Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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告白/酷薄

夜明け。

シミィさんとサラさんと合流してから一晩経った。

馬車とは別れたから、ここからは基本徒歩での移動になる。

 

「悪かったね。アルム。」

「何がですか?」

 

早朝。最後の見張りは俺だった。

日の出を確認してから焚き火を消していたら、サラさんが後ろから声をかけてくる。

 

「······一応、これはお前とノアの教育目的だったんだ。なのに、まさか人拐いに遭うなんてね。守れなかった私達の責任だ。」

「······いえ。結局、無事だったんで、大丈夫ですよ。」

 

鬼属(オーガ)は、人間属(ヒューマン)よりずっと鼻が利くらしい。というより血肉に敏感なのだそうだ。

それをなんとなく思い出してしまう。

きっと、彼女には洗い流した血の匂いが分かるんだろう。

 

「怪我、大丈夫かい?」

「シミィさんに治して貰ったんで大丈夫ですって。」

「······その剣、結局何なんだ?そもそも素材も見たことがないからさ。」

 

この世界に来てから何度となくされた質問。あらゆる観点においてこの剣はここでは異質らしい。ただ、サラさんの声色が誤魔化すことを許してはくれなそうだった。

 

「······元々これは、」

 

でも話して良いのだろうか。

話さないと、進めない気がした。

 

「これは、人身供物の儀式に使われていた剣なんです。」

 

そして俺は、その儀式を行っていた小さな村に、生け贄として買われた。

 

「それで俺は、贄だったけどこの剣を奪って逃げた。」

 

俺のことを引っ張り出してくれた友達と一緒に。

 

「俺の居た世界では、武器と使い手は繋がってるんです。武器が壊れれば使い手が死に、使い手が死ねばその武器は二度と甦らない。それは使い手と武器の命が合わせてひとつになるから。」

 

白い鋼なのに妙に赤く光る刀身を、少しだけ鞘から抜いて朝日に曝した。

 

「でもこの武器は文字通り命を奪うことができる。この武器は今までに斬った命を自分のモノとして持っているから、使い手が死んでも死なない。いや、死ねない。」

「死ねない?」

「はい。だから、殺すことで死を実感しようとする。飢えを満たすように。」

 

武器と使い手は同調する。

普通、武器は使い手と結ばれた瞬間、その時点では無垢である。だから武器は使い手の性質に染まる。けれどそれは武器が無であった場合のみ。使い手と武器の色は本来は混ざり合うモノで、多くの使い手を経て来た武器は固有の色を持つ。その色は新しい使い手と混じり、つまり使い手の性質を武器が変えてしまう。

 

「俺、たまに武器に引っ張られるんですよね。」

 

武器と使い手、なんて言うけれど、その実どっちがどっちを扱っているだなんて知れたものじゃない。

 

「俺についてる血の匂いは、それです。ごめんなさい。俺がもしまた引っ張られて、皆に刃を向けることになったら······」

 

その先は言えなかった。サラさんの人差し指が俺の口に添えられたからだ。

 

「その先は言うんじゃないよ。······言葉っていうのはね、口に出した途端に力を持つんだから。」

「はい。······ごめんなさい。」

「それに、自分より弱い相手なら簡単に倒せるからね。アルムなんてアタシの相手にならないさ。ちゃんと止めてやるよ。」

 

確かにサラさんは強い。自分が弱くて良かったと、初めて感じた。

 

「あっちの川で顔洗って来な。そんな顔だと二人に心配かけるよ。」

「はい。」

 

木の間を通したロープで干していたタオルを投げて渡される。受け取って、少し駆け足で近くの川まで歩いた。火照った顔に風が冷たかった。

 

なんだか久し振りに泣きそうだ。改めて、俺を拾ってくれたのがここでよかった。

川の水は澄んでいた。

あまりに綺麗過ぎて、この川には水以外が流れていない。川は隔たりを表す、と前に読んだ魔導書に載っていた。魔法によって結界を作る際、水魔法(アクアスペル)では川のシンボルを魔法陣に加えるのだとか。

彼方と此方、彼岸と此岸。

 

時々思う。

もしかしたら、俺の前いた世界は、俺の夢で、悪い夢で、全部が幻で、本当はこの魔法の世界こそが本物で、俺は自分の記憶を勘違いしているだけなんじゃないかと。

もしくはその逆で、この幸せな世界こそが夢で、俺は()()()からずっと、夢を見ているのかもしれないと。

これがもしも現実(ゆめ)ならば、どんなに幸福(ざんこく)なことなんだろう。

 

いや、やめにしよう。どちらにせよ、俺はもうあっちではほとんど全てを失った。残ったのは自分自身とこの武器だけ。

 

「よしっ。」

 

冷たい水で頬を叩いた。

思考を切り替える。考えすぎて周囲が見えなくなるのは悪い癖。そのせいで何度ぶつかったことか。

頭ばかりは勝手にぐるぐると回ってしまう。なんとかならないものか。

そろそろ戻ろう。皆が待っている。

 

