オラリオの迷宮   作:上帝

6 / 22
5話 怪物祭

 

 

 怪物祭を後に控えたある日。僕たち神々はバベル30階層に集まっている。神々の定期集会。神会があるからだ。

 基本的には集まった神々が世間話をしたりする交流の場だけど、今回はちょっと違う。怪物祭を後に控えているから、主催であるガネーシャを筆頭に出店を出すファミリアが話し合っている。

 その中で僕は友人、いや友神のヘファイストスを探していた。

 

「あら、ヘスティア。元気そうね」

「ヘファイストスも元気そうでなによりだ。ところで、折り入って相談があるんだけど…」

 

 ヘファイストスの目がじっとりとしたものに変わる。僕がファミリアを立てる前はヘファイストスの所に厄介になってたこともあって、ちょっと負い目がある。けど、それでも頼めるのはヘファイストスしかいない。

 僕は同じく友神のタケミカヅチから習った東洋のお願いの方法、ドゲザをしつつ頼んだ。

 

「どうか、僕に武器を作らせてほしいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 神会の少し前の日。ブシドーくんとベルくんが入れ違う形でファミリアに来ていた。

ブシドーくんがファミリアからいなくなった後、ベルくんにも僕はステイタスの更新を行っていたんだけど…

 

「わっ、ベルくん傷だらけじゃないか!」

「あはは…。ちょっと無理しちゃったみたいで」

 

 更新のために上半身を脱いだベルくんの体は傷だらけだった。僕は急いでブシドーくんの残したポーションを開ける。

 

「神様…?えっ、ちょっとまずいですよ!預かりものじゃないですかそれ!」

「いつでも使っていいって言ってるんだから良いんだよ!まずは傷の方を何とかしなきゃ!」

 

 無理やりベルくんの口にポーションを突っ込む。傷が少しずつ治っていく、あとは安静にするだけだ。

 

「しかし、どうしてこう傷だらけになるんだい。ブシドーくんが来る前はそこまででもなかったよね?」

「……えっと、その。今日は、7階層に行けるかなーって」

「……ベルくん、もしかしなくてもブシドーくんに影響受けてるよね?あまり、無茶はしないでほしいな」

「はい……。ごめんなさい」

 

 ベルくんはしゅん、と落ち込んでいる。でも、しょうがない部分もあるのかもしれない。

 ベルくんは彼自身のスキル、憧憬一途で早熟する。そして思いの丈が強ければ強いほどその効果は上がっていく。感情と言うのはどうしても一過性なものだ。無茶をし始めたのも、憧れに追いつきたいという一心からに違いない。

 ちらり、と僕はベルくんの装備を見る。彼が使っているのは安物のナイフだ。これじゃあはっきり言って、心もとない。

 かといってヘファイストス・ファミリアの上質な武器なんかは桁違いの額だ。でも、このままベルくんのことを放っては置けない。……ヘファイストスに頼むしかない。僕自身は彼女にちょっと、いやかなり負い目があるけど。それでも頼れるのは彼女くらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどね。眷属のために何かがしたい、か。ずいぶんと変わったねヘスティア」

「い、いやぁそれほどでも……」

「でも、私直々に鍛冶を教えるとなるといくら付くか分かる?それを貴女に支払えるかしら」

 

 ヘファイストスは僕に大雑把な金額を耳打ちしてくる。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…

 

「お、億……!?」

「まあ、そのくらいにはなるわね」

 

 ……それでも、だ。ベルくんのために何かがしたい。

 

「……それで構わない。バイトでもなんでもやるから、頼むよ!」

「ああ、支払い能力に関しては貴女よりも……最近ファミリアに入った、素材を持ってくるあの眷属の子の方が信頼できるわね」

「うっ」

 

 間違いなくブシドーくんのことだ。でもそれは仕方ないんじゃないだろうか。神力を振るうことを禁じられたここオラリオでは、神が稼ぎを担うというのは難しいんだから。

 

「……まあ、貴女の熱は感じ取ってるから。支払いは気長に待つから受けてあげるわよ」

「本当かい!?ありがとうヘファイストス!」

 

 手放しで喜ぶ僕に、呆れ顔のヘファイストスだったけど…。眷属のために何かできると分かった僕は、手放しではしゃいでいた。

 

 

 

 そのあと、僕は神会に来たもう一つの理由を果たすためいろんな神に加護に付いて聞きまわっていた。

 結果としては、この一つの結論に集約していた。

 

「神力なき神が、特別に加護を与えることは出来ない」

 

