『緑死病……?あ、あー。貴方達、私の蔦を切っちゃったのね』
あなたはアルルーナのことに付いて、少年たち説明した。
敵意が無いと分かれば後は理解しあえるかどうかだ。
直接的な被害を受けていない少年たちはともかく、タケミカズチ・ファミリアは緑死病の被害を受けた。特に桜花は納得がいっていないらしく、アルルーナに詰め寄っている。
『でも助かってるじゃない。運がよかったわね』
「運が良かっただと?元凶の貴様さえいなければこの奇病にもかからなかったんだぞ!」
『ふふ、冒険者とは思えない口ぶりね。探索における死は全て自己責任、それが冒険者だと思ってたんだけど?』
アルルーナの言葉に桜花は口をつぐむ。冒険者はいつ死ぬか分からない探索をしているのだ、一理ある。
『まあ安心しなさい。私の蔦から出る花粉なんて微々たるもの、あの火を吐く犬の吐息で花粉は死んじゃうわ』
「だが、元凶である貴様はここにいる。今ここで貴様を倒さねば――」
桜花の言葉に、アルルーナは微笑を浮かべる。
『――身の程を知りなさい。人間風情が』
アルルーナの微笑と言葉で、全員が凍りつく。魔力でも込められていたのか、この場の空気すら一気に冷えていた。
全員の様子を見てアルルーナは満足したのか、微笑から勝ち誇った顔に変わる。
『冒険者さんならともかく、こんなところで手こずってる人たちに私の相手は務まらないわ。せめて、あと43階層降りてきなさい』
ずいぶんと具体的な数字だ。現在いるのは17階層だ、つまり……。
『私の根城である60階層に来れたのなら、相手してあげるわ』
「60階層だと……!?ロキ・ファミリアでもそこまで到達していないぞ!」
『ええ、だから暇で暇で……』
緊張感の無くなったアルルーナを見て、ため息を吐いて桜花は引いた。どうやら割り切るしかないと気付いたようだ。
『じゃあ、下で待ってるわね。冒険者さん』
蔦から降りたあなたにアルルーナは言う。問答無用で下まで連れて行かれるかと思ったが違うようだ。
『楽しみを奪うような性格ではないつもりよ。でも速く来てくれないと退屈でまた来ちゃうかも』
アルルーナの冗談には苦笑いしか出ない。あなたはアルルーナになるべく速く踏破することを伝える。
『ああ、そうだ。どうせここまで来たのだから、19階層の入り口を見てから帰ると良いわよ。じゃあね』
唐突に振られた言葉と共に、アルルーナは地中へと潜っていった。彼女のいた場所には大きな穴が何層にも連なっている。
「下から掘ってきたんですね……」
「植物らしいっちゃらしいが、とんでもねぇな……」
その穴も即座に埋まっていく。まるでダンジョンが生きているかのようだ。
そして、去り際のアルルーナの言葉にあなたは疑問が沸いていた。
19階層の入り口に特別な何かでもあるのか、とリリルカに聞こうとしたとき、異変が起きた。
地面が揺れ、天上からは岩が落ちてくる。
そして蔦に覆われた壁を壊し、咆哮と共に巨大なモンスターが現れた。
「階層主です!!」
リリルカの絶叫が響く。このエリアに鎮座する階層主、《ゴライアス》が生まれてしまったのだ!
