Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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青色の違い

「何か心当たりはあるっすか?」

 

一日一回の検診、もとい呪いの確認。

先日、気絶してマキナに運ばれ、そんでもって目が覚めたときには既に呪いが消えていたそうだ。

 

「えっと・・・一応。」

 

なんとなく、覚えているような。そういう程度だけど。確かに剣で何かを切った感覚はあった。

「剣で、なんか、感触があった。ような。」

「剣って、そのいつもアルムが背中に挿してるソレ?」

「あ、はい。」

「ちょっといいっすか?」

促されるままに、鞘ごと渡す。

「重っ・・・うーん、特に変なのもなぁ。」

そして鞘から少し引き抜いたり、光に透かしたり、暫く眺めて、シミィさんは言った。

「うん、まあ原因はさっぱりっすけど、呪いが消えたなら良かったっす。」

腕は良いがそういう辺りは結構適当なのは最近になってわかってきた。結果が良ければ結構過程に無頓着なところがあるのだ。この癖っ毛が特徴的な妖精属(エルフ)の女性は。まあそれも美徳と言えなくはないけれど。

「じゃあ、今日で毎日様子を見るのは終わりっすね。おりあえずあと三回くらいは様子を見たいので、十日後に一度来て欲しいっす。」

「あ、了解です。」

「それじゃあ、お大事に。何かあったらすぐ誰かに言うっすよ。」

「ありがとうございました。」

もはや医務室と言っても良さそうな、シミィさんの自室を出る。彼女の部屋は軽い治療道具が大量に常備されていたり、ベッドは患者用だったりと、個人の生活感があまりない。けれどもあそこは同時にあの人の寝室としても利用されているらしいので落ち着くのかどうかはさておき普通に自室としての機能は残っているのだろう。多分。よく運び込まれてる俺が言うのもあれだが、彼女がベッドで寝ているところを見たことがないのでまた別の方法でも使ってるのかもしれない。

「そうだ、アルム。」

「はい?」

部屋を出ようとして、呼び止められる。

「明日暇っすか?」

「ええ、まあ。一応。」

「じゃあ空けておいてください。明日、私らの仕事に付き合ってもらいたいので。ついでにノアも誘うと良いっすよ。」

 

ノアくんはどうなるかわからないが、俺は、快諾をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、集合場所はギルドの玄関。

「おっ来た来た。」

玄関につくとシミィさんと、その横に長身で露出度の高い服装で額の上に一本の小さな角が生えた鬼属(オーガ)の女性、姉御ことサラさんが立っていた。実はなんだかんだ結構お世話になってる。主にこっちに来たばかりのときに色々と。

「おはようございます。」

「おはようアルム。しっかり寝れたかい?」

「はい。」

俺の後ろで眠そうに目を擦っているノアくんは昨晩、シミィさんに少し付き合わされて起きていたらしい。そういえば治癒魔法(ヒールスペル)の師匠だったっけか。

「それじゃあそろそろ行くっすよ。」

「この間みたいに転送はできないから、馬車を呼んだよ。外で待たせてる。」

天馬(ペガサス)のヤツですか?」

「そうそれ。あ、この間みたいに飛び降りたりしないから安心しな。そんなに遠くないから高くも飛ばないし。」

正直あの空の旅は二度とごめんなのでありがたい。

「でもちょっと楽しいっすよね。あれ。」

「まあ気持ちはわかる。」

シミィさんの言葉に、サラさんが頷く。

もしかして飛び降りるのをマキナとチサトに教えたのこの二人じゃあるまいな。

そんなこんなで会話をしながらギルドの結界の外に出ると、あのときの天使属(エンジェル)の青年が立っていた。ちなみに、結界の中には許可を得た者以外が入ろうとすると骨がバラバラに折れるような罠が仕掛けてあるらしい。恐ろしすぎる。

