オラリオの街中で刀と剣がぶつかり合う。
刀を持つ黒髪の冒険者は、独特の構えと共に目にもとまらぬ斬撃を繰り出す。
一方の剣を持つ金髪の冒険者は、その斬撃を避け、流し、弾く。刀を弾かれ、よろめいた黒髪の冒険者に、剣が迫る。
が、寸でのところで剣は止められる。黒髪の冒険者による、白刃取りによるものだ。 剣を捻り、蹴りあげる。武器を失った金髪の冒険者は、距離を取って言う。
「……かなり、やる。でも負けられないから」
黒髪の冒険者の方も、闘志は消えてない。お互いに武器が無いと言うのならば後は拳だけだ。
二人の冒険者が一気に駆け寄る。振りかぶった拳をお互いに前に突き出した。
怪物祭の一件も終わり、あなたはいつもの冒険者の日常に戻っていた。今までの日常との違いと言ったら、あなたが和装を着るようになったことと、腰に刀をぶら下げるようになったことか。
それに加えて、あなたは冒険者ギルドにレベル2の申請を出した。レベルの上昇は何らかの困難を達成した時らしい。ならばあなたにとっての困難であった、刀の件を達成したならばレベル2と言っても良いだろう。とあなたは考えていた。
が、実際に冒険者ギルドで申請を行うと大騒ぎだった。冒険し始めからこんなわずかな時間でレベル2になった人はいない、とエイナは言う。
……実際にはあなたはスキルの影響で恩恵の初期値が高いだけだ。と言うわけにもいかず、あなたは最速のレベル2昇格者という扱いとなってしまった。あなたはそのことをヘスティアに相談した。
「え、報告しちゃったのかい!?まだ二つ名を考えてないのに!」
ヘスティア曰く、レベル2冒険者は二つ名が命名されるらしい。確かにあなたは何度か冒険者が異名のようなもので呼ばれているのを聞いていた。それが自分にも与えられるのかと思うと……少々不安になってきた。
「そうだよ!連中は変な名前を平気でつけてくるんだ。だからちゃんとした命名ができるように考えておく必要があったんだけど……」
そんな意図があったとは露知らず、あなたはレベル2申請を出してしまったわけだ。こればかりは自業自得だ。あなたはどんな二つ名でも受け入れる覚悟を決めることにした。
そんなことがあった後日。あなたは朝、いつものじゃが丸くん購入に来ていた。無論、アイズもいるようだ。あなたはアイズに挨拶をして、いつもの通り注文をする。
「おはよう、ブシドー。レベルアップおめでとう」
ありがとう。とあなたはアイズに返すが疑問にも思う。レベルアップは昨日報告したばかりで、アイズには言ってないはずだが。
「ブシドーのことは割と噂になってるよ。ソロで迷宮の地図を描いてる東洋人が、レベル2になったって」
アイズが言うには、地図を書きながら採取をする、モンスターに気付かれない運のいいやつ。それがあなたの周りからの評価らしい。
まあ、間違ってはいない。あなたは注文したじゃが丸くんを受け取りながら肯定する。
「……あれ?ブシドーって、刀を使うの?今まで弓を使ってたよね」
アイズはあなたの腰に差している刀を見て言う。譲ってもらったから、装備している。とあなたは言った。別に刀でも、弓でも。迷宮探索に支障は出ない。
さて、とあなたは買ったじゃが丸くんを特別に持ってきていた器に移す。今日は一つ食べ方を工夫するつもりだ。
箸を用意し、じゃが丸くんの中を解す。そしてはちみつをあなたはかけ始める。
「……!?」
アイズが驚いた顔をしているが、あなたは気にしない。ハチミツのジャーマンポテトの味が忘れられないあなたは、じゃが丸くんを使ってその再現をしようとしていた。さて一口……。中々の美味だ。ハイ・ラガードの公国料理店ほどとは言わないが、ハチミツの甘さと芋の触感が実に良い。
「違う。それは違う」
舌鼓を打っているあなたに、アイズは肩に手を乗せて言ってきた。
「それはじゃが丸くんの食べ方じゃない」
アイズの言い分にあなたはむっとする。別にいいじゃないか、買ったものをどう食べようとあなたの自由だ。
「いや、その食べ方はじゃが丸くんへの冒涜。暖かい衣をさっくりと噛み切るのが本当の食べ方。あなたのは邪道」
……あなたは器の中身を空にして、そっと荷物の中へしまう。
挑戦と受け取った。あなたは刀を抜き、アイズへと向ける。
「…………」
アイズもそれを受け取り、剣を引き抜く。
レベル差なんて関係ない。今ここで行われるのは、絶対に譲ることができないお互いを、認め合うための儀式だ。
あなたは硬貨を一つ取り出し、空へと弾いた。
チャリン、と硬貨が地面に落ちる。それと同時にアイズとあなたは一斉に駆けだした。
そして、冒頭に到る。お互いに武器が無い、ならば拳で語り合うまで。
じゃんけん、ぽん!
