【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.3/5
11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.2/27
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。



旅は道連れ、世は情け
15 「初めての行商」


 

 

 

 

 

 カランコロンカランコロンカラン カラガラカラ

 

 元四頭立ての大きな箱馬車に、同じく元二頭立ての幌馬車が牽引されて、牛の魔物 ビックブル、タロウスが牽く牛車として商業の街 エテジエから西へ伸びる街道を進んで行く。

 

 牛車となった元馬車は当然の如く、オレのチート能力全開で魔改造済みだ。

 まず元箱馬車から悪目立ちする金持ち然とした装飾を取っ払い、頑丈でシンプルな作りに作り変え、内部は狭いながらも快適な居住空間を実現。

 御者台から中へ出入りすることも、後ろの牛車の方へ行くことも出来るように扉を前後にも追加してある。

 そして広くした御者台から牛車内の椅子と寝床はバネの利いたクッションを仕込んだどんな揺れでも座り心地は崩れぬ自信作。無論両車共に板バネを利かせたサスペンション完備も忘れてはいない。

 さらに車輪に魔法も効かせてあるからどんな悪路も平常運行可能な代物だ。

 下手すりゃ貴族どころか王族でもなきゃ乗れないような物に仕上がった気もしないではないが、元手はただ同然。問題ない。 ……………多分だが。

 

 いや、まさか自分だって冗談半分で石から鉄を錬金が出来ないかなって、某錬金術師よろしくパンッてやってバッてやったら出来ちゃったんだもの。

 シャンフィと一緒に声も無く「うわーさすがにないわー」って感じにドン引きしましたよ、ホント。

 後はそのままの勢いで、もう開き直って出来た鉄を粘土よろしく叩いて伸ばして切って形にしたり、最初からバネの形に錬金したりと、チートを使うのは予定通りとはいえ、まあやってる自分も毎度呆れるチートっぷりだった。

 

 カランコロンカラン ガラカラカラガラ

 

 タロウスの首に掛けた∀'sと刻印が入った大き目のカウベルが小気味よく鳴り響き、魔法で普通の馬車並に速度を上げた牛車の車輪が回る。

 

 ちなみに速度上昇の魔法の呪文は単純に『スピードアップ』。グロンギ語で言うと「グミミゾガムム」になるが、固有名詞に当たるようで普通に発音できた。日本語でだが。

 ともあれ、イメージ次第では制限時間付きながら某サイボーグの加速装置ないし某赤いカブトムシのクロックアップ染みたことも可能なチート魔法に仕上がってしまった代物である。

 使えと言われてもそんな風には絶対使わない、使用禁止の禁じ手だ。主にこれ以上チートな力はいらない的な意味で。

 

 

 あれから、エテジエには羊皮紙や羽ペンにインクなどの個人用の雑貨類を買うのと身分証明を作るのに冒険者ギルドと商業ギルドに入会するため、もう一度行っている。勿論街にはティグリスさんのいる東門から。

 そして物の見事に怖がられた。両方のギルドで。

 商業ギルドは仕方ないにしても、冒険者ギルドェ……… 冒険者のクセに怖がるなよ。魔物相手に戦うこともあるでしょうよ。

 まあ、シャンフィが空気を読んでというか、ことさらに子供っぽく明るく振舞ってくれたおかげで誤解なく入会できたが。

 

 商業ギルドには必要手続きと共に入会費用大銅貨50枚、5,000(カヒイ)を支払い入会し、マジックアイテムの水晶に手をかざし、登録を行ってギルドカードを受け取り、ギルドについての説明を受けた。

 

 冒険者ギルドはギルドカードの作製費用大銅貨3枚、300Kの支払いと出された用紙にシャンフィ代筆で名前や年齢など必要事項を書き込み、登録後ギルドカードを渡されて商業ギルドと同じく、ギルドについての説明を受けた。

 なお、冒険者ギルド所属の冒険者には受けられる仕事の難易度や危険度からランク付けがなされており、S.A.B.C.D.E.F.と、Sを最高ランクとしてFが最低ランクなっている。

