Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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行きはよいよい帰り道

朝日と共に目が覚めた。

どうやらノアくんも同じようで、ほとんど同時に目を覚ました。

 

朝日が目に染みる。

思わず、光に目を背けようと寝返りをうった。

 

「・・・!」

 

ドスン

と、俺の身体は衝撃を受けた。

 

「いっつ。。。」

「大丈夫!?」

「あ、大丈夫です・・・。はは。。。」

 

木の上で寝ていたと言うことをすっかり忘れていた。そりゃあ、落ちるよ。枝で寝返りうったりしたら。

 

 

ギルドを出るときに渡された保存食、ーー多分、これは干した芋のようなものだろう。ーーをノアくんと軽く食べ、早々とギルドへと向かうことにした。

昨日どのくらい歩いたかはわからないが、どうせ道は一本しかないのだし、歩いていればいつかはつく。

 

「・・・そういえば、なんだけど。。。」

 

ある程度、日がそれなりに高くなってきた頃に、ノアくんが口を開いた。

 

「あの、昨日の、えっと、話の続き、してもいい?」

「俺のいた世界の話、ですか?」

「うん。あ、いや、話したくなかったらぜんぜん・・・」

 

ノアくんが慌てたように手を振る。

彼は感情を隠すのがあまり得意ではないような気がする。それが昨日今日、彼と過ごしてきた感想だ。

 

「良いですよ。何を、話しますか?」

「その、背中の剣、ちょっと見せて欲しいなって。・・・駄目かな?」

「まあ、どうぞ。あ、切らないように気を付けてくださいね。」

 

俺は背中の剣を鞘ごとノアくんに手渡した。

細い腕がそれを受けとる。

 

「お、重っ。。。重い・・・。剣って重いんだね。。。」

「鍛えればなんとかなりますよ。」

「うーん。。。僕じゃとても振り回せないや。」

 

少し残念そうに両手で剣を抱える。

どうやら、少し使ってみたかったようだ。気持ちはわからないでもない。昔はそういうの憧れてたし。剣一本でモンスターをバッサバッサなぎ倒すみたいなの。まあ、俺のいた世界ではモンスターなんていなかったけどさ。

 

「一緒に鍛えます?」

「いや、いい・・・。」

「そっすか。」

 

ガサッ

 

俺が特訓の誘いを断られた直後、少しだけ、草むらが揺れた。動物かなにかだろうか。いや、この世界での呼び名はモンスターか。

 

「!」

「・・・なんか、いますね。」

「アルムくん。・・・走るよ。」

「え?」

 

どうやらノアくんはこの状況に心当たりがあるようで、その表情は引き吊っている。

思ったよりもずいぶんと不味い状況なのかもしれない。モンスターとやらはそんなに脅威なのだろうか。何もわからない俺としては、ノアくんの指示に従うしかない。

 

「あ、剣は返すね!行くよ!」

「え?あ、ちょ!」

 

剣を俺に押し付け、走り出したノアくんは思いの外速い。普段のんびりしている分、かなり意外に思えた。というよりもそんな呑気に感想を言ってられないほど速い。どこにあんな俊敏さなんて持ってるんだ彼は。

 

「これ、なんなんですかっ!」

「とりあえず逃げて!振り返らないで!」

「えぇ。。。」

 

振り返るなと言われると見てみたくなるものがある。少しだけ、振り返ってみた。

目に入ったものは、なんとも形容し難いものだった。形が定まっていないというか。ゆらゆらと揺れる影のようにも、粘度を持った液体のようにも形容できる。それは見ているうちに、次第に定まった形を作っていく。

 

そう、それは・・・

 

光魔法(ライトスペル)閃光弾(ボム)!!」

 

混乱に思考が覆われる前に、視界が光に覆われた。

そして、腕を引っ張られる。

 

「目を逸らして!!!」

 

耳元で叫ばれた。

そこまでされて、ようやく、意識が戻ってきた。

 

「大丈夫!?何が見えた!?」

「いや、・・・大丈夫っす。」

「前だけ見て。そして走るよ。僕らじゃ、アレには勝てない。」

「"アレ"って・・・」

「説明は走りながらするから!」

 

彼の必死さから、彼の口調の今までにないほどの力強さから、"アレ"はとても恐ろしいものだということだけは伝わった。

俺も一度は止まりかけた足で再び駆け出す。

 

「アレって、一体なんなんですか!」

「モンスターの一種。悪意の影って呼ばれてる。視た者が恐れる姿になって、催眠にかけて、その魂を喰らうモンスターだ!」

「あの、見ちゃったんですけど・・・。」

「一瞬なら、平気っ。」

 

