《ダンジョン19階層》
「くそ、何匹目だこれで!」
「確実に数は減らしています!焦らないでください!」
《大樹の迷宮》に足を踏み入れたあなたたちに待っていたのは、無数のモンスターによる洗礼だった。
リザードマンなどの動物系を主体としたモンスターの群れ、中でも大型の猫モンスターがその強靭な顎で噛みついてくる。
オオヤマネコと呼ばれるそのモンスターの口を、あなたは正確に射抜いていく。恐怖の対象にもなりえるその噛みつきも、縛ってしまえばどうということは無い。
「ブシドーさん!また来ましたよ!」
少年の声の方向に、牛型のモンスターを筆頭に別の群れがあなたたちに襲い掛かってくる。
19階層を甘く見ていたかもしれない。あなたは認識を改めつつ、モンスターの殲滅に勤しむ。倒しきれる連中ではあるが、こうも連続で来ると休む暇もない。
……だが、モンスターがこうも連続でやってくるものなのだろうか? 戦闘の音を聞きつけてやってくるには、どうにも量が多い気がする。
違和感を感じつつも、あなたには攻撃の手を休める暇がない。何事もまずは目の前にいるモンスターを全て倒してからだ。
殲滅が終わり、探索を再開するあなたたちだったが……どうにも、違和感がある。
道の先々で倒木があり、その先へ進めないのだ。さっきの多数の襲撃もあり、物音を立てるのもまずいと判断してあなたたちは道なりに進んでいた。
「なんだか、一本道みたいですね……」
少年の言う通り、まるで一本道のように他の道がふさがれている。後で引き返して、倒木を壊してでも別の道を探す必要があるかもしれない。
そう思いつつもあなたたちは一本道を進んで行き、ある場所についた。
そこは色取り取りの花が咲き誇る、天然の花畑だった。
「わっ、すごい!これ、もしかしたら……」
花畑を見てリリルカが花を調べようと駆け出していく。あなたも花畑に咲き誇っている小さな花には憶えがある。これはきつけ薬であるネクタルの素材だ。なんだかんだで良い採取場所を見つけられたようだ。
あなたが地図に採取場所としてこの場所を書き込んでいるうちに、リリルカの先導のもと全員で採取が始まったようだ。
しかし、花畑か……。あなたは警戒しつつ、採取に参加する。花には……正直、いい思い出の方が少ない気がする。
「いやぁ、まさかここでこんなとは……。摘めるだけ摘んでくださいね。これをポーションにすればああっと」
リリルカが何かに躓いたようで、非常に嫌な聞き覚えのある言葉を発した。
……根に躓かれたことで、そのモンスターが起きたようだ。地面から盛り上がってくるその巨大な花に、あなたも見覚えがある。
躓いたリリルカを即座に拾って、あなたは戦闘準備の指示を出す。巨大な花のモンスター、ラフレシアがこの花畑には潜んでいたのだ!
「ひ、ひどい臭い……」
「な、何か蝶もやってきてます!」
少年の言葉に思わずあなたの顔が引きつる。
ラフレシアの臭いに誘われてやってきた蝶、毒吹きアゲハは殺傷力の高い毒の持ち主だ!
即座にあなたは退路を確認する。いつのまにか、倒木があなたたちの来た道をふさいでいる。
これは、明らかに仕組まれたものだ。あなたはそう考えるが……まずは切り抜ける方が先だ。
ラフレシアは粘液を飛ばし、毒吹きアゲハは鱗粉を飛ばし、もう花畑は大惨事だ。頭が禿げ上がりそうになるが、投げ出すわけにはいかない……。
「ようやく、一息つけますね……」
辛くも花畑を切り抜け、あなたたちは探索を再開していた。全員、禿げ上がったかのような顔をしている。
探索の最中にあなたは果実の成っている場所を見つけた。この果実はあなたも以前食べたことがある。程よい酸味が疲労を取ってくれるのだ。
せっかくだからここで一息入れようとあなたが言い、一時の休息を取ることにした。あなたは果実を全員分取り、投げ渡していく。
「む、確かに美味い。もうちょっと取っていきません?」
リリルカの提案にあなたは却下を出す。自然の実りを一度に取ってしまうわけにもいかない、また来たときに味わえばいいのだ。
思い思いに果実を食しているあなたたちだったが……不意にあなたは殺気を感じる。
あなたの果実を狙って一直線に飛びかかる小さな影を、手刀で落とす。転げ落ちたあなたに殺気を飛ばしたその正体は、リスだった。
「へぇ、リスなんか生息してるんですか……ちょ、ちょっとブシドーさん!?刀を構えて何を!?」
あなたはリスを見つけた瞬間に即座に刀を構えた。こいつはこの場で処理しなくてはいけない。リスは害獣、生かしておく価値などない。
刀を振り下ろそうとするあなたを少年と命が抑え掛かってくる。ええい、邪魔をするな!
「モンスターってわけじゃないと思いますけど……随分と人懐っこいリスですね」
リスはリリルカの頬にすり寄っている。大人しそうな雰囲気を出しているが、的確に荷物持ちの方に向かっている!