 ランクアップは請け負った仕事のランクや達成数などによって昇格試験を受ける資格を得て、ギルドから課せられた試験に合格することでなされるそうだ。

 当然入ったばかりのオレのランクはFだ。ランクを上げる予定もないし、怪我などの何がしかの理由がない限りは、月に一回以上依頼を請けなければ除名かランクを下げられるというのさえ気を付ければ問題ない。

 

 余談だが、冒険者ギルドの入会用紙への必要事項書き込みの際、ジョブや特技などはビーストテイマーと調合などと申請し、入った日の内に薬草採集の仕事をこなしている。

 

 

 

    突然の拾壱「行商の旅、最初の村」

 

 

 

 行商の旅に出た現在、旅の行き先は商業の街「エテジエ」から西南西の方向、フリアヒュルム皇国を出てアルブレス聖王国を目指すことにした。

 その理由はオレもシャンフィも一緒。

 

 エルフとエルフの街を生で見たいから。

 

 しょうもない理由だが、目的がある旅ではないのだし、気の向くままでも良いのではないだろうか。

 

 まあ、物が売れず収入なくても、その気になればチート能力で自給自足できちゃうからの余裕なんだけども。冒険者ギルドにも入っているからそっちで稼ぐっていう手もあるし。

 

 とは言え、仮にも一応行商人。進行方向の村々に寄って物を売り、生計を立てねば、行商人になった意味がない。

 村で売る物は我がアーズ∀'s印の包丁や鍋といった主に金物などの雑貨類に薬草から作った薬。薬はその場で問診して調合もする予定だ。

 また、大きな街では屋台でも出して簡単な料理でも売ろうかとも考えている。お好み焼きとかたこ焼きとかね。

 

『村にはもうそろそろで着くはずだけど、ちゃんと売れるかな? 』

 

 夕暮れが差し迫る中、一緒に御者台に座るシャンフィが、どこか落ち着かずにピョコピョコと獣耳を動かして言う。

 エテジエの商業ギルドで得た旅情報通りならば馬車ほどの速さなら今日の内に村へ、「カロロ」と言う村へ着く。

 

 そこで明日、初めての行商をする。

 

 しかし、多分というか、なんというか、毎度の如くヒトに無意味に怖がられるオレのせいでお客さんはほとんど来ないのではなかろうか。せめて言葉が通じれば、グランロア語が喋られればマシなんだが。

 

 ………そう、オレの言葉(グロンギ語)が通じない以上、売れるか売れないかは半分以上が売り子役をやるシャンフィの肩に掛かってしまっているのだ。情けないことに。

 

ガギショバサバンゼロ(最初からなんでも)グラブギブドパ(上手くいくとは)ゴロデデギバギバサザギジョグヅザ(思っていないから大丈夫だ)

 ジドヅズダヅデログセセダゴンンジガ(ひとつふたつでも売れれば恩の字さ)

 

 だからこんなことしか言えない。子供に頼りきるしかないなんて、大人として本当に情けない限りだ。

 

『ん~、でもがんばるよ!

 売る物はみんな良い物ばっかりなんだから! 』

 

 がおーとでも言う感じに両手を挙げて、尻尾をピョンと立ててそう宣言するシャンフィ。なんとも可愛らしく微笑ましい。

 

 そうだな、言葉が通じればだの、大人として情けないだのと暗くなっていても仕方ない。只でさえ怖がられるのだ、辛気臭くしてたら余計に怖がられるという物だろう。少しでも明るく堂々としていよう。シャフィへの負担が幾らかでも減るように。

 

 

「………」

 

『あー、あははは………』

 

 夕日に照らされて無事辿り着いたカロロ村。

 

 そこで牛車から降りて、どうしたもんか頭を悩ますオレに自棄気味に苦笑いを上げるシャンフィ。

 

 そのカロロ村は今ちょっとした騒ぎになっていた。突然魔物が村に入り込んで来たのだから当然だろう。

 村人さんたちが、自警団らしい男集が(くわ)やピッチフォークやらを持って遠巻きにこちらを警戒している。

 

 そう、オレのことも然ることながら、すっかりとタロウスが牛の魔物だということを失念していた。

 エテジエではティグリスさんの計らいで大きな騒ぎにならずに済んだが、他でも上手く行くとは限らないことに思い至らないとは、エテジエで上手く行き過ぎて備えるために必要な思考が止まってしまっていたか。

 

「ボンタロウスパ、ダギバビラロボンビックブルザガ、バギバサギデジドバセガゲデガス………」

 

「え!? あ!

