オラリオの迷宮   作:上帝

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3話 ヘスティア・ファミリア

 

 

 

 古びた……いや、廃れた……ううーん、ふ、風情のある……教会?

 あなたが案内されたファミリアの拠点はどこからどう見ても廃墟…。もとい、廃れた教会だった。

 

「はい。ここに僕と神様が住んでます。神様ー!帰ってきましたよー!」

 

 少年は勝手知ったる我が家と言わんばかりに教会の中へ入っていった。縛られなければファミリアなんてどこでも良いと思っていたが、こんな雨風が凌げない場所に拠点を構えるしかないファミリアとは思っていなかった。

 あなたは神なら最低限度の生活位はしているだろうという甘い考えを金輪際捨て去る決意をする。

 

「ベルくーん!おかえりー!」

 

 教会の奥から出てきた少女が、少年へと抱きついている。おそらくはあの少女が神ヘスティアなのだろう。

 

「あの、神様。実はファミリアの入団希望者が来てて…」

「えっ、嘘っ!?」

 

 少年に抱き着いていたヘスティアはとっさに離れ、咳払いをしてあなたを見つめる。

 

「うぉっほん!僕が、このヘスティア・ファミリアの神。ヘスティアさ!」

 

 あなたもヘスティアに続き、自己紹介を行う。そして今回、ファミリアに入りたい理由とあなたのファミリアに対してのスタンスを包み隠さず言った。

 

「うーん…。冒険者ギルドに登録するためにファミリアに入団する必要があって、君はファミリアに縛られたくはなく、恩恵は欲しい。と来たか」

 

 神ヘスティアが言うあなたのファミリア入団に対しての条件を改めて聞き直し、自分の言う条件のひどさを再確認した。こんなわがまま放題の入団が通るはずもない。少年には説得を頼んだが、これではヘスティアの心が動くとは到底思えない。

 

「あの、神様…。ブシドーさんは本当に困ってて…」

 

「ふっふーん、皆まで言うなベル君。ブシドーくん、だったね?良いよ!入団、認めようじゃないか!」

 

 ほぼ諦めかけていたあなたは、神ヘスティアの言葉を受け呆けてしまった。あの条件なのに良いのか?と思わず聞いてしまったくらいだ。

 

「むしろ君のことは一切拘束しないさ!拘束しないから…生活は、君自身で何とかしてくれ!」

 

 ……なるほど。とあなたは気づいた。ファミリア入団ともなると、実質的な生活の場はファミリアの拠点で行うことになるのだろう。

 だが、ヘスティア・ファミリアはそうもいかない。この拠点ではあなたが入るだけでもそれだけで生活が苦しくなることは目に見えていた。むしろ、その生活苦を何とかしてやった方が良いのでは。とあなたは考えが浮かんでくる。

 ここに思い出でもあるのかもしれないが、もう少しまともな住居に住んだっていいじゃないか。あなたの憐みの眼に、ヘスティアは気づかない。むしろファミリアが増えることに喜び、連れてきたベルを褒めていた。

 

 

 

 ヘスティア・ファミリアの拠点となる教会には地下室があり、ここに普段は神ヘスティアと少年が住んでいるらしい。

 あなたはその地下室にて、上半身を裸にしてベッドに寝ていた。神ヘスティアによる恩恵を刻む儀式を行うためだ。

 

「ただ、一つ約束してほしい。僕のファミリアとなった以上、その命を無駄にしないでくれ」

 

 恩恵を刻む前にヘスティアが言う。もちろんだ。冒険者として無駄に命を落とすことなどありえない。

 あなたがそう言い、あの禍との戦いが思い浮かぶ。結局ハイ・ラガードの情報は掴めなかったが、禍が封印された後、モンスターによって滅ぼされたなんてことはないだろう。無駄ではないのだ。あなたの力で、誰かは必ず救えている。

 

「……よし、恩恵を刻み込む儀式も終わった。これが君のステイタスだ」

 

 そういってヘスティアにステイタスが掛かれている紙が渡されるが、読めないことをあなたはヘスティアに伝え、代読をしてもらうことにした。

 

「仕方ないなぁ、じゃあ読み上げるよ。えーと何々…。名前…ブシドー…レベル……!?」

 

 代読が途端に止まる。どうしたのだろうか?

