更新は不定期になると思います。
駄文ですがよければ楽しんでいってください。
感想、指摘、批判待ってます。
―――少年は歩いた。
あれからどれぐらいの時間が経ったのか、どれほど歩いたのか、もうわからない。血が繋がった筈の家族に要らない者とされ、居ない者のように扱われて、それが悔しくて家から駆け出した。走って、走って、走って、走り続けて、気づいたら雪に囲まれていた。
―――少年は彷徨い歩いた。
前も後も、左も右もわからない。全てが白く染まった暗い世界をたった独り、歩いていた。吹きつける風と雪が徐々に、しかし確実に少年の体温を奪っていく。
―――少年は吹雪の中を彷徨い歩いた。
けれど、不思議と寒くはなかった。心を引き裂くような孤独感がどこか懐かしく、悲しかった。
少年の目に映るのは火。視界いっぱいの
少年が感じるのは熱。身を焦がす焦燥と無力感。
「……っ」
あまりにも惨めで思わず漏れた言葉にもならない嗚咽と涙。倒れたまま無意識にでも上へと手をのばした。そこでふと、微かな気配を感じた。その気配は痛みと同じように懐かしかった。誰かが来る。そして、そのまま小さな少年の身体を抱き上げる。
『生きてる、生きてる!』
疲れ切ったような顔をした男性が少年の生存に歓喜の声をあげる。
「無事か、坊主」
生ける伝説たる老人が少年の顔を見て安堵する。
『良かった』
傷ついた少年の身体を優しく抱きしめる。
「そうか」
凍え切った少年の心を優しく包み込む。
『ありがとう、生きていてくれて』
救われたのは自分の方だと言うように、
「よく頑張ったな」
あまりにも幸せそうな顔と共に、
「―――ありがとう」
その姿は重なった。
◆◆◆
ある夜、黒鉄龍馬は軒下で月を見ていた。
「……じいさん、ここにいたんだ。ちゃんと布団で寝ないと風邪引くよ」
「おぉ、一輝か。済まんな、少し月を見ていたんじゃ」
「月、か……」
そう言うと一輝は龍馬の隣に腰掛ける。
「……なぁ一輝、儂はお前の夢を知っておる」
「えっ」
「別に驚くほどのことでもあるまい。お前には他の誰にもねぇ
嘘だ。本当は絶対に追いかけてほしくない。
「……だが、まぁ高校くらいは出ておけ。それは決してお前にとって無駄になるまい」
そうすれば、誰かお前をとめてくれる奴と出会えるかもしれない。
「……さて、眠るまえに少し昔の話をしようかの」
もう話すことはできないだろう。この目蓋を閉じれば、もう顔をみることもできないだろう。だからこれだけは伝えなければ。
―――それは男なら誰しも一度は抱いたことのある夢だろう。だが、その夢は年を取るにつれて失われていく。長く生きれば生きる程にただの理想だと理解する。幼稚な夢だったと笑い話にする。
しかしその男は違った。理想を抱き続けた。目に見える物全てを救おうとした。だが、全ての命は犠牲と救済の両天秤に乗っているのだと悟る。どちらかを救うためには必ず片方を切り捨てなければならない。
そして切り捨てるものはできうるだけ小さくなくてはならない。
10人を
100人を
1000人を
男はそうして切り捨て続けた。
機械になれば悲しまずに済んだかもしれない。だが男の心は悲しいほどに人間だった。救った笑顔に心がどうしようもなく歓喜する。同時に奪った笑顔に心で懺悔の涙を流す。男はただ、誰もが平和な世界が欲しかっただけなのに。
「……子供の頃、儂は正義の味方に憧れていた」
ふと、そんな言葉が口を衝いて出る。それは長い間ずっと己の心の中に置き去りにした忘れていた言葉だった。いつか誰かに言おうとして言い出せなかった。だが龍馬にそれを思い出すことは出来ない。その言葉を聞いた途端に、一輝の顔が不機嫌になる。
「憧れていた……じゃあ、諦めたの?」
