マイティラビット   作:シャンティ・ナガル

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[3]真実

 

           ☆

 

 ガラスのような破片が幾つも散らばっていた。

 それは僕が今まで抱いていた憧れだったり、秘めていた願望だったり、とにかく僕が5年間積み重ねてきた想いだった。

 

 それが一斉に崩れ去る。

 自然災害みたいなものだ。

 

 いきなり目の前にオールマイトが現れて、秘密を見抜いてしまい、壮絶な話を聞かされた。

 

 光と影は比例する。

 オールマイトのヒーローとしての活躍、そしてオールマイト自身の輝きの裏には死と隣り合わせというプロの世界の厳しさがある。

 

 そして光が強ければ強いほど、影は濃くなる。

 僕はそのあまりの色深さに衝撃を受けていた。

 

 僕の中のオールマイトは完璧だった。

 強くて、カッコよくて、いつも笑顔で。

 

 誰もが諦めるような場面でも、彼だけは正義を背負って立つ。

 恐れ知らずの笑顔で救けてくれる、無敵のヒーローなんだと。

 

 でも、そんなものは僕の勝手な思い込みで、オールマイトにとってはいい迷惑の妄想だった。

 

 僕はオールマイトのことなら何でも知ってるし、何でも知りたいと思っていた。

 

 

 けれど、話を全て聞き終えた僕は。

 

 

 オールマイトの近くに行けて、その内面まで知ることができたのに。

 ずっと望んでいたことが叶ったのに。

 

 

 震えるほど怖じ気付いていた。

 腰が引けて、目の前の真実から逃げだしたいと感じていた。

 

 

 その時になって初めて。

 

 僕は真実など求めていなかったのだと、気づいたんだ。

 

 

 古い神話で、太陽の中に女神がいると信じ、空を見続けて盲目になったという狂信者の話を、前に本で読んだことがある。

 

 信仰というエクスタシーを受けて、もっと光を、もっと光を、と貪欲に乞い、ついには眩しさに包まれながら己の目を焼いた。

 そして狂信者は自分が盲目になったことにとうとう気づくことはない。

 光も影も関係ない無明の中で、ずっと自分の中にいる理想の女神を愛で続ける。

 

 僕も同じだ。

 憧れという太陽を見上げていた僕も、とっくの昔に本当のオールマイトを見失っていたんだ。

 

 

 でも、こんなのって――

 

 

 これじゃあ、まるで何か罰じゃないか。

 僕は何も悪くないのに。知る必要なんて全くなかったのに。

 

 

 神様、何で僕に教えてくれたんですか?

 

 

 僕は僕の中にいるオールマイトを愛せればそれで良かったのに。

 心の中で、夢の中で、ずっとオールマイトを想えていれば、それで。

 

 

 分かってるよ。

 こんなものは逆恨みなんだって。

 

 理想と違ったから? だからなに?

 それで僕に何を望む権利があるんだ?

 

 何も。

 僕は所詮蚊帳の外の人間、オールマイトに助けられただけの被害者。

 

 だけど、じゃあ、この言い様のない怒りは?

 悔しさは? 悲しみは? 絶望は?

 

 

 一体、どうすればいいんだ――?

 

 

 光ばかりを求めていた罰を下すかのように影を見ることを強要した運命を、この現実を、僕は心の底から恨んでいた。

 

 オールマイトは親切で話してくれただけ。

 

 なのに、僕は――

 

 

 

 何もできやしない人間の分際で。

 

 

 

「はぁ~……」

 

 何度目かの溜め息。

 僕は項垂れながら、トボトボ歩く。

 

 今日の話をどう消化すればいいか分からない。

 心も頭も混乱して、どこの感覚も受け入れを拒否ってる。

 

 僕が落ち込んだところで無駄だしなぁ……。

 

 辛いのはオールマイトなんだからさ。

 貴重な話を聞けてラッキーって開き直ればいいのか? バカか!!

 

 魂が抜け落ちズルズルと引き摺ってる気分。

 地面を踏み散らして喉を掻き毟りたいようなやりきれなさ。

 

 世界で何人、このことを知ってるんだろう?

