混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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12時頃から3話連続投稿しています。


モノトーン・ワールド

 

 ユウとヒロがいて、今更零號神機兵如き相手にはならない。

 そのタフさゆえに直ぐにとは言わなかったが、零號神機兵はその身を地に伏せた。

 

「やったか!?」

 

「ハル先輩、それ禁句……」

 

 どば、という音がして、真中の繭から触腕が放たれ始める。

 

『新しい秩序の中で、また会いましょう……』

 

『ジュリウス。 そろそろ起きなさい……?』

 

 その言葉に呼応するように、繭の勢いが強まる。

 

「おいおい、まさか……」

 

「ジュリウス!? ……嘘!」

 

「無理そうだね……いったん撤退するよ!」

 

 その言葉に気付いたハルとナナだったが、ユウの言葉に我に返って撤退を始める。

 

 既に零號神機兵は飲み込まれている。

 フライアの侵食が深部まできたのか、ガタンとい音と共に場が揺れた。

 

『ブラッドの諸君! それとユウ君! 聞こえるか! その場に『終末捕食』と極めて酷似した偏食場パルスのパターンが検知された! しかし、起動まで聊か猶予がありそうだ! 一度対策を練りたい、戻ってきてくれたまえ!』

 

「言われなくても!」

 

 波のように溢れ出す終末捕食の侵食。

 

 ブラッドとユウは、フライアからの脱出に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちの報告と、偏食場パルスのモニター結果から勘案すると……ジュリウス君は、特異点として完成してしまった。 そう考えるべきだろうね」

 

 極東・支部長室。

 ブラッド3人とクレイドル3人、そしてタツミとキグルミの前をサカキがぐるぐる回っている。 落ち着いてほしい。

 

「だとすれば、彼を助ける事は……ほぼ不可能だろう。 それに加え、終末捕食が完遂されてしまえば……巻き込まれる我々も、間違いなく死に絶えてしまう」

 

 死に絶える、というワードの部分で眉をあげるヒロ。

 

「生命の初期化と再分配が行われ、今あるこの世界は、完全に滅びてしまうだろうね」

 

「サカキ博士。 俺達にできることは、なんだい?」

 

「……サカキのおっさんはいつもまどろっこしいんだ……結論を言え、結論を」

 

「あんまり難しいこと言われてもわからないよー」

 

「ふぁあ……」

 

「君たちは……ふーっ」

 

 疲れた様にため息を吐くサカキ。 それに含まれるのは、呆れと……信頼。

 

「1つだけ言わせてくれ。 私は小を殺し大を活かすというロジックを認めない。 どんな絶望の中にも必ず道はあり、希望の中だけに奇蹟は姿を現す……」

 

 クレイドルの面々を向くサカキ。 いや、彼が見ているのはソーマとキグルミだろうか。

 

「これは、私の友人達が、身をもって示してくれたことだがね」

 

「さて、そんな奇蹟に繋がるかもしれない道が1つ……あるにはある」

 

「しかしそれは、辛うじて繋がっている細い道だ」

 

「少しでも道を踏み外せば、例え終末捕食を止められたとしても、君たちの命と……そして、ユノ君の命を失ってしまう結果になるだろう」

 

「だから、ユノ君と君たちでよく話し合ってもらってから、作戦を――」

 

 

「私は……構いません」

 

 ダンと、支部長室の扉が開く。 何事かと視線を向けると、そこには荒い息を吐くユノの姿。

 その身を覆う蜘蛛の紋様は、四肢を侵食している。

 触れる事が出来ないながらも付き添うサツキが、その病代の深刻さを物語っていた。

 

「……本当に、いいのかい?」

 

 サカキが問う。 優しい声色だが、有無を言わさない迫力があった。

 

「この命が……人々の為になるのなら……。 それに、皆さんを信じていますから……」

 

 それを、こちらも確たる意思で返すユノ。 そこには強い『意思』があった。

 

「サカキ博士。 俺はいつでも準備OKだぜ。 やらなかったらどうせ死ぬんだろ? なら当たって砕けりゃいいさ」

 

「いや、ハル先輩砕けちゃダメでしょ……。 でも私も乗るよ! ジュリウスを連れ戻さなきゃだし!」

 

「……1度止めたんだ……2度目でも、問題はない」

 

