混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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もうすぐ無印及びバーストは終了です。


栄光を抱く者の苦悩

「え? サクヤさんとアリサが逃亡?」

 

「あぁ……不甲斐ない事に、彼女たちの逃亡を許してしまった」

 

 支部長室。執務机に座っているのはヨハネス・フォン・シックザール。対面に立っているのは神薙ユウだ。

 沈痛な面持ちを前に組んだ腕で隠し、本当に悲しい、といった声色でヨハネスは2人の逃亡を第一部隊の隊長である神薙ユウに告げる。それが事実であるかのように。

 

 だが。

 

「ふぅん……それは、支部長が推し進めている『アーク計画』と何か関係が?」

 

「……」

 

 いつも通りの無表情、いつも通りの冷静な声色で紡がれた言葉は、少なくとも目の前の男が知るはずの無い計画の名前だった。

 息を飲んでしまうヨハネス。その様子を見ただけで、神薙ユウは頷いた。

 

「あぁ、大丈夫です。その反応で理解しましたから」

 

 アーク計画。エイジス島を人類最後の巨大なアーコロジーにするという『エイジス計画』を隠れ蓑に、ヨハネスが秘密裡に推し進めている人類救済プロジェクトの名だ。

 選び抜かれた『人間』を地球外に退避させ、『終末捕食』を人為的に引き起こすことで『人類』を存亡させようとする大胆な、悪く言えば選民思想な計画。

 

 母体であるノヴァは雨宮リンドウの働きでほぼ出来上がっているものの、終末捕食後の環境コントロールのための特異点が見つかっていない事から『未だ』ゴッドイーター達にはそれを話していないはずだった。

 此度橘サクヤとアリサ・イリーニチナ・アミエーラが逃げ出した――エイジス島へ向かった――のは、その計画を知ってしまったからだとヨハネスは睨んでいる。本人は消したつもりなのだろうが、しっかりと橘サクヤの端末に『蒼穹の月の詳細を見ていない』記録と、『データチップを読み込んで消した痕跡』が残っていた。

 ヨハネスは本職の研究者だ。サクヤが手早く施した処置など、容易く看破できる。

 

 だからこそ、この男――神薙ユウが事実に辿り着いていることが理解できなかった。

 

 橘サクヤがデータチップを見てから逃亡までに1日と経っていない。その間に情報を交換した?

 

「別に、サクヤさん達から何かを聞いたわけではありませんよ。

 強いて言うのならば……リンドウさんが教えてくれたんですよ」

 

 深淵の様な瞳と、その無表情からにこりと仲間(・・)に笑いかけるように呟かれた言葉は、それこそヨハネスが信じられない物。

 何故なら雨宮リンドウを殺したのは、殺すように仕組んだのは、他でもないヨハネスなのだから。手段を講じたのはオオグルマだが。

 

「ははは……何を言っているのか、私にはわからんよ。

 雨宮大尉の事は残念だったと思っているが……何か書き残しでもあったのかね?」

 

 大丈夫、声は震えていない。

 可能性があるとすればそれだ。書置きやデータチップを、橘サクヤ以外に残していた可能性。それならば『雨宮リンドウに聴いた』という表現も納得できる。

 

「あぁ、言い訳は結構ですよ。

アーク計画に他の人たちを誘うのも好きにしてください。僕は乗りませんけどね」

 

 そう言ってヨハネスに背を向ける神薙ユウ。

 しかし、扉を出る直前でふと立ち止まって振り返った。

 

「あぁ……薄々思ってたんですけど……。

特異点、見つかってないんじゃないですか? なんなら僕が探しましょうか?」

 

 先程までのヨハネスならば、即座に頷いていただろう。

 だが、先程見せた深淵の様な瞳にヨハネスは気圧されてしまっていた。

 

 ――不穏分子を、計画に入れていいものか。

 

 だが、野放しにしておくことの方がもっと危険だ。

 

「あ、あぁ……よろしく頼むよ、神薙ユウ君」

 

「はい、それでは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神薙ユウが部屋を出て行き、昇降機が使われたことを確認してからヨハネスは一気にへたり込んだ。お偉い方との談話でもここまで緊張したりしない。背筋には嫌な汗が張り付いている。

 

「……なんだ、アレは」

 

 雨宮リンドウも度し難い、空気を掴むような感触の男だったがそれすらも赤子のように思える。

 あの引きずり込まれるような瞳。ヨハネスは、どこかでソレを見たことがあった。

 

「……そうだ」

 

