オラリオの迷宮   作:上帝

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8話 グリモア

 

 

 

 いつもの迷宮帰り、あなたはヘファイストス・ファミリアである武器の注文をしていた。

 

 「持ち運びができる、巨大なクロスボウ、か。確かに作れなくはないけど」

 

 ヘファイストスが言うには、機構としては可能だがそういうものを作ったことがないから特注品になるらしい。あなたは見積もり金を20万ヴァリスとして考えてほしいと注文する。

 

 「しかし、そんなもの無くても貴女にはその弓があるじゃないの。なんだってクロスボウを」

 

 弓は弓。クロスボウはクロスボウだ。あなたはかつて、クロスボウをサブ武器として使っていたことを説明する。少年たちとのパーティに入るなら、手段は多い方が良い。

 

「で20万、か。それだとファミリアの誰かに作ってもらうことになるから……。まあ、気長に待ってもらうことになるわね」

 

 作ってもらえるならば構わない。あなたは商談成立の証として前金に半分を置いて、ヘファイストス・ファミリアを後にする。帰る途中、ヘスティアを見つけ帰りがどのくらいになるのかを聞いておく。

 

「うーん、もうちょっと掛かるかな。教会で待ってもらっても良いかな?」

 

 あなたはこの後、ミアハ・ファミリアにも寄って薬の売買をする。それを考えても待つことになるあたり、ヘスティアも中々の重労働なのだろう。ヘスティアの言葉に従い、あなたは先にファミリアへ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 ファミリアに来ると、少年が倒れ伏していた。

 テーブルの上には白紙の本が置いてある。少年のポーズを見る限りは、本を読んで気絶しているかのようだ。

 気になったあなたは少年の持つ本を取り上げ、ぱらぱらとめくっていく。だが、どのページにも何も書かれていない。が、こういった本には見覚えがあった。

 

「う、ううん……。あれ、寝ちゃってたのか」

 

 少年も気付いて起きたようだ。あなたは起きた少年に挨拶をし、白紙の本のことを聞いた。

 

「あ、おはようございますブシドーさん……えっ、白紙?その本がですか?」

 

 少年の反応からすると、読んでいた時は白紙では無かったのだろう。あなたは本を少年に手渡す。少年はパラパラとめくっていくが、何も書かれていないことに次第に焦り始めた。

 

「おかしいな……。途中までしか読めなかったけど、確かに書いてあったのに……」

 

 見かねたあなたは少年に質問をする。その本を読んでいる時に頭痛がしたり、いつもとは違う体の感覚を感じなかったか、と。

 

「……確かに、読んでたら頭がぐらぐらして。あ、それで寝ちゃってたんですね」

 

 頭痛の方か、とあなたは納得する。少年に頭の中に何か思い浮かぶキーワードは無いかとあなたは聞いた。文字に限らず、何かしらの形でもいい。

 

「キーワード…。形…。むむむ」

 

 少年が頭を抱えてうなり始める。そして、何か合点がいったかのように、少年は自然と動き始める。構えるのは右手。渦巻く魔力をイメージで形作り、発射する。キーワードは…。

 

「《ファイアボルト》!」

 

 少年の掌に込められていた魔力が火の矢を形作る。火の矢はまっすぐに地下室の出入り口へと向かう。

 

「たっだいまああああああ!?うおおおおおあっちぃぃぃぃぃ!?」

「か、神様ぁぁぁぁ!?」

 

 不幸なことにちょうど魔法を撃ったタイミングでヘスティアが帰ってきた。あなたと少年は急いで消火作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

「まったく、部屋の中で魔法を使うとは何を考えているんだいベルくん!」

「すみません神様……」

 

 ヘスティアの消火作業が終わり、あなたは彼女の応急処置に移っていた。傷口にポーションを掛けつつ、包帯を巻いていく。包帯を巻かれているヘスティアは少年に説教モードだ。

 だが、今回の件についてはあなたが少年を煽ったことによるものだ。あなたは経緯をヘスティアに説明する。

 

「……なーんか、おかしいとは思ったんだよ。ベルくんが魔法使えるようになってるし。その本、僕にも見せてよ」

 

 言われた通り、白紙の本を持ってくる。ヘスティアはその本の表題で気付いたようだ。

 

「それグリモアじゃないか!なんだってそんなものがあるんだい!?」

「えっ、この本って珍しいものだったんですか?」

 

 ……?

 あなたはヘスティアの反応に違和感を覚えた。グリモアが珍しい……?

 

「そうだよ!これは読んだだけで魔法を習得できる魔道具なんだから!しかも1回限りの使い切り!これ一冊で何千万……いや、下手をしたら億に届くことだってありうるんだよ!?」

 

 えぇー!?とあなたと少年の声が被る。グリモアがそんな高価なものになっていたとは……!

 少年は開いた口が塞がらないようで、裏返った声で金額を数えている。しかし、そんな高価な物を少年はどこから手に入れたのだろう。

 

「これ、シルさんから借りた本なんです。魔法に興味があるならって。《ゴブリンにも分かる現代魔法》というタイトルで、魔法について乗ってる教科書みたいなものだったはずなんですけど……」

 

 確かにゴブリンでもわかる魔法だ。なんせ読んだら魔法を覚えるのだから。あなたは頷くが少年の顔は青いままだ。

 

「どうしよう……。弁償、しないと……」

 

 弁償?