あなたたちの目が合い、即座に全員が17階層の出口へと走る。
が、ここで誤算が生じる。出てきて蔦を疎ましく思ったのか、ゴライアスが出口の壁を殴りつけてきた。
「落石が来る!下がって皆!」
間に合わないと判断した少年が、元の道に戻る指示を出す。
落石が出口をふさいでいく。残された選択肢は二つだ、とあなたは言う。
「……逃げるか」
「……倒すか、ですね」
命と少年が続く。
だが、逃げるにしても17階層の入り口はゴライアスが邪魔となっている。
「……俺が、囮になる。お前達はその隙に――」
桜花の後の言葉を、あなたが遮る。
階層主を倒して、全員無事に18階層へたどり着こう。
「――本気か!?」
本気も本気だ。冗談を言う暇などない。
あなたは全員に作戦を伝える。少年はすぐさま応じ、続いて命、リリルカ、ヴェルフが応じていく。
渋い顔をしているが、桜花もすぐ折れてくれた。階層主が迫っているのだ、時間は惜しい。
「言えた義理ではないが……信じさせてもらうぞ」
「本当に言えた義理じゃないですね。ま、ベル様とブシドー様がキモですし何とかなるでしょう」
リリルカがそう言い、あなたにありったけのポーションを飲ませてくる。
桜花はリリルカの言い分に苦笑しつつもが先陣を切る。その後をヴェルフと命が追った。
あなたは少年以外に、無理をせず時間を稼いでほしいと言った。
少年とあなたは攻撃役だ。ゴライアスは巨人であり、白兵戦などしたらその巨体に阻まれてしまう。
故に、少年とあなたのリミットスキルで一気に倒そうと言う作戦だ。少年は瞑想状態に入り、その内から響く鐘の音を大きくしている。
一方、あなたも少々やることがある。
階層主がリミットスキルだけで何とかなるとは思っていない。かねてから試したいと思っていたことが出来るチャンスだ。
あなたは深呼吸をし……一気に身体の血を滾らせた!
目が充血していき、心臓の鼓動が破裂するほどに速くなる。何も知らない人が今のあなたを見れば、羅刹と見間違うだろう。
「ブシドー様!?何を……」
あなたはリリルカにポーションを自分へ飲ませ続けるように言う。この羅刹状態で居続けると、あなたでも死にかねない。
続いてあなたの内にあるグリモアを開く。火炎が体に潤滑していく感覚があなたに宿る。あなたの吐息は血と火によって赤くなっている。
リリルカは献身的にあなたにポーションを使い続けている。あなたはここまでで良いと伝え、弓と弩を構える。
体の中の火が消えないうちに、やらなければいけない。
あなたは天を射抜くように高く矢を放つ。続くように空中に散弾を放つ。
ここで、少年の鐘の音が止まる。準備は良いか、とあなたは声を掛ける。
「はい、いつでも……行けます!」
少年の手にあなたの手が添えられる。激昂した火竜と同じ体の状態であるあなたの手は、とても熱い。
魔力を全て渡したらあなたが動けなくなる。ほどほどの魔力を渡した後は……あなたも限界を超える番だ。
俺達の役目は、ベルと姉御がでかい魔法を撃つまでの時間稼ぎだった。
ゴライアスは俺達が前に出るのを見ると、壁に手を突っ込み無造作に岩を引きちぎる。
「岩の散弾が来るぞ!」
岩を握り砕いて、投げつける。ただこれだけのことでも階層主がやるとなれば相当なことだ。
しかも俺たちの場合、姉御たちに攻撃させないように注意をひきつけなければならない。俺はゴライアスの股下を潜り入口側へと突っ走る。