 むしろ、恩恵を受けた冒険者の方がそういった呪いを出来る可能性を探した方が早いのでは?とはタケミカヅチの弁だ。

 むむむ。と唸っていた。が、意外な神が僕に話を振ってきた。

 

「神の加護について、聞きまわっているようねヘスティア」

「げっ、フレイヤ……」

 

 話を振ってきたのは美の神フレイヤだった。正直言って、僕は彼女の雰囲気が苦手だ。

 

「忠告しておくわヘスティア。貴女の眷属の加護、無理に剥がそうとしたら魂ごと消えてしまうわね」

「……!」

 

 フレイヤはどうやら僕の行動を見抜いていたらしい。というか、ほぼ特定しているようだ。

 

「へぇ、君がなんで僕の眷属のことを知っているかは知らないけど……。どうしてそう言い切れるのさ」

「あんな素晴らしい魂を見て、惹かれないわけがないわ。でも、同時にとても悲しいの」

 

 フレイヤは本当に悲しそうな顔で、涙さえ湛えていた。

 

「あんな加護があったばかりに、貴女の眷属はとても苦しんでいる。出来ることなら解放してあげたいわね」

「フレイヤ……」

 

 僕は彼女のことを、誤解していたらしい。まさか人一人に対してここまで慈悲を持つような神だったとは。

 

「いずれにせよ、今すぐに何とか出来るようなものでないのは確か。彼女次第ではあるけれど、ね」

「そっか…。そうだよね」

 

 加護を受けているのはブシドーくん自身だ。それを良しと捕えるかどうかは彼女次第なんだ。僕が喚いてもどうしようもないと言うのなら、ブシドーくんを信じるほかない。

 

「ありがとうフレイヤ。話せてちょっと気が楽になったよ、僕は君のことを誤解してたみたいで……」

「ふふ…。どういたしまして?」

「よーし、そうと決まれば……ヘファイストスー!」

 

 ブシドーくんのことは今すぐにはどうにかならない。じゃあ出来ることをやるしかない。僕はヘファイストス・ファミリアへ数日間掛けて、僕の自作武器を作りにいくことにした。

 

「ええ……解放してあげなくちゃね。悩むことなんて無いのに、あの子は」

 

 

 

 

 

 

 

 怪物祭当日。あなたは少年と一緒に怪物祭をめぐることにしていた。

 普段着というものが無いあなたは、いつもの防具を来て待ち合わせ場所にいた。流石に弓は持ってきていない。あなたの弓は人が大勢いる場所では危険だ。

 あなたの弓は魔獣の毒翼という素材をもとに作られている。毒によって特別に強化された素材で作られた弓だ。使い方を誤らなければ強力だが、もしそんな弓を触って怪我でもしたら、一般人では毒に掛かってしまうかもしれない。

 毒を舐めてはいけない。極まった毒は、あなたですら危ういのだ。

 

「あっ、ブシドーさーん!」

 

 遠くで手を振っている少年と…………女性が見える。女性はヘスティアではなく、初めての顔合わせだ。

 あなたは少年へのあいさつと共に、隣の女性について聞く。もしかして、少年の彼女だろうか?

 

「ちちち違いますよ!?この人は、シルさんって言って」

「はい、ベルさんにはいつもお世話になってもらってます!」

 

 なるほど……。恋人の逢瀬を邪魔するほどあなたは無粋ではない。二人で楽しむようにあなたは言って、その場を離れようとした。

 

「だから違いますって!?シルさんは行きつけのお店で知り合った人でー!」

 

 

 

 少年曰く。彼女は行きつけの料理店で知り合った店員なのだとか。

 ……その店員が、何故一緒に来てるかは考えないのだろうか?少年は少々、勘が鈍い気がしてきた。

 

「それで、今日はかねてからベルさんが話していた方とお会いできるかなって」

 

 シルはあなたを見て言う。ははーん、なるほど。顧客層を増やそうという魂胆だな。

 勘付いたあなたに対してシルは苦笑いだ。少年もその行きつけのお店とやらでぼったくられて無ければいいのだが。

 

 

 

 ところで、今日の怪物祭はどう楽しめばいいのだろう。と少年に聞くと、どうやら少年もこのお祭りは初めてのようだ。

 お祭り初心者の二人を見かねたシルが、あなたと少年を引っ張っていく。お祭り価格の露店で普段は食べないような揚げ物なんかを、3人で買って食べ歩いていく。

 食べ歩いている中、いろんな話題が飛び交う。少年のことやシルのこと。シルの勤め先である≪豊穣の女主人≫のこと。そして、あなたのこと。話を振られればあなたは答えた。別に話すことは嫌いではない。が少年とは違い、シルの目線はあなたにとって困ったものだった。