 このタロウスは、確かに魔物のビックブルだが、飼い慣らして人馴れさせてある。危害を加えなければ暴れるようなことはないから安心してほしいって言ってる」

 

 俺の聞き慣れない言葉(グロンギ語)に慄く村人さんたちに慌てて通訳するシャンフィ。

 やましいことは何もない。少しでも明るく堂々としていようと決めたのだから、誤解されたならそれを解くために率先して動かねばどうする。

 

「えーと、自分は商業ギルドに属する行商人のアーズ、この娘、私はシャンフィ。

 旅の途中で長居する気はない。ただせめて一晩だけでも逗留を許しえもらえないだろうかって言ってる」

 

「………あ、アンタら、本当に行商人、なのか? 」

 

 物売りは諦め、村に泊まることを頼むため軽く頭を下げて待つことしばし、村人さんたちの自警団、男集の先頭に立っていたガタイの良い30代後半くらいの、無精ひげの男性が声を上げた。

 周りから「村長」と声を掛けられたことから彼がこの村の村長なのだろう。どうにも村長というと杖を突く腰の曲がったおじいさんというイメージがあるから、そこはかとなく違和感を感じてしまうが。

 

 ローブの懐に手を入れるフリをしてアイテムボックスの穴を小さく開き、一枚のカード、商業ギルドで作った真新しい銀色のギルドカードを取り出し、村長に見えるようにかざす。

 

「これが自分の商業ギルドのギルドカードだって言ってます」

 

 ギルドカードは登録を行なう際、魔力などの波長をカードに記録し、登録した本人が待つことで偽造不可のホログラムのようなギルドのマークが浮かぶようになっていて、登録した本人以外が待つとマークは浮かばないようになっている。

 

 そして無論のこと、今オレの持つギルドカードにはしっかりと商業ギルドのマーク、「真円のメダルに金貨を載せた天秤」の絵が浮かんでいる。

 

 恐る恐る歩み寄り、ギルドカードを覗き見て、俺の顔を見る村長。

 

「た、確かに、商業ギルドのギルドカードだが、本当にこのビックブルは大丈夫なのか? 」

 

 判断しかねる困り顔で、わずかな白髪まじりの茶髪の頭を掻きながら、村長はタロウスに目を向ける。

 

「えっと、さっき言った通り、危害を加えなければ暴れるようなことはない。

 タロウスはむしろ素直で大人しい子だ。信じられないならゆっくり背を撫でてみると良いって言ってます」

 

 そう言ってオレもタロウスに目を向ければ、「ブモーゥ」と一声鳴いて我関せずと言った風情で道端の草を食べ始めた。お前のことで問題になっているんだから、少しは関心を示せコラ。

 

 しかし、家畜の牛と変わらないその仕草で毒気を抜かれたのか、村長は信じてくれたようで。

 

「………確かに、大人しそうだな」

 

 と溜め息まじりに言って肩の力を抜いた。そして後へ振り返って男集に手を振り、「大丈夫だと」言い、その緊張を解かせる。

 

「アンタら、行商人ってことだが、何を売ってるんだ? 」

 

 改めてオレたちに向き直り、そう問いかけてきた村長。そしてオレは、村長のその問いの言葉をオレに訳してくれたシャンフィの頭を撫でて、言外に任せたと伝える。

 それを理解したシャンフィは尻尾用穴開き半ズボンから出た白黒縞模様の尻尾をピンッと立て、元気一杯の笑顔で村長たちに向き直り、大きな声で説明しだした。

 

「うちで主に扱っているのはお鍋に包丁、ハサミに針の金物の雑貨類!

 でもでもそんじょそこらの金物とはわけが違う!!

 錆びにくく壊れにくい、折れず曲がらず、刃こぼれ知らず! そんな微量だけども魔法付与がされた逸品ぞろい!!

 微量でも魔法が付与なんてされた品、街で買おうと思ったら2、30(リオム)、ううん70L以上は行くお高いお値段!

