骨が砕ける音がする。
カタカタと笑う声が聞こえる。いや、そう聞こえるだけか。色々な生き物の骨がごちゃごちゃに組合わさっている化け物の頭蓋を砕く。
「慣れてきた?」
「相手弱いですし・・・ッ!」
後ろにはチサトさんがいて、俺たちは壁に背を向けている状態だ。壁が後ろにあれば、後ろから攻撃を食らうことはなくなる。だから残った三方向からのを捌けば良い。それに、相手は骨だ。言うなれば脳味噌がない。きっと、魔法か何かで決められた動きしかしないのだろう。要するに、知能がない。感情らしきものはあるにしても、喜怒哀楽といった単純なものしかないだろう。
正面を薙いで、逆に返して右を処理し、そして左を突き飛ばして正面を突く。頭を一体ずつ潰していく。しかし同じことを繰り返していると綻びは出るようで、二足歩行の、獣のような頭部をした、棍棒のような武器を持っているヤツを捌ききれず、チサトさんへと棒が降り下ろされる。
「ぐッ・・・」
側頭部を鈍い衝撃が襲う。ああもう。咄嗟に庇ってしまった。彼女にも自衛手段はあるというのに。俺の横を突風が過ぎ去り、何体かの骨を巻き添えに吹き飛ばされる。
「大丈夫!?」
「へ、平気です!」
「いや、血が・・・」
咄嗟に強がってしまったけれどぶっちゃけすごく痛いし全然平気じゃない。早く、終わらせたい。あと何体だ。もうどのくらい倒したか覚えてない。途中までは数えていたけれど、もうやめた。いくら相手が弱くても、数が膨大だ。それでも、いくらか減っているようには見える。目的は陽動というか、時間稼ぎ。チサトさんが自身に敵の攻撃性を向けて、俺がそれを護衛し、マキナさんがこの事象の原因と考えられる本を探す。ノアくんは回復魔法を使うために部屋の外で魔力を温存中。といったところだ。現状、面白いくらい連携がとれていない。
「何で筋肉ねーのにこんなに力強いのさ・・・!」
何せ、マトモに戦ってるのは俺一人だ。いくら魔法で強化されているとはいえ、体力は無尽蔵なわけじゃない。
頭を潰して、次、手に武器を持っている二足歩行、大きく上から頭を狙い鈍器を振りかざす単調な攻撃。後ろに攻撃を向かわせるわけにはいかないので避けずに剣で受ける。弾いてバランスの崩れた相手の頭を砕き、無力化する。一体を捌いている間に、また一体が近付いてくる。動きは緩慢で十分に認識が出来る。いや、そうでなければここまで耐えることはできなかったのかもしれない。
「あった!あったよー!!!」
部屋の奥、骨の群れの奥の方からマキナさんが大きな本を抱えて走ってきた。おまけに骨を片っ端から片付けながら近付いてくる。俺の仕事量に比べて彼女の仕事量は恐ろしく多い。役割を交代するべきだったんじゃなかろうか。それも無理か。俺が探すのじゃあ、彼女よりも時間がかかる上におそらく彼女の戦闘スタイルは護衛に向いていない。
「ん?おお、うわ!」
あと少し、というほどの距離で、マキナさんが抱える本が大きく開き、そのページが光り出した。
そして、ページから、新たに怪物が産み出されたのだ。今度は骨だけではない、肉もついた、いや、ほぼ落ちかけている。腐っている。
本から溢れ落ちるようにボトリと一体、また一体と、止めどなく出てくる。
「ちょっ、臭っいや腐っ・・・!?」
マキナさんが必死で本を閉じようとするが、どうやらそれはかなわないようだ。ガタガタと震える本から次々に腐臭のする肉塊が落ちていく。あっという間に数は数えきれないほどまで増えていき、部屋の中が腐臭で満たされ始めた。
そしてそれらは、ゆっくりと立ち上がり、呻き声をあげながら徘徊する。
「ゾンビ・・・?」
「うわ、グロ・・・ッ!」