「俺も問題ないぜ。 それに、俺には守らなきゃいけない奴がいるんでね」

 

「……カノンちゃんと約束したんだ。 絶対に守る、って」

 

「……!」

 

 全員がユウとヒロを向く。

 

「勿論、僕も乗るさ。 地球の意思なんかに負けると思われるのは癪だし……ラケル・クラウディウスは、僕を無視したからね。 やり返さないと気が済まないよ」

 

「アタシは最初から喰らうだけだよ……。 終末捕食も、何もかも……」

 

 今度はサカキをみんなが向いた。

 

 

「はぁ……まいったね。 結構かかると思ったんていたんだけど……意思は固いようだ。

 いいだろう、たった1つの方法を、作戦を話そうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝算は限りなく少ない。 だが、終末捕食を阻止する事が出来るのは……」

 

 一息つくサカキ。

 

「やはり、終末捕食しかないと思うんだ」

 

 間。

 

「えっと……サカキ博士、壊れちゃったの?」

 

「いやいや、至って正気だよ。 まぁ聞いてくれたまえ」

 

「改めて、終末捕食というものは……『特異点』が、『意思の力』によってこの世界を文字通り『書き換える』……そういう現象の事だ。

 つまり、新たな『特異点』を造りだし、もう一つの終末捕食を引き起こすことで……。

 ジュリウス君の終末捕食を、相殺しようという考えなんだ」

 

「先に説明した通り、黒蛛病は特異点を造りだすための機構だ。

 過酷な自然の選択を乗り越えて、『特異点』として完成したのがジュリウス君であり……ユノ君含め、その他の患者達は選択に耐えきれなかった失敗作と言える。

 だが、黒蛛病患者1人1人を個々の『特異点』としてではなく……黒蛛病患者達全員の『意思の力』を1つに束ねる事が出来れば、完成されたジュリウス君という『特異点』を凌駕する事が出来るかもしれない」

 

「『意思の力』を……1つに……」

 

 ナナの呟きに頷いて、サカキは続ける。

 

「いいかい。 『特異点』を成立させる全ての鍵は、『感応能力』にあるんだ。

 『特異点』はいわば『意思の力』そのものであり、『意思の力』の発露こそ感応現象の正体だ。

 そして感応現象は、人の想いを増幅し遠隔にも伝達し、自分の限界を超える新たな『意思の力』を生む……ブラッドのみんなやユウ君は、その体現者だ。 よくわかっているだろう?

 しかし、君たちならともかく……黒蛛病患者が感応現象を起こせるはずもない。

 

 なら、答えは一つだ。

 

 人の想いを増幅し遠隔にも伝達し、自分の限界を超える新たな『意思の力』を生む、感応現象以外の物で代用すればいい。

 そうだろう? ユノ君」

 

 唐突にユノの方を振り向くサカキ。

 

 ユノの反応を待たず、更に問いかける。

 

「ユノ君。 君は……歌が皆の心を一つにすると、そう信じているかい?」

 

「……事実は、わかりません。 でも、私は……そう信じたいです!」

 

「良い返事だ……ユノ君。 君にはね、『意思の力』を1つにするための……歌を歌ってほしいんだ」

 

「歌……」

 

「そして、最後の出番は君だよ、ヒロ君……」

 

 壁に凭れて目を瞑っていたヒロに声をかけるサカキ。 彼女は寝ているわけではない。 多分。

 

「……アタシの『喚起』だろ? ユノが集め束ねた『意思の力』を『喚起』で増幅する……そんなところか?」

 

「……うむ」

 

 説明を取られたサカキは、少し残念そうに頷く。

 

「さて、纏めると……」

 

「ユノさんが『意思の力』を束ね、ヒロちゃんが『喚起』によって増幅。 それによって『特異点』を完成させる……そういうことですね」

 

「……うむ」

 

 今度はユウが獲る。

 サカキは頷くばかりだ。

 

「さぁ、最後の戦いを……はじめよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い雨が降り注ぐ。

 鮮血の様な空の真下に、無骨で巨大な箱……フライアがあった。

 本来移動拠点であるフライアは、ジュリウスの終末捕食の繭により縫いとめられている。

 

 その様は、サナギが羽化する直前。 翼ではなく翅を生やした鋼鉄の幼体だ。

 

