第1話 危険
呉を出発して丸一日船に揺られ、九州、佐世保に到着した。
提督「つきましたね」
長門「もういいのか?」
そう、実はこの佐世保に来るまでの約半日程度は長門にしがみついて泣いていたのだ。
提督「はい!グスッ!」
長門「ほら、そんな泣き顔ではついてこないぞ!」
提督「はい!」
2人ならんで佐世保鎮守府へと向かった。
佐世保鎮守府ーーー
門をくぐり、中に入ると、ここは豪邸かと言わんばかりの庭造りだった。
花壇は丁寧に整理され、真ん中には噴水があり、建物やガラスにはくもりや、埃一つなかった。
しかしその美しさとは裏腹になにかどす黒いものが感じられた。
提督「な、長門さん…僕、なんか嫌な予感しかしないのですが…」
長門「翔、気を引き締めて、周りを警戒しておけ。殺気がプンプンする」
珍しく長門が名指しで呼ぶということはかなりやばいのだろう。
早くもその予感は的中した。
天龍「しねぇぇ!」
提督「な!?どこから!?」
見覚えのある眼帯をした少女が自慢の刀剣で切りかかってくる。
長門「翔!」
長門が前に立ちはだかり、蹴りで刀を弾き、首を抑えて地面に押し倒す。
天龍「うっ!ぐっ!」
ジタバタと暴れるが、戦艦長門の前では身動きは取れない。
提督「な、長門さん、ほどほどに…」
長門「貴様!よくも私の恩人に切りかかったな!」
慌てて長門の体にしがみつく。
提督「落ち着いてください!」
長門「はっ!すまない…」
パッと首から手を離すと、ゲホゲホとむせていた。
提督「あの、大丈夫ですか?」
天龍「近寄んじゃねえ!」
バキッ!
強烈なパンチが提督の腹部を内蔵ごと破壊する。
提督「うぐっ!かはっ!」
ぼたぼたと口から血が流れる。
長門「翔!」
提督「構うな!」
突然の怒声にさすがの長門も一歩下がる。
長門「し、しかし!」
提督「長門さんも…げほっ!知ってるはずです…!天龍さんは拳で語る人だと!」
長門「!?」
そして改めて天龍の方に視線を向け、鋭い、さっきのこもった目で睨みつける。
提督「殴りたければ好きなだけ殴れば良い!ですが!僕は絶対にあなたに手をあげたりしない!」
天龍「なっ…!嘘をつくな!そう言って騙したくせに!」
提督「嘘だと思うなら!ここで僕を殺してください!」
長門「よせ!それ以上挑発したら!」
天龍「な…にぃ…!」
ジリジリと距離を詰め、提督の顔面一歩手前で立ち止まり、手を上げたが、振り下ろされることはなかった。
そう、提督自身怯えることなく、一心に天龍の目だけを見つめ、動こうとしなかったからだ。
提督「大丈夫、です…!かはっ!誰も…あなたを、傷つけた、り…」
バタッ
長門「おい!どうした!?翔!」
慌てて駆け寄るが反応がない。
天龍「ま、まさか死んじまったのか…?」
天龍もバカではない。
相手が抵抗し、自分に何かしらの危害を加えたなら殺しても恐らく罪悪感はないだろう。しかし、今回は自分の一時の感情に任せ、一方的に痛めつけたのは自分なのだ。
長門「翔!頼む!起きてくれ!お前がいないと…!私は…!うぐっ…!ううっ!」
長門の目から涙が溢れる。
そして一心に天龍を睨みつける。
天龍「ひっ!?」
体をまるで日本刀で貫かれたような感覚が襲う。
長門「はやく!助けを呼べ!」
天龍「は、はい!」
こうして急遽佐世保国立病院へと搬送された