この骨を片付けてもまだ終わらないのか。勘弁してくれ。今のところ、ゾンビとはマキナさんが交戦してくれるだろうが、骨の集団、スケルトンとの戦いは俺の役目だ。しっかりしないと。
「マキナ!本に何か書いてない!?」
「うーん、ごめん!!読めない!!なんか魔方陣の紋章みたいな文字しかない!」
「多分ノアなら読める!持って行ってあげて!」
「わかった!!」
ノアくん読めるのか・・・あの魔方陣の紋様を。俺はギルドの図書で一目見て脳内が拒否したのを覚えている。部屋の入り口の方を横目で確認する。ノアくんが杖に隠れるようにしてこちらを見ている。その後ろに、黒いローブを羽織った影が見えた。
「ノアくん!」
「え?」
本を抱えてマキナさんが走っていく。そこにぶつけるように、その黒い影はノアくんを突き飛ばした。
「うわっ!」
「ちょっ!」
二人がもつれて転ぶ。そして、勢いよくその扉は閉まった。マキナさんが立ち上がり、扉に手をかける。開かないのを確認したようで、半歩下がり腰を低くし、正拳を叩き込む。正門を破壊したときのような爆音が鳴り響いた。空気が痺れるような一撃。しかし、その扉には傷ひとつ付いていなかった。結界だ。それも、先程のものよりも、ずっとずっと強力な。
「やっば・・・、閉じ込められた・・・。」
「そんな・・・!」
「アルム、あっち行こう。」
「あ、はい!」
随分と数の減った骨の残党の一体の頭部を砕き、無力化してチサトさんと共に駆け出した。
あと、残りは・・・正確な数は数えられない。でも、感覚だが随分と減ったな。元の十分の一くらいには。これならマキナさんが加勢してくれればすぐに片付くだろう。もうそろそろ剣を持つ腕が痛くなってきた。
「ノア!読めそう!?」
「う、うん!なんとか・・・」
未だにあの叫び声の効果は消えてないようで、骨はチサトさんの方向へと集まっていく。
彼女はというと、箒をまるで槍のように構えている。臨戦態勢になっているのはありがたいが、骨を砕けないならゾンビの相手をお願いしたい。
「ゾンビは身体が残らない方法か
「え?」
「私もマキナも出来て物理破壊。」
「・・・え?」
「何か出来る?」
いやいやいやいや。無理でしょう。これは。俺にそんな、死体ひとつ消し飛ばせるような技はないし。というかあったらとっくに使ってるし。
「いやっ、無理ですよ!?」
「うーん、じゃあ困ったな。どうしよう。」
「ど、どうしようって。。。」
どうにかして扉を破壊し、逃げるのが最善手に思える。あとはゾンビを現在進行形で吐き出す危険のある妙な本をノアくんが解読してくれるのを待つか。その場合は護衛が必要だ。今までのを見ていると彼の戦闘能力は皆無に等しい。パワーバランスを考えると俺が行くべきか。ついでにちょっと、頭を治して欲しい。回復できるらしいし。
「ちょ、アルムくん!血が!」
「あー、、、治してもらっていいですか。」
俺が下がると、チサトさんがマキナさんの横に並ぶ。それとほぼ同時に、身体が重くなった。胸元を見ると魔方陣が消えていく。魔法の時間切れか。意識した途端に、急に頭の痛みが増した。おまけに、恐ろしく部屋が臭い。こういった不快感も全部軽減していたのか。
「アルム、ちょっと休んでて。時間稼ぎはするから。」
「・・・了解です。」
ゾンビはどうやら現状では倒せないらしい。魔法についてほとんど何も知らない俺が考えても意味はないかもしれないが、どうも思考は休み無く進んでしまう。
「動かないでね・・・。」
「あ、はい。」
俺が屈むと、ノアくんが俺の髪を持ち上げて傷を確認した。そして手をかざし、呪文を呟いた。
「
淡い、青のような、緑のような、不思議な色の光が視界を被う。結構眩しい。思わず目を瞑ったとき、頭に痛みがないことがわかった。
