Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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生活しなきゃ

興味のあるページを読み終わると、空腹を感じたのでギルドの食堂、いや、ギルドの酒場に来て、朝食をとることにした。基本的に朝食は、依頼を受けにいくメンバーもいるので各々がバラバラに食べている。

だからまあ、まだそんなに人がいないだろうなと思い、書庫から酒場への廊下を歩く。

なんていうか、部屋が多いよな。この建物。二階全部と一階の一部はメンバーの自室になっていて、確か、合計で十室ほど。あとは一階に広い酒場と埃っぽい書庫。それと風呂がある。ああ。それとなんか、一階にも二階にも物置みたいになってる部屋があったはず。あとはまだ行ったことがない地下室。

主要な部屋は分かりやすいから、それでやっていけてるのかもしれない。少なくとも、迷うことは無さそうだ。

 

「あ、おはようございます。」

「アルムくん。おはようございます。ちょっと待っててくださいね。今、出しますから。」

 

カウンターの席に座り、カナメさんと挨拶を交わす。

 

「手伝いましょうか?」

「ああ。じゃあ、よろしくお願いします。」

 

手伝う、と言っても、俺は簡単なものを切ることくらいしかできない。まあ、それでも一人で十数人分を作るよりかはましだろう。

カナメさんがまな板と包丁を貸してくれて、それで目の前の食材を確認した。

根菜と思わしき植物や、きれいに洗ってある木の実などが並んでいる。あとは肉・・・か?これ?

この世界では俺の世界にいたいわゆる普通の動物がいなくて、似ているのはいるけれども、牛のように見えるけど肉の色が紫だったり、やたらと外皮が固い魚だったり、あと、肉だと思って持ち上げたらでろりとスライム状にとろけたりとか。野菜は変わった形とか色のがある程度だけども。

まあ、ここではこれが普通なのだろうから、慣れるしかないのかもしれない。で、今回の良くわからないものは、表面が軽く泡立っている肉だ。肉でいいんだよな?

 

「言い忘れてました。全部、一口大でお願いします。」

「あ、はい。」

 

全部一口大で良いのなら、まあ、適当にやるしかないのだろう。さすがに切って爆発したり毒が吹き出たりとかは無いと思うし。・・・無いよね?

 

普通に切っていくが、ときどき変な感触の物があるだけで危険はなかった。さすがにそうか。切りながらカナメさんと話をする。

 

「アルムくんは、好きな食べ物ってありますか?」

「はあ、まあ、あることにはあるんですが・・・」

 

あることにはある。この世界にはたぶん無い。なんと説明すればいいのやら。

 

「この世界には、多分無い食べ物なんですよね。」

「そうなんですか・・・。なにか作れたらと思ったんですが。」

 

見るからに彼はしょんぼりとしてしまっている。なんだか慌ててしまって、俺は話題を変えた。

 

「あの、そういえば、カナメさんって、どうして、このギルドに入ったんですか?あの、俺は、まあ、この通りですけれども。」

 

訊いた後に、しまったと思ったけれど、彼は笑顔で答えてくれた。よかった。地雷を踏まなくて。

 

「私は、タクトと昔からの友達で、彼がギルドを作ったという噂を聞いて、見ての通りの料理人としてこのギルドにいるんです。だから、他の皆さんとはちょっと事情が軽いかもしれませんね。」

 

そう言って、料理人ははにかんだ。

そう。このギルドはほとんどのメンバーが何かしらの事情を抱えている。もしかしたら、彼の口調は何かしらの線引きなのかもしれない。

 

「・・・」

「・・・」

 

ここで会話が途切れ、二人して黙々と作業をする。俺は材料を切って、カナメさんの大鍋の中へと放り込んでいく。そしてカナメさんは、ときどき魔法で火加減を調節しながら無言で煮込んでいた。

恐れていた事態というか、やってしまった。もともと話すのが好きな方ではないのだが、こう静かになられるのもなかなか気まずい。

 

「おっはよー!あれ?一番乗り?誰もいない?」

「おはようございます。」

 

突然、沈黙を引き裂いたのは赤髪の少女だった。正直めちゃくちゃ助かった。

 

「あ、おはよーございます。えっと、マキナさん。」

「"さん"付けはいらないよー。堅いのは嫌いだからさ!」

「えっとまあ、はは。」

「まあまあ、マキナちゃん。私も口調はこうなんですから、勘弁してやってください。」

「はーい。」

 

