改訂・加筆修正完了に付き、第一話から三十話まで差し替えました。
2016.2/21
1話~10話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.2/25
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
01 「なんでオレ転生してんの? 」
輪廻転生という物を知っているだろうか。
死んであの世に還った霊魂、魂が、この世に何度も生まれ変わってくることを言う言葉、というか概念だ。
突然の壱 『転生? 』
まぁ、昨今の素人による一次創作、二次創作活動において「転生」はポピュラーなジャンルゆえに宗教的な詳しい説明など、マンガやアニメが好きでインターネットに浸かっている今時の人間には要らないだろう。
何がしかの事故か事件に巻き込まれて、もしくは不治の病などによって死んで、今まで生きてきた世界とは異なる世界に「転生」。
そして御都合主義にチートな能力や普通なら10何年も使わずにいれば忘れるだろう知識を憶えていられるとか、すごい強運とか、なんて特典を持って
そんな「転生」最大の醍醐味は以上の特典も然ることながら、「転生」なのだから当然と言えるが、全くの別人に生まれ変われると言うことだ。
10人が10人振り返るような美形の容姿に暮らしに困らないお金持ちの家柄か、理解のある親兄弟に恵まれた暖かい家族の家へ生まれ、果ては性別まで変わることもある。
特に二次創作ともなればマンガやゲーム、アニメにラノベの主人公の幼馴染みや肉親になり、物語に
うん。まぁ、なんだ。
なんで突然「転生」の話をしだしたか簡単に言うとだな。
以下の通りなことが我が身に起きた。
入社3年目の会社
↓
終業時間(その日は残業なし)
↓
オレ、帰途に付く
↓
珍しくどこにも寄らずに真っ直ぐ帰宅
↓
もうじき自宅の安アパート
↓
突然人にぶつかってこられた
↓
腹にすんごい激痛走る
↓
なんじゃこりゃぁぁああ゛あ゛!?
↓
暗転
↓
気が付いたら周りが見たことも行ったこともない山岳地帯
↓
なんか容姿も変わってるYO!? ←イマココ!!
どうも通り魔にヤラて死んだっぽいオレはリアルで「転生」してしまったらしい。
……………
………
…
折角親孝行しようと近場で一泊でも良いから家族旅行に行こうって計画練ってたのに!
大学受験失敗してネトゲにはまってひきニートになりかけたけど、このままじゃダメだって一念発起で必死に就活して就職したのに!
真っ黒な会社じゃないけどことあるごとに上司にいびられ叩かれて、いわゆる社会の洗礼ってヤツに耐えながらなけなしの反骨精神でがんばってたのに!!
気の良い先輩や気の合う友人も出来て仕事も私生活もこれからって感じだったのに!!
……………何故にこうなったし。
原因:通り魔
と言われればそれまでなんだが、納得がいかない。社会人として真面目に生きてた身としては。
記憶を持って転生できたんならある意味運が良かったじゃん、第二の人生送ればー、とかなんとか言われるんだろうが、それはちゃんとした人間に転生していればの話。
オレが転生したのは、人間にではなかった。
I T ' S T H E
人外と言うより「異形」と言う方がしっくり来るこの姿。頭があって四肢がある人型をしてるのがせめてもの救い、といえるのか如何か甚だ疑問。
足、逆関節だし、尻尾付いているし、なんか虫っぽいし、多分泣く子も黙るどころか、ヘタしたらちびって白目剥いて失神するじゃなかろうか。