「・・・・。」
光が消えた。頭を触って確認すると、血も止まったし傷もない。やっぱり、魔法ってすごいな。普通に治るのを待ったら十日はかかるのに。疲労による怠さは消えないが、これで一応は大丈夫そうだ。
だが、この魔法もかなり消耗が激しいらしい。ノアくんの額から汗が滲み出ている。仕方がないか。
「ありがとうございます。」
「う、うん。僕の魔法じゃ、流れた血までは回復できないから。。。」
それでも充分だ。ノアくんは本に目を落とした。俺はチラリと二人の様子を確認する。一応ではあるが、こちらに敵が来ないように抑えてくれているようだ。ゾンビは骨ほど数が多くない。だから出来るのだろう。不死、というか既に死んでいるのだから殺すことはできないってことなのか。
「まだ、出てきたりとかは・・・?」
「それは大丈夫そう。この術式だと召喚は一回限りみたい。」
俺が見てもさっぱりだ。ちんぷんかんぷん。でも、それを特に苦もなく読めている様子を見ると、彼は相当、その手の方向には強いのだろう。
「・・・・・・・。」
疲労の溜まっている身体を休ませながら見ていると、ノアくんの顔がどんどん青ざめていった。
「っこ、これ、儀式だ!・・・生け贄の!!禁術だ!!」
「何!・・・ノア、説明して!」
「
全体に緊張感が走る。いくらなにも知らない俺でも、不味いことはすぐに解った。想定をしていなかった完全に最悪のパターンだ。
依頼項目にあった、
「どーする!?チサト!」
「ノア!術の基点は!」
「えと、術者本人だって!」
「出れなきゃ無理じゃん・・・」
「そ、そんな・・・」
「とりあえず、ゾンビが浄化できない以上、これより儀式が進むことはないはず!だからしばらく耐えて!耐えながら考えよう!」
あーもう、考えるより前に動かないと。まだ身体が重いけど、動けよ、それで何か解決策が出るまで耐えろよ。俺の身体。
「・・・ッ前に出ます!」
「私も!」
「
「僕は何か方法がないか探してみる!」
胸に、また緑の魔方陣が現れる。扉を背にして、ゾンビの群れに立ち向かう。俺と、チサトさん、マキナさんの三人だ。ノアくんしかあの本を読めないから、これが一番だろう。
じっくり見ると、物凄くグロテスクだ。目玉が取れかけていたり、身体の部分部分が溶けているヤツもいる。そりゃあ臭いに決まってる。
「あーあ。
「・・・そんなこと言ってられない。それより考えよう。」
「燃やすのは無理なんですか?」
「術の基点が本じゃないから無理。」
「ほらほら二人とも。来たよ!」
ゾンビが数十体、此方へと迫ってきた。戦闘開始。
怪我をしてもノアくんが回復してくれるっていうのはアテにしない方がいい。体力を温存しつつ退ける。怪我もある程度なら別に受けたって構わない。いざとなれば一人で時間を稼ぐことくらいはなんとかなる。
一匹目がこちらに到達した。俺に向けて腕を大きく振り回す。動きは結構遅い。剣で受け止めるのならかなり余裕だ。剣で弾こうと力を入れると、ぐちゅりと湿った音がして刃が腐肉に埋まった。
「うおっ・・・」
胴体を蹴って刃を引き抜くと、ゾンビはそのまま倒れる。起き上がろうとしたので頭を斬る。刃がまた埋まり、それを引き抜いてもう一度繰り返す。頭蓋を砕いた感触があった。だが、そのゾンビは這うように此方へと近付いてくる。足先を触ろうと伸ばしてきた手を剣で突き刺す。が、ぶちぶちと音を立てて手を引き抜き、また伸ばしてくる。なんだよこれ気持ち悪い。手を斬り落として、そうすると、手のない腕で此方へ伸ばしてくる。思わず後退ってしまう。駄目だ。倒せないってそういうことか。しかも気付くと囲まれている。不味い。一体に気をとられて気付けなかった。二人は?