彼女はマキナさん。腰まである赤髪をポニーテールにしているのが特徴的だ。あと、やたら露出が多い服装。結構、格闘的な印象がある。なんかこの間、やたらゴツい手袋をしてたし。多分、肉弾戦が得意なのだろう。

この世界でも需要はあるのだろうか?その辺りの肉体労働的なものは。それなら、魔法が使えない俺も働けるのだが。

 

「なーんだ、アルムがもういたのかぁ。この時間だと、にーちゃんはもう仕事かぁ。」

 

"にーちゃん"とは、タクトさんのことらしい。どうしてこうやって呼んでいるのかは知らないけれど、二人は兄妹のように仲が良いのは知っている。

 

「そういえば、さっき出掛けてましたよ。」

「だから、敬語!同世代なんだから!」

「は、はい。」

 

彼女は俺のこの口調が気に入らないらしく、タメ口で話してくるように度々迫ってくる。

こればっかは、癖だからな。。。

 

彼女が来たとたんに一人分以上賑やかになった。いや、基本的にここの集団はうるさい人の方が多い。俺やカナメさんはむしろ例外だ。

 

「お、おはよう。。。」

 

おっと、その最後の例外が来たようだ。

 

「あれ、今日は早いんだね。マキナちゃん。」

「おっはよー。」

 

彼はノアくん。一応、俺と同じ部屋だ。聞いた話によると、彼は新人魔法使いといったところだそうだ。まだ依頼を受けたことはないらしい。彼はいつもサイズの合わないブカブカなローブを着ていて、あと長い前髪を前で分けてピンで留めている。優しそうな顔立ちも相まって、初めて見たときは女の子かと思ったのを覚えている。

 

「・・・。」

 

ノアくんは、マキナさんと一つ席を開けて座った。

普段は起きている大人たちは、まだ寝ているのか。昨日、皆で大変な依頼にでも行ったのだろうか。

 

「あ、カナメさん、そろそろ大丈夫じゃないですか?」

「はい。手伝ってくれてありがとうございます。座っててください。今、用意しますので。」

 

話していると、思ったよりもすぐにできたようだ。

カナメさんは、俺たち三人にスープをよそってくれた。ふと時計を見ると、6時半になっていた。まだ早起きかな。席に座ってスープを飲むと、少し空腹を思いだし、すぐに平らげてしまった。まあ、なんか、良くわからないものは沢山入っていたけど。味は美味しいし、二人が平然と食べているわけだから、きっと一般的なものではあるのだろう。・・・慣れない。食に慣れるのが当面の課題かもしれない。

 

「・・・課題、か。」

 

あとは、少なくとも、自分の力でお金を稼げるようになること。

 

「どうしたの?」

「あ、いや。。。あの、ギルドの依頼(クエスト)って、どういうのがあるのかなと。」

「あー、依頼板(ボード)見に行ってきたら?色々あるよ。」

 

隣に座る赤髪の少女は、そう言って、酒場の奥にある掲示板を指差した。

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・。」

 

ランクCと大きく書かれた掲示板には、30枚ほどの紙が貼ってあり、それぞれに依頼のタイトルと詳細が書かれている。たとえば、『灼熱を求む』内容は、不定形種(スライム)の一種である、"マグター"というモンスターの(コア)を持って帰ってきてほしいというものだ。

なんでも、マグターとは全身がどろどろしていて体温が非常に高いモンスターだが、その中心にある(コア)が外皮に比べ物にならないくらい熱く、死んだ後もしばらく熱を発するため、熱源としての利用価値があるそうだ。個数は10個で、報酬は50マルカだそうだ。贅沢をしなければ、2日食べていけるお金。

 

『マルカ』とは、魔法の世界での国際共通通貨。価値としては10マルカで一人一食分の食料が買えるくらい。

100マルカ=1銀マルカ。100銀マルカ=1金マルカ。それぞれ、薄い棒状の板で作られていて、金属と模様が異なる。金マルカとかになると、一般人が持ってることはあまり無いそうだ。ちなみに、俺は一銭も持ってない。ギルドのご飯は全員で出した食費で賄ってる。だからこそ、俺はお金を稼がないといけない。

迷惑かけっぱなしは俺が耐えられない。というか、このままってことも無理だろう。

 

「こ、こんなの、どうかな?」

 

俺の横から、長い袖がひょいと一枚の紙を指し示す。

 

「えっと、これですか?」

「う、うん。」

 

袖からはみ出た細い指が示すのは、このタイトルだった。

 

 

 

「『転落にご用心』?」

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