 

 今の超人社会を覆すような事実だ。

 5年間、厳重に隠されていた秘密を僕は意図せず暴いてしまった。

 

 本当ならその辺を転げ回って泣き喚きたい。

 僕一人じゃ、受け止めきれないよ。

 

 誰にも言うことはできない秘密。

 誰に言ったとこで無意味な秘密。

 

 知っても、どうしようもないんだから。

 

 もう過去の話だ。

 敵組織は壊滅し、首領もこの世にいない。

 

 大怪我を負いながら、それでもなお何年もの治療を続けてヒーローに復帰した。

 全部オールマイトが自力で解決してしまった後だ。傍目からはずっと健在で活躍し続けていたように、隠蔽も完璧だった。

 

 誰がこの秘密を信じるのか。僕も本人から聞かなきゃ絶対に信じなかった。

 今までバレなかったってことは人が想像もできないような仕組みがあるからだろうし。

 

 オールマイトが秘密を打ち明けたのだって僕が何もできないと踏んでいたからじゃないのか?

 一応念のために釘を刺したかっただけなんだ、きっと……。

 

 

 回復を祈るくらいしかやることがない。

 

 

 相手は世界で活躍するヒーロー。

 悩みだってそれ相応の規模だ。思いを共有することなんて常人にはできない。

 

 

 

 でも、じゃあ、だけど、それでも、僕は――。

 

 

 

 今日ほど自分が無力なのだと実感した日は、嘆いた日はなかった。

 

 無個性だとか能力の有無どころじゃない。

 手も足も出ない。確かな物が何一つなかった。

 

 

 これが真の絶望なんだと、思い知らされる。

 

 

 巨大な蛇に丸呑みにされた気分だ。

 闇の中では蛇の嘲笑だけが響いて、足掻きようもない敗北感を擦りつけてくる。

 

 

 僕は、そんな僕を、どうしても許せなかった。

 

 

 頭は焼けるように熱い。体も節々が痛くて手足が重たい。お腹減った。喉渇いた。

 

 色々ありすぎてクタクタで、疲れた。

 もう余計なことは、何も考えたくないのに。

 

 歯を食い縛る。拳を強く握る。

 心が爆発しそうなほど荒れ狂う。

 

 

 何もできない自分が堪らなく悔しい……!!

 

 

 今ここで、僕はただ家に帰るだけなのか?

 そんなことできるわけがない!

 

 でも、自分に何ができるのか。

 いくら見渡しても見つかることはない。思い付くことも。

 

 ぶつけようのない感情だけが水位を増すばかりで、僕は情けない溜め息を溢すしかなかった。

 

 

 

 その時だ。地面がグラリと揺れたのは。

 

「え? うおわっ!」

 

 僕は慌てふためき前につんのめりそうになる。

 鑪を踏みつつ、何とか転けるのを防いだ。

 

「なんだぁ……?」

 

 震動は断続的に、爆発音を伴って。

 周りを見てみると人通りが慌ただしい。

 

 一直線に同じ方へ走っていた。

 皆、嬉々としてニヤニヤと笑いながら。

 

 僕はふ~んと周りの状況を理解する。

 きっと近くでヒーローの捕物劇でも繰り広げられてるんだろう。

 

 それを目当てにした野次馬達だ。

 超人社会では珍しくない光景だった。

 

 今や名物と言っても過言じゃない。

 この世にヒーローと敵がいる限り、延々と続くイタチレース。

 人々は東に立て籠り、西に強盗が現れただのエッチラホッチラとそれを追い掛け回してる。

 

 敵が暴れて人が集まり出すとバスも電車もストップして正直くそ迷惑なんだけどね。

 でも、苦情に対応したり交通整理をする警察なんか見てると同情しちゃうよ。

 

 人気ヒーローの出動となるともっと酷くて、引くほどの観衆で街がごった返すんだから。

 ローマのコロシアムみたいなもんで、今の世界にとっちゃ敵の捕物は最高の娯楽なんだ。

 