「吹き飛べ・・・!」
「
風が舞い上がり、ゾンビが飛んでいく。そして射ち漏らしはマキナさんがゾンビの柔らかい肉質を硬化させ、殴って吹っ飛ばしている。この手の相手と戦いなれているのだろうか。俺には出来ない戦い方だけど、要するに距離を詰められなければいいということか。
「なら・・・!」
剣の腹で、相手を斬るのではなく、殴る。殴って押し留める。これが俺の限界だ。残念ながら、派手な魔法も、この武器には特殊な範囲攻撃も備わっていない。あるのは奪うというただ一点のみ。
足元のゾンビを踏みつけ、左にいたゾンビの頭を剣で殴り、重心を崩させる。その隙に囲まれていたところから抜け出し、チサトさんの横に並ぶ。俺はマキナさんのような怪力じゃないから流石に腕力で吹き飛ばすのは無理だ。そうならば。
「すみません、俺の剣にも、風の魔法を付けてくれませんか。」
「・・・
チサトさんは頷いて、俺の剣に手を触れる。刃が緑色の、
試しに目の前に迫っていた相手に向けて剣を振る。風が舞い、ゾンビを吹き飛ばした。しかも、俺が剣を振ったのと同じ角度にゾンビの体に切り傷が出来た。箒は薙ぐもの、なら斬るものである剣なら、そういうことだろう。箒ほど遠くまで飛ばすことは出来ないが、押し留め、押し返すことになら充分だ。あとは数を捌ければ・・・
「アルム!右!」
「え?」
マキナさんに言われた方向を見ると、白い塊が、俺の頭を狙って近付いてきていた。咄嗟に後ろに仰け反って、なんとか回避した。
何だ?今のは?割れた頭蓋骨だ。骨の形から、きっと
「おいおいおい・・・」
大きさはあっという間に五メートル程になって、しかも一体じゃない。大きさにバラつきはあるが、数十体、そう、俺達がまだ処理していなかったスケルトンの数より少ないが、居る。他の、大勢の仲間達の骨を体に寄せ集めながら。獣の形もいれば、首がいくつもあって、それらが別々の意思を、そして同様の殺意をもって動いているのも居る。きっと倒したと思っていたのに壊しきれていなかったヤツもいたんだ。それが、自主的により集まって、より強く、より巨大な化け物になったのだろう。
それが、一歩、こちらに踏み出す。その一歩が大きい。あと一歩で距離を詰められてしまう。
剣を振って起こした風も、密集した骨を砕ききるには足りない。それどころかゾンビもいるのだ。押し留められそうだなんて甘かった。目の前の敵しか見ていなかったのだから。不味い、逃げ・・・
「ッ・・・・・!!!!!」
今まで何度もかわした、単調な腕力による攻撃。ただ今回は何倍かわからない。速さも、威力も。直撃した。全身がバラバラになるかと思った。本棚に吹き飛ばされて、上から大量の本が落ちてくる。腹の中から、肺の中から、空気がいっぺんに締め出されて、呼吸が出来ない。その後に全身に痛みを感じる。でもまだそれに頭が追い付いていない。命の危険を感じる。もう一発食らったら死ぬかも。意識が薄くなる。恐怖なんてない。諦めの方が大きい。
「アルム!!」
マキナさんがすっ飛んできて、俺の前に構える。あの骨の化け物が迫ってくる。おお。すっげ。彼女が殴ると、巨体も吹き飛びはしないが、後ろに押し返すことは出来るのか。流石だ。紅い髪の毛が逆立っている。あまりにも彼女が早く動くものだから、炎のように錯覚しそうだ。
「アルムくん!」
ノアくんが本を放り出して走ってきて、俺に手をかざす。あのときと同じ光が彼の手元に現れる。
「
暖かい光だ。頭の辺りの痛みが和らぎ、また頭に怪我をしていたことに気がついた。今度は、俺の腹部に手を当てる。でも、俺は呪文を唱えようとした口を止めた。
「・・・動け、るんで。」
「でも・・・」
