岩壁にのみ咲く花、マナフラワーを積んできて欲しい。これは
マキナさんいわく、よくある採取依頼の一つだそうで、
難易度はC-と、最低難易度である。つまり初心者おすすめコースだそうだ。
だから、ギルドでまだ依頼を受けてないない俺とノアくんで即席パーティーを組んで、二人の初依頼ということになった。パーティーというのは、数人ーー人数に制限はないが、一般的には多くて8人ほどーーで行動するチームのことで、同じ部屋だし、お前ら二人とも初めてならせっかくだから行ってこいと。そんな感じで決まった。
ちなみに、今回の依頼での採取場所は報告さえすれば基本的にどこでも良いらしく、岩壁に登ったり飛んだりする事さえできればそう難しい依頼でもない。
現場につき、崖の上から下を見下ろす。
うん。高い。くらくらしてきた。
俺はこの世界に来た、俗に言う異世界の存在で、この世界の特色であろう、魔法なんて使えない。
その上、体力は人並みにある程度だろうが、道具なしで岩壁を登りながら花を積むほどの身体能力は残念ながら持ち合わせてないときた。
一方、実は結構アテにしていたノアくんは魔法使いだが、得意なのは、というか、使えるのは植物と光の魔法だけで、空を飛ぶことはできないらしい。あと、当然ながら崖を登るほどの体力はない。
以上。
つまりは一番最初に出たこの世界において最も一般的であろう案は俺たちのステータス的に無理だった。
残る方法と言えば、筋力で岩肌にしがみついて花を採ってくることだが、素の状態で崖にしがみつくのは無理だと判断したので、安直な考えだが、ノアくんが魔法でロープの代わりになるものを作ってくれるようだ。
横にいるのは、首から下は全て覆われるほどの大きなローブを着て頭にとんがり帽子。そして、大きな宝石のついた杖を持つ、俺の印象としては、どこからどう見ても魔法使いのテンプレといった格好のルームメイトがいる。彼は懐からなにかを取り出して地面に蒔いて、そこに手をかざした。
「
しっかりと、目の前で見るのは初めてかもしれない。
緑色の魔方陣が地面に現れ、その中心から芽が出て、みるみると伸びていき、若葉が生え、腕の太さほどで、とても長いツタになった。そのツタは魔法の効果か、それともこの世界の植物の特徴か、うっすらと光を湛えている。どこか神々しく、それは奇跡の力だと感じた。世の理に抗う力。それが魔法だと。
「これ、結構、疲れるから、あんまり何回もできないんだよね。。。僕が、未熟だから、なんだけど。。。」
見ると、彼の額にはうっすらと汗が滲んでいる。 彼の手に持つ杖は、少しだけ深く、地面に跡をつけていた。
「じゃあ、ここからは俺が行きますね。」
彼に負担をかけてしまったから、ここからは俺の番だ。幸い、ロープを垂らせれば、時間は掛かるかもしれないが、休み休みマナフラワーを積んでくることができるかもしれない。
「待っててください。」
試しにツタをおもいっきり引っ張ってみるが、それが生えている地面からはびくともしない。
よし。これならこのまま行けるかもしれない。
とても太いツタを腰に巻き付け、おそるおそる身体を宙に浮かせる。
「ーーっ!!?」
やっぱり上から手伝ってもらった方がよかったかもしれない。そのツタが崖の中途半端な高さで延びきってくれて良かった。もしもこのツタがあと倍くらい長かったら崖の下には挽き肉が転がっていたかもしれない。想像するだけでおぞましい。いや、ツタの真ん中あたりを降りるときに握っていればよかっただけか。気づくの遅いな。
それにしても、ツタはかなり丈夫なようで、しっかりと俺の体重を支えてくれている。相当丈夫だ。どういう植物なのだろうか。帰ったら図鑑でも見て探してみよう。
「さて、と。」
足をその辺のでっぱりに引っ掛けて、周囲を見渡した。花は、見ればわかるらしいが。
"見ればわかる"って特徴も、なんにもわかんねぇよなぁ。これがもし、"魔力を持つこの世界の住民なら"という意味なら完全にミスかもしれない。なんかやたら前途多難だ。これで本当に最低クラスの依頼なのか。正直舐めていたかもしれない。
「・・・あれかな?」
岩壁に固まって咲いている花を見つけた。花弁は紫色が内側に向けて青くグラデーションになっている花だ。
手頃な場所を伝っていき、花に近づく。わかっていたけど壁に張り付いているのもなかなか辛い。俺は鬼ほど力が強くないから、ツタがあるという安心感がなかったら、すぐに諦めてしまいそうだ。
体力的にはまだなんとかなるけど、下を見たら精神的にはアウトになるかもしれない。すげぇ怖い。
で、肝心の花はというと、その種類の花しか咲いていないし、まあこれかな?と。
とりあえず、目の前にあるだけは採っていくことにした。
「あ、、、お帰り。アルムくん。」
「その、一応、見つけたやつは採ってきたんですけど、合ってるか分かりますか?」
ノアくんは、軽く花を触って、頷いた。
「うん。これが、マナフラワーでいい、よ。」
「あ、じゃあ、同じものを集めてきますね。」
どうやら、この世界の住民にはわかるというのが当たっているのかもしれない。そんなものがもしもこの世界に沢山あるなら、採取依頼は避けた方がいいかもしれないということもまた確かだ。