 あの時だ。

 アイーシャの子宮にP73偏食因子を組み込んだ『マーナガルム計画』、その結末。

 アイーシャの死と共に暴発捕食事故を起こる最中で見た、息子であるソーマの瞳。

 

 生まれながらに生まれたことを絶望するような、あの瞳と同じだ。

 

「……仕方ない、ペイラーに……いや、あいつはダメだ。

 ……ソーマをつけるか」

 

 友人であるペイラー・榊では信用に足らない。胡散臭いし。

 息子であるソーマは何かと反抗的であるが、その実人類の為によく働いてくれている。

 神薙ユウ1人で特務に当たらせるよりは、安心できる。

 

「ままならないものだな、アイーシャ……」

 

 普段45歳ともわからぬ若さを見せつけるヨハネスは、ただこの時だけ歳相応の疲れを顔に出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨンデル……」

 

 最近、シオの様子がおかしい。

 おかしいというか、これは確実にノヴァに呼ばれている。

 

 全身を青白く淡い光が包み、ある一方向――エイジス島を向き、「呼んでる、行かなきゃ」と呟く。

 俺としてはそのまま行ってくれて構わないのだが、知識をつけすぎたのかシオは自分で(・・・)自身の様子がおかしい事に気づき、踏みとどまる。

 恐れていた自体とは違うものの、やはり知識は邪魔になった。

 

 また、庇護欲でも感じているのか――喋ることができるとはいえ――その全身をハンニバルと化した雨宮リンドウがシオを掴んだりもする。余計な事を。

 

「マタカァ……ドコヘイクッテンだァ……?」

 

 ここは愚者の空母。だから、エイジス島が見える。見えてしまった(・・・・・・・)

 

「エイジス……ソウダ、オレハエイジス島にいかなきゃなんネェンダ……!」

 

 雨宮リンドウが自我を取り戻した。食欲と庇護欲のみで動いていたといっても過言ではない、ほぼアラガミと化した雨宮リンドウが戻ってしまった。

 

「ヨンデル……イカナキャ……」

 

 これはどうするべきだろう。

 シオは行かせてもいい。だが、雨宮リンドウがエイジスに行ったらどうなる?

 答えは簡単だ。感情のままソレを制御する事もせずにヨハネス・フォン・シックザールを殺しにかかり、果てはアルダノーヴァやノヴァまで壊してしまいかねないだろう。

 それは面倒だ。ただのハンニバルであれば、何もない所ならば俺一人でも倒しきることができるだろうが、エイジス島の天井総てを覆うノヴァを護りながらとなるとちと厳しい。

 そう俺が悩んでいる間に、シオは踏みとどまった。

 

「……リンドウ、ダメ!」

 

 シオが止めた?

 なんで……ノヴァの危険を悟ったのか?

 そこまで知性を――。

 

「キィ……」

 

 シオの襟首と、雨宮リンドウの首を掴む。傍から見ると凄まじい光景だが、重さは感じないので苦ではない。

 

「ンダァ……? どこへ……いくってんだ……?」

 

 段々とカタコトから戻ってきている辺り、かなりの理性を戻したと見て取れる。

 だが今はそんな場合ではない。

 

 片方は今も聞き取れないが、もう片方に騒音スキルが付いていてよかった。

 

 ――神薙ユウとソーマ・シックザールが近づいている。

 

 騒音スキルのついているソーマ・シックザールはともかく、神薙ユウを俺が気付けた理由はこの聴力のおかげだ。

 ヤクシャ以上の範囲と精度を誇るこの感覚器は、開始地点に降り立つまで無音だった神薙ユウのインカムから漏れ出るオペレーターの声を逃さなかった。

 多分、消音スキル、もしくはスナイパーのステルスフィールドを使っているのだろう。ブラストから変えたのか?

 

 シュン、という風切り音が聞こえた瞬間に天高くへと飛びあがる。咥えている2人が騒いでいるが知ったことではない。雨宮リンドウの足ギリギリを掠める狙撃弾。躊躇なさ過ぎだろ!!

 

 とりあえずエイジス島ではないところへ向かってソニックブームを発生させない程度の速力で移動する。バグとは戦うべきではない。これ鉄則。

 




神薙ユウは支部内でもバグ扱い。ほとんど描写されてないけどサカキ博士からもドン引きされてます。
一緒にいるソーマは自分についてこられる奴+シオがいないことで好感度がUPしていますが、変態軌道だけは引いています。

コウタを描写しないのは……えへへ。
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