オラリオの迷宮   作:上帝

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16話 スキル

 

 

 

「どうした、立て」

 

 樹海の中で、猪人の男とモンスターが戦っている。いや、戦いと言っていいのだろうか。

 男は鹿のようなモンスターを痛めつけるだけで、トドメを刺そうとはしない。モンスターはそれを何度やられたか、体中が傷だらけだ。

 悠然と佇む男に一矢報いようと、大きな角を振るって鹿はおたけびを上げる。しかし、男にはどこ吹く風だ。

 雄叫びにひるまぬと分かったモンスターは、大きな角で男をかちあげようとする。

 

「この程度では、駄目だな」

 

 男は事も無さげに角を持ち、耐える。そのまま角をへし折り、モンスターの首へ手刀が飛ぶ。

 骨の折れる音と共に、鹿の頭は無残に引きちぎられる。あふれ出る返り血を気にも留めず、男は別のモンスターを探そうとする、が。

 

「誰だ」

 

 そう言いながら、男は腕を払う。男の手の先には非常に小さな針が握られていた。

 

 

 モンスターの鍛錬は、貴方の専門ではないはずですが。

 

 

 振り返った先には、狐の面とぼろマントを付けた少女がいた。先ほどの針を飛ばしてきたのもこの少女だろう。

 

「主神の命だ。邪魔をしないでもらおう」

 

 少女は男の言葉で合点が行ったのか、理解を示した様子だ。おそらくはモンスターを鍛え上げることで、試練としてあてがうつもりなのだろう。

 フレイヤ神に目を付けられた冒険者は誰なのだろうか、と少女は聞く。

 

「ベル・クラネルという少年とブシドーという少女だ。もっとも、お前に名を言っても意味などないとは思うが……どうした」

 

 少女はブシドーと言う名を聞いて過剰な反応を示す。なるほど、彼女ならばさっきの鹿程度が強くなったところで試練には足り得ない。

 そして納得し終わった後、少女は男にある提案をする。モンスターを鍛え上げるよりも、もっと単純な試練があると。

 

「……聞こう。しかし、何故協力しようとする」

 

 男が知る限り、この少女は強い冒険者以外にはまったく興味を持たないはずだ。

 投げかけられた疑問に少女は答える。単純に強くなってもらいたいからだ、と。

 

「お前が目を付けるほどだったか。しかし、単純な試練とは何だ」

 

 男がそう言い、少女の回答を待つが……取り出したのは武器だけだ。知りたくば、この私と勝負してからだ。との少女の言葉に男は思い出す。

 この少女は根っからの戦闘狂、久々に会う好敵手を前にただで動くことなどありえない。

 

「……良いだろう。お前との戦いは久方ぶりだが、腕の鈍りなどありはすまい!」

 

 

 

 

 

 

 

「レベル4おめでとーう!」

「おめでとうございます!」

 

 18階層からオラリオへ戻り、そのままヘスティア・ファミリアの地下室にて。あなたがステイタスの更新をするとレベルが上がっていたことが判明した。

 中層の突破、そしてゴライアス討伐が大きかったのだろう。さっそくあなたはヘスティアにステイタスを伝えてもらった。

 

「じゃあ言うよ。えーと何々……ん?」

 

 

 

 ブシドー

 Lv.4

  力:E400

 耐久:F340

 器用:E400 

 敏捷:E420

 魔力:G250

 

 幸運F

 

 《魔法》

【 】

 

 《スキル》

【引退】

【グリモア】

 ・グリモア装備数上限解放

 

【ファフニールの加護】

 

 

 

 ヘスティアから告げられた更新内容に、あなたは年甲斐もなく喜んだ。

 どうやらグリモアの装備上限はレベルが上がるごとに一つ解放されるらしい。上手くいけばあなたの技を完成させられるかもしれない。

 

「……ねぇ、ベル君。彼女のステイタス聞いててどう思った?」

「えっと……レベルが上がったら、前のレベルのステイタスを基礎として全部の能力値が0に戻るんですよね?」

「そう。そうなんだけど……彼女の場合だと、スキル以外に別の法則でも成り立ってるんじゃないかって思うよ」

 

