混迷を呼ぶ者 作:飯妃旅立
左目に傷を負ったマルドゥーク。 (死んではいないが)ロミオやジュリウスの仇である、ブラッド隊の因縁の敵である。
遠征作戦『朧月の咆哮』によって彼の目標を討伐する。
ペイラー・榊のいる支部長室に集まったのは、神威ヒロ、香月ナナ、真壁ハルオミ。 そして、雨宮リンドウ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、ソーマ・シックザール、神薙ユウである。 橘……いや、雨宮サクヤはいない。 ご想像にお任せしよう。
作戦内容をアリサが読み上げる。
「大型の感応種であるマルドゥークは、有利な地形に多数のアラガミを呼び寄せ、所謂要塞のような状況を形成しています」
「攻略の第一段階では、敵の後背部から別働隊が攻撃し、ブラッド隊が突入する機会を作ります」
「ブラッドの突入後、別働隊は周囲のアラガミを撃破しつつ、包囲の輪を狭めて敵戦力の削減と警戒力の分散を担います」
「別働隊は、私を除いた独立支援部隊『クレイドル』が務めさせていただきます」
一息に言いきるアリサ。 ジュリウスが昏睡状態である故に、神機兵が遠隔操作で戦えるほどの機動力を保てないのだ。
「細かい事はどうでもいいけどよー……アンタら、感応種相手に戦えねーんだろ? マルドゥークの感応波が届く範囲じゃ無力だろ」
神威ヒロが、もっともな質問をクレイドルの面々に投げかける。 P66偏食因子に適合していない彼らでは、感応種の相手ができないはずなのだ。
「フフフ、そこは考えてあるよ、ヒロ君。 君の血の力『喚起』を使うんだ。 君の血の力である『喚起』は、周囲の第三世代以前の神機使いをもブラッドアーツに目覚めさせることができる。 僕達の見立てだと、感応種の感応波を完全にとは言わないまでも受け辛くできるはずだよ」
胡散臭……もとい、胡散臭い声色と表情でサカキが言う。 それは、ブラッド以外の神機使いの希望ともいえるものだった。
「えー、そんなことできるなら早くやればよかったんじゃ……」
「リスク無しにできるもんなのかねぇ、そういうの」
ナナとハルオミは懐疑的だ。 そんな方法があるなんて今まで聞いた事が無かったし、リスク無しにできるのならブラッドが居る必要がない気がする。
「明確なリスクはまだわからない。 そして、確実に発現できるとも言えないんだ。 作戦決行まで時間は残されていないし、科学者としては言いたくないけれどぶっつけ本番という奴だね。
だけど安心してくれたまえ。 こちらから秘蔵の神機使いを出そう。 彼……もしくは彼女がいれば、ブラッドアーツに目覚めるまでの時間稼ぎをしてくれるだろう」
不思議な言い方をするサカキ。 自身の秘蔵の神機使いだというのに、性別が判定していないようだった。
「ま、そういう事だ。 ブラッドの隊長さん。 ブラッドアーツ発現のため、っつー目的はあるが、それ以前に仲良くやってくれないか? 今回は参加しないアリサも含めてな」
「無理はしなくていい……だが、人類のために……協力してくれるとありがたい」
面倒くさそうにしながらも、差し出された手に握手を返すヒロ。 ちなみにリンドウは左手で握手をした。
「僕からもお願いするよ、神威ヒロ。 クレイドルの代表としてね。
――それに、マルドゥークだけじゃなくて、サマエル……いや、ルシフィルだっけ? あいつに勝つためにはブラッドアーツは欠かせないんだ」
神妙な顔で言うユウ。 まさか自身の倒したアラガミの感応種が、ここまでの被害を出すとは思っていなかった。
「……それで? アタシは何をしたらいいんだ?」
「明確にはわからない。 ナナ君の話では絆を感じた時に完全に自分の物になったらしいが、絆という不明瞭な物をどうやって造りだしたらいいのか、科学者である僕にはわからないんだ。 だから、作戦までの短い期間、一緒に過ごしてくれるだけでいい。
こちらも不明瞭で不明確ではあるけれど、ユウ君とヒロ君ならどうにかできる気がするんだ」
うんうん、と頷くユウとヒロ以外の面々。 ユウはニコニコ笑い、ヒロは至極眠そうだった。
「改めて自己紹介をさせてくれ。 俺は雨宮リンドウ。 フェンリル極東支部独立支援部隊『クレイドル』所属だ。 よろしく頼むわ」
「フェンリル極致化技術開発局特殊部隊『ブラッド』隊長、神威ヒロ。 んで? その右目と右手はファッションか? どこか……
所属と名前を言葉少なに済ませ、直球で気になった点を聞くヒロ。
裏表のない性格なのだ。 どこかの神薙とは大違いである。 正反対である。
「おー、鋭いなお前さん……まぁ、いいか。
3年前にな、腕輪ごと神機をアラガミに持ってかれて遭難して……一気にアラガミ化が進んじまったんだ。 当時は全身アラガミ化したんだぜ?
