彼の名前は『アルム』。
異界から魔法の世界へとやってきた。
青年と呼ぶにはまだ幼いような少年だ。
これは、そんな"彼"の物語。
とある少年
朝、目を覚ます。
そこは、まだ少し見慣れていないベッドの上。
まあ、当然ながら、上には天井が見えて、窓の外から差し込む光で今日はいい天気だとわかる。
「ん・・・うぅ。。。」
もぞりと、体を起こす。
「っで!」
しまった。二段ベッドの上だということを忘れていた。寝惚けていた頭は、鈍痛により一気に覚醒してしまった。滅茶苦茶痛い。二度寝する気にもならないので、ベッドを降りた。
二段ベッドの下では、同じ部屋の友人が、スヤスヤと寝ている。起こすのもあれなので、特に声もかけず、寝間着を脱いで畳み、緑の上着とベージュのズボンを履く。変な格好だと言われたが、着るものも特にないし、当面はこれでいくつもりだ。
とりあえず、一階に降りて時計を確認しに行く。
・・・まだ五時か。早く起きすぎたな。いや、昨日も同じような時間だったかもしれない。長く眠ることに慣れていないという感じか。
本でも読もう。
まだ俺は、この世界のことをあまり知らない。知っていることは、"魔法"が存在するということ。技術のレベルは、俺のいた世界ほどでは無いということ。あとは、モンスターと呼ばれる生き物たちがいるということくらいだ。
もっとも、それ以外に俺のいた世界と違う点があまりない。属には眼の力、ーーこの世界の住民は"魔眼"と呼ぶらしいが。ーーがあるし、属の種類も同じだ。それに、あの、"穴"も。
突然、世界に"穴"が開いた。
それは空間を喰らい、じきに消滅する。そんな現象だ。
そして、その"穴"に飲み込まれた結果、俺はここにいる。
それで俺は、このギルドに拾われたわけだ。
「アルムか。早いな。」
「あ、おはようございます。タクトさん。」
考え事をしながら書庫へと歩いていたら、タクトさんに声をかけられた。
「おはよう。どうしたの?トイレ?」
「いえ。目が覚めてしまったので、本でも読もうかなと。まだ、あんまりこの世界に慣れていないので。」
「まあまあ。ちょっとずつ馴れればいいさ。あんまり焦るなよ。」
彼は、このギルドのリーダー。彼の信条は「来るもの拒まず去るもの逃がさん」らしく、どうせ行く宛もないのだからと半ば、というか、ほとんど無理矢理、俺をこのギルドに入れてくれた。
彼はここはギルドっていうほど大層なものではないと言っているが、ちゃんと許可証とやらも取っているらしく、公式に認められたギルドだそうだ。
「はい。」
まあ、確かにギルドと言うよりは、ここのメンバー達はとても距離が近い。"家族"なのだそうだ。彼らは。
といっても、血の繋がりがあるわけではなく、皆、それぞれの理由でここに拾われてメンバーになった。だからか、人数は十数人とかそのくらいであまり多くない。ギルドというのは、本来は同じ職業の者達が集まって仕事の依頼を引き受ける団体なので、そういう意味でも、普通のギルドとは少し違うのかもしれない。
・・・さて。考え事をしながら歩いてしまう癖をいいかげん治した方がいいかもしれない。
危うく、書庫のドアにぶつかるところだった。
今日はなんの本を読もうか。魔法の使い方は、まあ、俺には無理だろうからなしとして、この世界の魔法の特性くらいは知ってても損はないかもしれない。
一応、ギルドの立ち位置としてはただの居候なので、依頼などをできるだけ早く受けられるようになりたい。あまりいつまでも一方的にお世話になるわけには行かないだろう。
俺がやれる仕事って言ったら、なんだろうか。
力仕事か、用心棒か。そんなところしかない。少なくとも、魔法が使えないと話にならないようなものは無理だ。
そんなことを考えながら、『新魔法基礎』という本を読んでみることにした。幸い、俺のいた世界と言語は同じだから、本も読める。
「・・・。」
本を開いて、1ページ目でおれは挫折した。
いや、確かに読めるとは言った。でもこれは無理かもしれない。
びっしりとよく分からない記号が並び、それに対しての申し訳程度の説明がある。『新魔法基礎』の基礎とか無いのかな。俺の知識だと無理そうだ。
でも、この世界で過ごすためには必要な知識ではあるのだろう。
この世界で過ごす。俺は、この世界で、これから生きていかなくてはならないのだ。
異世界に行けたから、もとの世界に戻れるとは限らない。