そのリスを離せ、投げ捨てろ!とあなたは言うが、小動物に大人げなくなっているあなたに向かう視線は冷ややかなものだった。
「ブシドー殿はリスが苦手なんですか?こんなにも愛くるしいのに」
リスに手を差し伸べる命だが……リスがリリルカと命を交互に見返して、命の手に移っていく。
「本当に人懐っこいですね。野生にしては警戒心が無いと言うかなんというか……」
……本当に愛らしいだけのリスなのだろうか。
もしかしたら、長い時を経てあなたの考えるリスは淘汰されたのかもしれない。愛らしいだけのリスというのならば……ちょっと触ってみてもいいかもしれない。
命と戯れるリスにあなたは近づいてみる。よーしよし、怖くないよー。
リスはあなたが近づいていくと……途端にその眼の色を変えて飛びかかってくる!
至近距離で飛びかかられたあなたは思わず尻餅をつく。リスは……あなたの和装の中をまさぐっている!!
「うわっ、ブシドーさんの服の中に!」
やはりこのリスはあなたの考えるリスと同種のようだ。だがしかし、いくら弄ろうともこのリスが奪うアリアドネの糸は持っていない。
好きなように弄らせて、出てきたところを首討ちしてしまおう。とあなたが考えていると……観念したのか、リスが残念そうに裾から出てくる。
覚悟は決まったか、とあなたは刀に手を掛けるが……リスが何か、白い布を加えている。
あなたはその布の正体に合点が行き、即座に胸元を抑える。このリス、晒を取ったのか!?
リスはこの紐で満足してやる、といった雰囲気で逃げていく。くそっ、やはり害獣じゃないか!
「さ、晒なら予備がありますから。しかし、ブシドー殿は動物に好かれないのでしょうか……?」
動物に好かれないなんてことは……ない、はずだ。確信が持てず尻すぼみに言うことになったが、嫌われる要素は無いと思うが……。
あなたは和装を脱ぎ、晒を撒き直していく。少年とヴェルフの視線が刺さるが、晒を巻いてないときより裸を見られた方がまだマシだ。
和気藹々としている冒険者の一団を、狐の面とぼろマントをした少女が覗き見ている。
頃合いか。少女がそう言い、煙と共に姿が消える。少女の姿は忽然と消え、何の痕跡も残っていなかった。
一騒動があったがそろそろ移動しよう、とあなたたちが準備を始めたときだ。
甲高い鳴き声と共に、あなたたちの前に鹿のモンスターが現れた。鹿はあなたたちを見て目の色を変えて突撃してくる。
あなたはその鹿を見て、まずその口を塞ぐように矢を射抜く。この鹿の雄たけびは、冒険者を混乱させる危険なものだ。
「続く!」
「同じく後に……うわあ!?」
あなたの攻撃に続いて命と少年が追撃に出たが、どうやら鹿の軽快なステップに翻弄されているようだ。
同士討ちを誘うように、鹿は困惑のステップを刻む。刀が少年に掠り、命もまずいと思ったのか落ち着きは取り戻したが……。
動き回る鹿の足を狙い、射ぬく。だが、あなたの矢は掠りはしたが、縛るまでには至っていない!
「脚……そうか!」
少年が何か思いついたか、その腰を深く落として鹿に追い迫る。
鹿を上回る少年の速さと、短剣の小回りを生かして少年は鹿の足を切断する。少年は体勢を崩すが、脚を削がれた鹿はステップを中断した。
「好機!」
命の一撃とあなたの矢が鹿を貫いていく。脚を削がれた鹿にそれを避ける余裕などない、最後に悲鳴を上げて鹿は絶命する。
あなたは少年に駆け寄り、無事かどうか確認する。
「ブシドーさんの矢が掠ったから、一か八かでやってみましたけど……うまくいきましたね」
大手柄だ、とあなたは少年に手を貸す。完全に物には出来ていないが、実戦で即座に使うとはいい度胸をしている。
少年を起こした後、改めて倒れた鹿を見る。この鹿は本来大人しく、子供が殺されでもしないかぎり激昂することは無いはずだ。
モンスターの群れ、花畑、そして、この鹿。違和感もここまで来ると、間違いなく確実な物だとあなたは考える。
しかし、いったい誰が。何のために。あなたに沸いた疑問は、解消することが出来なかった。
鹿と冒険者の戦いを、狐の面をした少女が見ている。
見ている対象は黒髪の少女だ。しかし、その少女は鹿への攻撃を急所に当てられなかった。
思わず舌打ちが出る。だが、その後の白髪の少年の動きに目を奪われてしまった。
少年の機転により、鹿の討伐が完了する。……面白い。その技を使えるか。
少女はまたも消える。消える間際に、楽しそうに笑みを浮かべながら……。
鹿を仕留めた僕たちは、その鹿の肉で今日の夕飯を取ることになった。
野営の準備を済ませ、食事も終えたら後は眠るだけだ。寝ずの番を交替で行うということで、今は僕が起きている。
「……うーん、もっとうまくやれるはずなんだけど」
思い返しているのは、あの鹿のモンスター……ブシドーさんが言うには、狂乱の角鹿か。との戦いだ。
ブシドーさんに教えてもらった技、名前は影縫と言うらしい。あれをしっかりと出せるなら連携も非常に取りやすくなるはずだ。
「うーん、こう。かな…?いや、これだと全力で走れないし……」
色々と体勢の試行錯誤を繰り返しているけど、どれもこれもいまいちだ。
ふと、ちくりと首の裏に痛みが走る。何か刺さったのかと手を伸ばした瞬間に強烈な睡魔に襲われる。
まずい、今眠ったら誰も起きている人がいなくなる。起き、なきゃ…………
起きなさい。
どすり、と腹に痛みが走る。無造作に掛けられた声と、腹に走る痛みで僕は飛び起きた。
「す、すみません眠っちゃってて……!?」
最初は誰かが起こしてくれたものだと思ったけど、まるっきり違った。
目の前にいるのは、独特の形をしたお面と、ぼろマントを被った人だ。
あたりを見回すと野営の場所じゃない……。まさか、眠らせて、連れて来られたのか…!?