 あなたはまた違和感を覚える。なぜ弁償する必要があるのだろう。

 

「いやいやいや!使いきりなんですよこの本!もう元に戻せないじゃないですか!」

 

 そこだ。あなたはかねてから感じていた違和感の正体に気付く。ヘスティアも、少年も、なぜグリモアを使い切りのアイテムだと思っているのだろう。

 あなたは白紙となったグリモアを手に取り、念じ始める。あなたが過去、グリモアを読んだことで覚えた技を一つ、白紙の本へ封じ込める。

 白紙だったページに文字が浮かび上がっていく。そしてその表題には、《チェイスショック》と刻まれていた。

 

「……ふぁっ!?」

「えっ、文字が……神様、これ使い切りじゃないんですか?」

 

 どうやら一番驚いているのはヘスティアのようだ。少年はヘスティアの説明でグリモアが二度と復活しないと誤解をしていたようだ。

 ヘスティアはあなたの手からグリモアを引ったくり、即座に読み始めようとして……表紙をじっと見つめていた。

 

「……これ、読んだことのない字だ。ブシドーくん、君はいったい何をしたんだい」

 

 あなたはまずグリモアについて説明することにした。自分がいた国ではグリモアは使い切りではなく、使い回しができる。今行ったのは、グリモアに自分の技を吹き込んだだけだ、と。文字については自分の国の言語で、こちらにはあまり伝わっていないと言う。

 ……嘘は言ってない。その国が現代にあるとは一切言ってないのだから。

 

「技……ってことは、魔法だけじゃなく技術までグリモアに込められたのか……。ブシドーくんのいた国は、相当に魔道具文化が栄えているみたいだね」

 

 あなたはヘスティアが持っている《チェイスショック》のグリモアを手にし、その力を自らの中に吸収する。残ったものは、白紙の本だけだ。

 

「そういえば、君はグリモアに関するスキルを持ってたね。技術としてそもそも持ってたわけだ。あーよかったよかった。これでベルくんの魔法を元に戻せば、本も元通りなわけだ!」

 

 ヘスティアはベッドの上に転がった。あなたはふと、グリモアのスキルが自分にあることを考える。何故、グリモアの装備がスキルとして宿ったのだろう……?

 

「あの、ブシドーさん……。どうやって、グリモアに魔法を戻せばいいんでしょう」

 

 少年は本を抱えて言う。あなたは少し考えるが……どうやって戻していた?と逆に頭を抱えてしまった。

 グリモアの装備の講習をギルド長から受けたときも、そのあとグリモアを装備しなおしたりしたときも、正直まったく意識などしていない。イメージとしては技のスロットを空白に付け替えている感覚だが……。

 

「技のスロット……くっ、外れろ《ファイアボルト》……!」

 

 少年が念じながら《ファイアボルト》を意識するからか、手に炎が宿っている。危険だと判断したあなたは、グリモアを取り上げた。

 おそらくはグリモアのスキルを持っているから、技を宿したりできたのだ、とあなたは言う。つまり、少年の魔法を元に戻す手段は無い。

 

「そんなぁ……。じゃあ、やっぱり弁償を……」

「ベルくんは頭が固いなぁ。ブシドーくんがグリモアを作れるって言うのなら、適当にグリモアをでっち上げて返しちゃえばいいのさ。むしろ魔法じゃなくて技が宿ってるグリモアなんて見たことないし、そっちの方が希少価値高いかもしれないよ」

 

 少年はヘスティアの言葉に揺らされる。使ってしまったグリモアを、より希少な物にする手段が存在する。だが、使ってしまった事実は覆らず。このまま別のものにして返していいのかという葛藤と言ったところか。

 

「というわけで、ブシドーくん!グリモアに何か技を入れてきておくれよ!」

 

 ヘスティアの言葉に、あなたは露骨に嫌な顔をした。グリモア作成か……。

 あなたはグリモア作成と聞いた瞬間にいくつかのモンスターの顔が思い浮かぶ。じゃれついてくる可愛らしい?モンスターや、エビのような触角をもったモンスターだ。

 自然とあなたの眼が濁っていく。グリモアの効果は、作成されるまで未知数だ。良いグリモアを求め続けることになると、何百、何千回と戦い続けなくてはならない。

 だが、今回のなら適当でも良いだろう。それなら気が楽だと思ったあなたはすぐにグリモア作成に取り掛かることに決める。さしあたって、少年に協力してもらわなければならない。

 

「もちろんですよ!なんでも協力しますから!」

 

 あなたの眼に気付いていない少年は、純粋に手伝おうと意気込んでいる。

 さあ、グリモア作成の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 あなたの目の前には少年が倒れ伏していた。今日二回目である。

 原因は過度の魔法の使い過ぎの精神疲労。つまり、魔法の乱射で倒れたわけだ。すでに少年には大量の精神回復のポーションを飲ませてある。それでも起きないのだから、精神疲労の怖さが分かる。