走りながら話すのはかなり消耗するからか、ノアくんは口を閉じてまっすぐ前を向き、走ることに集中するようだ。俺もそうするのが最善だろう。ただ、その存在は、"悪意の影"とやらはそんなに強いのだろうか。逃げるしか術がない、というような状況だが、どうなのだろう。

そんな考えが頭を過ったが、すぐに首を振った。人間のようにいくとは限らない。この異世界ではまだ経験が浅すぎる。ここは、ノアくんに従おう。

 

「どうしてこんなところに・・・!」

「どこまで逃げれば!」

「ギルドまで逃げれれば確実!」

「マジかよ。。。」

 

後ろから追ってくる音は聞こえるので、全速力で走っていてもその速度に追い付いていることはわかる。要するに、バテたら追い付かれる。追い付かれたらどうなるかわかったことじゃない。ノアくんが正しければ・・・俺が魂を抜かれる。そして何よりの問題は、俺たちが帰るまで、体力が持つかどうかだということだ。このまま逃げて、逃げ切れるのか?まだスタミナのある間に戦った方がいいのではないのか?もしこれで逃げ切・・・

「がっ!」

「だ、大丈夫!?」

 

木にぶつかって尻餅をついてしまった。また考えすぎて前が見えていなかった。完全に足手まといだ。

 

「ひっ!」

 

ノアくんの上げた悲鳴と同時に、影が俺の脚まで伸びてくる。

「このッ!」

急いで後ろに飛び退き、剣を背中から抜く。この世界に来てから使っていなかった細身の片刃は、鈍い光を反射して、その怪物が刀身に映り込む。

特に覚えのある姿はしていない。最初に認識した、黒くてよくわからない、不定形だ。・・・この状態は、直接見てはいけないのだろう。

「はあッ!」

そのモンスターがいるであろう場所に向かって剣を振る。感触はない。悪意の影、影だから実体はないってか。こうなったら・・・

 

「ノアくん!ごめん!もう一回逃げる!」

「え、あ、うん!」

 

逃げるしかねーだろ・・・!

剣を素早く背中の鞘に収める。そして身を翻し、ノアくんの後を追っていく。実態のない相手に対して、魔法が使えるならともかく、物理しか攻撃方法のない俺は無理だ。そもそも生き物なのかすらさっぱりわからない。これは、逃げる選択が最善だ。

また二人で森の一本道を駆けていく。

 

「あ、あの。」

「はい?」

 

走りながらノアくんが訊いてくる。

 

「さっき、なんで、丁寧語じゃなかったの・・・?」

「え?」

「あ、いや、なんか、いつも皆に、丁寧語だから、少しビックリしちゃって。」

「それは、まあ、少し、焦ってたので・・・。」

「その、そっちが自然体なら、いいんだよ?」

 

なるほど。・・・そういうことか。

少しだけ、ほんの少しだけ、昔を思い出す。昔といっても、それはまだそんなに離れてなくて、でも、確実に手が届かない。

 

「いえ。・・・大丈夫です。」

「そっか。。。」

 

そんなことよりも、まずは逃げることが大切だ。

そう言い聞かせて、記憶の扉を閉めた。

 

「・・・ギルドまで、あとどのくらいですかね。」

「わからないけど、あとちょっとだと思う。」

「走りましょう。」

「え、うん。」

 

ペースをあげる。もう少しだ。あと少しで逃げ切れる。

ギルドに戻ったら、まずはあの影を何とかしてもらって、そしたら依頼完遂の報告をして、それで花を納品する。それで・・・

乱され過ぎだろ。さっきの一言で。

 

 

 

結局、本当にあと少しで、ギルドにはついた。

ギルドの周辺には結界が張ってあったようで、近づくと、何かに弾かれて、そしてその姿を影に戻した。そのときに見たのは、あの、不定形の影ではなかった。俺達を、俺を追っているときは、ずっと、あの姿だったのかもしれない。

 

夜。

 

報告も終えて、お金も受け取った。

そして、初めての依頼は、無事に終わった。

 

食事のあと、ギルドの裏庭に出て、夜風に当たる。

 

「・・・なんで、あの姿なんだよ。」

 

よりによって。

あの影は、アイツに化けた。

それはこの世界に来たきっかけ。

そして、俺が帰りたくない理由。

 

「・・・ふざけんなよ。。。」

 

土の上で踞って、後悔を噛み締める。

 

「素なんて、出せるわけない。」

 

色々なことを思い出していたら、いつの間にか、意識は疲れと闇で、夢に連れ去られた。

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