「────っアルム!!」

 

キャンプの方からサラさんの声が聞こえた。悲鳴のような声だ。

 

「はい!!すぐ行きます!!!」

 

その方向に大声で言い、タオルを放り出して剣を抜き、走って向かう。血の気が引く。何なんだ一体。悪い想像もつかぬまま、サラさんの場所まで辿り着いた。

 

「何があったん······」

 

事情を訊こうとした。光景に目を疑う。木々の隙間から見えるのは、白い羽根を背に称えた天空の民。そのどれもが武装をして、こちらを取り囲んでいる。

 

「こっちに!」

 

サラさんが手を伸ばす。その手には黄色の魔法陣が輝いている。肉体強化の魔法だ。見回して状況を確認する。肌にピリピリとプレッシャーを感じる。ぐるりと360度、天使属(エンジェル)に囲まれている。全員が手に光り輝く槍を持ち、同じデザインのローブを着て翼を広げている。

サラさんに手を伸ばし、捕まれる。瞬間、サラさんが飛び上がり、その天使達の包囲網よりも高く、空へと俺を引っ張りあげる。

 

「手ぇ離すんじゃないよ」

 

種子を複数宙に放り投げ、呪文を呟く。

 

成長(グロウ)

 

種子が一瞬でいくつもの巨大な幹に成長し、それを足場としてサラさんが縦横無尽に動き回り、天使の群れに突っ込む。その先には、眠っているまま天使に抱えられているのノアとシミィさんがいる。いや、眠らされているのか。

サラさんが二人を抱える天使に殴りかかった。しかし、近くに居た天使の一人の体が不意に紫色に光ったと思うと、その天使の()()()()()()()()()、紫色の魔法陣、空間魔法(ヴォイドスペル)の結界が壁となってサラさんの拳を防いだ。自分を結界に変える、そういう魔法なのか?いや、呪文すら唱えていなかった。

 

「ぐっ」

 

天使の槍が俺とサラさんを貫こうとする。咄嗟に剣を振ってそれを防いだ。いや、それはおかしい。体が落下もせず宙に留まっている。気付いた、足元に同じく紫色の魔法陣。身体は動くが、自分自身の位置が移動できない。サラさんも同じだ。

不味い、天使の持つ光の槍がすべて俺達の方へと向いた。あともう少しなのに、どうしても手が届かない。

 

「くっそォ!!」

 

サラさんが結界を力任せに叩く。しかし、拳がぶつかる音すらしない。空間がそこで隔たれているから、何にも拳はぶつからず、ただそれ以上先へ進まないだけなのだろう。

 

「シミィ!!」

 

声もきっと届いていない。シミィさんとノアは、相変わらずぐったりと天使に抱えられている。

その数秒の内に、天使の槍の光が一斉に強くなった。魔力なんて感知できない俺でもわかる。これは何かマズい事が起きる前触れだと。

 

「サラさん!!どうしたら······!!」

 

俺もサラさんも動こうとするがどうしようもない。落下も飛翔も許されない。そうしている間にも、チリチリと肌を刺すプレッシャーはどんどん強くなっていく。空気も振動し、生存本能が危険を告げる。

 

「ああああ!!畜生!!!」

 

サラさんが叫び、呪文を唱えた。

 

空間魔法(ヴォイドスペル)収納(チェスト)

 

俺とサラさんを囲むように、紫色の魔法陣が出現する。

 

そして一瞬後、周囲の風景が全て黒に染まった。

 

 

 

「な、何が······」

 

とても広い空間。静かな空間。それでも、声は反響することもない。

 

「······空間魔法(ヴォイドスペル)虚空(ヴォイド)に私とアルムを仕舞った。」

「え?」

「よくマキナが道具を出し入れしているアレさ。ここに入ったら、誰かに出して貰わないといけなくなる。」

「そ、それじゃあ······」

「ああ。すぐには出れない。ギルドメンバーの虚空(ヴォイド)にはタクトが繋げられるから、それを待つしかない。待って外に出たところで、繋がるのはタクトの居る場所だから、二人をすぐに助けられるわけじゃない。」

 

そんな。

いや、でもこれしか方法はなかったのだろう。俺は手詰まりだった。サラさんがこれを選んだのならば、これしかないのだろう。

 

「一体、どうして天使属(エンジェル)が俺達を」

「わからない。······いや、なんとなく想像はつく、か。」

 

含みのある言い方を聞いて、脳内にノアの双翼が浮かんだ。天使属(エンジェル)悪魔(デヴィル)の翼を持つ、左右非対称の彼を。

 

「拐われたん、ですか。」

「そうだろう。」

 

どんな意味があるかはわからない。

天使と悪魔は、数百年ずっと戦争をしている。だからこの行為にどんな大義名分があるのかは知らない。

俺は歯を、強く強く噛み締めた。

ギリと音がして、鉄の味がした。

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