一輝は、龍馬が自らを否定するような言葉を嫌う。そしてその思いに対し、龍馬は内心で常に何とも言えない感情を抱いている。それは一輝が祖父である自分のことを偉大な人物だと思い込んでいる。黒鉄龍馬の過去、彼の生涯がもたらした災禍と喪失を何一つ知りもせずに。もし、龍馬が一輝と過ごした短い時間に後悔があるとするなら、自分に対して的外れな憧れをもった一輝にそれがどんなに愚かなことかを教えることできなかったことだ。
龍馬は遠い月を眺めるフリをしながら、悲痛な思いを苦笑で誤魔化す。
「そうさなぁ。残念ながらヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなる。そんな事、もっと早くに気が付けばよかったんじゃが」
もっと早くに気づいていれば
「そっか。じゃあ、しょうがないね」
「そうじゃな。本当に、しょうがない」
龍馬も悼みをこめて頷く。そんな言葉を言っても今更どうしようもないと分かっていながら、ただ遠い月を眺めている。龍馬は自分が過ごしてきた中で最も綺麗な景色を士郎が胸に深く刻み込んでくれることがたまらなく嬉しかった。
「うん。しょうがないから僕が代わりになるよ」
淡々と夜を照らす月明かりの中で、一輝は、ごくさりげない口調で誓いを立てる。かつて龍馬が夢半ばで諦めたモノに
「じいさんはオトナだからもう無理だけど、僕なら大丈でしょ。まかせてよ、じいさんの夢は―――」
一輝は誓いの言葉を続ける。今夜この景色とともに、忘れようもない思い出として、自らの胸に刻み込んでゆく。それは―――いつしか始まりを忘れ、ただ磨り減っていくしかなかった龍馬には望むべくもなかった救済だ。
「そうか。ああ……安心したわい」
彼は自分のように生きようとも、この自分のように過つことはない。その理解に、胸の内の全ての傷が癒されていくのを感じながら、黒鉄龍馬は目を閉じる。
そして、正義の味方を目指しその夢半ばで諦めた男は眠るようにその生涯を閉じた。
この日、少年『黒鉄一輝』のココロに一振りの剣が突き立った。
◆◆◆
それからすぐ、一輝は旅に出た。救済の旅に。
自分より一つ下の妹のことだけがココロ残りだったが、自分とは違い才能に恵まれてたから大丈夫だと割り切った。
一輝はまず、世界中を飛び回った。難民キャンプに食料を届け、そこで様々なことを学んでいった。強盗を捕らえたり、害獣を討伐するなかで少しずつ力をつけていった。そして、その行動は段々と規模を大きくしていった。
だが、救われる者がいるということは、救われない者がいるということに他ならない。助ければ助けるほどに、救えば救うほどに必ず取りこぼしが出てくる。必ず
結局のところ、一輝も龍馬と同じ道を辿っていったのだ。冷酷な機械になってしまえば傷つかず、悲しまずにすんだかもしれない。だが一輝のココロもどうしようもないほどに人間だった。救えた笑顔にどうしようもなく歓喜し、同時に奪ってしまった笑顔にココロで懺悔の涙を流した。
そんなことを何年も続けていった結果、一輝のココロは少しずつ摩耗していった。だが、一輝がその足をとめることはなかった。
一輝は既に知っていた。全てを救うことはできない、だが誰もが幸せであってほしいと思うことは絶対に間違いではない、と。
その答えを何処で得たのかはわからない。ただおぼろげに、懐かしい声がそっと教えてくれた気がした。
◆◆◆
―――夢を見た。
そこは吹き荒れた荒野。命の息吹が感じられない、真っ赤な荒野。
空には太陽など見えず、錆びた大小様々な歯車が雲と浮かび、止まることなく回り続ける。
そして何より異様なのが荒れ果てた大地に突き刺さるっている無数の剣。
短剣もあれば長剣もあり、直剣もあれば曲剣もある。 だがどの剣も既にボロボロだった。