 でーもでもでも、初行商ご奉仕価格で赤字覚悟の価格破壊!!!

 イッチバンッ高い物でも金貨3枚の3L! 一番安い物はたったの銅貨20枚の20(カヒイ)ほどという信じられない超お値段!!

 この機を逃したらもう二度と手に入れられない、かも、な超逸品だよー!! 」

 

 がおーという勢いで両手を挙げ振り、一気にまくし立ててセールスするシャンフィ。真面目にやってる本人には失礼千万だろうが、シャンフィから伝わる必死さが、なんとも微笑ましい。何を言っているのかさっぱりわからないのが、残念でならないくらい。ホントに、なにこのかわいいいきもの、と言いたくなる。

 

「あ! あとお塩とお砂糖。それにアーズが作ったお薬も売ってるよ。症状を言ってくれれば、その場で調合だってしちゃうんだから! 」

 

「アンタ、薬師でもあるのか? 」

 

 何かオレに話しが振られたのかと思えば、シャンフィの通訳で薬師なのかという問いにオレは無言で頷く。

 医師免許も薬剤師免許やらもない世界だ。確りとした知識と技術さえあれば薬師だ医者だは名乗った者勝ちである。

 事実、大きな街に居るような腕の良い医者よりも、オレは知識も技術も上だろう。チートのせいで。

 その上に魔法まで使えるから、良くも悪くもなおタチが悪い。

 

 ちなみに塩と砂糖は当然錬金。元手はタダだが、さすがに商業ギルドで聞いた定価で売るつもりだし、生成もわざと粗くして不純物混じりにしてある。他の商人やらに睨まれたり、出元を詮索されたくないからな。

 

「アーズは魔法も色々使えるから、多分、街のお医者さんよりもすごいよ」

 

 自慢げに「えっへん」と胸を張るシャンフィ。恐らく話の流れからオレのことを自慢しているのだろうが、出来れば勘弁してほしい。なんとなく気恥ずかしいし、何より妙なフラグが立ちやしないか心配になるんで。

 

「そうか………」

 

 シャンフィの言葉に一瞬考え込んだ村長だが、男衆に声を掛けられて我に返り、オレたちの弁護をしてくれたのか、男衆たちは解散していった。

 

「………アンタら、村に滞在するのは良いが、問題だけは起こしてくれるなよ」

 

 何か他にも言いたげな表情ではあったが、どうやらオレとシャンフィの村への逗留は認めてくれるようだ。

 

 

 こうしてカロロ村一日目の騒動は終わり、酒場兼宿屋に泊まったのだが、当然のように夕食を取った酒場で怖がられた。そして疲れからなのか妙なテンションのシャンフィは「ベッドかたーい♪ 」と牛車の良すぎる寝床と比べて固いベッドにはしゃいでいた。

 

 

 

「はーい、よってらっしゃい見てらっしゃい!! 」

 

 翌日、盗難防止やタロウスへのいたずら防止の結界を張っておいた牛車に宿から戻り、早速商売を始めることにした。

 売り物はオレが錬金した鉄を加工し、行き過ぎないように微量に魔法を付与した金物の雑貨類をメインに、子供向けに軽い木で作った大小の鞘付きの木剣に、錬金したワタを用いエテジエで買った安い厚手の布で作った大きいのと、麻で作った小いくまのぬいぐるみ、というかテディベア。そして薬草採取から調合して作ったオレ謹製の薬と乾燥させた薬草類。

 

 大きな麻の御座をひいて、その上にそれらを広げ、シャンフィを売り子に客を待つ。

 

 頑張るシャンフィのおかげで昨日居合わせた男集だろう男性たちが何人か来て覗いてくれているが、相も変わらず怖がられ、避けられているオレ。

 

 オレが陣取り座る薬と薬草類を売る御座を別にして正解だったが、薬は売れそうにないなこりゃ。街でもそう売ってない良い物も揃えているんだが。

 

「あ、あの………」

 

「! はいはいはーい、お薬ですね。色々取り揃えてますから、症状なんかを言ってくれればすぐご用意しいますよー♪ 」

 