 フライア内部には沢山の小型・中型アラガミが蔓延り、増え続けている。

 

「ウォオオオオオオオ! ドケエエエエエエ!」

 

「おい……配分を考えろ……。 暴走しかかっているぞ……」

 

「リンドウさんっていつもこんなになるのか!?」

 

 先行するのは、リンドウ、ソーマ、タツミ。

 露払いを彼らが引き受け、全国へユノの歌を拡散するための装置を設置するためのスペース確保に急ぐ。

 オウガテイル、ドレッドパイク、ザイゴート。

 コクーンメイデンやナイトホロウはは所狭しと群生し、遠距離攻撃を仕掛ける。

 

 被弾の一切を右腕で受け止めて斬りかかるのは、リンドウ。

 彼はその右目に赤い炎を宿し、人間とは思えない身体能力で全てを屠りにかかる。

 その半身を侵食されたリンドウは、終末捕食に――あの時の、シオに似た気配に、アテられているのだ。

 彼の意識がアラガミ寄り――終末捕食を守りたいという意思――にならないのは、一重に彼の右腕と右目を覆うモノによる恩恵である。

 サカキとユウ、そしてリッカによって開発された、疑似的で微弱なスタングレネードのような効果を持つそれは、リンドウのアラガミ部分を弱めていた。

 

「ウォオオオオオオオ! クラッテヤルゾオオオオオ!」

 

 それでも声色に濁音を交え、理性を失いかけているのはあまりにも強大な終末捕食の『偏食場パルス』故である。

 

 

 

「……チッ、行くぞ!」

 

「おう! リンドウさんの尻拭いとか……なかなかできるもんじゃないよな!」

 

 半アラガミなのはソーマとて同じ。 しかし、彼の場合はそのオラクル細胞を胎児の――いや、細胞の時点で隷属させ、捻じ伏せている。

 後天的に半アラガミとなったリンドウとでは、その経験値にあまりの差があるのだ。

 

 大雑把に切り開いていくリンドウと、それをフォローするソーマ。 零れ落ちた物を処理するタツミ。 チームワークとしては、凄まじいまでの完成度を誇っていた。

 極東支部きっての歴戦の猛者たちだ。 3人が3人ともベテランと呼べるほどの戦歴を持ち、その能力は随一。

 小型・中型アラガミなどが敵になるはずもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 処変わって、神機兵保管庫。

 

 ヒロ、ハルオミ、ナナの3人がそこへ辿り着いていた。

 

 彼らの視線の先にあるのは、大きく翅を広げる繭。

 稲妻のような光が走るその場所に、それは鎮座していた。

 

 しかしそこに、ジュリウスはいない。

 

『ブラッドの諸君! 終末捕食の準備を……』

 

「……上だ」

 

 サカキの言葉を遮って、ヒロが言う。

 2人が上を見上げると、そこには――。

 

 

 正に異形と呼べるナニカがいた。

 

 

 片腕のアラガミ。

 

 その頭に添えられているのは――。

 

「おいおい……ジュリウス……?」

 

 ハルが語りかける。 それに反応したのか、磔の様な格好のジュリウスは顔を上げる。

 その瞳は――青い。

 

 

 

 直後、彼の後ろに浮いていた真白のブレードがブラッドに飛来した。

 

 

 

「いきなりかよ……!」

 

 ハルオミは『守秘』を、ナナは『誘引』を発動させる。

 『誘引』。 それは、偏食場パルスを出して疑似的な偏食傾向……アラガミに、食べたいと思わせる感応能力だ。

 しかし、現在対峙しているモノは、最高強度の偏食場パルスを持つ終末捕食の化身。

 

 世界を拓く者。

 

 ナナの『誘引』は、弾かれるように解除された。

 

「嘘……!?」

 

 事に驚くナナ。 それは致命的な隙を生んだ。

 剣群がナナへと向かう。

 

「うぉおおおおああああああ!!」

 

 しかしそれは、ハルオミのスラッシュレイドによって阻止された。

 ただの一撃で剣群の1つを割るほどの威力。 ジュリウスに対する『親愛』が発動しているのだ。 変則的な『親愛』は、彼の特融能力になりつつあるのかもしれない。

 

