この素晴らしい転生者とぼっち達に祝福を!   作:Sirone

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お久しぶりです。Sironeです。
テストだのなんだので遅くなりました。
期間が空いて内容が頭からすっぽり抜けてますんで、指摘お願いします。では。


第11話 クロア、誕生。

 

 

突然だが、天界人になってから変わったことがいくつかある。

一つ目は、日常生活。

最初こそ仕事だらけの生活を送っていたものの、今では大した量はない。しかも、エリス様が俺の倍近くの仕事をこなすため、俺まで仕事が回ってこないのだ。つまり、暇。

 

働きたくない俺としてはありがたい限りなのだが、本当にやることがない。

ちょっと前までは無銘勝利剣の微調整をしていたのだが、それも終わり。

 

……現世、行けねぇかな。

向こうでは俺の扱いどうなってんのかな? とか、めぐみんとゆんゆんは今どうしてんのかな? とか色々気になることはある。

 

 

「黒音さん」

 

 

二つ目は、アクア先輩について。

天界人になった当初はまさに犬猿の仲だったのだが、今ではそこそこ悪くない仲だ。

というのも、アクア先輩が仕事をサボって読んでいた漫画の趣味が俺の趣味と一致。お互い仕事をほっぽり出して語り合っていたら、いつの間にか意気投合していた。

 

割とよくある、趣味が合う奴とは仲良く出来る理論だ。俺は初めて体験したけど。

 

 

「黒音さん、聞いてますか?」

 

 

三つ目は、俺の装備。

転生時に貰った乖魔剣・双だけは上の人に回収され、今は無銘勝利剣が主装備だ。

俺が死んだ時、身につけていた装備は肉体と一緒に天界へと引き戻されているからな。

逆に言えば、身につけていた装備以外の私物は全て下界に置きっぱなし。つまり、俺が珍しく努力して貯めたスキルアップポーションも無駄になったということだ。

うん。ちょっと泣いた。

 

「黒音さん、聞いてください!」

 

「…………なんですか? 俺今すげぇ忙しいんですけど。手短にお願いしますね」

 

「アクア先輩に借りたゲームをやってるようにしか見えませんよ? ……まぁいいです。ちょっとこの書類に目を通しておいてください」

 

「あー、分かりました…………」

 

 

テレビゲームの横に積まれた書類の数々からは目を背け、ゲームに熱中する。むしろ、ゲームに熱中することで書類から目を背けているのかも知れない。

やがて『GAME OVER』の文字が画面に映ったのを確認すると、コントローラーを投げ捨てた。やはりかなり腕が落ちてるな。ブランクは予想以上に大きいらしい。

 

一つ、大きなため息。

ゲームにも飽きたので、仕方なく書類の一番上の一枚を手に取る。

ふーむ、なになに………………ん?

 

その紙には『神器回収作戦』と大きくてカラフルなフォントで銘打たれていた。

…………どゆこと?

一枚目だけでは細かな内容が全く把握出来ず、二枚目三枚目と読み進めていく。五枚目を読んだあたりで、ようやく全貌が見えてきた。

 

 

「えーっとつまり……俺が現世に行って、持ち主が死んだり紛失した神器を回収すると。なんか滅茶苦茶簡単そうですね」

 

「いえ、そうでもありませんよ。私達が回収する神器は貴族の手に渡っていることが多く、その場合はそこに侵入するところから始めなければなりませんからね」

 

「…………それただの盗賊じゃないですか」

 

 

エリス様はそうですね、と軽く笑う。

この作戦はエリス様の独断によって立てられたものらしい。ひょっとしたら、盗賊的なものに憧れているのかも。

…………ってちょっと待った。

 

 

「私達ってことは、ここに書いてある同伴者ってエリス様なんですか?」

 

「えぇ。私では不満ですか? なら、アクア先輩にお願いすることも」

 

「エリス様でお願いします。アクア様連れてったらろくなことにならないんで」

 

 

ここ最近関わって悟ったね、俺は。

あの疫病神のマジ疫病神っぷりを思い返していると、ふと気がついた。エリス様の表情が、何となく楽しそうなことに。

ここ天界は、原則的に暇である。

こっちに来て数ヶ月(と言っても向こうでは数日程度だが)の俺でも感じるのだから、それ以前からここにいたエリス様はどれだけ退屈していたのだろうか。流石に想像もつかない。

