オラリオの迷宮   作:上帝

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2話 冒険者ギルド

 

 

 

 

 少年と別れたあなたは、冒険者ギルドについた。ついたにはついたが問題が発生した。

 

 冒険者ギルドが開いていない。

 

 少し考えれば当たり前だ。今の時間帯は朝日が昇った直後。つまり、早朝だ。正確な時間は分からないがこんな早朝からやっている店は少ないだろう。あなたは冒険者として一般人よりも長く起きたり、食事をとらずに動いたりも出来るがそれを常識として他者に当てはめてはいけない。

 

 だが、困った。冒険者ギルドで換金ができないと買い物も出来ない。金が無くては朝からやっている食事処や宿屋なんかも利用が出来ないのだ。ギルドの前から離れ、あなたはどう時間を潰すか考えながらオラリオを歩いていた。

 

 歩きながらあなたは思う。主要の道具屋や宿屋なんかをこの機会に探してしまおう。そう考えたあなたは白紙の地図を即座に取り出し地図を作り始める。迷宮都市オラリオ、と銘打たれたその地図に最初に書き込まれたのは、ダンジョン入り口の位置だった。

 

 

 

 あたりにはちらほらと冒険者の姿が見え始めた。何人かでのパーティで今日どこまで行くかなど、迷宮をもぐる算段を付けている声が聞こえる。時間としては朝食を食べるくらいの時間か。出店などから食材の焦げた良い匂いが立っている。地図を書きつつも思わずその匂いに釣られてしまうのは仕方ないことだ。が、金はない。

 

 ……が、あなたはその匂いよりも重大な存在を発見した。

 

 その人は出店に並び、芋の料理を大量に購入していた。間違いない。あの買いっぷりから腹ペコ系、本人または血縁の人かもしれない!

 目が合った瞬間、あなたは出店に並んでいた金髪の女性へ話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインの朝は早い。昨日は宴会だったが、毎日の日課を崩してはいけない。

 毎日の日課。それは早朝にじゃが丸くんを買い、剣の鍛錬をすること。

 最近では恩恵の伸び悩みもあるが、それでも日課を続けてこそ現状の打破が出来る。……決して、じゃが丸くんが美味しいからという理由だけではない。

 今日も今日とてじゃが丸くんを購入。出店の人からいつもありがとう。と決まり文句を貰ってじゃが丸くんをまずは一かじり…と行こうとしたときに気づく。

 それなりに小さい黒髪の女性があなたを見ていた。見覚えがある。たしか、あの子は私たちが保護した50階層の謎の人物。フィンの後の紹介だと…たしか、ブシドーという子だったはずだ。結局、ファミリアに参加しなかったから接点は皆無であったけど。

 

 目が合うと、ブシドーは私に話しかけてきた。

 

 ししょーという人物について知っていることはないか?と

 

「…………師匠?」

 

 師匠と言われると真っ先に思い浮かぶのは、技を教える人とかの要は指導役だ。だが、彼女が言うにはそういうのではなく、ししょーと呼ばれている人物についての情報だった。

 流石にそれだけでは分からない。と首を横に振ったら露骨に落胆される。その様子を見て私は少しムッとした。人探しにしてもそれなりの態度があるのではないか。

 私の雰囲気を感じ取ったのか、ブシドーは弁解する。あまりにも私と似ている自分の仲間がいたのだ、と。

 彼女の仲間……。そうか、彼女は仲間を探していたのか。と納得がいった。ダンジョンにずっといたと言うなら、彼女の故郷の人や仲間だった人の情報が少しでも欲しいはずだ。

 

「……そのししょーって人と私は関係ないと思う。ごめんね」

 

 私を通して、ブシドーは自分の仲間を見ている。それはいけない。私はアイズ・ヴァレンシュタインだから。

 そして言い切ったあとに謝った。私では彼女の期待に応えられない。ブシドーは私が謝るとハッとして逆に謝ってきた。間違えた自分が悪いからどうか頭を上げて欲しいと。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。アイズって呼んでくれればいいから」

 

 それだけを聞いたら後は水に流そう。自己紹介と一緒に持っていたじゃが丸くんをブシドーに一つ渡す。

 ほかほかのあつあつのじゃが丸くんをそのまま受け取ったブシドーは熱さで持て余しながら、律儀に自己紹介を返してくる。熱くない持ち方があると私が言い、食べ方の講座を軽く開いた。頑張って食べようとするブシドーからは小動物のような印象を受けた。が、その眼が台無しだとも思った。