分厚く堅そうな皮膚に鎧のような甲殻が全身を包んでいて、尾てい骨の辺りからトカゲっぽい尻尾が伸びている。
逆関節の足には猛禽類のような鋭い爪が四つ伸び、人の足で言うと足裏に当たる踵部分? にも一本突起のような真っ直ぐな爪が付いてる。
腕には肘に小さな角のような突起あって似たような物が前腕部にも、さらに手首下に気になる窪みが。
そして水たまりを見つけて鏡代わりに覗いて見た顔は丸っこく、琥珀色をしたスズメバチのようなギョロリとした目に額から伸びるアンテナを思わせる触角のような二本の角、その間にある三角形に並んだ―― 目と同じ質感から見て恐らく間違いないだろう ――三つの小さな目。
口は見た目それほど大きくないのだが、思いっきり大口を開けると顎が割れて子供の頭くらいの物を丸呑みにできるくらいに開いた。
まさに万人に初対面で怖がられ「バケモノ」と罵られること請け合いの姿。
こんな身体じゃ、
まぁ、それでも一生分の幸運使い果たすくらいに運よく問答無用で攻撃されずに済んだとしても、敵意がなくて友好的だと示せないんじゃ意味がない。というか喋ったら余計に怖がられて敵認定確定しそう。
何故かと言えば………
「
話す言葉が全て勝手に自動翻訳されるから。
もう、どれだけすごいチートな力を持ってたとしても途方に暮れる要素しかないよ、本当に。
あれからひとしきり途方に暮れた後、不貞寝して走馬灯のように死んだ日の夢を見て魘されて飛び起き絶叫、自分の声というか言葉(グロンギ語自動翻訳)に驚き、自棄気味に開き直って自身の能力調査を開始。調べれば調べるほど能力や自分自身にドン引きした。
そうして全力で現実逃避すること早八日あまり、オレは今森の中を文字通り飛ぶように移動している。
身の安全と心の平安を優先するならあのまま引き篭もりを決め込めばよかったのだが、ひきニートになりかけるも立ち直って真面目に社会人やってた身としてはそれはいかがな物かと思い直し、ひとまずこの世界を見て回ろうと言う考えに至る。
まぁ、調べてわかった能力の中には引き篭もるのに最適な物があったりはしたけど、結界とか遠見の魔法とか。
魔法、使えたんだよね。というか明らかに前世で学んだことも身に付けた覚えもない様々な知識や技術が頭ん中にあるとか、あって困ることはないのだろうが気持ち悪くて仕方ない。
しかも自分の顔と名前だけがどうしても思い出せないことがより一層に拍車を掛けて来る。じっとしてると鬱々としてきそうで先の理由もあって飛び出すように下山開始。
当然異形ボディの身体能力は半端なく、妙なテンションでやけっぱちにちまちま降りてたら日が暮れる一気に降ってやらぁ! と某腕力家の息子さんの修行時代よろしく、ノーロープバンジーで崖に飛び降りれば突き出た岩を時に崖を蹴ってかわし、時に拳や蹴りで粉砕して障害を取り除き、ノーダメージで落下。そして迫る地面へ向けて伸身前方七回宙返り六回ひねり、新月面宙返りも真っ青なウルトラAで綺麗に着地を決めてみせた。
本当はギャグよろしく異形ボディの不死身っぷり全開で意味不明な悲鳴を上げながら崖を転がり落ちて地面に大の字の穴を開けて「あぁ、死ぬかと思った」みたいなことなるのを想像してやったのだが、そんな不条理自滅ギャグを許さない身体能力のチートぶりに戦慄するように改めてドン引きしたオレ。
盗んだバイクで走り出したい衝動のままに駆け出してまたも自身のチートぶりを知って戦慄のドン引き再び。