あなたはグーをだし、アイズはチョキを出す。……あなたの勝ちだ。アイズはがっくりとうなだれている。
激戦を制したあなたはそっとアイズに手を出す。今回は、私の勝ちだ。
「認めたくないけど…。しょうがない、か」
アイズはあなたの手を取り、しっかりと握りしめる。ここで戦は終結する。あとくされなんてものは存在しない。
「それにしても、レベル2ってだけとは思えない刀捌き。実は刀の流派を修めてたとか?」
アイズはあなたの刀について聞いてきた。だが、あなたは自身が刀を極めているとは言えなかった。
たしかにあなたは上段の構えの他に、青眼の構え、居合の構えを修めている。だがハイ・ラガードに帰ってきたときに、ブシドーの構えにはもう一つ先があることを知った。
無双の構え。各構えの最後の奥義を同時に放つ、到達点。あなたはそれを修めてはいなかった。
「……じゃあ、一緒に鍛錬とかしてみる?」
アイズは言う。鍛錬に相手がいるなら捗るし、その技のきっかけも一緒に考えられるかも、と。
ならば断わる理由はない。あなたはその提案を快諾する。と同時にアイズの目に闘志が宿る。
「じゃが丸くんの正しい食べ方を伝えるまで、戦うのはやめないから」
……食事くらい自由にさせてくれてもいいじゃないか、とあなたは思った。
アイズとの鍛錬が終わり、あなたは迷宮へと向かおうとしていた。
が、そこに見知った顔がいる。少年と……小さい、犬耳の少女だ。
「あれ、ブシドーさん?珍しいですね、まだ迷宮に行ってないなんて」
「あのぉ…ベル様。こちらの方は?」
少女の方はあなたのことをすさまじく警戒しているようだ。少年を盾にして、できる限りあなたから離れたい意志を受ける。
「この人はブシドーさんって言って、同じファミリアの人なんだ。ブシドーさん、こっちは……」
「同じファミリアの方でしたか!初めまして、私リリルカ・アーデと申します!ベル様にはいつもお世話になっておりまして」
同ファミリアと聞いた瞬間にごまをすり始めるリリルカにあなたは思わず気圧される。しかし、お世話になっているとはどういうことだろう?
「私はベル様にサポーターとして雇用契約をさせて頂いているのですよ。ベル様はそれはもうお強くてお強くて、私としては大助かりなんです!」
あなたはサポーターと言う単語を聞いて反応する。確か、冒険者パーティの中に混ざる荷物持ちのことだったか。
「……っ。は、はい!もちろん出すぎた真似はしませんし報酬も契約の元しっかりと頂いて……」
あなたはリリルカが逃げ出さないように両肩を掴み、鋭い眼光で見つめる。
……どう見ても、少女にしか見えない。あなたはリリルカにどれだけ荷物を持てるのか聞いてみる。
「ひいっ……え、えっとぉ。私はスキルの縁下力持の効果で、この見た目でも過重状態でも動き回ることができるんです」
「あ、あの……ブシドーさん。リリがちょっと怯えてるから少し離れてくれると……」
少年に言われたことであなたはハッと気付く。少々正気を失っていたようだ。怯えさせてしまったリリルカにあなたは謝った。
しかし、過重状態でも動き回れると来たか。あなたは少年に、このサポーターと一緒にいくのなら、あなたも一緒に迷宮へ行きたい。と伝えた。
「僕は良いですけど…。リリ、どうする?」
「え、えーっと…。私はベル様の決定に従いますけど、そのぉ……」
リリルカの目線があなたを刺す。有体に感じた印象としては、どっかいけおジャマ虫め。と言ったところか。
だが今回ばかりは譲れない。特にサポーターという存在を見極めるチャンスだ。もしパーティ入りを断られたのなら、少年とのパーティでの仕事ぶりを観察するだけだ。
あなたはそっとリリルカに耳打ちする。パーティの中でも、パーティの外でも結果は一緒だ、と。
リリルカはその耳打ちを聞いた瞬間、硬直してあなたを恐怖の目で見つめてくる。確かに、ストーカーまがいのことをすると言った以上、変人を見る目で見られても仕方ない。必要な犠牲と割り切って、あなたはリリルカの言葉を待つ。