「こっちだ!デカブツ!」
叫びをあげて注意を引く。桜花と命は左右に陣取ったみたいだ。
これなら狙いがどこに来たって姉御の方にはいかねぇ。岩の散弾は……俺に向かって飛んできた。
残念なことに囮になった中では俺だけがレベル1だ。
大剣を盾代わりに凌ごうとしてみたが、流石に無謀だった。岩の霰が身動きを取らせなくする。
そしてその霰をまいた後にゴライアスは踏みつけようとしてくる。考えやがって、これじゃあ動けない。
「ヴェルフ殿!」
命が叫ぶ。踏みつけで死を覚悟していた。
……が踏みつけられる寸前、桜花が俺を抱えて飛んでいた。つまりは両手を使えずに岩を受けたことになる。
「これで、貸し借りは無しだ」
「……カッコつけやがって。助かったぜ」
変わらず貸し借りなんてスカしたことを言ってくる桜花だったが、今のは本当に助かった。
感謝の言葉を述べるが、桜花も無防備に岩を食らった。心配した命が駆けつけてくるが、囮役が集まるのはまずい。
「皆さん!下がって!!」
リリ助の声が響き、ゴライアスの集中が向く。それを聞いて俺たちは一気に引いた。
視線が集まるのはベルと姉御の方だ。ベルは魔力を貯めた右手を構えてるが……姉御は凄まじい貌になっていた。
肌の色は赤く、目は充血して白目が存在していない。
「……鬼だ、鬼がいる」
思わず桜花の口から声がこぼれる。確かに、鬼にしかみえない。
「《ファイアボルト》!!」
ベルの詠唱と共に、炎の矢が飛んでいく。炎の矢はゴライアスに着弾して業火になる。
が、ゴライアスは死んでない。炎でただれ落ちた上半身を見ると、確かにダメージとして通っている。だが、溜めに溜めた攻撃で倒し切れなかった。
姉御との協力した魔法でも、失敗か。と俺が思った次の瞬間。
轟音がゴライアスの方から響く。
姉御だ。姉御の放った矢がゴライアスの片足を吹き飛ばしていた。
轟音からすると、矢は足を貫通して壁をぶち抜いている。しかも、1度で終わるような生易しいもんじゃなかった。
炎の矢に合わせて2発。空から降ってきた矢と散弾に合わせて4発。全部が凄まじい音を立ててゴライアスの四肢を打ち抜いていく。
これで終われば、どれだけ優しかったことか。
姉御の追撃は終わらない。追撃に追撃と姉御はどんどん矢を撃ってくる。
四肢をもぎ、腹が吹き飛び、頭を半分壊したところでようやく姉御は止まった。いや、止まらざるを得なくなった。
もはやゴライアスが限界で地面に倒れそうなところを、姉御の矢が核である魔石を貫いたのだ。
自身を吹き飛ばす攻撃から解放され、消えていくゴライアスの表情は……どこか安堵した表情だと俺は感じていた。
やりきった。
ゴライアスを倒したあなたは、非常に充足感に満ち溢れていた。羅刹を解除し、あなたは一息をつく。
実はあなたが恩恵を手に入れてから、やりたいと思っていたことが一つあったのだ。
それは、夢幻残影の状態で……一騎当千の技を解放したらどうなるのか、というものだった。
敵の攻撃に悩まされず、万全の状態であなたが攻撃役として参加できたのは実際これが初めてだ。あなたは張り切って可能な限りの追撃を行った。
結果はごらんのあり様である。
階層主はずたぼろとなり、介錯と急所狙いを複合した矢がゴライアスの魔石を貫いた。
冷静になり考え直し……あなたはゴライアスのドロップを失ったことに気付いた。しまった、初めての階層主なのに、ドロップが何もない!