まぁ、たまーに現世行ってるらしいけど。

 

 

「そんでもって、これいつから行くんですか? 俺今回の仕事に限ってはやる気満々ですよ? なんなら今すぐでもOKですよ!」

 

「…………何故そんなにやる気なのかは知りませんが、出発は明日です。心の準備をしておいてくださいね」

 

「かしこまですー」

 

 

空返事を返し、書類を放り出す。

――――今にして思えば、何故この時ちゃんと書類を見なかったのだろうか。

そうしていれば、多少なりとも驚かずに済んだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な…………なにこれ…………?」

 

 

現世にて、俺は噴水の水面を見て慄いた。

確かに嫌な予感はしてたよ。現世に降臨した時、エリス様の風貌が変わってるのを見た時からしてたさ。でもさ。

神様パワーを全く使えない俺まで変わる必要あるの? ないよね?

 

体格は特に変化なし、顔のパーツパーツもほぼそのまま。目の色もオッドアイのままだ。

そんな中、髪色だけが変わっていた。

今までの真っ黒とは正反対の、透き通るような白色。髪型がそのままだから、今のエリス様と外見がそっくり。多分遠目じゃ分からない。

 

 

「書類にしっかり書いてあったじゃん。『仮の体を使う』って。信仰対象になった時、わざわざ体を変えるのもめんどくさいでしょ?」

 

「……エリス様、何かキャラ変わりました?」

 

「ダメだよ、黒音くん。ここではあたしはクリスだからね。っていうか、これも書類に書いたと思うんだけどなぁ……」

 

「あ、そっすか……。えーっと、クリス様?」

 

「こっちでは『様』は禁止! 敬語までダメとは言わないけど、一緒に盗賊団やるんだしもっとフランクに行こう!」

 

「……了解です、クリス」

 

 

俺が不承不承の体で返すと、クリスは満足したように微笑んだ。

 

 

「じゃあ早速、冒険者登録をしにギルドへ行こっか!」

 

「おー」

 

 

とことんやる気のない声だったのだが、クリスはそれに気がつかないまま歩き始める。この様子だと、俺の思ってた以上に盗賊ごっこ楽しみにしてんな……。

クリスはこの街に何度か来たことがあるようで、スイスイと道を進んでいく。やがて、一つの大きい建物の前に辿り着いた。

 

 

「っつーか、クリスは冒険者登録してないんですか? たまーに現世に行ってるって言ってましたけど」

 

「うん。今までは観光目的で来てたからね」

 

 

カラカラとドアを開けると、そこには予想の数倍アメイジングでファンタジックな景色が広がっていた。男女が入り混じって酒を煽る。皆の騒ぎ声がギルド中に響き渡り、もうどっかのライブ会場並のうるささになっていた。

――――何これ?

 

俺が呆然としているうちに、クリスはギルドの受付へと歩いていく。……えっ、この惨状をスルーですか? これが普通なの?

しっかし、懐かしいなぁ…………。前の冒険者登録では、あまりの情けなさにさめざめ泣いてたなぁ…………。――――ん? 待てよ?

 

 

「――――冒険者登録ですか? では、このカードに個人情報を記入してください」

 

 

受付のお姉さんから差し出されたカードを手に、しばし硬直。

 

 

「失礼。…………クリス、ウキウキしながら記入してるとこ申し訳ないですけど、ちょっと」

 

「え? ちょ、ちょっとどうしたの?」

 

「いや、些細なことなんですけど…………。これ、空夜黒音って書いて大丈夫なんですか?」

 

「………………あ」

 

 

やっぱダメですよねー。

俺は前世(?)で空夜黒音の名で冒険者登録をしてしまっている。つまり、ここで空夜黒音と名乗ると二重登録になってしまうわけだ。

俺に言われて気がついたらしいクリスは、しばらく唸った後。

 

 

「適当に決めちゃっていいんじゃないかな」

 

「えらく適当ですね」

 

 

まぁ、クリスがそう言うならいっか!