そんなこんなで、どれが目的のものかハッキリすればトントン拍子で進み、途中からはノアくんが魔法でツタをコントロールしてくれたので、日が暮れる前にノルマの倍ほどの量のマナフラワーが採れた。二人で分けて一人の取り分は30マルカ。二人の初仕事としては地味かもしれないが、上出来だ。
決してショボいとか思っちゃいけない。これでも頑張ってるんだから。
「あの、まだ暗くは、なってないけど、家に帰る頃には真っ暗だよね。。。きっと。。。」
「・・・そういえばそうですね。」
ギルドは森は町外れにあり、森に囲まれている。その上帰り道はほぼずっと森なので日が暮れると辛い。この世界で自然はほぼ未開らしく、灯りは愚か道すらもまともに開けていない。要するに、暗くなってから町の外を出歩くのは危険だと言うことだ。なので日があるうちに歩けるだけ歩いて、暗くなったら手頃な場所で野宿をすることにした。もちろん、この世界には寝ている間もずっと光を保つ道具なんてない。ただでさえ薄暗い森の中だ。ノアくんが光魔法を使えなかったら、夕方になる前に活動限界が来てしまう。
「
魔力を光に変換して、それを球体の光源にする魔法だそうだ。形は球体だけでなく、使用者の想像力によって様々な形をとり、ずっと発光し続けさせる魔法。といっても、"発光"するわけだから使用中は常に魔力を消費するらしい。だから、彼の魔力だと夜通し点けておくのは難しいそうだ。
「魔法って、便利ですね。。。」
「そうかな。あんまり、意識したこと、無いかな。」
行きに通った道は、ほんの少しだけ草木が少なく、なんとか"道"と呼べる程度のものだが、それだけで迷わなくてすむようになるのだからありがたい。
その道を辿りながら、ギルドへと向かう。
「そ、そういえば、アルム君ってさ、別の世界から、来たんだよね。」
「・・・ええ。そうですけど。」
魔法の世界だからなのか、俺の元いた世界が独特だったのかわからないが、この世界の住民には結構あっさり受け入れてもらえているようだ。俺が別世界から来たと言うことが。
「いや、どんな・・・世界だったのかなって。」
「うーん。。。」
どんな世界、と言われても。
何が元いた世界の特色なのか。少し考えて、口を開く。
「・・・まあ、魔法は、ありませんでしたね。」
「あ、だから、この間不思議そうな顔、してたんだね。えっと、先生が話してたとき。」
"先生"とは、まあ、まだ本名は聞いてないんだけど、ギルドで一番の高齢で、知識人らしく希望すれば色々と教えてくれる。だから皆、先生って呼んでる。俺もこの世界についてはあの人からこの数日、色々と教わった。
「あと、そうですね、武器、というか、道具の特殊概念だと思ってもらって良いんですが、一人に一つ、ずっと使い続ける物がありますね。」
「・・・ど、どういう、こと?」
やはりピンと来ないらしい。もともと、俺の世界では魔法っていう概念があったから、理解するのはわりと早かったんだけどもな。当たり前だったことを説明するのは面倒だ。
「あー、なんていうか。。。あ、一生の相棒みたいな感じで。俺なんかはコイツを使ってます。」
背負った細身で片刃の剣を軽く示す。
思えば、こちらの世界に来てからというものコイツを使うことは一度もなかったな。平和なことだ。
「なんか、"一生の相棒"って格好いい、ね。」
「そうかな・・・。」
目を輝かせる彼に、小声で異論を唱える。
いわば、これは呪いみたいなものなのだから。
「・・・そろそろ、暗くなってきたね。」
「そうですね。」
回りを見ると、ノアくんの魔法で照らされている範囲以外はもうほとんど暗闇になっていた。そろそろ、寝た方がいいかもしれないな。明日も歩くし、食料もないので出来るだけ早めに休むのが吉か。
「そろそろ、手頃な場所で寝ましょうか。・・・モンスターにでも襲われるかもしれませんし。」
「じゃあ、木の上、がいいかも。森にいるモンスターは、基本、上がって、来れないし。」
この提案に異論はないので、すぐそこに丈夫そうな木があったので、そこに登って手頃な枝に寄り掛かって眠ることにした。ちなみに、ノアくんは俺が眠る枝の1つ下で眠るそうだ。自分で提案しておきながら、実は木登りが得意では無かったらしい。
俺が選んだ場所は、どうも枝だと安定しないので、枝の根本に腰かけて、幹に寄りかかって寝ることにした。背負った剣は邪魔なので前に抱えるようにした。この体制で眠るのは10日ぶりくらいか。ずいぶん昔のことに思える。
さっさと眠ってしまおうと思ったが、なんとなく目が冴えて眠れない。俺がこの世界に来て一週間も経つのか。受け入れてはいるが実感は沸かない。なんだかなぁ。
ガサッ
草むらが揺れる音が聞こえて思わず身構えた。暗闇に目を凝らしたが、星の明かりだけではなにも見えない。いや、この暗い夜なら相手も同じか。モンスターは登ってこれないし。変に警戒しても疲れるだけか。
依頼をこなしているよりも夜、寝ようとしている時間の方が長かったような気がする。でも、どれだけ気を張ったところで特になにも起きない。
風ひとつ吹かない静寂の夜に、俺はいつのまにか眠りについていた。