「……18階層で休むとするか」
「……そうですね」
悔しさで地面をたたくあなたをしり目に、皆が出口へと向かっていく。
張り切りすぎてドロップを台無しにしたアタッカーにかける言葉がどこにある。あなたは一人納得して、悔し涙を拭いていた。
ゴライアスの咆哮と、戦闘による轟音は18階層まで響いていたらしい。
出口の落石は、18階層に駐在していたロキ・ファミリアを筆頭に撤去された。
18階層はモンスターの出現しない安全地帯だ。冒険者が運営する街もあり、休息場所として申し分ない。
ここまでの戦闘で疲れがたまっていたのか、それとも先の戦いで気が抜けたのか。あなたを除く全員が街での休息を取ることとなった。
「……すごいね。ゴライアスってレベル4相当なはずだよ?」
そして今、あなたはアイズと一緒にある場所へ向かっている。本来なら休憩中のはずである彼女を連れまわすのは、あまりよろしくない気もするが。
「このくらいお咎めなんてないから大丈夫。それよりも、もう次の階層の下準備?」
そう、向かっている先は18階層の出口。つまりは19階層の入口だ。
『19階層の入り口を見てから帰ると良いわよ』
去り際のアルルーナの言葉が、どうにも引っかかっていたあなたは先に謎を解きにきていた。
「ついたよ。ここが19階層の入口」
アイズに案内され、19階層からモンスターが入り込まないようにされている門を抜ける。
その場所を見て、あなたは思わず呆気にとられる。
「ここからは樹の中……みたいなところを進んでいくことになる。別名は《大樹の迷宮》」
忘れようものか。あなたの目に映る場所は、何百、何千とあなたが通った場所だ。
アイズに紹介された、この《大樹の迷宮》入口は……樹海の入口にそっくりだった。
『ただいまー』
植物と共に、緑の少女が咲く。
緑の少女が咲いた場所は、ダンジョンの中にしては妙に明るい場所だった。森の中には鳥居が並び、人の手が入っているかのように道がある。
『おかりなさい。どうだった?』
『なるべく速く踏破する、だってさ』
緑の少女と会話をするのは、真っ白な肌をした金髪の美女だ。
ただし、水につかっているその下半身は人間のものではない。海魔を思わせる触手を振るわせ、美女は言う。
『そう…。来たら盛大に迎えてあげないと、ね』
『でも新しい仲間もいたみたい。冒険者さんと同格ならまだしも全然レベル違ったし、もうちょっと掛かるかも』
緑の少女が、新たな仲間という言った瞬間。
木々が揺らめき一人、おかっぱの少女が現れる。
緑の少女と、青の美女とは違い、その姿形は人間とさほど変わらない。
『……そうね。あなたも気になるわよね』
『えっ、でもこの子って冒険者さんに倒されたんでしょ?』
『そうだけど、元は仲間だったのよ。それも、同郷の子らしいわ』
おかっぱの少女は肯定する。首の上下をするたびに、彼女の体からは駆動音が聞こえてくる。
少女は説明する。対立する勢力にいた以上、争うことは仕方なかったと。
『それで負けて、そんな体になっちゃったわけだ』
少女は和装を着ており、肌を見せていない。だがちらりと見える肌は、生肌とは思えぬ装甲が見えていた。
そんな体呼ばわりされた少女は怒りを見せる。この体は、ともに戦った機械兵から譲ってもらった大切なものだ。
『わ、ごめんごめん!謝るから分身しないで!』
無数にいる少女は器用にも怒ったり、悲しんだり、今にも切りかかりそうだったりしている。
その中の2人がどこかへと飛んでいく。残っている少女たちが言うには、各方面に知らせるとか。
『お姫様に、皇子くんに、あとあの人ね』
『姫ちゃんと皇子くんはともかく、あの人はいいでしょ。それより、冒険者さんに会いに行かなくていいの?』
少女は首を横に振る。今あったところで何の意味もない。
――――弱い彼女に、何の価値があろうか。
少女の目は爛々と輝いている。早くここまで登ってこいと言わんばかりに。
『まあここまで来るには降りてくるんだけどね』
無粋な緑の少女のツッコミに、少女はぶすりと刀を差しこんだ。
《羅刹》
世界樹の迷宮4に登場するモノノフが使う自己強化技。
HPとTPにスリップダメージを受ける代わりに、物理、属性を問わず攻撃を強化する。
《弐の太刀》
ショーグンの技。二刀流が可能になる。
二刀流とは言うが、刀以外でも装備できたりする。謎。
《一騎当千+夢幻残影》
あいてはしぬ。
夢幻残影の効果は回避率上昇、弓攻撃時の追撃。
一騎当千の効果は攻撃命中時、必ず追撃。
一騎当千は基本的には追撃に追撃をしない。
が、夢幻残影の弓攻撃時の追撃はどうやら攻撃属性らしく、リミットレスなどでチェイス系を起動し、弓攻撃の属性をチェイスに対応した属性にして着火すると
チェイス→残影→チェイス→残影 と連鎖していく。
チェイスの攻撃回数には限度があったが、一騎当千の場合だと……