【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.2/21
1話~10話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.2/25
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。



10 「グロンギ語訳はひらがな五十音が基本だ」

 

 

 

 

 

『あいうえお』

 

「ガギグゲゴ」

 

『かきくけこ』

 

「バビブベボ」

 

 言われた言葉―― 日本語 ――に続いてゆっくりとオレが口にした言葉を木板に石のペンでガリガリと書き込むシャンフィ。

 

 胡坐をかいて座るオレの隣にちまっと座って何をしているのかというと、シャンフィはグロンギ語翻訳表を作っているのだ。

 

『さしすせそ』

 

「ガギグゲゴ」

 

『たちつてと』

 

「ダヂヅデド」

 

 なぜに翻訳表をといえば、話は彼女を助けて三日ほど経った頃。唐突に『私、グロンギ語 憶えるよ! 』と言い出したのだ。なんでも、オレの筆談に対して一々地面に書いたりして面倒そうだし、書く物を手に入れても、その紙とかの書く物を用意し続けるのも手間や費用が馬鹿にならないだろうし、人前で堂々と内緒話とか出来そうで面白そうだから、だそうだ。

 

 オレは堂々と人前に出られん身なのだが………

 

『なにぬねの』

 

「バビブベボ」

 

『はひふへほ』

 

「ザジズゼゾ」

 

 オレとしては意思疎通が出来れば多少の手間など気にもならないのだが、それでシャンフィの気が紛れるならと付きあって今に至る。

 

『まみむめも』

 

「ラリルレロ」

 

『やゆよ』

 

「ジャジュジョ」

 

 この数日、シャンフィは起きている間、片時も俺から離れよとはしなかった。そしていつも元気過ぎるくらい元気そうにしていた。

 

 そう、振る舞っていた。

 

 空元気、なのはよほどの鈍感唐変木の大バカ者でない限りはわかる。ほんの数日前に両親が目の前で殺されているのだ、普通ならトラウマやらで鬱になって塞ぎ込んでいるだろう。現に夜は魔法を掛けておかないとひどく魘されている。

 気丈な娘だというより、思い出したくないからそう振る舞っていると言ったところだろうか。シャンフィなりの現実逃避なのだろう。そして不安を俺と一緒にいることで、一緒に何かをすることで紛らわせている。

 

 

 

 

    突然の捌「決定」

 

 

 

『らりるれろ』

 

「サシスセソ」

 

『わをん』

 

「パゾン」

 

 

 このままではいけない。

 

 頭の中でひどく冷静な大人の自分が警鐘を鳴らす。

 

 このままではシャンフィがオレに依存することになる。そしてさらにタチの悪いことに俺の方も、だ。

 

 経緯やら生い立ちやらなにやら全て違うが、同じ転生者同士という共感と前世の記憶への理解から、それだけでも互いに必要とするのは充分なのに、シャンフィは目の前で無残に両親を亡くして天涯孤独の身で、己を支えるために身も心も守ってくれるだろう絶対的庇護者を必要とし、自分を助けたオレに早くも依存し始めている。そしてオレはオレで現状唯一の理解者であり、孤独を埋めてくれるシャンフィを必要としてしまっている。

 

 早く何がしかの行動を決めて起こさねば、シャンフィが立ち直る頃には手遅れになってしまう。オレという異形(存在)のせいでシャンフィを人と人との関わりの輪から切り離してしまう。

 

 そうならないようにするために、今のオレが考えつけた行動としては三つ。

 

 

 一つ目はシャンフィを生まれ故郷の村に返すこと。

 

 二つ目はオレのインストール知識をフル活用して色々な珍しい物や便利な物を作り、それをシャンフィに売りに行ってもらうという物。

 

 三つ目はオレのチート能力を全力全開で使い、シャンフィを魔獣使い、ビーストテイマーに仕立て上げるという物。

 

 

 どれも一長一短で、オレにはなんとも決めかねる。

 

