オラリオの迷宮   作:上帝

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13話 散るもかなり?

 

『いない、いない、いない』

 

 緑色の肌をした少女が独り呟いている。

 少女には探している素振りがない。その少女は鎮座し目を閉じているからだ。

 

『どこにいるの……?』

 

 少女の周りには花が咲き誇っている。それどころか、少女は自身から伸びる植物に埋もれていた。

 自身から伸びる蔦の蠢かせ、少女は鎮座する。目を閉じ少女は呟いている。

 

『見つからないわ……冒険者さん……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ダンジョン》--16階層:放火魔の領域--

 

 命の先導とあなたの警戒歩行もあり、目的の場所までそう時間もかからずに到着した。

 だがあまり猶予は無い。緑死病にかかった少女のへその緒から蕾が伸びてきているのだ。

 

「ここから先が《放火魔》の群生地……。採取をするにしても、まず《放火魔》を倒しきらないことにはな」

 

 桜花の殺気に勘付いたか、目先にいる《放火魔》たちがあなたたちに向かってくる。

 タケミカズチ・ファミリアと、あなたたちが即座に戦闘に入る。少年と命が切り込み、ヴェルフと桜花が守りに入る。

 あなたは刀を抜き、少年と命のサポートに回った。ここで散弾を撃ったら採取対象ごと吹き飛ばしかねないからだ。

 

 少年の短剣が《放火魔》の口を貫く。あなたはそれに合わせて《放火魔》の胴体を断ち切る。

 命の太刀が《放火魔》の脚を切り裂く。あなたはそれに合わせて《放火魔》の頭を突く。

 

「……いや、おかしいだろ?姉御さっきベルのところにいただろ、なんで命の嬢ちゃんのところにいるんだよ」

「まさしく一騎当千だな。この分なら問題あるまい」

 

 ほどなくして殲滅が完了する。少年の二刀流と敏捷の高さのおかげで、あなたの追撃も上手く行った。

 刀を収めて周囲の確認をしていたところ、命が駆け寄ってくる。

 あなたの刀捌きを見て、師匠と呼びたいらしい。その呼び名だと残念な人になりかねないから普通に呼んでほしい、とあなたが懇願する。命はよく分かってないが了承してくれた、よかった。

 

 

 さて、ここからは採取だ。介抱の準備をしているリリルカ以外の全員で採取をし始める。

 

「ありました、ありましたよ!深紅の草!」

 

 少年が深紅の草を見つけた。あなたがその種類を見極めるため、その草をかじり見極める……。

 

 これは……緋衣草だ!味を見て間違いないと判断したあなたは、全員分を用意してくれと頼む。タケミカズチ・ファミリアの全員はもちろん、緑死病となった少女と同行しているあなたたちが感染している可能性もあるからだ。

 

 

 さて、あなたの仕事はこれからだ。緋衣草を使って薬を作らなければならない。

 

 緑死病の特効薬を作る際の注意は水薬にしてはいけないことだ。火の魔力が霧散してしまい、効果が落ちることはもちろんのこと。すさまじく飲みにくくもなる。

 と、言ってもこの場で丸薬にすることもできない。あなたはすりつぶした緋衣草を手早く少女に飲ませた。

 

「――――!?」

 

 突如飲まされた粉に驚き、悶絶する少女。よし、効果は抜群だ。

 少女は眠りから覚め、へその緒から伸びていた蕾も花開く前に枯れ始める。体内にいた本体を焼き尽くしたのだ。

 

「千草!」

 

 命が思わず駆け寄り、少女を抱きしめる。少女……千草は、状況が分かっていないようだ。

 

「かたじけない……!このご恩は、絶対忘れない!」

 

 桜花が千草に事の顛末を話す中、命はあなたに何度も頭を下げてくる。じゃあ、まずはこれを飲むところから始めよう。

 

 命にあなたは緋衣草の特効薬を渡す。飲んでも恨むな、とあなたは念を押しておく。

 

