混迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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最終話!


Knows

 ユノの終末捕食と、ジュリウスの終末捕食がぶつかり合う。

 少しずつだが……しかし、ユノが圧され始めていた。

 

『ブラッド側の偏食場が……弱まっています!』

 

 負ける。

 ナナも、ハルオミもそう思った。

 

 しかし――。

 

 

 

 中継を、いや、偏食因子を通じて、『歌』が響き始めた。

 

 歌っているのは、黒蛛病患者だけではない。

 生存を望む人類全てが、ユノへと『意思の力』を束ね始めたのだ。

 

 極東支部にいる神機使い達も歌う。

 神機使いのオラクル細胞と、感情によって高められた偏食場パルスが、ただ一点。 ユノの元へと流れ込む。

 悲しみを慈しみに。 怒りを祈りに。

 

 彼ら、彼女らは歌う。

 

 赤い雨は、世界中を覆っている。

 それが仇となった。

 

 音は大気によって伝達され、偏食因子へとそれを伝える。

 

 赤い雨は地球のオラクル細胞そのものだ。

 

 彼ら、彼女らの歌は、『意思の力』は、比喩表現なくその力を増幅し、束ね、ユノの元へと流れ込んでいるのだ。

 

 希望が満ちる。

 

 道が拓ける。

 

 

 

 ユノは、それに答えようと俯いていた顔を上げ、さらに力を込めて歌おうとして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その悪魔に、気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

 

 

 

 鮮血の様な体躯。

 嫌悪を催す顔。

 

 ニタリと歪む瞳。

 

 

 

 

 ルシフィルが、ジュリウス側(・・・・・・)の偏食場パルス内に、浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ユノは歌を再開する。

 

 

 例え悪魔が微笑もうと、それを打ち砕く仲間を信じて。

 

 

 

 

『……偏食場パルスが……3つ……? いえ、これは……!』

 

『ブラッド側の……パルスへのジャミングを確……! 嘘、偏食場パル……減衰!?』

 

 

 

 

 ルシフィルの『感応能力』はジャミング。 それは、偏食場パルスすらをも妨害する。

 

 ハルオミは『守秘』をユノへかけつつ、スナイパーによって之を撃ち落とさんとするが、当たらない。

 

『2分以内に、終末……食が始まります!』

 

 

 このまま、終わってしまうのか。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 極光の流星。 もはや、そう表現するしかない速度の光の槍が、ルシフィルに突き刺さった。

 

 

『ユウ君!?』

 

「ヒロ! 今のうちに、『喚起』を!」

 

「ヒーローはアタシの仕事のはずなんだがな……ケッ、かっこつけやがって」

 

 

 ユノの歌も、最高潮に達している。

 その手を、ヒロが掴みとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね……! サマエル!」

 

 奇しくも、3年前と同じ構図で対峙することとなった。

 空中という足場のない状況で、しかしユウは笑顔を滾らせてルシフィルに向かい合う。

 

 敢えてサマエルと呼んだ。

 

 3年前、初めて会った時、自分は敗北した。 まんまと逃げられたからだ。

 その後も敗北し、唯一勝てたのはあのエイジス島の上空でだけ。

 あの時はただ、屈辱からの怒りでしかなかったけれど……。

 

 今は、仲間を殺された事への、激しい憤怒によって笑顔を浮かべている。

 

 

 彼の行ったブラッドアーツは、神縫い。

 天に住まう神を地へと縫い付ける、冒涜のブラッドアーツだ。

 

 

 

「キィ……」

 

 しかし、その直撃を喰らったルシフィルに、動揺はない。

 

 彼らの戦いは、前触れなく開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね! サマエル!」

 

 十年来の友人に語りかけるように、神薙ユウが言う。

 あぁ、久しぶりだ。

 

 必ず来ると思っていた。

 

 奇しくも、3年前と同じ構図になったじゃないか。

 

 いつブラッドアーツに目覚めたのかは知らないが、もうどうでもいい。

 

「キィ……」

 

 最終決戦。

 

 

 

 俺はもう、混迷を呼ぶ者(アバドン)でも混迷の王(サマエル)でもない。

 

 俺は、光をもたらす者(ルシフィル)

 

 

 

 さぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロとユノが手を取り合うと、そこから青白い光が生まれる。

 

 それは世界を真白に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言ったでしょう……? 光を齎す者が、決戦の地に来ている、と』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花畑がどこまでも広がる幻想的な空間。

 そこで対峙する、ジュリウス、ナナ、ハルオミ、ユノ。

 

 ジュリウスは彼らに願いを託し、戦場へと帰っていく。

 

 

 

 そこから、すこし離れた位相。

 

 

 そこで、まさに人智の及ばぬ戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 浸された水面が弾ける。

 その直上で衝突音が響き、周囲の花々を揺らす。

 