「……ぶ、ブシドー様が一緒ならより心強いですね!なんていったって冒険者様が2人ですから!」
「そ、それなら良いんだけど……。じゃあ、ブシドーさんよろしくお願いします」
あなたは二人に改めて挨拶をして、迷宮用に弓を取り出す。刀はあくまで切り札だ。それに借り物ということもある。日常的に使うべきものではないだろう。
あなたが弓を取り出すと、リリルカの目の色が変わる。オラリオでは珍しい弓ではあるし、興味を持つのは分かるが……もし触ったりして何かが危険だ。あなたはリリルカに、軽い忠告をしておく。びくりと背筋が伸びたリリルカは、非常に硬い笑顔で気を付けると言った。
《ダンジョン》7階層。
モンスターの集団がいる、僕は一気に飛びかかって、まずは1体を倒す。
奇襲に反応した周りのモンスターが僕に向かって攻撃しようとする。その瞬間にモンスターたちの目を矢が貫いていく。目が貫かれたことでモンスターはひるみ、攻撃も振り回す大雑把なものになる。そこを僕が切り裂く。
切り裂いている間、さらに周りのモンスターがいるけど……。どのモンスターも、足だったり、手だったりが既に射抜かれている。既にどこかが傷ついているモンスターなら、隙だらけだ。僕は残ったモンスターたちを、魔石を考慮しつつしっかりと倒し切った。
ふう、と一息を付く僕だったけど、天上からちょうど湧き出たモンスターが降りてきた。不意打ち気味に僕を狙ってくるモンスターだったけど……僕の顔のすぐ横を矢が通り過ぎる。通り過ぎた矢は的確に、モンスターの魔石を貫いていた。
「いやぁ、お強いですねお二人は。息ぴったりじゃないですか」
リリが言う。……ブシドーさんと一緒に戦うのは今回が初めてだ。息ぴったりとリリが言ったけど、それは全部ブシドーさんが僕に動きやすいようにお膳立てをしてくれているからだ。正直に言うと、とてもやりやすい。
ブシドーさんはそれを苦でもなんでもないと言う風だ。聞いてみると、こういうモンスターを封じるような戦い方は良くしていたらしい。僕の役割はそのモンスターたちから綺麗に魔石を抜き取れるように倒すことだ。
さっきの戦いの最後の一撃は、ものの見事に魔石を木端微塵にしていた。最初にあったとき聞いた、急所を射抜く癖は咄嗟になればなるほど出やすいらしい。
魔石の回収を終えた僕たちは7階層で探索をすることにした。ブシドーさんが書いた地図もあって、素材の回収やモンスターが沸き出やすい位置もわかり、リリとの2人のときよりもスムーズに探索が出来ていた。
そして、当のブシドーさんは非常にご機嫌のようだ。リリが素材を代わりに持ってくれるからいくらでも採取ができると言っているけど。
「リリ、荷物大丈夫?」
「このくらいなら全然へっちゃらですよベル様。でも私は大丈夫でも大鞄の方がそろそろパンパンで……」
ブシドーさんの素材採取は本当に量が多い。それも、階層が進むたびに広がるからか、ドンドン素材の量が増えていく。
鞄の限界があったか…。とブシドーさんは言う。リリがいくら力持ちでも、まとめきれない素材はどうしようもない。ここから先の素材は諦めるか。とブシドーさんが言う。
「いえ!まだこの大鞄には入ります!ここで遠慮なんてされたらサポーターの名折れです!」
が、それに反対したのは意外にもリリだった。鞄の限界は収納方法でカバーする。と言い出していた。サポーターとしての意地がその発言をさせてしまったんだろう。
その言葉を聞いたブシドーさんの素材集めはエスカレートした。リリも死に物狂いといった表情で鞄の中に荷物をおしこめていく。僕には、その対決を止めることはできなかった……。
迷宮探索も終わり、魔石の交換も済ませた。驚くことなかれ、今回の迷宮探索で得た資金は……。
「資金は…?」
「ごくり……」
リリルカが聞き、少年が息をのむ。あなたはじっくりと勿体ぶって言った。なんと、5万ヴァリスです!