「えっと、ルノさん・・・でしたっけ。」

「おお。この間の新入り君か。聞いたよ。アレ、無断の受注だったんだって?」

「まあ・・・結構絞られました。」

思い出そうとすると頭痛がした。やめておこう。

「お兄さん怒るとおっかないからね。まさかノアも協力するとは思ってなかったけど。随分とやんちゃな弟子を持ったねサラとシミィ。」

「いやー。本当に驚いたよ。二人とも真面目だと思ってたからね。」

「このくらいが元気で良いと思うっすけどねー。あと姉御は自分を棚に上げすぎっすよ。」

「昔の話はやめてくれ。」

昔何があったのかは気になるが訊かない方が良いだろう。まあ何があったかは少し想像がつくけれど。サラさんとシミィさんはここに来る前、つまりはこのギルドに入る前は盗賊だったらしい。とはいえ二人だけでやっていたから所詮真似事とは本人達の弁だ。あと、他の人から話を聞くと盗賊というよりは義賊が近かったらしく、お金持ちからの依頼でタクトさんが捕まえてその後紆余曲折あって今に至るとか。まあ俺が認識しているのはこの二人はそれぞれ俺とノアくんの指導係というか、それぞれの師匠というか。いや、俺はわりと放置されているけれども。だって姉御はステゴロだし。

「そろそろ出発するよ。乗って乗って。」

「今日はよろしく。」

それぞれ軽く挨拶をして馬車に乗り込む。乗り心地はやはり悪くない。けれどもこの間のことを思い出して少しだけ背中が震えた。

「今日はどこまで?」

「港町の方まで頼むっす。」

「あー。いつものか。気を付けて。」

「最近は平和だし大丈夫っすよー。」

「君の平和の基準って結構雑だから信用ならないんだけど。」

言いながら、天馬が翼を広げる。そして少し車体が浮き始めた。

「じゃあ少しだけど、空の旅をお楽しみください。」

彼の決まり文句のようなものなのだろうか。確かにイレギュラーさえなければ空の旅は楽しいものだろう。上空から町や地形を俯瞰する機会などなかなかないのだし。

いや。この世界の、とりわけ魔法使いたちにとってはそうでもないのかもしれない。この馬車だって運賃はさほど高価くはない。精々、一日の食費程度だろう。距離が延びればもっとかかるのかもしれないがあまり遠くまで行かなければ気にすることではない。暫く進んでいくと、いくつかの集落がある山を越えた。

「そういえば、転移とか魔法で使えるのに、馬車ってやってけるんですか?」

失礼かもしれないが、こんな質問を飛ばしてみた。本人に聞こえなきゃ問題ないだろう。きっと。

「ああ、それね。タクトのヤツだろ?あんなの滅多にできるやつ居ないし、できたとしてもあらかじめ指定してないと無理なのさ。だから帰りはともかく、行きはこういう手段の方が楽。」

姉御が答えてくれた。

「それに、緊急でない限りアタシは体が置いてかれる危険のある術は御免だね。」

「ああ、そういえば転移の時に五体満足か確認されたような・・・」

「私は楽なんであっちの方が好きっすけどね~。」

シミィさん的には体の一部が欠損しても治せるだろうからいいのだろうけど、俺はリスク対利便性では馬車を選ぶかもしれない。いや、この馬車の場合は飛んでいるから墜落というリスクがあるのだけど、それでも他の魔法使いと一緒にいれば箒で飛ぶなりなんなりの手段があるためいくらか気は楽だ。いや、落ちるのは怖いけど。二度と御免だけど。高いところから落ちるのはちょっとしたトラウマになりつつあるけど。

「僕も、ちょっと転移(ワープ)は苦手かな・・・。」

やはりあの魔法には賛否両論あるようだ。むしろこの場では否の方が多い。なんか久しぶりに多数派になった気がする。そういえば、大事なことを聞き忘れていた。

「今回の仕事って、具体的には何をするんですか?」

「ああ、商人の護衛だよ。シミィ、まだ伝えてなかったんだね?」

「どうせ姉御が伝えるかなって。つい。」

「お得意様がいるんだ。報酬も悪くないし、ノアとアルムは前衛後衛の役割がはっきりしてるから一度アタシらの動き方を見ておいて損はないと思ってね。」

なるほど。考えてのことだったらしい。

「主にやることは行商の荷馬車をモンスターや賊から守ること。港町から都心の方までの大体二日の道のりだ。」

サラさんが言うのに合わせて、地図を広げる。都心というのはこの国の人口密集部のこと。多種属が入交じり、人間属(ヒューマン)の王と賢者が統べる国、アトランシア。その中心都市のこと。と、まあ知っているのはあくまで書庫に籠って読んでいた本に載っている情報だけなのだが。それだけ栄えた場所に行くというのは胸の高鳴りへの燃料になる。