 彼女の目はとても鋭い。まるで、何かを押さえつけてるかのような……

 ……あまり詮索をしても良くないと思った私はブシドーと別れた。なんとなく、また彼女とは会う気がする。そんなことを考えながら、鍛練へ専念することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 昔の仲間に良く似た女性、アイズから食料を恵んでもらうハプニングもあったが、ちょうどいい時間と考え冒険者ギルドへと戻る。

 冒険者ギルドは朝でも盛況のようだ。あなたは空いている受付嬢に、魔石の換金をお願いした。

 

「結構、魔石が傷ついてますねー。戦闘の激しさを感じさせます…ね。これ全部なら、1万ヴァリスとの交換となります」

 

 出した魔石の代わりに通貨が出される。ときに、1万ヴァリスとはどの程度の価値なのだろうかと気になったあなたは受付嬢に話を聞いてみた。

 

「んー、そうですね…。今回は魔石が傷ついてたので減額しましたけども、本来なら6階層のモンスターの魔石ですよね?傷つけずにこの量なら2万ヴァリスは行くと思いますよ。2万ヴァリスもあれば10日くらいは稼がなくても大丈夫、かな?」

 

 受付嬢の説明では、大雑把に3食で150ヴァリス。ポーションなどは安くて数百ヴァリス…らしい。あなたがいた地域の通貨よりも桁が一つほど割高と感じるが、ここではそれが基本なのだろう。

 今後の生活を考えつつも、あなたは通貨を受け取ろうとするが受付嬢はこちらに通貨を出そうとしない。

 

「では魔石の取引結果を書き込みますので、冒険者ギルドに登録してるファミリアを提示してください」

 

 …………さて、どうしようか。フィンがファミリアに所属しろとあれほど念を置いていたのも。少年が、ファミリアに所属していないという事実に驚いたのもようやくつながった。

 

 ファミリアは身元保証人と同義ということだ。ギルドがたった一つで、迷宮から算出される資産管理を行えている理由だとあなたは考えた。

 

 冒険者として生きていく上で、どこの馬の骨とも分からない存在と、神の恩恵を得たファミリアの団員。

 信頼度に差が出て当然だ。前者ならば恩恵もないまま、魔石を盗んだと思われても仕方ない。

 

 あなたは受付嬢にまだ冒険者登録もしてないことを伝えた。てっきり登録にお金がかかると思って魔石を先に交換しようとしたのだ。とご丁寧にいま思いついた嘘も混ぜながら。

 

「あっ、そうだったんですか?大丈夫ですよ、冒険者登録はすぐに終わりますし、無料ですから!この紙に書いてある必要なことを記入していってください」

 

 

 一枚の紙を手渡され、あなたは顔をしかめた。……読めない。

 決してあなたの学が無いわけではない。異なる言語は理解できないだけなのだ。その旨を受付嬢に伝え、あなたは代筆を頼んだ。出身、年齢、職業……色々聞かれて答えるだけ答えたが、一番の問題が残っていた。

 

「では、所属しているファミリアを教えてください」

 

 ここで嘘をついても仕方ない。あなたはまだファミリアに所属しておらず、これから探すつもりだったことを受付嬢に伝えた。

 

 

「……あの、ファミリアに所属してないってことは恩恵も無いんですよね?この魔石はどこから持ってきたのでしょうか?」

 

 受付嬢が疑いの眼差しを向けてきている。魔石は自力で取ってるし、盗んではいない。だが信頼されるかどうかは別問題だ。常識外の行動をとってしまった以上、あなたが出せるものはもう善意しかない。

 自力で取ってきたし、その証拠だってある。とあなたは言い、迷宮内の6階層までの地図を受付嬢に見せた。

 

「えっ、これ本当に6階層までの地図…?いや、でも……うーん」

 

 受付嬢は悩んでいるようだ。前例がないことを通していいものかどうか、と言ったところだろう。今まで経験した酒場や、公的な国からの依頼を考えると……今回のはアウトだ。

 あなたは諦めつつも、受付嬢の次の手を待った。が、ここで一つ転機が訪れる。

 

「あっ、ブシドーさん。おはようございます!昨日は本当にお世話になりました!」

 

 ギルド入り口から白髪の少年、ベルがあなたに向かって歩いてくる。いや、あなたに向かってと言うよりもこの受付に向かってだった。

 あなたの後ろに律儀に並ぶ少年を、受付嬢はじっとりと見定める。

 

「……ベル君。この人と知り合いなの?」

「エイナさん。おはようございます!ブシドーさんは昨日、一時的にパーティ…というか、見守ってもらったというか…。6階層でたまたま一緒になって、別々に戦ってたんです」