 プロレス観戦みたいに憂さ晴らしで来たり、人気ヒーローはそれこそアイドル扱いでファンが応援に駆けつける。

 活躍を撮った画像や動画は物によれば高値で取引されて、それで収入を得てるプロもいる。

 海外ではTV番組になってるくらいだ。皆必死というわけさ。

 

 僕はあんま興味ないけど。

 友達が現場の写真を撮って見せびらかしていた時も話を合わせるだけで内心は苦笑い。

 

 何が楽しいのか全然分からない……。

 てか、楽しいなんてもんじゃない。

 

 観戦に来た野次馬が人質に取られヒーローがピンチに陥ったり、最悪の場合殺されるようなことも年間に何件も発生してて社会問題にもなっているというのに。

 

 自分にまったく関係のない事件に首突っ込んで死ぬって……。

 台風の日にわざわざ海に遊びに行って波に呑まれるバカたれと同レベじゃんか。

 

 抑圧された現代、色々とストレスが溜まってる人が多いんだろうけど……。

 君子危うきに近寄らず、これが一番だよね。特に今の社会は。

 

 日本は世界一安全な国って言われるようになったけど、そんなの気休めにもならない。

 

 今隣にいる人がどんな個性を持っていて、いつそれを他者に向けてくるか分からない世界に、僕達は生きてるんだから。

 

 

 

 ズウンと何かが崩れる去る音が響く。

 

 そういや、今日はえらく戦闘が長いなぁ~。

 いつもなら10分くらいでケリがつくのに。

 

 時間が経つにつれて、どんどんヒーローが集まっちゃうから敵は不利になるばかりだ。

 場合よっちゃ、ヒーローが10人20人も居合わせて訳分からん状況になったり……。

 

 

 今や日本は『世界ヒーロー連盟』の主導国で、ヒーロー人口も世界一のヒーロー大国。

 とにかくヒーロー、ヒーロー、ヒーローでね。ウザいくらいヒーローが多いんだ。

 国内で居場所がない者は海外に進出して、日本産ヒーローが世界で活躍してる。

 

 それに加えて日本は唯一、事実上の『敵の殺害』を認めている国だ。

 多数の非難を浴びながら強行採決された『特定暴力阻止法』。

 

 個性使用が確認された瞬間に犯罪者は人権を剥奪されて、ただの『敵』になってしまう。

 投降してもどんな軽犯罪でも終身刑だ。敵には裁判を受ける権利すら与えられない。

 抵抗を続ければ……鎮圧のために生死は問われなくなる。

 

 生殺与奪はヒーローの自由。あくまで拘束を優先する人もいれば、滅茶苦茶殺して回ってる人もいる。まちまちだった。

 まぁ、捕まっても一生檻の中だし、どっちもどっちだよね。

 

 苛烈な法律は猛反発を受けたけど、政府はそれを押し通した。

 敵への徹底的な重罰、ヒーローの権限拡充。

 その2つが盛り込まれた法案によって日本は瞬く間にヒーロー大国としてのし上がった。

 

 

 そんな背景がある中でこんなに戦闘が長続きするということは、それだけ強力な敵ということ。

 もしくは――

 

 

 人質を取っているか、その両方か、だ。

 

 

 轟音が途切れることなく聞こえてくる。

 

 人々は吸い寄せられるように駆けていく。

 声にならない笑みをニタニタ張り付けながら。

 

 僕はそれを舌打ちしながら見送った。

 不謹慎だとか、説教するつもりはないけど見てるだけで腹立たしい。

 

 嫌でも目についちゃうし。何でよりによって僕の帰り道と同じ方向なんだよ……。

 僕まで浮かれた連中と一緒くたにされちゃうじゃないか。

 

 オールマイトの話を聞いた後で尚更腹が立つ。

 ヒーローの戦いの裏を知らずに、バカみたいにハシャぎやがって。

 