 一つ目のシャンフィを生まれ故郷の村に返すのが最も最善で、シャンフィの将来を考えるのなら、一番まともな物だとはわかっている。

 しかし―― 自惚れかもしれないが ――今のシャンフィがオレと離れることを良しするか、そして再び独りになることに、唯一の理解者を失うことにオレが耐えられるかがネックになる。

 出来れば別れを渋るシャンフィを無理矢理に眠らせて村に置き去りにするのは、親しくなった者が消える、突然親を失ったことを想起させるようなことは、したくない。魔法で記憶を消す方法もあるが、やっぱり失敗が怖くて使えない。

 かと言ってシャンフィとの関わりを絶たず、オレが村外れに隠れ住んで見守り続けるというのも無理がある。オレの下にシャンフィが通い続ければ、いずれ村の人々に不審に思われて、どうなるかなど、結末の想像など難くない。

 

 

 二つ目は詳しく言うと出来るだけ大きな町に行き、オレは隠れ忍びつつ、シャンフィに物を店に売りに行ってもらうことで、人との関わりを作り、且つちゃんとした人らしい生活基盤を作るという物だ。

 物作りや拠点の費用は取っといてあるドラゴンの鱗とかを売れば良いだろうし、作った物は上手く好事家に渡りが付けて売れればかなり儲かるだろう。

 ただ、シャンフィの年齢がネックになる。前世の記憶のおかげでシャンフィが歳不相応に聡明でも、経験の浅い子供であることに変わりはない。商売人や好事家の大人が子供相手にまともに取り合ってくれるかわからないし、足元を見られるだろうことは火を見るに明らかだ。

 それに治安の良かった前世の、見知らない人や場所を警戒すればほぼ大丈夫だった日本と違い、街中を自衛手段のない子供を一人で歩かせるのも少々不安だ。人攫いとかが半ば日常的にありそうだと思うのは偏見だろうか?

 

 子供相手でも商売になるならば相応に扱う、なんていう奇特な商人がいてくれれば良いのだが、いるわけないよな。

 

 

 三つ目はオレのチート能力を使い、獣や魔物を捕まえて調教し、飼い慣らしてシャンフィを主人と認めさせ、オレもその魔物の一匹ということにして冒険者として仕事をしていこうという物で、これなら堂々と、とはいかずともオレは人前に出られる。 

 で、これの一番のネックはやはりシャンフィの年齢だ。

 冒険者に成るためのギルド登録は成人、数えで15にならなければできないらしいのだ。

 別段冒険者を名乗るだけならギルドに登録せずともできるのだろうが、仕事の斡旋や信用、バックアップなどの諸々のメリットを考えれば登録は出来るのなら必須だろう。

 

 

 二つ目と三つ目はどうにもオレにとって自分本位でシャンフィのことを本気で考えていない。シャンフィの将来を本当に考えているのなら身内といえる親しい隣人知人のいる村に返すのが絶対に正しいのだ。のだが、踏み切れない。

 

 まずいな。早く決めないと。本当に………

 

『……ーズ……ア………ア ー ズ ! 』

 

ブゴ(ぬお)!?

 バンザゾグギダ(何だどうした)!? 」

 

『もう、さっきから呼んでるのにぼうっとしてさ。

 どうかしたの? 』

 

「………」

 

[これからについてどうしようか考えていたんだ]

 

 どう答えようかしばし悩み、結局正直に話すことにした。

 言ってしまえばシャンフィも当事者だ。オレ一人で決めるわけにはいかないだろう。と、自分に言い訳してシャンフィに選択をゆだねようとしている自分の浅ましさに嫌気がさしてきた。

 

 シャンフィに気取られないよう、それを顔に出さないようにはしたが。

 

『これからのこと? 』

 

[そう、このままここで生活していくわけにもいかないだろう。

 だからどうするか考えていた。

 それで今のところオレに考えられたのは三つだ]

 

 まず三つ目と二つ目を話し、最後に一つ目を話した。

 

「……………」

 

[村に帰るのが一番いい。

 シャンフィを良く知っている親しい人たちが一杯いるんだから]

 

 オレの話しを聞き(読み)終わったシャンフィは俯いて黙り込んでしまったが、それでもオレは一つ目の案を推す。

 しつこいようだが、それが一番シャンフィのためだ。オレの孤独感など【遠見】で人里を観察していれば埋められる程度の物のはず。別れは辛いが、彼女の将来には換えられない。

 

[たまには様子を見に行くし、オレのチートを使えば多分、人知れずに手紙のやりと]

 

『ねえ!

