」

「むう……」

 

 男性陣は了承し、リリルカだけはむくれている。納得いかないのは当然だ、だが同じ状況でリリルカが毒に侵されていたら、あなたも同じ選択をしたかもしれない。

 

「それは絶対ありません、ブシドー様は人に迷惑かける前に死ぬタイプですから。……そちらのパーティは、どこのファミリアで?」

「……タケミカズチ・ファミリアだ」

「これが終わったら、きっちりさせてもらいます。覚悟しておいてください」

 

 リリルカはそう言い、賛同してくれたようだ。ならばあとは16階層の《放火魔》の生息域に向かうだけだ。原因となったタケミカズチ・ファミリアのパーティ全員も同行することになる。

 

 

 

 

 ここから先、中層の厳しい戦いに全員が集中している中……あなただけは別のことを考えていた。

 

 緑色の肌になる奇病を、あなたは知っている。《緑死病》という奇病で、その病原体となったモンスターもあなたは知っている。

 あなたの額に、冷や汗が出る。もしも今、アレと戦うことになったら……

 

 

 ……まず間違いなく、あなたを含めて全員が死ぬ。

 

 

 出会わないようにとあなたは祈りつつ、16階層への道のりへ挑んでいった。

 

 

 

 

 

 




《全てを狩るもの》
アイテム、エネミーデータ、ダンジョンデータを全て登録した冒険者の称号。
ではなく、F・O・Eの名称。大きいカマキリ型のF・O・Eで、実はシリーズ皆勤賞のF・O・Eだったりする。

《幸運のハンマー》
1人用リミットスキル。
ターンの終了時に発動して、塊属性のダメージを与える。この攻撃で敵を倒すと、確実にアイテムがドロップする。

《英雄願望》
フォースブースト:英雄願望
効果:次の行動に溜めた感情値分の補正を乗せる。感情値を消費することで、リミットスキルの発動も可能。

《レインフォール》
バリスタの技。
上空に弾丸を撃ち、次のターンに敵全体に突属性ダメージを与える。
時間差で撃つ全体攻撃スキル。ブシ子の場合だと、これを撃った後にあるスキルで敵全体を追撃できたりする。




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