 こそこそと話し合う少年とヘスティアには目もくれず、あなたはグリモアを変えていく。

 新たに解放された4つ目のグリモアを確認し、憶えていた雷劇の序曲を取り外す。チェイスショックと相性が良いが……今のあなたには一騎当千がある。

 ついでにチェイスショックも取り出して、持ちこんでいた荷物を広げ始める。

 

「うわ、それ全部グリモアですか!?」

 

 そして、以前に大量に作ったグリモアの中からいくつかを選び読み始める。グリモアの力を借りねば、達成しえない技があなたにはあった。

 グリモアを読みつつ、あなたは少年もレベル2に上がっていたことを思い出す。おそらくはグリモアで何かしらの技か魔法を憶えられるだろう。

 不可逆で1回きりだが、それでも無いよりもあった方が良い。あなたは少年にグリモアから技を覚えられるなら何が良いか聞いてみた。

 

「新しい技、ですか……うーん、いきなり言われても思いつかないですね」

 

 ブシドーさんの技は刀と弓と弩ですから、と少年は続ける。言われてみると、短剣の技の心得はあなたには無い。

 だが心得は無くとも技は知っている。習得したことは無いが……真似程度なら出来るだろう。あなたは少年にそのことを伝え、実践して見せようと言う。

 

「見たことあるからって……大丈夫なんですか?」

 

 見くびってもらっては困る。これでも短剣の名手を好敵手としていたのだ。

 好敵手の技くらいならば出来る、とあなたは言い準備を始める。さて、あの技はどんな動きだったか……。

 

 

 

 教会の外。

 

 彼女の技は口で説明するのが難しい。実際に体感した方が良いとあなたは判断して、少年に技を受けてもらうことにした。

 無論、手に持つのは少年がいつも使っている訓練用の短剣だ。準備は良いかとあなたは少年に問いかける。

 

「いつでも、大丈夫です!」

 

 なんだかんだで少年も乗り気のようだ。少年の期待は裏切れない、今一度思い出そう。

 あなたは目を閉じ、記憶の中の彼女の動きを思い浮かべる……。まずは、序の口。腰を落とし、影を縫うように足を縛るあの技を出してみよう。

 腰を落とす独特の構えを取り、少年も来るかと目を凝らす。体勢はそのままに、全力で地を蹴り足を狙う!

 

「うわっ!?」

 

 思わずといったところか、少年が飛んで避ける。あなたは即座に反転し追撃しようとする、が体勢がいつもの構えと違いもつれてしまう。

 勢いを殺せずそのまま転げまわる。思わずぐぬぬと顔を強張らせる、彼女はこんな動きをいつもしていたのか。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 駆け寄る少年を片手で制し、土埃を落とす。失敗だが、どんな技かは分かったはずだ。

 

「え、えーっと……脚を狙う技ですよね。あの体勢で動き回るのか」

 

 少年はあなたの動きを思い出しながら考え込んでいる。腰を落とす姿勢なども真似しているが、中々難しそうだ。

 

「ものに出来るまで時間がかかりそうですね……。良いお手本があればよかったんですけど」

 

 少年の言葉に思わずあなたは目を逸らした。しょうがない、やったことない技は流石に管轄外だ。

 前言を撤回して言う。少年のじとりとした目に、あなたは苦笑いしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「……落とし前付けてもらう、とは言いましたけど。こう来るとは」

「仲間の命の恩、不肖ながらこの私が返させていただきます!」

 

 タケミカズチ・ファミリアの怪物進呈未遂やあなたの緑死病の対処を受け、結論を出した。

 ヤマト・命が恩を返すために何でもするといってやってきたのだ。一応、彼女の独断かどうかは聞いたがファミリアの総意でここに来ているらしい。

 

「そして、出来ればで良いのですが……。ブシドー殿に、稽古をつけていただきたいなと」

 