『ブラッドの諸君! ジュリウス君の中心に、蒼いコアが見えるだろう!? それが終末捕食の『特異点』であり、同時に彼の弱点だと推測される! そこを重点的に狙ってくれ!』

 

「りょーかい。 それじゃジュリウス……約束通り、喰らってやるよ!」

 

 世界の命運をかける戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ふぅぅうぅ……。 微妙に……意識が飛んでいた、ぜ……」

 

「チ……こっちの身にもなれ……」

 

「リンドウさん……ハァ……ハァ……ソーマも縦横無尽に動きすぎだぜ……」

 

 処戻って、フライアの一室。

 どうにかスペースを確保した3人が、少しばかりの休息をしていた。

 

「これが……極東支部の最高峰の力……」

 

 彼らに守られて放送機器を運んできたのはサツキ。 つい先ほどまで目の前で繰り広げられていた規格外の戦闘に、感嘆の声を吐いていた。

 床も壁も天井もお構いなしに駆けずり回るリンドウ。 確実に、しかし極大のダメージを叩き入れるソーマ。 ステップと切り払いを混ぜた、異様な速度で場を整えるタツミ。

 

 サツキが見てきたどの神機使いよりも、心強い。

 

『サツキ君! まだ戦闘が続くかもしれない! 準備を急いでくれたまえ!』

 

 サカキからの通信。 それに我に返り、返事を返す。

 

「わかってますよ!」

 

 サツキは彼ら3人に視線を送る。 頷く3人。

 

 大きな扉を開くと、そこは神機兵保管庫。

 

 そこの開始地点に佇むユノに、声を掛けながらマイクを設置する。

 

『偏食場の大きな乱れを確認』

 

『あの時と同じ……終末捕食特有の偏食場パルスです!』

 

 フランとヒバリの声が響く。

 繭は胎動を始め、それを守るように半歩下がった世界を拓く者から真白の光があふれ始めた。

 

『ブラッド、下がって!』

 

『偏食場、更に大きく変動……』

 

『サツキ君!』

 

 丁度、サツキの設置準備が完了した。

 来た道を戻りだすサツキ。

 

「放送室に戻ります! タツミさん、中継繋げて! ユノ、出て!」

 

『はいよー!』

 

 ブゥン、という音。

 

 中継が繋がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 コツ、コツと音を立て、サツキとすれ違いながら歩いてくるのは、蒼い衣装にドレスアップしたユノ。

 

 左胸に差し掛かる黒い大蜘蛛の紋様は、今だけは妖艶な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「はぁ……ふぅぅぅ……」

 

 大きく深呼吸を1回。

 目を開き、しかりと前を見据える。

 

 彼女を守るように、ハル、ナナ、ヒロが躍り出た。

 

 ユノが静かに、歌い始める。

 

 

 

 まるでそれが脅威になるとわかっているかのように、ジュリウス側の終末捕食が彼女へと殺到する。 しかし、それを許すブラッドではない。

 叩き潰し、切り払い、打ち上げる。

 

 

 ユノの歌が響く。

 

 

 終末捕食はさらにその範囲を広げ、周囲の神機兵のポッドを飲み込む。

 

 

 ユノの歌が響く。

 

 

 その勢いは天井にまで達し、真白の光を迸らせる。

 

 

 ユノの歌が響く。

 

 

『こちらPAブース。 サツキさんの事は任せてくれ! 必ず守り通す!』

 

 タツミの声。 戦闘音が聞こえる事から、既に終末捕食はフライアの至るところへと侵食を果たしているのだろう。

 取り込まれてしまえば、その身すらをも飲み込む終末捕食。

 それに対し、一切の惧れを持たずにリンドウ、ソーマ、タツミは斬り込んで行っているようだ。

 

 

 ユノの歌が響く。

 

 

 次第に彼女の周囲に、螺旋状の赤い光が迸り始める。

 凄まじい偏食場パルスは、それを可視化しているのだ。

 

『偏食場の発生源が2つ! 終末捕食……来ます!』

 

 

 ユノの歌が響く。

 

 

 彼女の背後に、赤い翼が現れる。

 ジュリウスの白い翅と対になるようなそれは、どこかフェンリルマークに似ていた。

 

 赤い光が奔流となってユノを囲う。

 

 2つの終末捕食が、今衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ……」

 

 




さぁ、もうこのssも終わりに近いです!
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