 あなたは少年の復帰を待ちつつも、グリモア作成についてまとめていた。

 

 グリモアに封じれる技や魔法は、実際に使用されたものしか封じることができない。今回は、少年の《ファイアボルト》を封印するつもりだった。あなたの技を封じても良いが、もし少年がシルに騙されてグリモアを渡され、その弁償として多額の借金を負わされてしまったらまずいからだ。

 少年にはグリモア作成のため《ファイアボルト》を乱射してもらった。試し打ちに張り切っていたのもあって少年は撃って撃って撃ちまくった。そして都合10発目。ついにガス欠で倒れたのだ。

 10発の間にグリモアは1つできていた。オラリオの言語で書かれた表紙になっておりあなたには読めなかったが、ヘスティアに読んでもらうとちゃんと《ファイアボルト》のグリモアと書かれているらしい。

 ……若干拍子抜けだが、ここで粘っても仕方ないとあなたは考えていた。《ファイアボルト》のグリモアなら何でもいいんだ。わざわざ付与効果まで厳選する必要はない。

 

 

 

 

「ちなみにブシドーくんは、どんな技をグリモアで得てるんだい?」

 

 精神疲労中の少年を膝枕しているヘスティアが聞いてくる。あなたは自身の職業であるレンジャーでは覚えられなかった技を中心に、グリモアを装備している。

 あなたは目を閉じ、頭の中で自身のグリモアで得た技がどうなっているかを考えていた。意識して考えると、もわもわと頭の中に情報が沸き出てくる。

 

 レベル1《チェイスショック》

 レベル2《リミットレス》

 レベル3《火竜の猛攻》 

 

 どうやらオラリオでは、レベルが1上がるごとにグリモアを装備できる枠が増えていくようだ。あなたは今使える技についてヘスティアに説明していく。

 

「雷系の攻撃を見て即座に追撃する技に、武器種に関係なく技が使えるようになる技と……あの、僕の勘違いだと思うんだけど。ドラゴンの技じゃないよね、それを模した技だよね?」

 

 何を言っているんだヘスティアは。《火竜の猛攻》はそのまま火竜、あなたたちで言う偉大なる赤竜が追い詰められたときに使う底力を引き出す技だ。火竜ほどではないが、人間が使っても凄まじく攻撃性が上がる、恐るべき技だ。

 

「ドラゴンスレイヤーなのか君は……。しかも恩恵なしになるんだよね。ブシドーくん本当にどこに住んでいたんだい?そんな修羅の地みたいな場所、僕知らないよ」

 

 修羅の地と言われてあなたは思わず笑ってしまった。よくよく考えてみると三竜を倒している時点で、このオラリオではありえないレベル8以上になれるのだ。確かに、修羅と言われても仕方ない。

 あなたはヘスティアにハイ・ラガードについて説明していく。あなたがそこで冒険者ギルドに所属していて、探索を中心に、樹海を調査していたことも含めて。

 

「あ、流石にソロで探索してたってわけじゃなかったんだ。ちなみにどんなパーティだったんだい?」

 

 あなたは促され、ギルドの皆を説明することにする。盾役でムードメーカーだった聖騎士。聖騎士のツッコミ役だった治療師。聖騎士といつも折り合いが悪かった銃士。

 そして……あなたと同郷で、競い合う相手でもあったおかっぱの少女。そしてあなたの5人が、最初の冒険者ギルド設立時のメンバーだった。

 

 あなたが説明していると、ヘスティアの顔が妙に優しい顔になっていることに気付く。

 

「うん。最初に君が来たとき、大切な人が少ないそっち方向の人なのかなって思ったけど……。いるじゃないか、君の大切な人」

 

 心外だ、とあなたはヘスティアに言う。あなたは人との関わりは大切にする方だ。ただ、それ以上に自由が無いと息苦しくなるが。

 それに、その話はもう過去の話だ。とあなたは付け加える。今大切なことは、あなたがオラリオにいて、ヘスティア・ファミリアにあなたが所属していることなのだから。

 

「そうだね…。これからもよろしく頼むよ、ブシドーくん」

 

 言われるまでもない。あなたは自身にとって大切なものは必ず守る。

 少年の寝顔を見つつあなたは考える。これからの冒険にあなたの経験をどれだけ生かせるか、と。グリモアはその経験の一つだ。着脱不可と言えど技の数は生存力に直結する。

 あなたは少年やリリルカにふさわしいグリモアが何か、と思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 




《チェイスショック》
雷属性の攻撃に反応して追撃する技。本来はソードマンの技であり、剣を装備していないと使えないのだが……。

《リミットレス》
次の1ターンだけ、どんな武器でも関係なく技を使えるようになるスキル。これにより上記のチェイスショックを使えるようになる。

《火竜の猛攻》
最大150%の攻撃力上昇を可能とする新世界樹の迷宮2最高の攻撃補助スキル。
これを使ってくる偉大なる赤竜は、氷嵐の支配者、雷鳴と共に現れる者と合わせて3竜と呼ばれ、これらを打倒した時に冒険者はレベル制限が70から99へと上昇する。


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