 命は伏せがちに言う。負い目があったうえでの頼み事だ、言いにくいだろう。

 それでもなお言ってきた彼女の意気込みを無下にするつもりはない。あなたは快く了承する。

 

「ほ、本当ですか!感謝いたします!」

「……なーんか、これじゃあ恩を返す以上に恩をまた与えてる気がしますけど」

「いいじゃねぇかリリ助。人数が増えりゃ探索だってしやすくなる」

 

 ヴェルフの言う通り、これでダンジョン探索の人数は5人となる。あなたが一番慣れ親しんだ探索の人数だ。

 

 さて、全員が集まっているところであなたは方針を語り始める。今後は19階層以降の樹海の探索をしていくつもりだ、とあなたは言う。

 あなたにはダンジョンの下層を目指す理由がある。あなたの主、グートルーネ姫を見つけることだ。

 ししょーが言うにはどのファミリアも到達していないほど、下層にいると言う。だが行くことが無ければ見つけることも出来ない。

 無論、これは強制ではない。少年たちが反対するならば、あなた独りでも向かうつもりだ。

 

「反対なんてしませんよ。僕だって、進まなきゃ届かないんだから……!」

 

 少年はあなたに付いていく意志を見せる。目の奥には、やはりアイズの背中が移っているのだろうか。

 

「もちろん、付いていきますよ。《大樹の迷宮》はポーションの原料が多いらしいですし、荷物持ちも増えましたしね」

「……に、荷物持ちか。いや、恩を返せるなら何でもするといったのは私だ。もちろんやろう」

「おいおい無理すんなって……。19階層以降に行くって言うんなら、野営して長丁場になるな。俺の仕事も増えるってもんだ」

 

 どうやら全員、付いてくる気満々のようだ。ならば問題は無い。

 あなたは預けていた全財産をこの場に持ってきている。リリルカに18階層まで持っていってもらうつもりだ。

 

「お金とポーションと本と……。これどうするつもりなんですか?」

 

 あなたは18階層の安全地帯にギルドハウスを作るつもりでいた。幸い、管理してくれる人に心当たりがある。

 19階層以降ともなると、野営して探索し続けることになるだろうが……。それでもオラリオまで戻らず、途中にギルドハウスがあるならば資産管理が楽になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 18階層まで進み、あなたの全財産で家を一つ購入する。

 拠点にするつもりだが、基本的には誰もいない場所だ。小さな家を一つ購入し、荷物を置いていく。

 

 

 小さくないか?もう少し大きい家を買っても良かったんじゃないか。

 

 

 そして、ししょーに家の管理を住み込みでしてもらうことにした。彼女にとっても金のかかる宿屋より良いとのことだ。

 さて18階層まで一気に来たが、多少なりとも全員疲弊している。あなたたちは一日の休憩を置き、19階層へ行くことにした。

 

 

 

「……ブシドー殿、よろしいだろうか」

 

 あなたを呼び止めるのは命だ。彼女の持っている木刀であなたは察する。

 投げ渡される二本の木刀を受け止め、あなたは命と対峙する。……が、あなたは木刀の一本を地面に置いた。

 

「む、ブシドー殿は二刀流ではないのですか?」

 

 二刀流でもある、が正解だ。とあなたは返す。

 あなたとしても鍛錬は自己を見つめ返すいい機会だ。新たに読んだグリモアのこともあるし、ここは一本だけでいい。

 

「なるほど、手加減と言う訳でないのなら……いざ!」

 

 あなたは木刀を青眼に構え、命の太刀を受け止めていく。上段が攻撃に特化した構えならば、青眼は防御に特化した構えだ。

 

「くっ……。これならば!」

 

 青眼の構えを崩そうと、命が切り込んでくる。

 あなたは命の突進に合わせ、彼女より早く踏み込み木刀を突く。青眼の防御に焦れた敵を、先の先で仕留める月影の一撃だ。

 突きは彼女の喉の横を通り過ぎる。踏込に合わせられた一撃と、掠った木刀の感触からか。命は立ち止まり首を触って確認している。

 