「……?薬で恨むなとは、また何とも言えないが……辛っ!?」

 

 あなたは目を逸らしながら思う。粉薬となったこの緋衣草は――――恐ろしく辛いのだ。

 

 命が思わず転げまわり、周囲が戦慄する。こんなものを飲むのかと言った表情だ。

 犠牲となった命に続き、あなたも緋衣草を飲む。予防の為なんだ、仕方ないと割り切って飲もう。

 

「命がアレなのにそちらは表情をしかめるだけか……」

「ほ、本当に飲まなきゃいけないんですか?しかも水なしって……」

 

 むしろ水があったり、水薬になった方がきついとあなたは言う。あの辛味は、水なんかで消すことはできない。

 

 

 

 

 全員が特効薬を飲み、復帰するまでには相応の時間が必要となった。

 だがこれでもう問題もない。緑死病も治せたし、万事解決だ。

 

「否、まだ解決はしていない」

 

 あなたの考えを桜花が否定する。元凶を断ち切らないことにはこの奇病を解決したとは言えないと。

 ふと、あなたはどうやって緑死病に掛かったのかを聞いた。失礼な話になるが、アレとあって一人が緑死病になるだけとは思えない。

 

「ここ16階層で、植物の蔦に花が付いているモンスターとあったんだ。その場から動かず、先んじて攻撃を仕掛けたところ……花粉を受けた千草が、奇病が発症した」

 

 ……どうやらアレの末端がこの階層にいるらしい。嫌な予感がしたあなたはすぐさまダンジョンを脱出しよう、と全員に相談する。

 

「でも、そのモンスターを倒さないと緑死病にかかってしまう人が出ますよね……?」

「ああ。ここで立ち切っておかなければ」

 

 今の私たちで倒すのは不可能だ、と断言する。あなたはその元凶の危険性を説いていく。

 緑死病もさることながら、戦闘になれば多種多様の毒で追い詰めるのがその危険なところだ。加えて、戦闘能力も高い。

 

 あなたの言葉に食い下がってきたのは、意外にも少年だ。

 

「ロキ・ファミリアはもう遠征に出ていて、もうしばらくは戻ってこない。今ここでその元凶を倒さなきゃ、もっとたくさんの犠牲者が出るかもしれないんです!」

 

 その犠牲者の一人目が少年やあなたになるかもしれない、とあなたは言い返す。

 少年は割と頑固な面もある。だが、ここは絶対に譲ってはいけない。たとえ水掛け論になったとしても、アレと戦わせるわけにはいかない。

 

「はい、ストップですよお二人とも」

 

 少年とあなたの論議に、割って入ったのはリリルカだ。

 いくら殲滅したとはいえ、《放火魔》の群生地に居続ける必要はない。そしてもう一つ、元凶に対しての案があるという。

 

 現在いるこの16階層の下は、17階層と呼ばれる特殊な地形らしい。

 17階層では階層主が存在している一本道のエリアで、ここを越えた先18階層はモンスターの沸かない特殊なエリアだとか。

 

「遠征中のロキ・ファミリアだって中継地点は設けているはずです。18階層まで行って上級冒険者の方の協力を取り付けられれば……」

 

 なるほど、とあなたは思う。戦力さえ整うのであればあなたに異論はない。少年も納得したのか、一同は18階層を目指すことになる。

 巻き込んでしまったタケミカズチ・ファミリアの面々も、微力だが協力したい。と言い道中の露払いに協力してくれる。

 

 目的が決まったなら、あとは動くだけだ。前方を少年と命に任せ、あなたは殿に付いた。

 あなたたちは《放火魔》の群生地から抜け出す。そこには一輪の花が咲いていた。

 

 

 

 

 

『みぃつけた』

 

 

 

 

 

 どこからか、少女の声が響く。聞いたことある声にあなたは戦慄する。そして、あなたの背後から無数の植物の蔦が地面から伸びてくる。

 あなたは瞬時に反応し植物を切り払う。が、植物の狙いはどうやらあなたのようだ。無数に伸びてくる蔦にからめ捕られ、あなたは蔦が通る地面へと引き込まれる。

 