「ごま……5万!?」
「いやぁ、そりゃああれだけ魔石の状態と数があればそうですよね」
少年が素直に驚いている。一方、リリルカは予想が出来ていたようで妥当と言ったところか。
「いや、妥当は妥当ですけども……。金銭感覚がおかしくなっちゃったんですかねリリは」
自嘲気味なリリルカの顔には影が差していた。
ともかく山分けの時間だ。とあなたは少年とリリルカの二人に半分ずつ、通貨の袋を渡す。これでちょうど25000ヴァリスずつになる。
「えっ?いや、ブシドー様の分は……?」
「あれ、そうですよ。これじゃあブシドーさんの分が」
あなたは声を遮り、リリルカの鞄を指さす。素材を全部もらえれば通貨はいらない。とあなたは言う。
「……なるほど。ブシドー様の地図はこうでもしないと生かし切れない。というわけですね?」
リリルカがようやく納得いったという顔をしてあなたを見る。つまりはそういうことだ。サポーターを雇うのは大成功といっていいだろう。
素材を売りに行くときにリリルカにまだ少し協力してもらいたい、と頼んだ。ここから先はパーティとはまた違う別料金だ。
「別料金なんていりませんよ。そのくらいならお安いご用です。ベル様、この後はブシドー様と一緒に行きますけどもよろしいですか?」
「うーん……。本当にいいんですか?ブシドーさん」
少年の方は納得がし切れていないようだ。ならばついてきて素材の取引を見るといい。
あなたはそう言い、ヘファイストス・ファミリアとミアハ・ファミリアへと向かう。途中、ヘファイストス・ファミリアにてバイト中のヘスティアとリリルカが邂逅したりもしたが、素材を売ることに比べれば些末なことだ。
「些末ってなんだい些末って!」
……どうやら、ヘスティアもついてきたらしい。仕事は?と聞いたが、ヘファイストスにあなたの素材売りで仕事してもらうとこちらに来ることになったとか。
素材を引き取ってもらいやすいよう、各階層で手に入れた鉱石を並べていたところにヘファイストスがやってくる。並べられた素材を一瞥して彼女は言う。
「5万」
指を5本立ててヘファイストスは言った。まあ、問題ないだろう。
「5万……5万!?そんなにするんですか!?この鉱石!」
「ええ、彼女が取ってくる鉱石って希少性が高いものがそれなりにあるのよ。これに関しては掘った時に出る運としか言いようがないから……持ってくる量が少ないのが今までだったんだけど。サポーターを雇ったのね」
大当たりだ。とあなたはヘファイストスに指を立てる。さて、あなたはヘスティアに鉱石をすぐまとめるように指示をする。バイトなんだから働かないとダメだ。
「くっ……!主神を働かせるなんて、僕は悲しいよ……!」
それは自分で望んだことだろうに……。あなたは呆れていた。さて、次はミアハ・ファミリアのところだ……と、行こうとしたときにあなたは少年とリリルカが呆けていることに気付く。
「5万…。しかも、まだ薬草類が残っている…。あの、ブシドー様。運送料とかは……」
別料金なんていりませんよ。そのくらいならお安いご用です。
「ぐっ」
あなたはリリルカの口調を真似て言う。まあ、これもこれでいい勉強になっただろう。しかし、今回はあたりだった。あなたはサポーターがここまで重要と思っていなかった。今後も良い関係でいたいとあなたはリリルカに言う。
「……申し訳ありませんが、リリはベル様と契約しているのです。ブシドー様との専属というわけにはまいりません」
リリルカは少年を見ながら言う。……少年も罪作りな男だ。ならば、たまにパーティを一緒にしたいと少年に言うほかない。おジャマ虫がくっついてしまうが、許容してほしいとあなたはリリルカに頼み込んだ。
「……その、他のサポーターでもいいのではないでしょうか?リリにこだわらなくったって、サポーターは他にも……」
そうなのか?とあなたは少年に聞く。
そんなわけがない。リリだから良いんだと少年が答えた。
「ベル様はそうかもしれませんけど!ブシドー様までリリに拘る必要なんか」
いや、必要はある。とあなたは目を細めて言う。あなたの地図という技術はオラリオでは一般化されていないものだ。いわば他とのアドバンテージに繋がる。そして、リリルカはすでにこのことを知っているわけだ。
サポーターを次々雇ってこれをしてしまうと、鉱石の場所が割れてしまいの相場が崩れてしまうのだ。だから、秘密を共有してほしい。とあなたはリリルカに頼む。
「……なるほど。分かりました。ブシドー様にとってのリリは、いわば初めてということですね」
まあ、そういうことになる。今後ともよろしく頼む。とあなたはリリルカに念を押す。はたから見れば悪い顔だったかもしれない。
「わかりました。今後ともお二人ともにお世話になります!」
リリルカは明るい返事で鞄を背負う。鉱石が抜けて軽くなったのか、足取りは軽やかだ。
少年にあなたは言う。良いパートナーができたじゃないか。
「はい!」
少年はリリルカを追い、隣に立つ。今のあなたにできることは、心の中で応援することくらいしかできない。あなたは二人の後ろを歩きながら、この冒険が続くよう願っていた。
《青眼の構え》
青眼系攻撃スキルの前提となる構え。
《居合の構え》
居合系攻撃スキルの前提となる構え。
《白刃取り》
一定確率で攻撃を無効にするスキル。白刃取りの熟練度と自身の幸運次第で成功率が上昇する。
《無双の構え》
何かの構え状態で、さらにこのスキルを使うことで無双の構え状態へ移行する。
この状態で使える技、無双三段は各構えスキルの最上位の技を一度に全て撃つ技である。