とは言っても、名前ねぇ…………。

 

 

「やっぱり、元の名前を軸に考えた方が楽だよな……。黒音だから……クロ……クロ……」

 

「もういっそのことクロでいいんじゃない? 何か猫みたいで可愛いしさ」

 

「まぁそれでもいいですけど…………。あ、黒音のクロと空夜のアで、クロアとか!」

 

「…………黒音くんって、やっぱり紅魔族なんだね」

 

 

何故か哀れみの目を向けられた。

 

結局、俺の名前はクロアで決定。別にクロでもよかったんじゃ? とも思ったが、それだとめぐみんの黒猫と丸かぶりしちゃうからやっぱり却下する方向性で。

それ以降は特に淀むことなく、自分の情報を書き連ねていく。やがて最後の項目を書き終えると、やっとこさステータス測定だ。

 

しかし、まぁ何と言うか……俺、これやるの二回目だからドキドキもワクワクも全くないんだよね……。それどころか、またレベル1の時のステータスを見るのが億劫ですらある。

クリスに先を譲り、ギルドを見渡した。

俺がこの世界にいた時はずっと紅魔の里にいたから、この世界の新たな一面を見たようで何だか新鮮な気分だ。

 

――――待てよ?

ステータスがレベル1の時に戻るってことは、魔力の上限的に今までに作った魔道具がほぼ全部使えなくなるんじゃあ…………?

いや、それ不味くね? だって俺の戦闘力の九割五分は魔道具で成り立ってるんだよ?

無銘勝利剣と指輪は昨日のうちに調整して、上級魔法を使わずとも相応の魔力を注ぎ込むだけで発動できるようにはしてある。その分スキルポイントが他のことに使えるからな。

でも、今の俺じゃあ魔力が全く足りない。

…………俺、ただの雑魚じゃん。

 

 

「終わったよ、クロアくん。…………ってどうしたの?」

 

「いえ、ちょっと悲しみの向こうへと旅立ってただけですよ……。んじゃ、俺もさっさと登録終わらせてきます」

 

「うん。――――あ、盗賊スキルを取れる職を選んでね。そっちの方が後々楽だからさ」

 

「それは把握してます」

 

 

サクサクっとステータスを測定し終え、聞くのは二度目になる説明を遮るように冒険者を選択する。一瞬受付の金髪お姉さんの表情が歪んだ気がするが知ったこっちゃない。何が悲しくて二度も惨めな思いせにゃならんのだ。

だから、俺は悪くない。

 

受付から逃げるように去った俺は、少し離れた椅子に腰掛けて窓の外を眺めているクリスの元へ。その横に座り、同じように外を見てみると、一人の冒険者が目に映った。

透き通った金髪を後ろで一つに纏め、厚い鎧を着込んだ女騎士。

 

 

「あれ誰ですか?」

 

「彼女はダスティネス・フォード・ララティーナ。王家の懐刀と言われるダスティネス家の一人娘だよ。クラスはクルセイダーだったかな」

 

「へー」

 

「出来たら彼女にあたし達のレベル上げを手伝ってもらおうと思ってさ」

 

「へー。…………へ?」

 

 

つい一文字で返してしまった。

しかし、『へ』の一文字でもイントネーションで会話が成立するなんて、ひょっとしたら俺のコミュ力はかなり高いのかも知れない。違うか。違うな。

そんなことを考えていると、何故かクリスは俺の耳元に口を寄せ……って近い近いし後髪の毛が当たってくすぐったい! もうちょい離れてください!

 

 

「実はね? 彼女はエリス教の信者でさ、ありがたいことに毎日教会で祈りを捧げてくれてるんだよ」

 

「っ……ほうほう。……つーか、クリスって現世見れたんですね」

 

「教徒達の行いだけは見通せるんだ。話しを戻すけど、その祈りの内容が『冒険仲間ができますように』だったから、いい機会だしお願いしようかなって」

 

 

……なるほど、だいたい分かった。

要するに、エリス教の御神体として、エリス教徒のささやかな願いを叶えてあげようってことね。流石はこの世界で一番人気の神様だ。アクア先輩とはやることが違う。

俺はクリスの、正確に言えばエリス様の部下でしかない。なら、出来るのは従うことだけだ。

 

 

「いいんじゃないですか。その方が経験値効率よさそうですし」

 