「ブシドーさん!」

 

 少年が手を伸ばしてくる。巻きつく蔦に抵抗しながら、あなたは逃げろとしか言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 蔦に引かれて落ちた先は、壁全体が植物に覆われていたエリアだった。

 そしてその中心、引き落とした目の前にアレがいる。

 

『お久しぶり、冒険者さん』

 

 多種多様の花が咲き誇る中、緑色の肌をした少女が植物の中に鎮座する。

 間違いない、この存在こそ緑死病を振りまいた元凶。

 

 ――――《アルルーナ》

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

「待てベル!どこへ行こうってんだ!」

 

 思わず駆け出そうとしたベルを止める。悔しい気持ちは分かるが、そんなときこそ冷静にならなきゃまずい。

 

「助けに行くんですよ!いくらブシドーさんだって、助けは必要なんだ!」

「それで闇雲に走って、16階層のモンスターすべてに喧嘩を売るつもりか」

 

 暴れるベルを抑えていたところ、割って入るのは桜花だ。

 ベルは桜花の言葉で少しは落ち着いたのか、だが助けるって意志に変わりは無さそうだ。

 

「……今の植物の動きで、行先に心当たりが出来た」

「!」

 

 桜花が言うには、あの植物は地面から生えて来ていた。つまり、少なくとも本体が下にいるという推測だ。

 

「けど待って下さい。この下の階層は……」

「ああ、階層主のエリアだ。ロキ・ファミリアの遠征で討伐された隙を狙って、乗っ取ったんだろう」

 

 つまりはこうだ。17階層の強敵を倒すために、18階層に行く必要がある。

 そして一番の強さを誇る姉御は、強敵に連れ去られちまった。くそ、どうしろってんだ。

 

「……結局、行く先は変わらないわけですね」

「そうだ、だからこそ一人で突っ走るな。全員で、17階層に向かうぞ」

 

 桜花の言葉に、ベルの目に決意の炎が宿る。

 だが、姉御ですら即座に捕らわれたってのに勝てるのか……?

 

「……何弱気になってんだ、ヴェルフ・クロッゾ。ここでビビってちゃ男じゃねえだろ」

 

 気合を入れ直して後に続く。姉御なら無事だ、と自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

 ほどなくして俺たちは17階層の前に付く。だが、そこで問題が起きた。

 17階層へ行く縦穴が植物の蔦で覆われている。間違いない、姉御を引き込んだ蔦と一緒だ。

 

「僕が焼き払いますから、その隙に通ってください!」

 

 ベルがそう言い、《ファイアボルト》を蔦に撃つ。火が弱点なのか勢いよく燃えあがり、道が空いた。

 

「姉御!」

「ブシドー殿!」

 

 17階層へ突入した俺たちの目に映ったものは……。

 

 

 

 

 

 

『もう大変だったんだから!私の蔦が何本燃やされたと……』

 

 植物の中に鎮座する素っ裸の少女と、蔦に座って乾いた笑みを浮かべるブシドーの姉御がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 アルルーナの前に引きずり落とされた瞬間、あなたは即座に戦闘態勢に入る。

 だがアルルーナは笑顔のまま首を傾げる。戦う気が無いとでも言うのだろうか。

 

『戦いたいなら戦っても良いけど、今の冒険者さんじゃ戦いにならないと思うわよ?』

 

 ……悔しいが、アルルーナの指摘の通りだ。

 それどころか、彼女を倒した時期のあなたでも独りで倒すことなどできるのだろうか。それほどまでに彼女は強く、厄介だ。

 

『私はお話したいな、ようやく見つけたんだもの』

 

 ……当のアルルーナはこの調子だ、どうにも調子が狂う。

 あなたはまず、彼女の目的を聞くことにした。

 