「普段行商を二人で守ってるんですか?」

「いや。行商にも専属の用心棒くらいいるさ。アタシらはその補佐、もしくはもっとヤバい奴が出たとき用の手助けだよ。」

・・・急に不安になってきた。

「まあ、ここ半年くらいは変な賊は居てもそこまで強い相手でもなかったっすよ。」

「半年前はあったんですね・・・。」

「えっと、それって、やたらボロボロになって帰ってきたとき?」

「ああ、それそれ。よく覚えてるな。ノア。あのときはルフの群れと遭遇してね。単体はそうでもないけど群れると厄介で仕方ない。」

「肉も不味いし毛皮も売れないんで本当に迷惑な相手っす。今は季節が外れてるんで会うことはないっすよ。」

俺が来る前の話か。

まあ、当たり前だけどそういうことはあるんだよなぁ。

「ルフってどういう生き物ですか?」

「うーん、まあ、小さくて毛むくじゃらのモンスターっすよ。何でも食うしアゴの力が強い上に群れるんで、広範囲を焼き払うのが基本っすね。」

「ま、アタシらには無理だけどね。」

確かに、サラさんは種族柄ほぼ魔法が使えないらしいし、シミィさんは治癒魔法(ヒールスペル)特化だ。

「だから荷車にあった油ぶちまけて火をつけた。」

「商人だって喰われるよりはマシっすからね。」

「あの後足が焦げて大変だったんだけどねぇ。」

「死ななきゃセーフっすよ死ななきゃ。治せるし。」

しみじみと思出話に浸る二人の目から生気が消えてる。相当大変だったんだろう。

「この季節に、危険なのって・・・?」

「そうっすねぇ・・・一番は盗賊っすかね。なんだかんだ知恵のあるヤツが一番危険っす。」

「そうだねぇ。だからアタシらとはぐれるんじゃないよ。守ってやれないからね。」

「頼りにしてます。」

本当、この二人は強いから。頼りにしよう。めっちゃ頼ろう。自分の力だけで立つのは強くなってからで良い。自分の力だけで戦うのは守るものができてからで良い。ここに来てからの日々で学んだひとつだ。と、いうより、この間の死体祭りの件で学ばされたことのひとつだ。何だかんだ、まだ俺は未熟なんだ。

「そういえば、この依頼のランクっていくつなんですか?」

「大したことないよ。精々がB-程度さ。」

「えっとそれ、『軽度の肉体的、精神的損害を前提とし、重大な損害を受ける確率は低い依頼』ってヤツですよね。」

一応、この世界の依頼(クエスト)にはランク分けがある。これを参考に、各々の力量に合ったものを受けていくのだ。高ランクほどリスクが高く、当然、報酬も高額だったり貴重なものが多い。

「よく覚えてるねそんなの。教えたっけ?」

「読んで覚えました。」

「その辺マメなタイプだったか・・・。」

「そういえばよく書庫に籠ってるっすね。」

「はは・・・」

そうしているうちに、青く輝く景色が見えてきた。

定型の地面が消えて静かに波打ちながら、空の色とは少し違う青色が広がる。

「あれは、もしかして・・・海?」

「アルムは見るのが初めてか。」

「はい。」

「じゃあ、よく見ておくと良いさ。美しいものはいくら見たって美しいからね。」

「ノアは・・・初めてでは、ないっすよね。」

ノアくんは頷いた。そういえば彼はいつ頃からギルドにいるんだろうか。まあその辺は追々聞けば良いか。

「さて、そろそろ降りるから気を付けな。」

身体に浮遊感が加わった。地面の景色が近づいてくる。ゆっくりとしているけれど、前に空を落ちたときと似た感覚だ。

空気の香りが濃くなった。

これが潮の匂いというものだろうか。

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