 

「……驚かないで、そのまま聞いてくれブシドーくん。ステイタスを言っていくよ」

 

 

 ヘスティアが言ったステイタスはこうだ。

 

 

 ブシドー

 Lv.3

  力:G250

 耐久:G290

 器用:F350

 敏捷:F350

 魔力:G220

 

 《魔法》

【 】

 

 《スキル》

【引退】

 ・冒険を引退したときのレベルに応じて効果発動。

 ・再び冒険に復帰した時、レベル及び全ステイタスに上昇補正。

 

【グリモア】

 ・グリモア作成能力の付与。

 ・レベルに応じてのグリモア装備能力の付与。

 

【ファフニールの加護】

 ・過去、取得したスキルを自在に扱うことができる。

 

 

 

 

 なるほど、とあなたはその説明を聞いて納得した。

 樹海を潜っていた冒険者が限界を感じ、己の技術を全て弟子に託して引退をするということは珍しくなかった。そうして技術を叩きこまれた弟子は、普通の冒険者よりも強くなっているが……。今のあなたはまさにそれに当たる。

 だが、体が重いと言うのはこういう事かとも実感が沸いた。あなたがもしも樹海にいたころと同じステイタス。三竜を倒し、全盛期の状態なのであれば少なくとも今の2倍以上の能力は持っていたはずだ。

 

「あれ、驚いてない…というか、納得してる!?最初からレベル3なうえにスキルも最初から3つもあるんだよ!?君はいったい、何なんだ!?」

 

 ヘスティアに促されてあなたはようやく異常性に気づいた。どうやら新米冒険者が恩恵を受けた場合はもっと低い値が出るようだ。

 

「低いどころか最初のステイタスは0だよ、0!レベルは恩恵を与えられた時点で初めて1になるんだから!」

 

 と、言われてもあなたは恩恵に付いて詳しくない。説明されたスキル【引退】の効果ではないかと推測は出来るが、それも正しいかどうかは分からない。

 

「というか、引退ってことは君は以前も冒険者だったのかい?てっきりオラリオには来たばかりだと思ってたけど…」

 

 別の場所で冒険していた経験が、恩恵で現れたのだろう。とあなたはヘスティアに言う。というか、そうとしか言えない。

 

「ふーん…。あっ、レベルが急激に上がったからってベル君をいじめたりするのは許さないよ!」

 

 もちろんだ。少年には感謝しているし、それを仇で返すつもりなどない。

 その後、あなたはヘスティアとの会話であなたのステイタス初期がどれほど異常かをこってりと言われた。

 

「いいかい。ギルドに登録する時も安易にレベル3なんて言っちゃだめだよ。今回は嘘をついても良いからレベル1で登録してくるんだ」

 

 恩恵を与えられた時点でレベル3なんて存在はありえないから。あなたはヘスティアの言葉に付け足す。常識の範囲内にとどめるための仕方のない嘘だ。

 あなたは肝に銘じて冒険者ギルドに登録し直すことにした。

 

「ともかく、だ。ヘスティア・ファミリアへようこそ。歓迎するよ!ブシドーくん!」

 

 

 

 

 

 無事、ヘスティア・ファミリアへ入団したこともあってその後の冒険者ギルドの登録もスムーズに終わった。

 心配して付いてきた少年も一安心と言ったところで、冒険者ギルドを出たところであなたは少年と別れることにする。魔石の換金も無事終わり、懐が温まったところでふと、あなたは自身のスキルに付いて気になった。

 

【引退】と【グリモア】は分かる。ハイ・ラガードにいたときにも使っていたことがあるのだから。

 だが【ファフニールの加護】 あれは厄介極まりないスキルだ。

 

 あなたは少し昔を思い出す。海都アーモロードにいたころの記憶だ。そのときのあなたは、今のように弓を持たず、まだ刀を装備して戦っていた。アーモロードでは刀の研鑽を積み、ついにはショーグンと呼ばれるようになったあなたであった。

 が、そのショーグンになってからが曲者だった。二刀流や、一瞬でいくつもの斬撃を起こす五輪の剣など、素晴らしい技の冴えを見せていたあなただったが……

 一つ、たった一つだけ大きな問題があった。

 

 

《介錯》

 

 

 ショーグンとしておさめた技の一つであり、瀕死の者を苦しませぬよう一撃で持って殺しきる技。

 あなたが戦闘に置いてこれの問題に気づいたのは、瀕死の味方を見たときである。瀕死の味方を見てあなたが思ったのは……苦しそうだな、殺すか。と慈悲で持ってあなたは味方を介錯してしまったのだ。