 一つ目と二つ目合せたらどうかな! 』

 

 俺の言葉を遮って勢い良く顔を上げて声を上げたシャンフィは、一つ目と二つ目、つまりオレの考えた三つ目と二つ目を合わせたらどうかと言い出す。

 

 確かに三つ目と二つ目を合わせれば物を売る際、護衛という形でオレがシャンフィの側に付き従い、目を光らせることで足元を見られずにすむかもしれないし、そうなれば無理にギルド登録の必要もなくなる。

 

 しかし、そう上手くはいかないだろう。やはりシャンフィの歳がネックだ。

 

 騎士団が苦戦するようなドラゴンを単体で、人とそう変わらない体躯でぶっ倒せるバケモノを、子供が完全に御せるのかと問題視されたらそれまでだ。例え成人である15に成っていたとしても若すぎるという理由で同じ結果になるだろう。

 

『無理に私がアーズを従えてることにする必要はないと思う』

 

 シャンフィの案の問題点を書き出し終えると、返って来た答えはそんな言葉だった。

 

 どういうことかと問えば、シャンフィ曰く、オレを魔物として従えているのではなく、そのまま通りの高い知性と知能ある亜人とし、身寄りのない自分の庇護者で友人として共にいることにする。そうすれば魔物などを捕まえて飼い慣らしたのがオレであることを隠す必要も減るから、無理にシャンフィをビーストテイマーに仕立て上げることもないと言い、グロンギ語をシャンフィが覚えて意思疎通が出来ていることを見せられれば説得力も付くという。

 

 一見大丈夫そうにも思えなくもないが、オレはどうにも不安だ。異形の(こんな)身だからだろうか?

 

[わかった。シャンフィがそこまで言うならソレで行こう。

 ただ、シャンフィの案を元にもう少し煮詰めよう]

 

 魔物を探して捕まえる間に色々考えて、そして最悪を想定しておかないと、いざって時に動けなくなるから。

 

 

 

『ふわぁぁ』

 

 高い木々の背を軽々と越すほどの高さまで【浮遊】すると、青空の下で広がる絶景に左腕に座るように抱き上げているシャンフィが感嘆の声を上げた。

 なぜこんなことをしているのかと言えば、手懐けるのに手頃な獣や魔物がいないか【遠見】で探すため。とは言っても、本当は【遠見】を使うなら別段、高所に昇る必要はないのだが、シャンフィの心のケアに少しでも効果がないかと思い立って実行したのだ。

 

 あの三つの案の内、シャンフィが村へ帰るという選択を切り捨てたのは、恐らく、今は思い出したくないからだろう。両親のことを。

 オレに話した時でさえ、詳しくはないさわりだけだったが、俯いてかなり辛そうにしていたから。村に帰れば必然両親のことを話さなければならず、そして両親との思い出が其処 彼処(そこ かしこ)にある村で過ごすのは、今はまだ辛すぎるのだろう。

 

 だからまあ、少しでも心のケアになればと自分が感動した景色を見せてみようと思ったわけだ。それによくよく考えてみたらアニマルセラピーなんて物もあったんだから、あながちビーストテイマー案は悪くない気がする。

 

『えぇっと捕まえる動物は………

 ギブビドシ(犬に鳥)ガド()グラバグギ(馬か牛)………だよね? 』

 

ゴグザ(そうだ)ダザ(ただ)ゲギバブビパ(正確には)ギブジャバブデゴゴバリザベゾバ(犬じゃなくて狼だけどな)

 

 完成したグロンギ語翻訳表を丸暗記したシャンフィは早速グロンギ語を使い始めた。まだ片言で考えながら単語くらいしか話せないが、聞き取りに関してはゆっくりとならほぼ完璧に聞き取れるようで本当に驚かされた。

 

 もしかしたらシャンフィの前世はクウガファンで、(そら)んじるほどグロンギ語解読に熱を入れていたのかもしれない。それで漢字の時同様、前世の記憶が刺激されて、といったところなのだろうか?