『冒険者さん、もっと奥底で眠ってたでしょう?急にいなくなっちゃったから、スキュレーに頼まれて探しにきたの』

 

 アルルーナが言うには、あなたがダンジョン50階層でずっと眠っていられたのは《スキュレー》の世話のおかげらしい。

 《スキュレー》は冒険者をモンスターに変異させることで生まれる、女型のモンスターだ。あなたの知る限りでは、ハイ・ラガードとアーモロードのどちらかにいる個体のはずだが……。

 

『ああ、彼女は樹海の方の子ね。海の方の子は冒険者は大っ嫌いなはずだもん』

 

 ……それもそうだ。

 アーモロードのスキュレーには……いろいろと悪いことをした。一緒に討伐する人を含めて。

 

『ああ、懐かしい話ばかり。スキュレーもきっと話したがっているわ、なにせ1000年近く待ったんだもの』

 

 

 

 

 アルルーナの言葉に、思わずあなたは固まった。

 

 

 

 

『あれ、冒険者さんは気付かなかったの?まあ、仕方ないか。私たちと一緒で冒険者さんにも時間の概念がないんだものね』

 

 アルルーナは続ける。あなたには時間の概念が無いと言う。

 まるで、それではあなたが人間ではないみたいな物言いだ。

 

『じゃあ聞きたいんだけど、人間って1000年も眠っていられるの?衰えもせずに?』

 

 アルルーナの言葉に、あなたは黒の護り手の言葉を思い出す。

 

『せめて、我らの加護を持って汝を守護することを誓おう』

 

 ……そうだ。ファフニールの加護と言えば聞こえはいい。だがファフニールは元々、禍を鎮める特別な存在だ。

 戦うための存在の加護がもたらすものが何かなんて、突き詰めて考えてしまえば樹海のモンスターとなんら変わりない。

 

『そう、冒険者さんは私たちと同じ』

 

 化け物になった、というわけだ。

 

 

 

 

 

 だが、まあ冒険者家業をするうえで便利なのは確かだ。

 あなたは思考を切り替えてポジティブに捉えていく。見方によってはあなたが食いしばった直後でも十全に動けるとも捉えられなくもない。

 

『えぇ……も、もっと絶望に打ちひしがれるとか、人間じゃないなんてーとか言う場面じゃないの……?』

 

 アルルーナの指摘にあなたは思わず笑ってしまう。そんな指摘をするアルルーナの方が人間に近いのではないだろうか。

 

『そんなこと言われたの初めてだわ……。面白い、やっぱり面白いわ冒険者さん!』

 

 あなたの前に蔦が伸びる。どうやら座れと言うことだろうか。

 

『つもる話はいっぱいあるんだから!スキュレーには悪いけど、私だって探したりして疲れたんだもの。付き合ってくれるわよね?』

 

 あなたは冒険者だ、依頼とあらば断わらない。

 モンスターとの会話は貴重な経験だ。あなたはアルルーナの話に付き合うことになった。

 

 ……話が伸びに伸びて、愚痴ばかりとなったとき。あなたは軽い後悔をしていた。

 少年たちが乱入するまでの間、あなたは乾いた笑みを浮かべながらアルルーナの話に相槌を打っていた。

 

 

 

 

 

 




《一騎当千》
ショーグンの技。あらゆる攻撃に必ず追撃を行うスキル。
チェイス系の追撃には反応しない。が、それでも強い。
自身は一騎当千の準備をするので、生かすなら多段攻撃役が欲しいところ。

《アルルーナ》
かわいい。つよい。

世界樹の迷宮、および世界樹の迷宮Ⅲで出現するF・O・E。
ブシ子さんとあったのは、アーモロードの方らしい。
触手1号。


《スキュレー》
えろい。つよい。

世界樹の迷宮Ⅱ、および世界樹の迷宮Ⅲに登場するF・O・E。
Ⅱでは階層主も務めており、さらに上の階層主よりもよっぽど強いと評判。
触手2号。



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