プロローグ
「…ん?此処は一体…?」
其処は、見るからに怪しい屋敷。
どうやら、彼は此処に、何らかの条件によって呼び出されたようだ。
「……まさかとは思うが、オレが呼ばれたのは、遠坂邸…か?いや、あり得ない…私は…私は…。」
部屋で一人、困惑する彼の部屋の外から、声がした。
恐らく、この屋敷の主だろう。
「…さあ、マスター様のお出ましかな?」
彼はニヒルな笑みを浮かべ、出てくるのはどのようなマスターか、無いのと等しい期待を抱いていた。
「扉!壊れてる!?ちょっ…っと!開けなさいよぉー!」
「凛、落ち着かなければお前はこの扉を壊すだろう?何れ、私に任せろ。」
「…」
まるで、アニメを見ているかのような情けない声と、不良かなにかであろうと思われる。
「ハア!」
「!?」
ドアを強引にこじ開け、ドアは開いた。
その姿は、黒の礼装に包まれた神父のような人。
そして、彼はその男を知っていた。
「…言峰綺礼…か。」
「おやおや、凛。君のサーヴァントは人間か?」
…ん?
彼の頭の上には疑問符が並んだ。
彼は英霊であり、サーヴァントとして召喚されたはずである。
彼を人間として見るには不可能なはずだ。
「…って、衛宮君?」
少女からは意外な一言が飛び出た。
少女の一言で、彼が発した言葉は––––––
「…は?」
言葉と言うにはあまりにも短い、単純な一言であった。
勿論、彼は「エミヤシロウ」ではなく、他の存在である。
しかし、彼は気付いていなかった。
「…ん?」
視線を下げた。
「………なんでさ…」
その一言は、彼の辛さを感じさせる一言だった。
「なんで…なんで『オレ』はこんな姿なんだぁぁぁ!!」
その姿は––––––若き頃のエミヤシロウそのものだった。髪色は赤、筋肉のあった硬い体は、若き頃の柔らかい体へと戻っていた。
確かに、彼からしたら動きやすいかもしれないが、戦力にはならないだろう。
「な、なんでさぁぁぁぁぁぁ!!」
彼の叫びは、遠坂邸を埋め尽くしたという。
–––––聖杯戦争、熾烈な戦いを7人のマスターと、クラスごとに分かれたサーヴァントを使役して行う戦争––––––
の、筈だが…。
彼…アーチャーのサーヴァントは聖杯戦争で戦いをする事を拒んだ。
真名バレどころではない。
筋力、耐久…等、全てにおいてサーヴァント界最弱のステータスを誇り、得意スキルは投影C-。
「なんで…なんでさ…」
アーチャーは、召喚時に座っていた椅子に座り、四つん這いで凛の前にいた。
「…アーチャー、とりあえず顔を上げなさい。」
凛は、どこかの聖女の様な一言でアーチャーに言った。
恐らく、第四次のキャスターなら「ジャンヌゥゥ!」などと言っているだろう。
「…凛、すまない。」
わざとらしく、生前の頃の話し方、仕草で話しかけた。
凛は、偉そうに腕を組み、言い放った。
「わざとらしく変な口調で喋らないでよ、気持ち悪い。」
これはひどい。
罵倒に罵倒を重ねる凛に対して、アーチャーは言うことが無かった為。
「…ごめんな、遠坂。」
プライドをドブ川に投げ捨てるようにやけくそになって言い放った。
遠坂はそれに対し、
「宜しい。」
と、(ない)胸を張って、満足気な顔で返答していた。
「––––––凛、君は聖杯戦争に参加したが…部屋に閉じこもっている方が賢明だと思われるが?」
少し格好良く発言したアーチャー。
「アーチャー、今の貴方に言われる筋合いはありません。」
「…」
完全に図星である。
そう、今のアーチャーは魔力以外E、魔力はD-という、本当にお粗末なステータス。更に、真名は街中にいる「エミヤシロウ」と同じなので、真名バレのレベルを遙かに超えている。
まさに、最弱の英霊。
「…凛。」
「衛宮君、凛。じゃないでしょう?」
彼は少し照れ臭そうにして、名を呼び直した。
「と、遠坂。」
生前の彼女の呼び名「遠坂」。
彼女は何故か、その呼び方を強制した。
そうでもしないと、令呪を使われる。
そんな謎の危機感を感じていた。
しかし、日常も束の間。
彼にとって、挽回のチャンスでもある聖杯戦争…
––––––––––その聖杯戦争が始まろうとしている。