 薬を求める客が来ないことに、もはや諦めの境地になってきていた俺の方へ、恐々(こわごわ)と引け腰でやってきたのは20代半ばくらいの、どこかやつれた女性だった。それに気付いたシャンフィが素早く声を掛けた。

 

「あ、うちの子のための薬が欲しいのだけど………」

 

 声を掛けてきたシャンフィにホッとしながらも、オレを怖そうにチラチラと見ながら答えていく女性。

 

『アーズ、このヒトの子供が病気で、そのためのお薬が欲しいって言ってるんだけど………』

 

 シャンフィの聞き出した話によれば、この女性、奥さんの数えで10歳になるお子さんが半身麻痺で、ほぼ寝たきりなのだそうだ。

 5、6歳の頃から足が動かなくなり始め、今では腰から下はまったく動かせず、その上で時折頭や胸に痛みを訴えるそうだ。

 医者も居ない村故に原因はわからず、街の医者に見せたくとも病のお子さんは短い旅でも耐えられそうになく、親である奥さんたちに出来ることは一番近い隣り村にいる薬師から痛み止めなどの薬を貰って来ることくらいしかないらしい。

 

 数え歳で10歳ということは、9歳か……… 痛みを伴う半身麻痺で歩くことが出来ない9歳児、か。そういやそんな薄幸のキャラいたな、魔砲少女モノで。エピローグと次シリーズではそんな面影一切なくなってたが。

 

 と、脱線した。

 

 実際に病で苦しんでる子供を持つ親である奥さんに対して不謹慎だったな。

 しかし、痛みを伴う半身麻痺か、どう考えても薬だけで治るようには思えん。原因を調べるためにも魔法を使った治療が必要だろうか?

 

ジガガギビゴンボゾリゲデロサゲバギバ(実際にその子を診せてもらえないか)

「!? 」

 

「えーと、実際にその子を診せてもらえないかって言ってます」

 

「うちの子を、ですか………」

 

 シャンフィと話していたオレが突然話しかけたせいか驚く奥さん。

 驚かれて引かれたことにちょいとショックを受けたオレに、小さく苦笑しながらも冷静に通訳するシャンフィ。

 

「自分は魔法が使えるし、医術の心得もある。治せると言いきれないが、最低でも病の原因はわかるかもしれないって言ってます」

 

「!? 

 ほ、本当に! 本当にうちの子を、ヴィントを治せるんですか! 」

 

「お、落ち着いて、落ち着いてください!

 えっと、治せるかは保証できない。どういう病なのか実際に診て調べないことにはって」

 

「すぐに、すぐに連れてきます!

 だから、どうか、どうかヴィントをお願いします!! 」

 

 やつれた様子もどこへやらという(てい)で、奥さんは勢い良く深々と頭を下げて言い募ると、すぐさま取って返すように走り出した。

 

 いや、連れてこんでも、案内してくれるなら家まで行ったんだがな。一旦店仕舞いして。

 お子さん、ヴィント君? 背負って連れて来たりして大丈夫なのかね。

 

 

 

 そんなことがあって待つことしばし。ヒトが集まりだした。

 

 ただし、遠めに。

 

 恐らく、さっきの奥さんとのやり取りで噂がすぐ広がり、ヴィント君の病を治せるのかどうか気になって見に来たといったところだろうか。

 どうせ集まるなら、もう少し近づいて何か買っていってほしいんだが。オレの方に来て、薬を買ってくれとか贅沢言わんから。

 

『アーズ、来たみたいだよ』

 

 先程の奥さんに連れられて、ヴィント君らしき男の子を背負って来た男性、恐らく奥さんの旦那さんなのだろうが、そのガタイの良い身体付きと白髪まじりの茶色の髪には見覚えがあった。昨日会って話した村長だ。

 

 なるほど、昨日オレが薬師でもあると聞いて、何か言いたげな顔をしていたのは息子のヴィント少年のことだったわけか。

 で、奥さんが勇気を振り絞ってオレのところへ来たのは、旦那さんである村長にそれを聞いていたから。

 

 昨日の様子から言って村長の方は息子の病を半ば諦めているっぽいな。そうでないならあんな顔せずに藁にも縋る思いで息子の病状を打ち明けているはずだ。

 