「……二刀のときとはまた違う怖さがありますね。一本取られました」

 

 そう言いながらも命は首から手を離し、構える。続行ならばとあなたは木刀を腰にぶら下げる。

 

「居合も出来るのですか?ですが、木刀では……」

 

 たしかに木刀では鞘が無い。居合とは言えないかもしれないが……まあ何とかなるだろう。

 

「ならば、いざ!」

 

 命との再度の立ち合いに、あなたは木刀で居合を行う。高速で振りぬかれた刀の剣閃が、地を走り命に向かって飛ぶ。

 命もやられっぱなしではない、剣閃を払いあなたに食って掛かる。……やはり、居合の技はまだ未熟か。

 ならばとあなたは上段に構えを変える。たとえ鍛錬であっても刀の勝負で負けるつもりはない。上段の構えから取る技は一つ。

 食ってかかる命を押しのけ、同時に3つの斬撃を飛ばす。燕返しはあなたのもっとも得意とする技だ。これを受けて向かってこれはすまい。

 

「……なるほど。それがブシドー殿の秘剣ですか」

 

 3つの斬撃は正確に、力強く命の両腕と木刀を弾いた。我ながら良い刀の冴えだ。

 決して、少年に見せた短剣の失敗を引きずっているわけではない。わけではないが……やはり得意な物を動かすほうが、良い。

 

「その技、必ずものにして見せます……!」

 

 命はどうやらあなたの技を真似ることを目的としているようだが……残念ながら、あなたの終着点は放った3つの技のどれでもない。

 

「で、ではまだ隠している奥義があると!?」

 

 隠しているわけではないが……。だが、見せるのもやぶさかではない。

 あなたは自然体で上段の構えを取る。呼吸を置き、目を閉じて心を鎮めていく……集中の極み、その先に見える水の一滴が見えたときに、あなたの動きは神速と化す。

 瞬時に納刀し、居合の剣閃が飛ぶ。追撃の3つの斬撃が防御を許さず、最後の突きで止めとする。

 居合、上段、青眼。すべての技を繋げ、無双の奥義とする。これこそ、奥義……無双連撃だ。

 

「……未完成、ですね」

 

 命に指摘される。その通り、この奥義は未完成だ。

 あなたは初段の居合を完全に修めていない。……言い訳をするならば、昔のハイ・ラガードでこの起点となる居合の技を教えてもらっていなかったのだ。

 

「それに、連撃を撃った後の構えの維持も出来ませんね。連続で出せるような技じゃない」

 

 それも言うとおりだ。だからこそ、あなたは不動の構えをずっとアイズとの鍛錬で目指していた。

 ……課題が多い。諦めるつもりはないが、あなたの奥義の完成はまだまだ先となることを考えていた。

 

 

 




《雷劇の序曲》
味方の攻撃属性を雷へ変えるバードの技。
チェイスショックとの相性は言わずもがなだが、今回はお役御免となった。

《影縫》
短剣の技。通常攻撃よりかは強く、足縛りの効果もある。
世界樹の迷宮3のシノビの技だが、短剣の技でもある。
影に短剣を刺すがごとく、足を狙う技。

《月影》
青眼の構え時に使える技。
発動が早い突属性技だが、燕返しよりも低威力。

《地走撃》
居合の構え時に使える技。
新世界樹の迷宮2より追加された居合の技。
発動が遅いが燕返しより威力が高い。

《無双連撃》
新世界樹の迷宮2より追加された技。
専用の構えである無双の構えを取ったときのみ発動できる技。
地走撃 燕返し 月影を順に叩き込む、ブシドーの技の集大成。
3種の構えと構え技、そして無双の構えと無双連撃のスキルレベルが影響するため完成が非常に遠い。

《無双の構え》
上段、青眼、居合の構えを取っている際に使用できる構え。
全ての構え技が使え、全ての構えの補正を受ける。
この構えのときにのみ、無双連撃を使用できる。なお、無双連撃使用後に無双の構えは解除されてしまう。
本作では研ぎ澄まされた精神状態がこの構えとなった。


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