 幸い、海都にてその味方は一命を取り留めたが……あなたはそれ以降、刀を握ったときの自分が恐くなった。アーモロードを離れ、新たな迷宮の拠点となるタルシスまで来たときには、既に刀を捨て弓を持っていた。

 

 忘れていたあの、人を切った時の感覚が思い浮かんでくる。

【ファフニールの加護】の効果からか、《介錯》のことを考えればすぐにでも実行が出来てしまいかねない。

 あなたは手を強く握りしめる。刀はもう使うことはなく今は弓を使っている。大丈夫だと自分に言い聞かせるが、それでも手の震えを止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ベル君が連れてきた彼女、ブシドーくんには本当に驚かされた。

 冒険者ギルドに登録しに行った彼女とベル君を見送ったあと、僕は彼女のスキルを改めて思い出す。

 

「どこのどいつかは知らないけど、難儀な加護を彼女に与えたもんだよ。まったく」

 

 最初に彼女に恩恵を与えた瞬間、そのステイタスに驚いたが真に驚いたのは彼女の最後のスキルについてだ。

 

 

 

【ファフニールの加護】 

 ・過去、取得したスキルを自在に扱うことができる。

 ・戦闘技能の保持。

 

 

 戦闘技能の保持。この一点だけを考えれば、訓練してなくても衰えないとか、そういう意味合いでとれるだろうけど、このスキルはもっとおぞましいものだ。

 衰えることもなく、彼女はずっと戦い続けられる。それはつまり不老の加護だ。人間が人間である以上、どうあっても衰えは出る。それをすべて否定するこの加護は……まさしく、化け物を作り出すための呪いだ。

 

 彼女には、このスキルの全容を教えてはいない。けど、いずれ話さなくてはならない。

 僕はただ、眷属に笑って幸せにいてもらいたいだけなのに。恩恵を与えてしまったがゆえに彼女の【ファフニールの加護】は覚醒してしまった。いや、あの加護は元々彼女にかかっていたから、僕の恩恵とは無関係かも。

 僕はベッドの上で頭を抱えて動き回る。ベル君以上の、やっかいな子がファミリアにやってきたものだ。

 けど僕は神で、彼女は僕の眷属となったんだ。神として眷属の面倒を見ることは当然のことだ。と僕はベッドから飛び起きて気合を入れなおす。

 

「ここ、オラリオで彼女にも幸せになってもらわなきゃ、ね。でも年頃の女の子の癖に冒険冒険しすぎだよー。どうすればいいんだろう……」

 

 新たに加わった眷属、ブシドー。彼女も、ベル君も幸せにする。それが僕の、神様の役割だけど。

 神様だって万能じゃないと、改めて自分で思った。何かいい案は無いかと考えども、僕では何も閃けない……。僕では?

 

「そうか!神会がそろそろあったじゃないか!」

 

 神々による3か月に1回開催される定期的な集会……神会。それがそろそろあるはずだ。あいにく呪いに詳しくない僕だけど、詳しい神はいるはずだ。そうと決まると僕は聞き出すことについてまとめ始める。それと彼女、レベル3だから命名とかした方がいいんだろうか。でも隠しておけと言った矢先に称号って言うのも…。

 

 頭をひねりながら考えて、考えて…。当日が近づいたらやろう。と僕は結論付けた。どうせ神会まで時間もあるのだ。

 

「うーん、命名、命名……」

 

 良い名前を獲得せねばと思うも、入ったばかりの眷属のことなど分からない。途中で考えることを放棄した僕は、久々に捻った頭の疲れからそのまま惰眠を貪ることにした。 

 

 

 

 




《職業》
世界樹の迷宮では、職業ごとに専用のスキルを獲得する。
ブシ子の過去の職業は

ハイ・ラガード → ブシドー
アーモロード  → ショーグン
タルシス    → スナイパー
ハイ・ラガード → レンジャー

となる。

《ステイタス》
新世界樹の迷宮2にて。レベル99のキャラクターを引退させ、レンジャーを新たに作成した場合

レベル 30

STR 25
VIT 29
AGI 35
TEC 22
LUC 32

となる。ここで言うTECは技量よりも魔力を指している。

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