 

「ブシドーさんは素材が良いんですから、着飾ったりした方がいいですよ!そう思いますよねベルさん!」

「えっ?あ、あー。えーっとその…」

 

 少年が言い淀んでいるのはあなたの睨みが聞いているからだ。

 分かっているよな少年、とあなたはアイコンタクトを取る。そういう方向性はあなたには合ってないと。

 

「いや、でも確かに…。今日もその防具なんですね」

「今日も…って、まさか、代えの服が無いとかは……」

 

 まずいと思ったあなたはとっさに弁明する。違う、防具を着てきたのは習慣でちゃんと普段着くらいはある。

 だがシルは聞き耳もたずのようだ。あなたの手を掴みずるずると引っ張っていく。向かう先の看板はどう見たって呉服屋だ。

 

「せっかくですから一緒に買いましょう!大丈夫です、ちゃんと選んであげますから!」

 

 それでは少年が置いてけぼりになるではないか、と精一杯の反論をあなたはする。

 

「ベルさんには判定員になってもらいます。良いですよね?」

「えっ、あっはい」

 

 ダメだ。少年ではシルには勝てないようだ。あなたは抵抗を諦める。

 防具が外れて寂しさを感じつつも、新たな衣装を着ねば解放してくれないであろう。

 仕方ないと割り切ってあなたは衣装替えを楽しむことにした。あなただって女性の端くれである。着飾ることだって……気恥ずかしさの方が上回るが、嫌いではない。

 

 

 

 シルが用意したのは和装だった。赤い袴に合わせた白い羽織が、巫女のようにも思える。

 

「ブシドーさんって、たぶん東洋の方ですよね?ということで、和装にしてみました!」

 

 あなたは今来ている和装に近い服装を、昔していたことがある。

 上を脱いでいれば、あなたの駆け出しの頃に近いだろうが……。羽織を着ていると、これは海都アーモロードの頃の衣装に近い。新たな衣装ではあるが、着慣れた和装でもあるためあなたはそこまで違和感を感じずにいた。

 あなたが衣装を代えて出てくると、どうやらシルはどこかに行ってしまったらしい。女性の唐突な雲隠れを詮索してはいけない。せっかくだしと少年に判定してもらおう。

 

「えーっと、その……すごい似合ってると思います!髪の毛とかブシドーさんは東洋人っぽいですし」

 

 ふむふむ。どうやらあなたに近い人種がいるらしい。ちなみに東洋人はどんな人種なのだろう。

 

「僕もそこまで詳しくないんですけど…。刀とか、槍とか、弓で戦う武士って言う人たちがいるみたいです。ブシドーさんは東洋人じゃないんですか?」

 

 残念ながら違う。

 そもそもあなたは同じ時代の人間ではない。だが、ブシドーの技がこの時代まで伝わっていることを知ったあなたはほんの少し顔がほころぶ。

 

「……っ!」

 

 ……少年の顔が赤い。白い髪だから余計に目立つ。どうしたのだろうと聞いてみるが、なんでもないの一点張りだった。

 あなたはその様子を見て、疑問が残ったままシルを待つことにした。

 

 

 

 

 

「そろそろ怪物祭のメインイベントが始まる時間ですね」

 

 戻ってきたシルの提案を受けて、あなたはメインイベントの調教戦闘を見に行くことにした。少年もそれに追従し、イベント会場へ向かおうとする。

 が、何やら向かう先からは慌ただしい雰囲気を感じる。ちょうどイベント会場先から来た人に話しかけて事情を伺うと、どうやらイベント用のモンスターが脱走したのだとか。

 あなたはその事情をシルと少年に話す。お祭りは悪いけどここまでのようだ。

 

「そうですね…。危険ですし、シルさんは避難しててください」

「わかりました。ベルさんとブシドーさんは?」

 

 あなたはイベント会場の逃げ遅れた人を助けに行くことを伝える。人手は少しでも多い方がいいだろう。

 

「僕もできるかぎり避難の手伝いをしてきます。シルさん、今日はありがとうございました」

 

 そうと決まれば善は急げだ。少年も自己判断で救援を行うだろう。

 あなたは羽織をはためかせ、全速力で会場へ向かった。

 

 

 

 

 




《ブシドーの弓》
ザミエルボウ。
攻撃力+194(すべての弓の中で2位の攻撃力) TP+40 LUC+5のステータス補正のおまけつき。

素材は、キマイラを毒のスリップダメージで撃破した際に得られるレア素材、魔獣の毒翼を使用する。

《ブシドーの普段着》
ないです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。