 ジャストガード。 切り払い。 突進。

 

 数えきれない衝突が繰り返され、しかし双方は引かない。

 

「フッ!」

 

「キィ……」

 

 スナイパーの弾丸にも匹敵する速度で放たれる剣閃は、ルシフィルの外皮を薄く削り取る。

 ルシフィルの音速をこえる速度での体当たりは、ユウの肌を切裂いていく。

 

 ガードすらも億劫だと、早々にユウは装甲を使うのをやめた。

 

 回避。

 

 切り払い。

 

 突進。

 

 回避。

 

 突き。

 

 回避。 

 

 常人では視認すら不可の戦い。

 

 ユウとて、完全に見えているわけではない。

 培ってきた勘と、五感を最大限に高めて対応しているだけだ。

 

 

 と、頭部に向かってルシフィルが突進してきた。

 

 間合いは無いに等しい。

 切り払いでは間に合わない。

 

 ならば、とユウはライジングエッジを選択した。

 

「しまっ……!?」

 

 急停止するルシフィル。 制動力。 ライジングエッジの斬り上げの間合いを完全に読んで行われたそれは、ユウに致命的な隙を生じさせる事となった。

 

 それを逃すルシフィルではない。

 

「キィ……」

 

 ルシフィルの姿が掻き消える。

 

「が、は……」

 

 腹。 頭。 背中、肩、足、腕。

 

 執拗にその体を嬲っていく。

 

 まるで、こうでもしなければ生き返るとでも言うかのように。

 

 事実、これだけの衝撃を受けてもなお、ユウには意識があった。

 不屈の闘志。 そして、憤怒が彼の精神を保っているのだ。

 

 しかし、彼の身体はもう動かない。

 

 この世界は精神と物理が綯い交ぜになった曖昧な世界だ。

 それ故に、諦めなければ意思は途切れない。

 

 それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユウは、ルシフィルへと手を延ばそうとして――。

 

 ダン、という、意識外の衝撃によって、倒れた。

 

 瞳だけをそちらに向けると、そこにいたのは……。

 

「ヒ……ロ……ちゃ……」

 

 ショットガンをこちらに向け、無表情で自身を見下すヒロの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ……」

 

 ブラッド1。 神威ヒロ。

 神薙ユウをも巻き込んでショットガンを撃つとは思いもしなかった。

 

 なんのつもりだ?

 

「なんのつもりって……約束だよ。 もう決着は着いてんだろ。 寝かしといてやりなよ」

 

 !?

 

 心を……読んだ?

 

「アタシはさ、9割アラガミなんだよ。 ニンゲンは不味いから喰わねーけど……終末捕食には理解がある(・・・・・・・・・・・)

 

「キィ……」

 

 何を言っている?

 こいつは、何だ?

 

「『喚起』……。 アタシが、地球から与えられた能力の名前だよ。 呼び起すチカラ……。

 シエルがオラクル細胞を『直覚』によって探し、ナナはオラクル細胞を『誘引』で集め、ロミオが『対話』で全てのオラクル細胞を慣らし、ギルバート・マクレインがオラクル細胞を『鼓吹』によって高め、ハルはオラクル細胞を『守秘』で硬める。

 それをジュリウスが『統制』によって1つに纏め、アタシが『喚起』で『特異点』へと仕立てあげる……。 な? ブラッドが地球の意思によるものだってわかるだろ?」

 

 黒蛛病の偏食因子を使うことでシエル・アランソンと香月ナナの役割を代用し、葦原ユノの歌でロミオ・レオーニの『対話』、ギルバート・マクレインの『鼓吹』、真壁ハルオミの『守秘』、ジュリウス・ヴィスコンティの『統制』を代用。

 そして、目の前の神威ヒロが『喚起』した……。

 なるほど、ブラッドのみで行う方が、もっともらしい手順だ。

 

「あと『慈愛』ってのもあるが……まぁ、ありゃスペアだな。 特異点が潰された時、その身を削らせる事で発現する特異点のスペア。

 『血の力』を持つ者は全て、『特異点』を造りだすための機構に過ぎないってワケ」

 

 それを、今ここで俺に言う理由はなんだ?

 何をしようとしている?