 シャンフィに通訳を頼んだらヒトと会話も出来るようになるかな。怖がられてままならないような気もするが、上手く行くなら、物の売り買いをシャンフィに任せ切りにせずにすむかもしれない。

 

 ともあれ、捕まえて調教、手懐ける獣や魔物の種類は大体決めてある。

 狼型三匹に鳥型二羽、馬型か牛型を一、二匹に後は小動物二匹ほどと言ったところだ。

 

 馬型か牛型の魔物には馬車を引かせる予定だ。魔物を従えて異形(オレみたいなの)と一緒では一つところに居ては無用なトラブルを起こす気がしたため、引き篭もらず安全に定住できそうな土地を見つけるまで、行商スタイルで旅をして行こうと決めた。

 狼型はシャンフィの護衛用で一匹は人が騎乗できるくらい大型のが欲しい。いざという時のシャンフィの足になってもらいたいからだ。

 鳥型二羽は偵察用、といったところだ。小さいのと戦闘も可能な大きいのの二種類が欲しい。

 そして小動物はシャンフィのためのアニマルセラピー用と言ったところ。勿論シャンフィの護衛として戦う力があれば、なお良いと言ったところか。

 

『あ………』

 

「?

 ゾグギダ(どうした)? 」

 

 【遠見】で目星を付けている途中、不意にシャンフィが声を上げたため、早々に切り上げてオレの首にしがみ付いているシャンフィへ意識を向ける。

 何かを見つけたのか、じっと視点が固定されていた。視線を追えば、そこに在ったのはかなり離れたここからでもそれとわかる、城壁と思しき大きな建造物。

 

「エテ、ジエ」

 

 オレにはわからないこの世界の言葉を呟くシャンフィ。語調や状況から見て恐らくあの街の名前かなにかだろうか?

 

 シャンフィの反応から見て、入学するはずだったというプリヴェラ学院なる学園がある、商業の盛んらしい都市がアレなのか。

 

 失敗した。まさかシャンフィが家族と共に移り住むはずだった街が視界に入って来るとは予想外だ。

 いや、シャンフィから聞いた話とシャンフィを見つけた地点から考えて、高所に上れば街が見付けられるのは予想してしかるべきだったか。

 

「……………」

 

『!

 アーズ? 』

 

 オレは考えた末、一旦地上に降りることにした。やはり詳しく話すにはまだ筆談の方が良い。

 

[明日か明後日、準備してからあの街に行く]

 

 シャンフィを腕から降ろし、すぐに膝を突いて地面に書き込む。

 

『なんで、急に………』

 

[軍資金のためだ。

 馬車を買うことと、その資金はオレの持っているドラゴンの鱗を売って作るって決めていただろう。

 それには大きな街で売った方が良いし、馬車を買うのも同様だ]

 

 オレの提案に困惑するシャンフィに畳み掛けるように理由を説明する。

 

 まぁ、実のところ、軍資金は先日潰した盗賊共から押収したのがあるから間に合ってはいるのだが、多くあっても腐るわけでなし、むしろオレたちには金は多いほうが後々になって色々と助かるだろう。

 

『でも、引く馬は? 普通の馬は使わないんでしょ、だったら………』

 

[さっき、手頃な大きさの牛の魔物を一匹見つけてる。

 今から捕まえにいけば、明日か明後日までには手懐けられるはずだ]

 

 まだ両親のことを想起する場所に行くことは嫌なようだが、だからと言ってそれを避け続けて過ごしていても何の解決にもならないと、住み慣れた村に帰ることに比べれば、ダメージは少なくすむのではないかと、街を見つけたことを切っ掛けに思い至り、オレは心を鬼にして少しだが荒療治に踏み切ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

         (To Be Continued)ドグ・ヂヂ・ボンデギビジュジュゾ………

 

 


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