 まあ、仕方がない。

 ココは大小どちらの病院もすぐ見つけられて行くことが出来て、ちゃんとした医療を受けられる現代世界の日本などとは違うし、代わりに魔法があるとはいえども、万人に手が届くというわけでも万病に効くわけでもない。そんな世界で身内に難病を抱えた者がいたら、長い闘病を続けることになれば、治ってほしいと思いながらも半ば諦めてもしまうだろう。

 

 そんなことを考えながら、御座に広げられていた薬や薬草を仕舞い片付けて、ヴィント少年を診る為のスペースを作る。

 

「あの、この子がうちの子です。お願いします! どうか、どうか! 」

 

 もはやオレを怖がることなどなく、奥さんは勢い込んで縋りつくように言い募ってくる。

 

「ゴヂヅギデ、リスドギダダギジョグ、ゼビスガギシンボドパグスンゼガンギンギデゾギギ」

 

「落ち着いて、診ると言った以上、出来る限りのことはするので安心してほしいって言ってます」

 

 御座に奥さんに支えられるように座らされたヴィント少年に怖がられないよう意識しつつ、務めて温和に、温かみが出るように言葉を紡いだが、当のヴィント少年は病のせいか気だるげで顔色も悪く、怖がられているのか今ひとつ読み取れない。

 

「これから触診、足に触るが、怖がらず力を抜いてくれって。

 あ! 何か痛いとか苦しいとか感じたら、どこがどうだとか遠慮せず言ってね。大事なことだから」

 

 通訳しつつ何かオレの言い忘れたことをシャンフィが付け足してくれているようだ。本当にシャンフィ(この娘)には頭が上がらない。

 異形の身体(こんな身)でまさかSYOUBAI(ショウバイ)が出来て、こんな風に医者の真似事まで出来るなんて、この世界で目を覚ました時から思いも寄らなかったことだから。

 

 さて、ヴィント少年の足を軽く握るように、マッサージのように触っていく。ゆっくりと膝を曲げたり、時折傷が付かない程度に爪を立てるように抓って様子を見るが、ヴィント少年にこれといった反応はない。完全に麻痺していて感覚がなくなっているようだ。

 

 触診をやめて、顎に手をやり考える。

 半身麻痺は間違いないみたいなんだが、何か妙な感じがするんだなあ。こう、勘のようなものなんだが、ヴィント少年の身体を侵している病は医学的なものじゃないような気がするのだ。脊髄神経がどうのこうのというようなものではないのではないか? と。時折感じるという痛みも腰とか背中ではなく、胸の痛みに頭痛。下半身の麻痺に関係なさそうな部位だ。

 

 まさか、いや、でも、調べる価値は、あるか。

 オレはすぐさま目と額―― 触覚と逆三角に並ぶ三つ目 ――に力を込め、超感覚を駆使してヴィント少年の身体を視る。

 

 勿論視るのは身体機能、ではなく魔力の流れ。

 

「……………」

 

「おい、どうなんだ」

 

「ボンボパグンガギギ」

 

「この子は運が良いって」

 

「なんだって、どういうことだ? 」

 

「ヴィントは治るんですか!? 」

 

「えーと、この子の病名は名付けるなら「魔力障害」。持って生まれた高すぎる魔力が、未熟な身体機能に悪影響を与えて、半身麻痺を引き起こしたんだって。

 あと、頭痛や胸の痛みは「チャクラ」が原因だって言ってる」

 

「ちゃくら?」

 

「大なり小なり、魔力を持った生き物全てが持つ、魔力や気、強い生命力を生み出す中枢点のことだって。

 ヒトは身体の中心線に沿って、頭頂、眉間、喉、胸(心臓)、腹、腰、股下の七つの箇所にそれがある。

 この子は眉間と胸のチャクラが、普通の子供よりも強く活性化していたせいで未成熟な身体が耐えられなくて痛みに襲われていたんだって言ってる」

 

 インストール知識にあったことを説明するが、魔力に神経がどうのこうのは省いた。これ以上 神経とか専門的なこと言っても理解できんだろうし。

 

 しっかし、まさか………あの不謹慎な脱線が、魔力搾取と魔力過剰の違いがあったとはいえ、病の原因究明のヒントになろうとは。

 