「ほんと? じゃあ、早速行ってくるね!」

 

 

そう言ってクリスは、さりげなくを装いつつダクなんとかの元へと歩いていく。

しっかし……なんか嫌な予感すんな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

俺達は街の外を歩いていた。

 

 

「カエルの討伐、ねぇ…………」

 

 

ダクネス(貴族であることは隠したいらしく、そう呼ぶように頼まれた)との自己紹介を一通り済ませた俺達は、クリスの武器を揃えてから初のクエストに出発した。

その内容が、ジャイアントトードとかいうカエルを五匹討伐すること。ダクネス曰く、このカエルは打撃には耐性があるが、斬撃には弱いらしい。比較的倒しやすく、初心者にもオススメのクエストのようだ。

 

道中、唐突にダクネスがこんなことを。

 

 

「クロアは今日冒険者になったのだろう? それにしては立派な剣だな。少し見せてもらってもいいか?」

 

「え、別に構わねぇけど」

 

 

ほいっと無銘勝利剣を放り投げると、それをマジマジと見つめるダクネス。

到着までには返してくれよ、と言おうとして再びダクネスの方を見たその瞬間。

頬を光線が掠めた。

 

 

「………………おい」

 

「い、いや違う! わざとじゃないんだ! これは不可抗力というやつで……」

 

「んなことはいいからさっさとそれを地面に置けって危ねぇ! それを振り回すの止めろっつってんだよ!」

 

「このまま置いても大丈夫なのか!? 地面で荒ぶったりしないだろうな!?」

 

「大丈夫だって! 持ち主の俺が言うんだからとりあえず信じろ!」

 

「わ、分かった……」

 

 

ようやく落ち着いたダクネスが剣を離すと、蒼白い光はだんだん弱まり、やがて消えた。

額に滴る汗を拭う。

ふぅ、危なかった……。あんなのレベル1の耐久力で食らったら即死だっつーの。

 

 

「でもおかしいなー。無銘勝利剣は結構な魔力を注ぎ込まなきゃ発動しないはずなんだけど、どうしてクルセイダーのダクネスが発動できたんだ?」

 

「……あっ」

 

「――――『あっ』?」

 

 

一瞬声を漏らしたダクネスを俺は見逃さず、まるで借金の取り立て人の如く詰め寄る。

 

 

「おい、心当たりがあるんだろ。とりあえず話せ。…………まぁ、無銘勝利剣のことを説明しなかった俺にも非があるし、お前一人を責め立てることはしないから安心してくれ」

 

「存分に責め立ててくれて構わない」

 

「…………今なんて?」

 

「こ、こほん。…………さっきの件は、恐らくこれが原因だろう」

 

 

そう言ってダクネスは、腰のベルトから一つの小袋を外した。

受け取って中を覗いてみると、手のひらサイズの水晶が数個入っている。恐らく最高品質のマナタイトだろう。

マナタイトとは、魔法を使った時に消費魔力を肩代わりしてくれるというもので、俺もよく使ったものだ。

 

しかし、クルセイダーには無縁のはず。

 

 

「いや、何でクルセイダーのお前がこんなの持ってるんだよ。使う機会ねぇだろ」

 

「あぁ、それはだな。これを使うためだ」

 

 

ダクネスは、自分の指に嵌められた指輪を恍惚とした表情で撫でる。

…………えーっと、それってもしや……。

 

 

「この指輪から流れる電流がなんとも堪らず、ついついマナタイトを大量に買い占めて使ってしまう。これを作った奴は天才だな」

 

 

…………その天才、俺ですよ。

そういやウィズさんに売ったな。すっかり忘れてたわ。

でもアレだ、天才って言われてるのにちっとも嬉しくねぇわ。それと、その指輪の用途明らかに間違ってるぞ?

多分言っても聞かないから言わないけど。

 

 

「お、クロアも持っているじゃないか。もしかしてお前も」

 

「一緒にすんなこのドM」

 

「んんっ……! いいぞ! もっと言ってくれ! もっと口汚く、さぁ! さぁ早く!」

 

 

息を荒らげるダクネスから目を背け、俺は空を仰ぎながら思った。

 

めぐみん、ゆんゆん。

俺はもうダメそうです。




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※ご指摘頂き訂正しました。

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