Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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夜に背を向け朝に向き合う

夢を見ていた。

認めたくない、毎日繰り返した夢。

肉を斬り、骨を断つ感触。

それでもなお、襲ってくる異形達。

全身がぼろぼろで、もう呼吸をするのさえも辛い。

 

「よかった。」

 

そして、あの世界で見た、最期の笑顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー!」

 

目を覚ますと、自室だった。

勢い良く起き上がり、天井に頭を打ってしまう。

 

「っタタ。。。」

 

頭をさわろうとして、自分が泣いていることに気が付いた。汗もずいぶんとかいていて、もう涙で濡れているのか汗で濡れているのかもわからない。

強く、強く強く歯を喰い縛る。血の味が滲んだ。

 

しばらくボーッとした後、着ていたシャツで顔を拭い、ベッドを降りた。どうやら、一段目の方に寝ていたようだ。全身がベトベトしていて気持ちが悪い。風呂に入りたい。

 

 

「あ!アルム、大丈夫っすか?」

「え?」

 

部屋を出て風呂へと向かおうと思い、廊下を歩いていると、ふんわりとした緑色の髪の毛の女性とすれ違った。話し方も特徴的で、すぐわかった。

 

「今向かおうと思ってたんっすよ。目が覚めていたようなら良かったっす。」

「あ、シミィさん。ありがとうございます。。。」

 

眼鏡をかけた女性は、このギルド唯一の専門的な治癒魔導師(ヒーラー)。傷の治療や毒抜き、解呪(ディスペル)、ときには瀕死からの蘇生もこなすそうだ。死にさえしなければ彼女が治してくれる。ここまでの治癒魔導師(ヒーラー)は珍しいらしい。

 

「悪意の影に少し、呪われてたみたいっすね。それで、昨日の夜倒れてたんっすよ。ま、起きれたならもう平気みたいっすね。」

「はぁ・・・。」

「それにしても、大変だったんっすよ。マキナちゃんがギルドの裏で倒れてるのを見付けて抱えてきてくれたんっすから。あとでお礼言っておいた方がいいっすよ。」

「わかりました。」

 

マキナさんに抱えられていた・・・?女の子に?

いや、あまり深く考えないようにしよう。なんか精神的にクルものがありそうだ。

 

「あ、あとでまた魔法を継ぎ足すから、少し時間を空けて欲しいっす。」

「・・・わかりました。」

 

この世界の治癒魔法(ヒールスペル)は、知識としては知っているがしっかりと見たことはない。言い方からして俺が気を失っている間にかけてもらっていたようだけれども。俺のいた世界での治療みたいな感じで、ある程度継続していかないといけないそうだ。パパっと治せるのは程度が低い損傷か超上級魔法くらいだそうだ。超上級魔法は効果以上に消耗が激しく、そう何度も使えるものではないとか。

 

「うわっぷ」

 

とかなんとか考えて歩いていたら、またドアにぶつかった。ただ、道はあっていたようで、そこは男風呂の入り口だ。なんにせよ気を付けよう。色々と。

 

 

 

このギルドの、というか、一般を知らないのだが、ここの風呂は広い。一度に大人が5人くらいならゆったりと入れるくらいには。まあ、人数はそれなりにいるからそのくらいが丁度良いのだろう。もっとも、ノアくんみたいに常に一人で入っている人も多いから意味があるかはわからないけど。

 

「・・・。」

 

でもやはり、広い風呂は良いな。

そもそもまともに風呂に入ることもなかったし、ここに拾ってもらえてよかったと思うことのひとつではある。

ここで拾ってもらえなかったら、昨日のようなモンスターの餌食になっていたのだろうか。そう思うとぞっとする。でも、そうなって当然だとは思う。

 

脳裏にこびり付いて、網膜に焼き付いて、離れないのだ。あの表情が。夢で見たのも呪いではなく、きっと罰だ。少しでも、許された気分になっていた罰だ。

 

浴槽に顔を沈めて息を止める。

ここは、居心地があまりにも良すぎる。ここには余計な気遣いも、余計な詮索もない。それ故に、俺は距離を持たないと許された気になってしまう。きっと、俺は俺を赦せない。だから誰かに許して欲しい。そう思っているんだ。そうやって、逃げているんだ。

 

「・・・・・・・っぷは!」

 

思考をすべて飲み込んで、空気でそれを押し込んだ。

どうも一人でいてはいけない。感情がネガティブに進むというのに、自分の脳だけは冷静だ。まるで、生温い泥に溶けない氷を沈めているように。違和感を感じるほどに。

 

「お、アルム入ってたのか。」

「・・・タクトさん。」

 

薄い水色の髪をした青年が風呂場に入ってきた。このギルドの創設者で、リーダーのタクトさん。

 

「横、いいか?」

「あ、はい。」

 

タクトさんは少し長めの髪を上げていて、耳を出している。その耳は人間のものとは違い、細長く尖っていた。妖精(エルフ)の耳だ。妖精(エルフ)属の特徴は、尖った耳に、淡く鮮やかな色の髪の毛だ。彼の場合は青だが、先程の緑色の髪の毛をしていたシミィさんもまた、妖精(エルフ)である。だから何ってわけではないのだけど。

 

「どうだ?身体の方は。」

「まあ、平気です。お陰さまで。」

「なんか、お前が来たとき思い出したよ。・・・って言っても、まだ10日くらいだな。」

 

少し懐かしそうに彼は言う。

 

「あのときも、お前がギルドの裏で倒れてて、それをマキナが運んできたんだ。」

「そうだったんですか。。。」

「そのときも、シミィのやつが治療してくれてたんだったな。そのあと何日間も寝てたんだ。だから、お前がこの世界に来てから、実質は13日目だな。」

「えっと、あの。」

 

俺は、今まで少し気になっていたことを訊いた。何で今なのかはわからないが、なんとなく訊いてしまった。

 

「タクトさんとマキナさんって、どういう関係なんですか?」

「どういうこと?」

「いや、あの、すごく仲が良いし、種属が違うのに兄妹みたいで。・・・俺がいた世界では、属間の仲は極限まで悪くて、常に戦争状態だったので。」

 

タクトさんは頷いて言った。

 

「彼女が幼い頃に引き取ってね。それ以来、俺にとって、マキナは妹だ。種属が違っても、そんなのは関係ない。」

「・・・いいですね。そういうの。」

 

彼の言葉はとても真剣で、真っ直ぐで、揺らがない。

 

「すみません。そろそろあがります。」

「ん。そうか。」

 

風呂に入りすぎた。

息が少し苦しいのは、それが原因ではないのだろう。きっと、面影を、無意識に見付けてしまったから。過去から目を逸らしても、それは今に繋がるのだから。今に向き合おうとしても、それは今までに向き合うことだから。つまりは因果応報。過去からは逃げられない。

それを、嫌と言うほど思い知った。

 

「・・・。」

 

とりあえず、依頼板(ボード)でも見に行こう。少しは気が紛れるかもしれない。そうやって思考を切り替える。

どうしても、面影が見えてしまう。

 

自分の記憶から逃げる術を、俺は知らない。

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