 白い目で眺めつつ、幾度も人に追い抜かれ、包み込まれる。

 ざわめきは休むことなく、さらに大きくなる。

 人込みの中でも、僕の心中の淀みは掻き消されることなく苛立ちがさらに募るばかりだった。

 

 しばらく進んでいくと、人の流れが止まる。

 わんさと人が溢れて押し合いへし合い。轟音も耳をつんざくように近くなっていた。

 

 近所の商店街だ。

 東京大侵攻の被害が少なくて今も昔の建物が数多く残ってる、古い通り。

 

 僕はたまに買い物をしたり近道に使うぐらいで言うほど印象もないんだけど。

 強いて言うなら肉屋の店主が心配だった。あそこのトンカツ旨いんだよね~。

 

 まぁ、今はどーでもいいことだ。

 僕は他に考えなきゃいけないことがたくさんあるんだから。

 

 スタスタと歩き去る……とは行けずに人混みを掻き分けて前に進む。

 すいません、ちょっと前を、イテ! 誰だ足踏んだ奴!! うおー! 邪魔クセー!

 

 まるで芋洗い状態。芋洗いなんて言葉、生まれて初めて使ったぞ!

 ギュッギュッと人に揉まれながら、歩くというより体を押し出していく感じ。

 

 何となく、心太の気持ちが分かった気がする。

 ……バカなこと考えてないでさっさと抜けよ。

 

 顔をうにょうにょ変形させていたら、ふと、商店街の大通りが視界にチラリと入った。

 

 

 

 その光景に、息を呑む。

 頭に誰かの肘鉄を食らってもビクとも反応しない。僕の中の時間が停止してしまう。

 

 空から落ちてくる店の看板。燃え盛る建物。

 折れた電柱に、砕かれた道路。

 

 思った以上に被害が大きかった。

 でも、周りの悲惨な現場よりも僕はその中心に釘付けになる。

 

 じわじわとヒーローが取り囲んでいる。

 その輪の中で暴れまわる一体の敵――。

 

 

 

 ――あの野郎! なんで!?

 

 

 

 うねり、さざなみ、辺りに飛び散るヘドロ。

 ヒーローを威嚇するように地面を砕き、所構わず爆炎が迸る。

 

 僕を襲ってきた敵だった。

 オールマイトに助けられた衝撃で忘れていたけど間違いない。

 

 でも、なんで……!?

 オールマイトが捕まえて、ペットボトルで、ポケットに、それで――。

 

 追想し、ある一つの答えに辿り着く。

 僕はその事実に思わず悲鳴を上げそうなり、口を手で押さえた。

 血を吐きそうなほど胸が痛くて、苦汁が口の中に満ちる。

 

 

 ――僕のせいだ……!!

 

 

「ヒーロー戦わねぇの!? さっさと倒せよ!」

 

「バカ! 見て分かんねーのか!? 人質取ってるからだよ!」

 

「あの敵、超強くない? 異形型ってホント色んな奴がいんな~!」

 

 観衆から野次が飛ぶ。

 自分の予想が合っていたという感慨に浸る間もなく、僕はわなわなと体を震わせた。

 

 小さく、首を振り続ける。

 目の前の現実を受け入れられなくて、自分が犯した過ちから逃げるように。

 

「てゆーか、アイツ。さっきオールマイトが追っ掛けてた奴じゃね!?」

 

「えっ? オールマイト来てんの!? じゃあ、なんで出てこないんだよ!」

 

「おーい! オールマイト~!! 速く来てくれ~! 世界のピンチですよ~!」

 

 オールマイトオールマイト、と観衆からコールが巻き起こる。

 その響きは僕を苛む非難に聞こえて、頭が締め付けられるようだった。

 

 もうやめてくれ、と心の中で懇願する。

 オールマイトはここには来れないんだよ、とその場にへたり込みそうになり。

 僕が邪魔したせいで、と目から止めどなく涙が溢れてしまう。

 

 あってはならないことだった。

 こんな、許されない。僕はなんてことを……!!

 

 絶対にやってはならないと、やってたまるもんかと、いつも考えていたのに。

 僕って奴はどうして……オールマイトの足を引張ってしまうなんて!!