でも、ずっと戦ってきた相棒と……今は別の場所にいる、サクヤって奴が、命を張って俺の暴走を止めてくれたんだ。 あとはサカキのおっさんと極東の集中医療によってなんとかここまで抑えられたって所さ」
ギュ、と右腕を握りしめ、リンドウがいう。 更に右手で右目をさする。
「そん時の因縁って奴でな。 サマエルってアラガミには思うところがあるのさ。 あぁ、いま極東を襲ってんのはルシフィルってんだっけ?
俺も、ユウも……ソイツとは決着を付けなきゃなんねぇんだ。 俺個人の借りと――」
礼もあるしな、という言葉を飲み込むリンドウ。 それは教える必要のない事だからだ。
もう薄くぼやけた『ハンニバル侵食種』になりかけていた記憶の中で、あの白い少女とサマエルは確りとした『自己』を持っていたのを覚えている。
サマエルやあの白い少女は、己を利用していただけなのかもしれない。 はたまた全く別の意図があったのかもしれない。
だが、結果的に彼女らと行動したことで自分は生きながらえた。
敵である。 倒すべき敵であるが、一言、礼くらい言ってもいいだろうとリンドウは考えていた。
「ま、そんな感じだ。 暴走の心配とかはないから安心してくれよ?」
「ふーん……。 その目は、どう見えてんの?」
「興味なさ気なのにグイグイ来るなー、お前さん。 いいぞ、答えてやる。
お前さんの思ってる通り、右目と左目の視界は違う」
言いながら、カチャ、と音を立てて片目の仮面を外すリンドウ。
その下に顕れたのは――。
「ま、見た目はこんな感じだな」
右耳から右目までの肌が赤黒く変色し、引きつりが起きている。 浮き出た血管が目へと集中しているのが見て取れ、その部位が人から外れている事が一目でわかった。
強膜の色は黒で、角膜の色はオレンジ。 瞳孔は鮮血の様な緋だった。
「んで、視界だが……簡単に言うと、オラクル細胞が見えるんだ。 付着したオラクル細胞、大気中を漂うオラクル細胞……目を凝らせば体内のオラクル細胞まで見える。 説明が難しいんだが、
普段はこうやって仮面で覆ってないと、周りが血みどろに見えちまったりするんだ。
あと、スタングレネードも直視すると頭がクラクラする。 この目と右腕は完全にアラガミってことだな」
ギョロリと動く右目。 ヒロは、右目だけと目が合ったような気がした。
「どうだ? 怖いか?」
「……何が?」
だよなぁ、と笑うリンドウ。 本気でわかっていないヒロ。 彼女は、恐怖という物を未だかつて感じたことが無い。
「いやぁ、気に入った。 改めてよろしく頼むわ、ブラッド隊長さん」
「あいよ。 よろしくなリンドウ」
年長者であっても敬意を払わない。 彼女は、敬意という物を未だかつて払ったことが無い。
「ソーマ・シックザールだ……改めてよろしく頼む」
「神威ヒロ。 よろしく」
さばさばとした2人。 どちらも自分から話しかける
「お前は……ここに、何を求めて来た? これから、ここで何を……成し遂げるつもりだ?」
「……知らね。 アタシは喰らうだけだ。 喰らって、喰らい尽くして……なんのためかなんて考えてねぇ。
ソーマ、あんたからも同じ……リンドウよりも濃い気配がする。 気のせいじゃない」
