混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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はい。


ニキ回!!


罪深き害悪の調べ

「クソッ……どういう事だよ……?」

 

 極東支部・ベテラン区画の一室。 悔しさをにじませた声でベッドを殴りつける青年の姿があった。

 彼の名は、大森タツミ。

 極東支部『サテライト防衛班』の隊長だ。

 

 神機使いになってから、たくさんの仲間の死を見てきた。 それでも、極東支部の面々は――元防衛班の面々と隊を組むようになってからは、「勝つ戦いより負けない戦い」を信条とすることで自分も、周りも生き永らえていたはずだった。

 

 

 シュンが死んだ。

 

 サテライト防衛班の中では一番若く、血気盛んで自己中心的だったシュンは、この3年で成長を見せた。 実力もそうだが、見るべきはその精神面だ。 戦術を見て、周りと協調する事を覚えていった。

 1つのミッションを終えるごとにそれは顕著になっていき、漸く新人からも『頼れる先輩』として扱われ始めた、その矢先。

 

 自分はあの日、なんと言って彼を送り出しただろうか。

 気を付けろよ、なんて言ったのだろうか。

 

 ここが死と隣り合わせの職場であると、誰よりもわかっていたはずの自分が、それを軽視していたのだ。

 

 

 

 カレルが死んだ。

 

 サテライト防衛班の中では二番目に若く、金への執着とその斜に構えた態度の特徴的な男だった。

 シュンといったくたにして、『アホアホコンビ』と名付けたのは自分だ。

 アサルト使いとしての腕は相当なモノで、何度も助けられたし何度も頼った。

 その性格ゆえに新人は寄りついていないようだったが、フェンリル本部の方からの信頼が非常に高かったカレル。

 

 シュンを亡くして、すぐのサテライト拠点候補地の防衛任務で、カレルは死んだ。

 

 自分は近くにいた。 本当に、あの時少しでも何かを感じ取って、カレルの元へ向かえば何かが変わったかもしれない。 

 だが現実、自分は間に合わなかった。

 

 一緒に行動していればよかった。

 もっと積極的に見回りを行っていればよかった。

 

 リンドウさんの言っていた、「死なない戦い」を怠った自分の責任だ。

 

 

 

 ブレンダンが死んだ。

 

 これでもかという程生真面目で、穏やかで、どこか天然な奴だった。 仲間との戦術補修や筋トレ、ジョギングと、やはりどこまでも生真面目なヤツだった。

 ブレ公、ブレンダン先生なんて茶化して笑っていたっけ。

 

 バスターブレードという鈍重な武器で、しかしそれを苦にもせずアラガミに張り付いて倒すという戦法を取っていたブレンダン。

 危なげもなく、堅実な戦い方だった。 自分のモットーとも合致していたし、ブレンダンと共に戦えばかなりの被害を抑えられた。

 

 

 

 ジーナが死んだ。

 

 防衛班の中でも飛びぬけた実力の持ち主だった。

 その突き抜けた性格は近寄りがたいモノであるはずなのに、彼女は新人に慕われていた。

 自分に次いで年長者である彼女は、意外と面倒見が良かったのだ。

 

 スナイパー使いの中では、恐らくトップクラス。

 入隊こそ後ではあるものの、あのサクヤさんも彼女の腕を褒めていた。

 近接手段が無いくせに自分を犠牲に……というよりは、正しく喰い気味にアラガミに向かっていく傾向も、最近は影を潜めていた。

 

 

 クレイドルとブラッドが遠征に行って、極東支部の守りが手薄になって。

 

 コンゴウとザイゴートの群れが近づいたために、バランスを考えて自分は残った。

 破砕攻撃の仕えるブレンダンとエミール。 クレイドルとしての実力が高いアリサ。 狙撃が飛びぬけて巧いジーナ。

 

 自分が残ったのは、戦術的に正解だったはずだった。

 

 事実、コンゴウとザイゴートを倒すまでは堅実に、確実に行えた。

 

 オペレーターをあのツバキさんが勤めていたのだ。 それで終わりのはずだった。

 

 ブチ、と通信が切れて。

 

 通信の回復なんて待っていられず、全速でそこへ向かった時には――。

 

 

 

 

 カノンちゃんが倒れた。

 

 彼女はサテライト防衛班ではなく、第四部隊隊長であるが、ずっと共に戦ってきた仲間だ。 豹変する性格こそ驚きがあるものの、その実力は確かだった。

 

 黒蛛病。 その実態は、自分にはよくわからない。

 赤い雨に打たれると発症する病で、個人によって進行速度の違いはあれど、ほぼ100%死に至るという不治の病。

 

 カノンちゃんが黒蛛病集中治療棟に移される前に聞いてしまったのだ。

 

 神機使いの中でも偏食因子への適合率が非常に高いカノンちゃんだからだろうか。

 職員の1人が「今まで見た中でも侵食速度が速い」と言っていたことを。

 

 

 

 落ち込んで、悔やんで、打ちひしがれていた時の事だった。

 

 トン、と肩に手を置かれたんだ。

 何用かとその手の方へと顔を向けて――。

 

 俺は、天井へと打ち上げられた。

 

 遅れて、顎に凄まじい痛みと衝撃が走った。

 

 勿論受け止めてくれる奴などおらず、尻から地面に落ちて、下手人を見上げると、そこにはブラッドの隊長さん……神威ヒロちゃんがいた。

 こちらを見下す目は、非常に冷たいモノ。

 ゴミでも見る様な……いや、あの時の俺はその程度だったのだろう。

 

 シュンが死んで、カレルが死んで、カノンちゃんが倒れて、他の部隊の面々も沢山倒れて。

 何故自分が残ったんだろう、なんて馬鹿な事を考えていたんだから。

 

 彼女は「あれ、なんで死んでないんだ?」と聞いてきた。

 一瞬意味が解らなくて、抗議しようと声を荒げかけて――喉が声を出すことを嫌がった。

 

 なんで生きてるんだ? と考えていた。

 仲間が消えて行って、俺だけ残されて、なんで生きているんだって。

 自分も一緒に――なんて。

 

 その時までの自分は、確かに死んでいたのだろう。

 神機使いとしても、防衛班としても。

 

 

 だからヒロちゃんは俺を打ち上げて、聞いてきた。

 なんで死んでないんだ?