 

「なんてーのかな……。 アタシはさ、喰らい続けるだけで良かったんだけど……。 それじゃあ、いつまでたっても満たされない。

 

 世界を書き換えたら、アタシも満たされるんじゃないかって思ってな」

 

 

 

 神威ヒロの背から、螺旋に渦巻く黒と金の光があふれ始めた。

 それは、オロチ種やガウェイン種の放つ火球に酷似している。

 

 ブラッドレイジ。

 

 何の誓約を果たしたというのだ。

 

「アタシがアラガミになった時から……誓約の履行をしていた。 神機にではなく、地球にな。

 

 

 最後の1つ……神薙ユウを倒すという誓約は、今果たされたんだ」

 

 

 

 

 

 神威ヒロから、螺旋の奔流が迸る。

 その勢いは、正しく翼のようだった。

 

 

 

 

 

 

「『喚起』するよ……。 ルシフィル、あんたの『感応能力』を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フライアに巣食っていた繭が、急激な成長を創める。

 

 同時、『喚起』によって増幅されたルシフィルの感応波が、世界全土に放たれた。

 

 中継を行っていた機器は勿論、照明や動力源といったものまでもが全て停止する。

 

 赤い雨と赤い雲によって覆われた世界は、闇に沈むのだ。

 

 

 フライアから飛び出た繭の色は、白。 そして――緋。

 

 両者は互いを喰らうことなく、高め合ってその身を広げる。

 下部に或るフライアは(ひしゃ)げ、潰れ、飲み込まれた。

 

 終末捕食の樹は、弾けることなく更に大きくなる。

 

 爆発的に広まる樹。

 

 フライア内部にいた神機使いは勿論、極東地域、アジア地域、ユーラシア大陸、そして世界全土。

 

 『喚起』され、『統制』された終末捕食が、全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウス! ジュリウス!」

 

 誰かが、誰かを呼んでいる。

 

「こりゃ……どういうことだ……?」

 

 誰かが呆けている。

 

「体が……戻ってる……?」

 

 誰かが右腕と右目を確認している。

 

「チッ……勝手な事をしやがる……」

 

 誰かが、心臓に手を当てて喪失感を得ている。

 

「ははは……また、負けたのか……」

 

 誰かが悔やんでいる。

 

「ヒバリちゃん! 聞こえているなら返事をくれ!」

 

 誰かが焦っている。

 

 

 

 ゆっくりと、上体を起こす。

 

 目を開けると、そこは――楽園。

 

 青々しい緑が芽生え、花畑が広がり、きれいな水が張られている。

 

 空は碧く、雲一つない。

 見渡す限りの地平線はどこまでも続き、世界が丸い事を知らせてくれた。

 

 

「ジュリウス……! 良かった! 起きたんだね……!」

 

「ここ、は……」

 

 呼ばれていたのは自分だったか。

 ナナが泣きそうな顔でこちらを見ている。 いや、真に泣いている。

 

 ハルオミも安堵の表情だ。

 

 周りを見渡せば、近くにはリンドウとソーマ。 リンドウの右腕と右目は、本来の物へと戻っていた。

 そのすぐ傍らにはユウ。 彼は三肢を大の字に広げ、右手で顔を覆っている。

 

「! そっちか!」

 

 先程から大声でヒバリを探していたタツミが何かに勘づくと、一目散にそこへと走りだした。 しかし、どうにも遅い。

 

 彼の視線の方を見れば、倒れ伏している3人。 サカキ、フラン、ヒバリだ。

 

 

 また別の方を見れば、ユノとサツキが互いを抱き合っているのが見えた。 その肩に、蜘蛛の紋様は無い。

 

 

 違和感に気付き、右腕を見遣る。

 

 腕輪が、無い。

 

 ブラッドや極東支部の面々も同じだ。 更に彼らは神機をも無くしていた。

 

 

 

 そこで、ヒロの姿がない事に気付いた。

 

 

 

 

「副隊長……いや、隊長は?」

 

「え? あ……ほんとだ、いない……!?」

 

「何……? どっかで寝てるんじゃ……」

 

 

 

 その後、ヒロの姿が見つかることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再誕の日。

 

 人類史に残る、大きなターニングポイントだ。

 

 アラガミと名付けられた細胞生物が闊歩していた時代を終わらせた日。

 

 神機使いと称されていた戦士たちは、その身をただの人間へと戻した。

 オラクル細胞によって形作られていた技術は全て消失。

 人類は、1からやり直す事となる。

 

 現在の地表の下部には旧時代の文明が残っていると推測されるが、凄まじいまでの結合をしている地表を割るには現在の技術を以てしても難しい。

 

 過去に縋るのではなく、未来を向けと言う地球からの指針かも知れない。

 

 ともかく、荒廃した世界は塗り替えられた。

 

 老若男女、全ての人類・動植物が『楽園』へと身を委ね、その命を存続させることとなったのだ。

 

 人類は二度と間違えぬように歩かなければならない。

 

 道を踏み外せば、瞬く間に荒ぶる神々がやってくるだろう。

 

 

 

 今は眠る、彼と共に。

 




後書きを残して、終了です。


※BURST終了時期からのIFストーリーを別SS『シオとサマエル、あとリンドウ』として公開中です。
※完結しました。
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