「えーと、うんと、このままなら持って2、3年。長くは生きられないって」

 

「そ、そんな………」

 

「ッ………」

 

 病の説明の後、付け加えた一言に悲痛な顔を浮べる奥さんと村長。

 

 でも、オレは最初に言ったはずだ。

 

「ザガサボンボパグンガギギ」

 

「だからこの子は運が良いって言ってる」

 

「どういうことだ、おい! 」

 

 オレはヴィント少年から離れ、おもむろに立ち上がると、売り物などの荷物を載せている幌の掛かっている牛車へ向かい、オレは「ある物」を手に取り戻る。

 

「高すぎる魔力が身体に悪影響を与えているなら、簡単だ。その魔力を弱めてやればいいって」

 

 ヴィント少年に近づきながら、もったいぶったことを言う俺の言葉もちゃんと訳してくれるシャンフィ。

 

 オレは「持って来た物」を奥さんと村長とヴィント少年に見えるようにかざす。

 

 『魔力封じの腕輪』を。

 

 これは、作った物への魔力付与の実験の際に幾つか作った魔道具で、本来は旅の途中に出くわすだろう、魔法を使う盗賊なんかの悪人を捕らえた時に使おうと用意したものだ。勿論魔道具なのでサイズフリー。ハメたらその腕に合せて伸縮するようになっているから子供でも身に付けられる。

 そしてその中でも、持って来たこれは魔力を封じる力は弱いものだが、ヴィント少年にはちょうど良いだろう。完全に封じてしまっては、ある意味で天性の才ともいえる高い魔力がもったいない。

 

「この「魔力封じの腕輪」、魔道具を着ければ、強すぎる魔力も弱まり、痛みも半身麻痺も治るだろうって」

 

「それじゃあ、ヴィントは! 」

 

「助かる、のか………」

 

 感極まった奥さんとは対照的に旦那さんの村長はどこか少し苦々しげだ。オレが商人で、この魔道具「魔力封じの腕輪」が、その商品である以上持ち上がる問題に考えが及んでいるのだろう。村長として色々村のことを考えることが多いだろうとあってなかなか聡明なヒトのようだ。

 

「金銭の心配は要らない。今は10Kほど払ってくれれば、残りはいずれこの子に払ってもらう。出世払いでなって言ってる」

 

「出世払い? どういうことですか? 」

 

 首をかしげる奥さんと困惑顔の村長に「「魔力障害」を患うほど強く高い魔力持っているということは、ある意味で天性の才ともいえる。学ぶべきところで学べば、ヒトカドの魔導師か魔道具製作者(魔術技師)になれるくらいのな」とシャンフィを通して伝える。

 

「うちの子が、ヴィントが魔導師か魔術技師に」

 

「無論、確りとしたところで学ぶ前に、病で衰えた足や身体を鍛えなおすのが先だ。それで歳と共に丈夫な身体を得られれば「魔力封じの腕輪」も要らなくなるだろうって。

 とは言え、全ては本人次第。自分の足で立って歩いて走れるようになるには、辛く苦しい思いをし続けなければならないし、魔法を学ぶことも同じだって」

 

「………ゃ……」

 

「ヴィント? 」

 

「ぼく、やるよ。がんばる………」

 

 それまで顔色悪く気だるげで、何も喋らずされるまま大人しくしていたヴィント少年が、この場で初めて言葉を口にした。その弱々しい声はしかし、決意に満ちていた。

 

 その決意に応えるようにオレは頷き、「魔力封じの腕輪」にヴィント少年の腕を通した。

 

 

 

 その後、感極まった奥さんと旦那さんの村長に涙ながらに礼を言われ、ヴィント少年は来た時同様に村長に背負われて家路に着いた。

 それでまあ、この出来事を切っ掛けにヒトが少し集まり、医者の真似事をした。さすがに飛ぶように物が売れました、とは行かなかったが、それでもオレが無意味に怖がられることがなくなったのは嬉しい収穫だ。

 

 宿の酒場でも特に目立って怖がられることがなく食事が出来て、その日は固いベッドも気にならず、良い夢が見れた、ような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ドグ・ヂヂ・ボンデギビジュジュゾ(To Be Continued)………

 


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