Entrance~杖の章~   作:Boukun0214

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遠出は空の旅で

早朝。

まだ日が昇っていないので、朝と言えるかは微妙だが、ギルドの建物の窓から、4つの影が出てくる。

 

背中に剣を刺した影がひとつ。

 

「・・・暗いですね。」

 

ぶかぶかのローブを着た影がひとつ。

 

「よ、夜だから。。。」

 

とんがり帽子を被った影がひとつ。

 

「マキナ、こっちは問題ない。」

 

そして、一番軽装で、長い髪を、頭の後ろでまとめている影が、ひとつ。

 

「よしっ。じゃあ、行こう!」

 

 

作戦、と言えるかはわからないが、誰も起きていない時間にギルドを抜け出し、裏の森の奥でマキナさんが呼んでおいた馬車に乗る予定だ。

馬車に乗るのは初めてだから、少し、楽しみでもある。

 

 

「・・・こんな場所、馬車なんて来るんですか?」

 

しばらく、草をかき分けながら進んでいく。こんな森の深いところに、馬が入ってこれるとは思えないのだが。

 

「へーきへーき。ちゃんと呼んでおいたから。」

「はあ・・・?」

 

そのまま着いて行くと、少しだけ開けた場所に出た。しかしそこも周囲は木で囲まれていて、とてもじゃないが馬が通れるようには見えない。

 

「・・・あ、来たよ。」

 

ノアくんが空を指差す。

遠くに、星明かりに照らされて、白い、白く大きなものが見えた。

 

「おーい!こっちこっち!!」

 

それはどんどん近づいてきて、それが羽を撒き散らしていることに気が付く。

それが馬の形をしていることに気が付いたのは、その少し後だ。

 

こっちの世界では馬が飛ぶのか・・・。

魔法の世界だというだけである程度納得をしてしまう。魔法という概念は思考を放棄する上で便利だ。

 

「馬って空飛ぶのか。。。」

「ん?アルムのとこでは飛んでなかった?」

「あ、まあ。一応。少なくとも、聞いたこと無いです。」

 

暫く前に、お伽噺か何かで聞いたことがある。

美しい翼を持った馬がいて、それは空を飛べると。

自分が元いた世界ではお伽噺として語られていたことがこの世界には実在するのだろうか。そうだとしたら、それはとても素敵なことなのかもしれない。

 

「おや、今日お兄さんは一緒じゃないんだね。」

 

上の方から、馭者の声が聞こえてきた。顔見知りだろうか。

 

「うーん、今日はちょっとね。」

 

馬がゆっくりと翼を羽ばたかせて俺たちの目の前に着地した。音もなく、とても軽やかに。

 

「よ、よろしくお願いします。」

「うん。ノアくんも久しぶり。」

 

ノアくんの挨拶に返したのは、大きなゴーグルをつけた、俺らとそう歳の変わらなそうな男性だった。その背中からは、馬から生えているような、白い翼が生えている。

 

「おや、君は初めて見る顔だね。」

「コイツは最近の新入りで、アルム。」

「・・・よろしくお願いします。」

「僕は天使属のルノ。よろしく。」

 

彼は分厚い手袋をした手を差し出した。天使属を実際に見るのは初めてだ。プライドが高くて、人間同様に他属を見下しているという風に聞いていたが、この世界では、少なくとも彼はそうではないらしい。

俺は彼の手を握り返した。ちゃんと天使って、存在してたんだな。

 

「さて、今日は何処だっけ?こんな朝早くからってことは、それなりに距離があるのかな。」

「ここの依頼地まで。急ぎでお願い。出来れば夜明けには。はい。これは代金。足りる?」

 

マキナさんは例の依頼書と棒状に加工された金属のようなものをルノさんに渡した。あれはこの世界のお金だ。

 

「うん。十分。じゃあ急がなきゃ。じゃあ皆、乗って乗って。」

 