頭の痛みが消えたからか、意識がはっきりしてくる。そうすれば、あとは四肢の悲鳴を無視すれば動ける。幸い、骨はやられていないし、打撲だけだ。動くための弊害は、痛みだけだ。
「魔法、温存してください。」
よし。剣を構えるだけの体力はまだある。胸の魔方陣も消えてない。いや、さっきよりも光が強い。きっと
「チサト・・・!!」
前の敵を見ようとしたとき、マキナさんの悲鳴が聞こえた。見れば、彼女の身体は宙に蹴り上げられていた。マキナさんが彼女の身体を受け止め、俺たちの近くへと跳んでくる。黒いコートに、濃い色の液体が染み出している。
「ノア!チサトを・・・!」
「わかった!」
ノアくんがチサトさんのコートを脱がせる。下はマキナさんとそう変わらない服装をしているようだ。露出した腹部が抉れて、血が出ている。ああ、ゾンビが近付いてきた。俺が対処しないと。マキナさんは骨の化け物を押し止めてもらわないと持たない。
剣を振って風を起こし、一番近い一体を吹き飛ばす。ああもう、この動作ですら辛い。そのまま彼らとゾンビの間に入り、距離を詰められる前に風で飛ばす。
「我が手に救う力を。・・・主様の加護の下に。癒しを与え、我が代償を以て光と成す。
少し長い呪文の後に、背を向けても解るほど強い光が発せられる。詠唱だ。魔法を使う際、よりその効力を高めるための。きっとそれほど重傷なんだ。俺が気にしてもどうしようもない。彼に任せるんだ。
「あ・・・」
前ばかり見ていたら、下を這っているヤツに気付けず、足を捕まれた。蹴り上げられるような体力は残ってないし、剣も構え方を変えられるほど余裕がない。対処できないでいると、そのまま引っ張られて転ばされる。頭は打たなかったがもう立ち上がれそうにない。身体の上にのし掛かられ、右腕に噛み付かれる。
「うぐぁぁぁぁ・・・!」
肉が引き千切られそうで、必死で、ゾンビの顔面をもう滅茶苦茶に左手で殴ったり引っ掻いたり、なんとか引き剥がす。血が腕から溢れる。これじゃあ、もう右手は使えない。間の悪いことに、胸の魔方陣が消えた。身体が重くなる。痛みがより強くなる。
腹に力を入れて立ち上がる。ああもう、また囲まれた。片手で剣を構える力なんてもう残ってない。いよいよ出来ることは時間稼ぎだけになった。いや、それも無理か。骨の化け物が一体、此方に歩いてきた。大きな獣のような形をしていて、そのままでも踏み潰されそうだ。ソイツは、口を大きく開けて俺を食べようとしているように見えた。実際、骨だけだから食べられても平気だろうけど、巨大な口から覗く鋭くて太い歯で咀嚼されたらすぐにバラバラになるだろう。
「ボサッとしてない!」
マキナさんが俺を抱えて跳び退いた。なにも噛むことのできなかった歯が大きな音をたてる。それでようやく本当に喰われそうになっていたことに気が付く。なんでか頭がしっかり働かない。血を流しすぎたのかもしれない。何でもいいけど止血しないと。ああ、もう意識が保てない。本当に役立たずだ。
「マキナさん・・・う、しろ・・・」
ただ、コレだけは伝えないと。彼女の後ろに、さっき俺を殴り飛ばした化け物がいることを。そして、その巨大な拳を振り降ろそうとしていることを。
「ヤベ・・・」
俺を抱えているせいで反応が間に合ってない。このままじゃ直撃だ。これで彼女がやられたら、万事休すだ。ノアくんも、チサトさんの治療を終わらせたらもう魔法は使えないだろう。来るであろう衝撃に備えて、マキナさんが身を強ばらせたときだった。
「ーーーやっと繋がった。」
巨大な白い拳は、何か頑丈な壁にぶつかるようにして、砕け散る。聞き覚えのある声。
「説教は後だ。いくよ。二人とも。」
「はいっす!」
「あいよ!」
何がどうなったのかはわからない。
ただ、目の前に立つ三つの背中が、とても頼もしく見えた。
「