「……何の用ですか」
警戒しながらも僕は目の前の人に話しかける。お面で表情が読み取れないけど、僕をここまで連れてきたってことは僕に用があるということだ。
構えなさい。
そう言い、目の前の人は独特な形の短剣を構える。瞬時に僕も短剣を取り出して構える。その気だと言うのなら、やってやる!
構えている僕を、マントの人は一しきり眺めた後――――視界から、一瞬で姿が消える。
直後に走るのは痛みだ。いつの間にか、足を切られていた。
「……もしかして、この技は!?」
どうしました、あの俊敏さを見せてください。
敵は、僕の後ろに瞬時に移動している。向き直った僕に飛んでくるのはまた同じ技だ。
今度は見逃さない。体勢、速度、視界、全てを使って不意を突き、足を削ぎ落す。脚を狙ってくるというのなら、反撃だって出来る!
「これならどうだ!」
カウンター気味に敵へ短剣を振る。が、敵の俊敏さを僕は甘く見ていた。振るった腕を掴み、自らの体を捻り僕の短剣を避けていく。
なんて軽業だ。呆気にとられる以上に、僕はその体の動かし方を見ていた。これを使えるようになれば……。
呆けている暇がありますか?
「ぐっ!?」
腕を掴まれ、そのまま投げ飛ばされる。受け身を取って僕は足を確認する。まだ、動く。だったらこちらから仕掛ける番だ。
短剣を構え、体勢を整え……。敵の視界から外れるように、全速力で移動する。
!
意表をつかれたのか、敵は避けようとしていない。そのまま短剣を振るって足を狙う。が、硬い感触だ。足の防具に阻まれたらしい。
「くそっ、だったら……」
やりますね。良い、これは良い逸材だ。
次の手を打とうとしたときに、敵から賛辞が送られる。
警戒は怠らない。何の目的かは知らないけど、この敵は……僕より強い。
さあ、次の一手を……むっ。
敵の視線が、僕の後ろへと向く。敵を警戒しつつも後ろを気にすると……コウモリ型のモンスターがいた。
僕たちの戦闘音を聞きつけてやってきたのか。まずい、これでは挟み撃ちに……。
モンスター風情が、邪魔しないで!
僕を横切り、一瞬でコウモリたちをすり抜けざまに切りつけていく。
3回、いや4回か。斬りつけられたコウモリはどれも急所を跳ね飛ばされて、無駄を感じさせない。
……その動きを見て、何よりも先にすごいと思ってしまった。あの技を、会得したい。
……ここまで、ですね。
マントを翻し、敵は僕とは明後日の方向を向く。
「ま、待って下さい!あなたは、いったい……」
すぐにでも場を離れようとするその人に、思わず僕は声をかけてしまう。
声を受けて、その人は仮面を外して僕に向き合う。その顔は可愛らしい少女で、おおよそ戦いとは無縁と思えた。
名は姫子。また会うことになるでしょう。
それだけを言って少女は夜の闇に消えた。
直後、足音と共にブシドーさんが現れた。寝ずの番をしていたはずの僕がいなくて探していたらしい。
「すみません、すぐ戻りますから……痛っ」
戦いの興奮から醒めて、足の痛みが戻ってくる。
誰かと戦っていたのか、というブシドーさんの問いに……僕はこう答えた。
「……目指すべき目標が、もう一つ増えました」
《ああっと》
そろそろいい物が取れそうだが、
あたりから敵の気配を感じる…
続けて採取しますか?
ああっと!
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《オオヤマネコ》
オオヤマネコの食いちぎり!
ファランクスは倒れた!
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《ラフレシア》
冒険者は不意をつかれた!
ラフレシアの捕食の冷気!
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《毒吹きアゲハ》
花畑に誘われてきたのは冒険者だけではなかったのだ!
毒吹きアゲハの毒のリンプン!
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《狂乱の角鹿》
狂乱の角鹿の困惑の雄叫び!
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《hage》
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