ルノさんが手綱を握り直す。

そして俺達四人は、馬車へと乗り込んだ。

馬車の中は四人だと思ったよりも狭い。マキナさんの空間魔法が無かったら荷物でより圧迫されていたのだと考えると魔法は偉大だ。

 

「あの、マキナちゃん。」

「ん?」

「上着とか、毛布とか、羽織った方が、良いんじゃないかな?空って、結構寒いし。今、夜だし。」

 

ノアくんにそうだねと言い、マキナさんは呪文を口ずさむ。すると、彼女の手元に魔方陣が現れ、それは空間の穴となってそこから大きめのマントが飛び出た。普段から薄着というか、露出多目の格好をしている彼女にとっての防寒着なのだろう。

 

「空間魔法って、本当に便利ですね。」

「まあ、実際、動く倉庫。」

「えっチサトの中で私のポジションそんな感じだったの!?」

「大丈夫。一応友達。」

「良かった。」

 

・・・"一応"で良いんだ。いや、いいけど。うん。

この二人は結構仲良いのかな。というか、同年代皆兄弟姉妹みたいな集団だから、そういうものなのかもしれない。

 

「あれ、そのマント、タクトさんのじゃ・・・」

「へへー。この間お下がりで貰ったんだー。」

「暖かそう。いいね。」

「でしょう?入る?」

「あ、いや。僕はローブ着てるから。。。」

「私は着てるけど入る。」

 

三人の会話を眺めていると、急に身体への重力を感じた。外を見ると、景色が下へと落ちていく。

 

「・・・すげぇ。」

 

飛べるんだ。本当に。

彼らの仲の良さそうな会話を聞き流しながら外を眺める。もう少しで夜が明けるようだ。黒が紫色に染まっていく。窓から下を覗くと、ギルドの建物が見えた。思っていたよりも大きい建物のようだ。そう思っていたら、どんどんとそれが遠退いて行く。この馬車はかなり速い。恐らく、地面を走る馬とは比べ物になら無いくらいの速度で走っているんだろう。視界が一度白に覆われた。それが雲だと気がついた頃には、視界が晴れ、だだっ広い、何もない大地が広がっていた。

 

「おっ。もう砂漠まで来たんだ。速いなぁ。」

「国境だっけ?」

「うんうん。昔にーちゃんと歩いたなぁ。死にそうになったけど。」

 

鬼と人の国境には広い砂漠がある。

どのくらい広いかは話にしか知らないけど、なんでも足で歩くと一月はかかるらしい。水なんかもほとんど無いだろうから厳しそうだ。

 

「そろそろ、越えますね。砂漠。」

 

あっという間に、砂漠は越えられて、鬼の王国が見えてきた。

山脈の上に立つ、高低差の激しい地形をした国だ。天候の変化も激しいらしく、外からの移民は少なそうだ。

人間以外の国を見るのは、生まれてはじめてのことだ。鬼は野蛮だとかなんとか聞いていたが、空から眺めている分にはとても穏やかに見える。というか、見もしないのにそう判断するのは失礼だな。うん。

そうこうと考えているうちに、体が前に引っ張られる感覚に襲われる。外を見て、減速していることに気がついた。

動きの早い乗り物は便利だが、こういったのにはいちいち驚かされる。

 

「いやー、速い速い。やっぱ遠出は馬車だよね。」

「・・・じゃあ、そろそろ、準備しよう。」

 

女子二人がマントをたたみ、マキナさんが手元の空間の穴に放り込む。今思ったが、あの先は何処に繋がってるのだろう。その穴はとても真っ暗で、見覚えがある不安が少しだけ過った。

 

「よしっ!」

 

いきなり、本当にいきなり、マキナさんが馬車の戸を開けた。ノアくんの手を取る。

 

そして、

 

飛び降りた。

 

 

「え?」

 

遠くなっていく二人の影を見ていると、俺の手も引っ張られ、気が付けば空を舞っていた。

 

 

 

「・・・・・・・!?」

 

 

強風に揉みくちゃにされながら、俺は心の中で、もう二度と見ないであろう、懐かしい場所を思い出していた。

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