 

 

 答えは簡単だ。 

 ――生きている意味があるからだ。

 

 

 

 俺は、サテライト防衛班の隊長だ。

 

 

 

 みんなの無念を晴らすとか、そういう高尚な思いじゃない。

 ただ、防衛班だったアイツらに顔向けできるように、俺が死ぬわけにはいかない。

 守ることをやめたら、大森タツミじゃないんだ。

 

 それを気付かせてくれたヒロちゃんにお礼を言おうとして……彼女の姿は、既になかった。

 やることはやったとばかりに。

 全く、ユウといいヒロちゃんといい、どうして若い子ばかりが強いんだか。

 

 

 

 ジーナとブレンダンが死んで、でもここで死ぬわけには……諦めるわけにはいかないから。

 その決意表明というか、約束するために。

 

 カノンちゃんへの面会を、フライアへと申請したんだ。 必ず守ると伝える為に。

 

 門前払いだった。

 

 治療に集中しなければいけない。 感染の危険があると言って、頑なに会わせてくれなかった。

 

 

 ……少しばかりの、不信感。

 出鼻を挫かれたとも言う。

 

 もう挫けないと決めたばかりだというのに、これである。

 

 勿論フライアに伝手などあるはずもなく、こうしてベッドに八つ当たりをしているのだが……。

 

「どうにかして連絡手段を……」

 

 フライアの内情を探れそうな人をピックアップする。

 

 神威ヒロは、ダメだ。 恩人に迷惑をかけられないというのもあるが……その、暗躍とかそういうのに向いてそうにない。

 同様の理由でナナも無い。

 

 ハルオミは、そもそもフライアから来たわけではないし、一番頼れそうなジュリウスは意識が無い。

 

 ……あれ、誰もいない?

 

 

 

 

 

「それで僕達の所へ来た、と……。 それは、何かな、遠まわしに僕達が暗躍に向いていると言いたいのかな?」

 

「心外だよタツミ君。 僕達はいつでも神機使い諸君のためを思って行動しているというのに……」

 

「あ、いや、悪い事をしてるとは思っちゃいないけど……」

 

 なんか怪しいじゃんアンタら。

 という言葉は飲み込むことに成功した。

 

 何故かサカキの執務机に肘をついてこちらを見ているユウ。 サカキはいつも通り悠然と座っているが、胡散臭い。 間違えた、かなり胡散臭い。

 

「それで、フライアに収容されている黒蛛病患者への面会、だっけ? 

 うーん、まぁ適わないと思うよ。 最初から信用はしていなかったけど、ラケル博士が情報を遮断しているから……そもそも黒蛛病集中治療棟なんてものは無いんじゃないかな?」

 

 ユウが笑顔で言う。

 

「現状、最も赤い雨の被害や症状に精通しているのが極東支部(うち)だからね。 移動拠点であるフライアに、例え設備が整っていたとしてもここ以上の処置ができるとは思えないと、僕達は考えているのさ」

 

 サカキが糸目で言う。

 

 なんなのだ、この2人は。

 あっけらかんと言っているが、それなら何故行動をしないのか。

 次第に怒りが込み上げてくるタツミ。

 

「適合率の高い子達を持っていかれてしまったから確認に時間がかかったけれど、黒蛛病は特異点に関わりがあると僕は見ている。 ラケル博士のやろうとしていることも、同じ研究者としての目線で見れば大体わかるかな」

 

 淡々と、事実を述べるようにサカキが。

 

「赤い雨の……いえ、赤乱雲の兆候すらも見切っていた可能性がありますね。 博士、過去のデータこっちの端末に送ってくれますか? ……なるほど、あの襲撃も、か。

 ……つくづく虚仮(こけ)にしてくれるね。 後手に回る相手なんて、ルシフィルだけでもいっぱいなのに」

 

 既にこちらを眼中に入れていない様にユウが。

 

「ふむ……もしや、神機兵というのは……」

 

「えぇ、可能性は高いですね。 やはりラケル博士の目的は……」

 

 耐えきれなくなって、声を荒げる。

 

「いい加減にしてくれ! さっきから何の話を――」

 

「「終末捕食」」

 

 

 タツミの抗議にかぶせるように、遮るように2人はその言葉を口にする。

 

「赤い雨は特異点を造りだすためのシステム、って所ですかね」

 

「そうだね。 つまり、黒蛛病は特異点への変遷の兆候……黒蛛病集中治療棟と称している場所は、患者の偏食因子の抽出を行っているのかな」

 

「なっ!? すぐに止めに――」

 

「ジュリウスの統制ですね。 なるほど、あれで神機兵の強化を……。 むしろ、それが本来のやり方かもしれませんね。 キグルミ君の方法は荒業、と」

 

「ハハ、リッカ君の技術力の賜物と言ってくれたまえよ。 それで、いつ頃行けそうかな?」

 

「へ?」

 

 いきなり、サカキがこちらを向いて尋ねてきた。

 全く話についていけないのだが、どういうことだろうか。

 

 

 

「タツミさん、フライア行くんでしょ?」

 

 

 

 こうして、フライア・黒蛛病集中治療棟への強行軍メンバーにタツミが入ることが決定した。

 




タツミさん愛してるうううううう(ゲス顔
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