荒野を彷徨い歩くと丘が見えてくる。
ふと見上げるとそこには体中に剣が刺さった白髪で褐色肌の赤い外套を纏った男が立っている。
何を見て、何を思うのか。
その顔は何かをやり遂げて後悔しているような顔だった
夢の中の彼は何時も傷ついていた。
ただの一度も敗走を諦めることをせず、しかし求めるのは自身の勝利でもなければ栄光でもなく他者の救済。それ故に彼に生涯の意味は不要。それと同時に他者からの理解も受けない。
だが、それでも彼はそのままに進み続けた。
自らの歪さを理解しながら、それでも借り物の願いを、すべての人々の救済という願いを、祈りを追い求め続けた。絶対に救われない百人を救うために世界に自分の死後を売り渡し、最後まで人々を救うことだけを願い、世界各地を奔走してきた。
その最後が、救いたいと願った人々からの裁きであったとしても彼は受け入れた。
人類のために、人間を殺した。未来のために、現在を犠牲にした。それ以外に道はなく、もしあるのなら間違いなくそちらを選んでいた。世界中から憎まれていたが、誰よりも彼を憎んでいたのは彼自身だった。仕方なく人を殺し、仕方ないと割り切れない。
優しい男だった。
詩が響く。
―――
彼の生涯を表す詩。
―――
―――
それは儚くも尊い言の葉。
―――
―――
抱いた理想を捨てず、歩み続けた者の願い。
―――
―――
たとえ、仮初めの幻想だとしても多くの救済を望む彼の背中はとても、とても大きかった。
―――
カーテンの隙間から射し込む朝日に僅かに顔をしかめ、重い目蓋をなんとか開けるとようやく見慣れた天井が目にはいった。そこでふと、さっき見たモノについて考える。
最近、よくあの夢を見る。自分と同じ道を辿った彼の生涯、そしてその最期。自らの理想を貫いたその果てに何を見たのか、それが少し気になった。
それから少し昇った太陽を見て「そういえば日本の日の出はこのくらいの時間だったか」などと考えながらジャージに着替え、朝食をつくる。食べ終えると食器をさげ、冷蔵庫に入っているスポーツドリンクを数本、タオルと一緒にリュックに詰めた。
「……さてと」
部屋の鍵をかけるとリュックを持ち、学生寮の近くにある広場まで歩いて行く。入念にストレッチをした後、かるく息を整えてから走り出す。あの日から鍛練の一環として今まで続けてきたランニング。最初は数kmだったが今では20kmは走っている。ちなみに体力維持のためだ。
呼吸器系に負荷をかけるために全力のダッシュとジョギングを交互に行う。結構つらいがもう慣れた。
走るのと同時に自身の状況を確認する。
「
撃鉄をイメージ。すると意識がスイッチのように切り替わる。
―――魔術回路、二十七本確認―――
―――動作可能回路、二十七本正常―――
―――魔力量、正常―――
―――身体損傷個所、修復完了―――
―――神経、内蔵等、損傷個所なし―――
―――身体機能、異常なし―――
―――固有霊装、動作正常―――
身体に異常がないことを確かめた後、本格的に走り始める。
商店街を抜ける際、
広場まできたらダウンしながら寮の部屋に歩いていく。
部屋の前までくると鍵を開けるため、ドアノブに触れる。瞬間、違和感を覚えて反射的に解析を使う。結果、中にいるのが
「ハーイ」
ガチャリとドアが開き、中から彼女が出てくる。ここまでは特におかしなところはない。ただ一つ、彼女がバスローブしか
「ルームメイトの娘?アタシは―――」
様々な驚きにより声が出ない。よって、
「―――」
「……」
互いに無言。
次の瞬間、寮中に悲鳴が響き渡った。
これが黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンの出会いだった。