足が逆関節なのは伊達じゃないらしく、地面を蹴るたびバネのように飛び跳ね、地面から最大2m以上も離れて歩幅が異常に大きいストライド走法という有様。しかも自動車並みの速さで。
そしてそのまま森の中へ入ったものだから当然木に激突しかけた。
激突せずに済んだのは木にぶち当たる瞬間、咄嗟に足を出し、足が木に着いたと同時にバネを縮めるように足の逆関節を始め全身で加速してついた運動量を弱め、着いた足を踏み込んで木に沿って真上へ飛び出し、以降は枝から枝へ。木にとまっている小動物や鳥さんたちを驚かせて迷惑掛けつつ時折加減を間違えて枝をへし折りながら現在に至る。
もう自分にドン引くのに飽きたと言うか慣れたと言うか、開き直って受け入れるしかない。右から左へ流すみたいに。
「
一際大きい大木を見つけ、跳ぶのを止めてその枝に一旦止まる。結構身体を動かしているとはいえ、慣れるにはいささか早すぎな気もするが、それでも身体はお構い無しに慣れた動きで駆け上がるように木の天辺へ。
そして天辺に行くにつれ細くなった幹を掴み、尻尾を絡めて足場には頼りない小枝に片足を置く。
見渡せば周りに広がっているのは雄大で広大な森林地帯。目覚めた山からも見えていたが、少なくともここが日本でないことは間違いない。
というか明らかに地球には居ないだろうとんでもなくでかい鳥が飛んでいた。薄い赤茶色の羽をしたその鳥はアラビアンナイトに出てくるロック鳥ほど大きくはないが、兎を狩るように成人男性くらい軽々と掻っ攫っていけそうなくらいの大きさがあった。
巣があるのか、オレが目覚め今し方飛び出してきた山の方へと飛び去っていく。
でかい鳥を見送った後、はたと当初の目的を思い出し意識を集中する。
「
呪文を唱え【遠見】の魔法の発動させる。
大仰に呪文を唱えたが実はこの身体ゆえか、使う魔法は能力に依存していて使用のための所作だとか呪文は全く必要ない。ぶっちゃけイメージさえ確りしていればほぼどんな魔法でも一小節もかからないどころか無詠唱で発動できたりする。
呪文は魔法のイメージ固めのために唱えようと思い適当にそれらしいのを考えただけだ。
多分慣れたらもう呪文なしで魔法使ってそうだな。
【遠見】の効果で視界が切り替わる。高倍率の双眼鏡を覗いたような状態になり、その状態から意識すると光学ン十倍ン百倍の超々高倍率ズームカメラというように視界に映る景色をズームアップできる。その上透視効果もあるから障害物一切無視で、それこそ町から遠く離れた鬱蒼とした森の中から特定の家をピーピングトムできてしまう。
やろうと思えば男の夢、衣服を透かして女体の神秘を気付かれることなく見放題、なんてこともできちゃうだろう。加減ミスって
大体この身体で「性欲を持て余す」な状態になったらどうなるのか考えるとちょっと怖い。というか美女美少女の裸を目にしてなんの反応もなかったらとか思うと……… orz
「
黄昏かけていると不意に【遠見】の視界の端にナニカが映る。
映ったナニカに意識を向けてズームアップ。そこに映し出されたのは。
「
翼のないいわゆる地竜と呼ぶタイプのドラゴンだった。両側頭部から前へと伸びる二本の太い角に、目を引く黄色の
どうも戦闘中らしい。視野を広げて見て見れば足元近くには緑肌をしたおっきいのとちっこいの、恐らくオークとゴブリンらしい武装した亜人共がいて、それらと対峙している人間の集団が襲撃を受けているようだ。
そしてオークや人間を対比にして見るとドラゴンの大きさが際立った。大体全長は三階建て家屋くらいの高さを軽く越えているだろうか?