 

 少年の弁明のおかげで受付嬢……エイナの、あなたを見る目が疑惑から困惑程度になった。悪化したとも言えなくもない。

 

「ベル君には6階層なんて危ないところまで突っ込んだことに説教したいところだけど……。それよりもまずはこの人ね。ベル君その話本当なの?魔石、ちょろまかされたりとかそういうオチじゃない?」

「え?それはないですよ。ブシドーさんとは6階層って言っても、完全に別の場所で戦ってましたし。それにブシドーさんは6階層程度のモンスターなら一撃で倒してましたよ?」

 

 少年の言葉でさらにエイナの困惑が深まったようだ。ふと、ダメもとであなたは聞いてみることにした。

 

 ファミリア無しでの登録は前例に無いのだろうか。出来るならそれでも構わない。

 

 あなたのその言葉にエイナの顔が困惑から怒りへと染まっていく。

 

「そんな前例ありません!冒険者はファミリアに所属!それをギルドに伝える!いいですか、これが大前提です!ベル君!!」

「は、はい!!」

 

 エイナの鬼の形相と共に吐き出される言葉に、思わずあなたも、少年も仰け反ってしまう。

 

「ヘスティア様の所でもどこでも良いから、ベル君はこの人のファミリア入りを見届けてくること!それが今回の無茶のお説教の代わりです!」

「は、はい!ごめんなさい!!」

 

 これは尻に敷かれるな…。とあなたは少年とエイナの様子を見て未来を思う。だがそんな余裕をかましているあなたに、エイナは向き直る。

 

「あなたも!ベル君の紹介でもなんでもいいからファミリアに所属してから来てください!それまであの換金結果は預かっておきます!!」

 

 エイナの有無を言わせぬ迫力にあなたもうなずいてしまう。まさかここまで怒られるものとは……フィンの忠告を聞かずにそのまま動いた結果がこれである。

 あなたとベルは、エイナに押される形でギルドから放り出され、扉を閉められる。ファミリアに属さない限り通さないつもりだろう。

 巻き込んでしまった少年に、あなたは謝罪をする。少年が持っているのも魔石だ。きっと換金しに来たところだったのに、厄介なことに巻き込んでしまった。

 

「あはは…。まあ、仕方ないですよ。僕の時もファミリアに所属してなくて怒られましたから」

 

 少年が最初に冒険者ギルドへと登録しようとしたときも同様のこと……あなたの場合よりもひどくはないが……が起きたらしい。ファミリアに所属してるか、してないかというだけの違いなのに面倒なものだとあなたは愚痴を吐き出した。

 

「それはブシドーさんだけですよ…。本来、人は恩恵無しじゃモンスターを倒すなんて1階層の敵1体を、万全の状態でやっとなんですから」

 

 曰く。恩恵ありと無しでは月とすっぽん。雲泥の差が出るとのことらしい。話半分に聞くあなたに少年は呆れ、今後について話してくる。

 

「でも、どうするんですか?ファミリアに入ってこないとエイナさん怒りっぱなしですよこれ」

 

 世間話もほどほどにあなたはギルド登録の最大の壁、ファミリア入団を済ませなければならない。

 

 情けないことだが、あなたの頼りはこの少年しかいない。

 どうか、ファミリアに入団させてくれないだろうか。とあなたは少年に頭を下げた。

 

「頭上げてくださいって!でも、うーん…決めるのは神様だから。僕には神様に頼むくらいしか出来ないですよ?」

 

 それで十分だとあなたは頭を上げる。あなたは少年の先導のもと、ヘスティア・ファミリア本拠地へと向かった。

 

「本拠地ってほどのものじゃないんだけどなぁ…」

 

 

 

 

 

 




《警戒歩行》
ダンジョン内で一定歩数の間、エンカウント率を下げるスキル。高レベルともなると、警戒歩行を発動している間はモンスターが出てこないなんてこともある。

《スコールショット》
世界樹の迷宮4のスキル。敵全体へランダムな攻撃回数で矢を放つ。最大数は16発。

《ししょー》
ブシドーの仲間。金髪の女聖騎士。
全体的に残念で、アイズ・ヴァレンシュタインを彼女と比べてはいけない。

《ヴァリス》
下位のポーションが数百ヴァリスの値段。
一方、ブシドーがいた迷宮での下位のポーションの値段は20en。
冒険者の宿代がレベルの合計×3のため、最も高くても1500en以下。オラリオは、物価が高い。




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