神薙ユウもそうであるが、神威ヒロも中々に謎の多い人物だ。 何をもって、その強さを、信念を貫いているのか。 どのような経歴を送ってきたのか。
どちらもが新兵であり、どちらもが凄まじい成長スピードを見せるのだ。
「……そうだな……俺は半分アラガミなんだ……。 何か思うことがあるのか?」
少しだけ、普段の彼を知る――アリサやリンドウ――者達からすれば攻撃的と感じる言葉でヒロに問いを投げかけるソーマ。 どこか、3年前の彼に似ていた。
「いや、なんつーかな……アタシも
「……なに?」
意味深な発言をするヒロ。
神威ヒロにP73偏食因子が投与されているという話は聞いたことが無い。
「『血の力』、なんて謳ってるけどよー、感応種の能力と何が違うんだ? アタシらにもP66偏食因子が投与されてるし、アンタらよりアタシらブラッドの方がアラガミに近いだろ」
「それは……」
違う、と言い切れないのだ。
『血の力』は未だ全て解明されたわけではない。 ラケル・クラウディウスなら全てを知っているかもしれないが、ソーマは彼女を信用していなかった。
データ上では、ブラッドの面々は偏食場パルスを発している。
その波形は、感応種に近い。
「ソーマもブラッドアーツに目覚めたら仲間入りだな。 よろしく頼むわ」
「お、おう」
ヒロに自虐しているつもりはない。 ただ事実を述べただけだ。
「やぁ、君とはずっと話したかったんだ。 自己紹介はいるかい?」
「いらねぇ。 あんた、伝説とか言われてる神機使いだろ? シエルがよく話してたからな。 知ってるよ」
対峙するは、メタ視線でいう2大主人公。
金に近い茶髪の優男と、くすんだ金髪の好戦的な女。
身長は同じくらいで、醸し出す雰囲気もどちらも浮世離れしている。
「はは、そんなにすごいことをしてるつもりはないけどね……。 リンドウさんやソーマから聞いていると思うけど、僕はルシフィルに因縁があるんだ。
サカキ博士から聞いたルシフィルの動向を見る限り、自己があるのが見て取れる。 君はアイツに何か感じたりしなかった?」
「……さぁな。 だが、シエルの借りは返さねぇといけねぇ。 アンタらだけに任せるつもりはねーよ」
シエル・アランソンが黒蛛病へと陥ったのはルシフィルが原因だ。 仇というわけではないが、借りは返す。
「……うん。 それでいいよ。
――あぁそうだ、ヒロ。 右手を出してほしいな」
言いながら自分も右手を差し出すユウ。 握手を求めているように見える。
「……?」
疑問を浮かべながらも、その手を握るヒロ。
――そこ起点として、ドバッと流れてくる
その中には、雨宮リンドウの記憶も含まれていた。
「……!?」
「感応現象……知ってるよね。 対処法とは言わないけど、サマエルとの戦闘記憶みたいなものだよ。 アイツと遭遇したら活用してほしい」
感応現象自体はヒロも知っている。
だが、自らの意思で引き起こせるものではなかったはずだ。
誰かが言っていた。
「あんた……実はアタシの力が無くても感応種と戦えるんじゃないのか?」
「それは無理かな……。 神機が動かなくても、やりようはあるけどね」
こいつヤバイ。
彼女が初めて感じた恐怖は、身内へのものだった。
顔合わせ回です!(前書きにいうべきこと)