ドラゴンたちと対峙している集団は揃いの鎧や盾、剣や槍で抗戦していて、魔法使いがいるのかその後方から時折魔法が飛んでいってオークやゴブリンたちを蹴散らしているが、ドラゴンの存在もあってかなり押されている。ブレスでも吐かれたら防ぎ耐えられるのかどうかというところ。
揃いの鎧や武具から見て、恐らく今いる地域の国の騎士たちか。
しかし苦戦している様子から見てもドラゴン討伐が目的で戦っているというには戦力が少ないようだ。
疑問に思い、騎士たちの集団の方をよく見てみると後衛である魔法使いのいる後方のさらに後ろに護られるように質素ながら気品を感じさせる作りの箱馬車があった。繋がられている馬は倒れているようでこと切れていると見て良い。
騎士たちの護衛付きだ。馬車に乗っているのはかなり身分の高い貴族なのは間違いないだろう。
「ん? ………
他人事のように戦況を見ていたオレは馬車に付いていた見覚えのある紋章を見付けて驚いた。
五角形の大盾に翼を広げた三日月型の小盾と聖剣が描かれた紋。
それはかつて大学受験失敗が主たる原因とはいえひきニートになりかけるほどにハマったネトゲ、通称「MOL」や「
その中で存在する五つの大国の一つ、かつて闇の魔王ムルマガを倒した勇者が興した国、プレイヤーたちのスタート地点である『フリアヒュルム皇国』は王家の紋章だった。
よくよく見れば騎士たちの鎧にも見覚えあがる。イベントNPCだったフリアヒュルム皇国騎士団の鎧の作りに良く似ているのだ。
「
ゲームで見覚えのある物があったからと言ってこの世界がゲームの中だというのはさすがに早計か。大体「MoLO」にあんな某狩りゲーに出てきそうなドラゴンはいなかった。
とりあえず、ここがゲームの世界だと考えるよりは他人の空似よろしく偶然オレが知っていた物と似た物があったと考えておくのが無難か。大した情報もなく下手な先入観を持ったら碌なことにならないだろうし。
で、あのドラゴンだが、やはり暗殺目的の襲撃だろうな。ドラゴンが例え魔法使いでもオークやゴブリン如きに
状況から単純に考えれば魔法で操って目障りな身分の高い貴族を狙ってけしかけたってところか。
ドラゴンといえど腕の立つ魔法使い数人がかりならうまくやれば操るくらいできなくはないだろう。多分だが。
「
「チート転生」のテンプレならこの状況は助けに行く一択で、助けた貴族に気に入られ~、とかいう展開になるんだろう。普通なら。
エルフドワーフ獣人でもなんでも普通の人間なら人助けをすれば―― 助けた相手の人間性によっては例外はあるだろうが ――お礼の言葉の一つも貰えるだろう。
が、オレにはそれはない。さんざん自分に言い聞かせて来た通り、助けてもこの姿を見ただけで恐れ戦き「バケモノ」と罵られて攻撃されるのがオチだ。次の獲物は自分か~とか勝手に自己完結して。
「
溜め息を吐かずにはいられない心境だ。全くもって救いがない。話を進めるためには人と関わらなければならないのに、人と関わったら98%強でバッドエンド直行とかどんなムリゲーだ。
慎重になり過ぎというかネガティブというか、最悪に悪い方へ考え過ぎなのかもしれないが、情報も全く無い右も左もわからない世界に放り込まれた挙句、こんな身体に変えられているんだ、チートだから大丈夫なんて理由で後先考えずに突っ込んでいくよりは建設的だろう。
そういわけでオレの取るべき選択肢は「見なかったことにする」だ。
助けられる力があるのに助けないってのは後味悪いし目覚めも悪いが、助けに行ったらそれ以上に嫌な思いをすることになるし、最悪まかり間違えば討伐対象として賞金を掛けられてお尋ね者だ。
なにより「遠見」で間近の様に見えているが実際はここから相当な距離がある。この身体なら全力で向かえば間に合うかもしれないが、先のことも踏まえてもその労力に見合うものは得られない。というかマイナス収支だ。
そういうわけで自己弁護終了。当初の目的通り村か町を見つけて「遠見」で情報収集。
なお、覗きは犯罪です。良い子も悪い子もまねしちゃぁいけないぞ! と。
………虚しい。
ご ご ぐ る ぐ お お ! !
「………
唐突且つ盛大に鳴った腹の虫。そういえば目が覚めてから何にも口にしていなかったな。
意識したら余計に腹が減ってきた。
腹が減って腹が減って腹が減って仕方が無い。
ふと視界に未だ映る景色に意識を向ける。
襲撃を受け続けている騎士たち。
襲っている武装したオークとゴブリン。
そして、ドラゴン。
「ドラゴン
情報収集のために村か町を探す前に、ひとつの行動指針が今、アレコレと考える理性を超えた本能によって決められた。
ぐ る ご ご ぐ ぅ っ ! ! !