 

 死ぬことより恐ろしい現実が、今、目の前で繰り広げられていた。

 

 町が破壊され、人質が苦しみ、オールマイトの仕事の邪魔をした。全て、僕の罪だ。

 そして、糾弾されることも処断されることもなく、罪人である僕が他人事のように自分が犯した所業を眺めてる。まるで拷問だった。

 

 そして、何より恐ろしい罰は。

 

 誰も僕がやったなんて知らない。信じない。

 だけど、世界でたった一人。世界で一番大切な人だけがそのことを知っているということ。

 

 

 

 ごめんなさい! オールマイト――!!

 

 

 

 何度謝っても足りない。そもそも言葉なんかじゃ取り繕えない失態だ。

 取り返しのつかない過ち。思えば思うほど体が潰れ心がひしゃげてしまいそうだった。

 

 

 

 ごめんなさい――!!

 

 

 

 それでも、謝るしかなかった。

 心の中で叫ぶことしか、できることは――

 

「あっ」

 

 その時、僕の口から自然と零れた。

 現実から逃げるようにじりじりと後退りしていたら、視界の端に。

 

 

 

 ……オールマイト。

 

 

 

 そろりと口を覆っていた手を下ろした。

 肩を落として、凝視する。

 

 オールマイトが、いた。

 個性を発動してないガリガリの姿。長身の頭だけが人垣からヒョロリと抜き出ていた。

 

 何故ここに? とっくに帰ったはずじゃ……。

 オールマイトの横顔をこっそりと窺って、僕はハッと呼吸が止まってしまう。

 

 

 苦悶の表情だった。

 手で胸を押さえながら、被害が広がる現場を、暴れ狂う敵を睨みつけていた。

 

 オールマイトは動けない。活動限界を過ぎて力を使い果たしてるのに。

 それでも尚、事件へ駆けつけた。どうして?

 

 

 決まってるだろ。

 彼がヒーローだからだ。世界でもっとも愛されるヒーロー。平和の象徴だから。

 

 僕を、助けてくれた人だから。

 そんな彼が見す見す誰かのピンチを無視なんてするはずがないじゃないか。

 

 だけど――。

 

 オールマイトは、笑っていなかった。

 歯痒さを隠しもせずに、シャツの胸元をクシャクシャにして握り潰す。

 

 彼はいつも言っていた。

『今でもこの世界は争いや悲しみに溢れ返っている。私の手で救える人は余りにも少ない――』

 

 

『――だからこそ、笑って立つ』

 

 

『平和の象徴として、常に苦しんでる人々のために心の火を灯せるように』と。

 そんな彼の、笑顔が曇る瞬間――。

 

 未だ人質を取り、暴れ続ける敵。

 他のヒーロー達は苦戦し、観衆からはオールマイトを呼ぶ声。

 

 手が届く場所にいながら、危機に立ち向かうことも声援に応えることもできない。

 

 

 オールマイトは今どんな気持ちで、この場に立っているんだろう――?

 

 

 考えただけで、堪らなかった。

 僕が陥った絶望感よりもさらに深く、オールマイト自身が悔しくて悲しいに決まってる。決まってるじゃないか!!

 

 5年前、彼に初めて会った時を思い出す。

 彼の笑顔を思い出す。

 

 憧れは真実によって粉々に打ち砕かれた。

 だけど、そんな物、全然、何も、関係ない!!

 

 だって、だって――!!

 

 

 

 オールマイトが灯してくれた光は、今もこの胸の中で燃え続けているんだから――!!

 

 

 

 目をゴシゴシと擦り、涙を振り払う。

 

 後悔や反省を全部ぜんぶ置き去って、衝動に突き動かされるように。

 僕は観衆を背にして駆け出す。人込みを力尽くで抜けていく。

 

 後悔なんてしてられない。反省なんて後回しだ。自分を責めることに、飽きた!!

 今、僕が為すべきこと。それは――

 

 

 

 僕の全てを賭けて、あの敵を殺すことだけ!!

 

           ☆

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