11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.3/3
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
▽† 冒険者 †▽
広義的には依頼の下で護衛を始めとした様々な仕事をこなす傭兵ないし冒険者ギルドに属する者を指す。
しかし、冒険者ギルドに所属する冒険者はギルドで仕事の斡旋が受けられ、情報などのサポートも受けられるため、フリーの傭兵は少ない。
冒険者ギルドを示すマークは「盾の上に剣と槍と杖が交差した」絵。
冒険者の主な収入源はギルドから斡旋された依頼の他に、討伐した魔物の体内などから採取できる魔石がある。
魔石は魔法の触媒や魔道具の主要素材として高値で取引がなされているため、腕の立つ冒険者にとっては良い収入源となっている。
ギルドへ所属するには成人していれば、(数え歳で)15歳であれば、ギルドカードの作製費用300
ギルドカードは冒険者の身分証であり、そのランクを示すものであり、またギルドからの討伐依頼用に討伐された魔物の種類と数、何日以内に討伐したかをカウントする機能があることから冒険者の仕事上なくてはならない物でもある。
ギルドカードを紛失した場合、再発行に罰金などを含めて5,000Kが必要となる。
冒険者ギルドでは冒険者自身に受けられる仕事の難易度や危険度からランク付けがなされており、S、A、B、C、D、E、Fと、Sを最高ランクとしてFが最低ランクとなっている。
冒険者のランクアップは請け負った仕事のランクや達成数などによって昇格試験を受ける資格を得て、ギルドから課せられた試験に合格することでなされる。
冒険者のランクによってカードの色が変わり、ギルドカードの色はFとEが茶色、Dが灰色、Cが銅、Bが銀、Aが金、Sが紅に金のライン、という風になっている。
その色からランクは通称でウッド、スチール、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ルビーゴールドと呼ばれている。
依頼失敗には罰則金が科せられと共に、度々依頼を失敗するなどの問題行為を起こす冒険者はランクを下げられ、場合によっては問題を起こした町にあるギルドのサポートを一切受けられなくなり、ブラックリストに載せられて各国各町のギルドへ通達されることもある。また犯罪に手を染める者などとなると除名処分され、場合によってはギルドから賞金が懸けられて討伐依頼が出されることもある。
ギルド傘下のD以上の冒険者には、有事の際に国からの召集に応えなければならない義務がある。
怪我などの何がしかの理由がない限りは、三か月に一回以上依頼を請けなければランクFは除名、ランクE以上はランクを下げられる。
ギルドで受けられる仕事はソロであればランクFは同じFまでであるが、上位ランクの者たちと合同であれば上のランクの仕事を受けることは可能。ランクE以上になれば自身のランクと同ランクの物と1ランク上の仕事を請け負うことが出来るようになる。
2人から6人でチームを組むことを「パーティー」と言い、パーティー内で一番ランクが高い者に準じた依頼を受け負うことも出来る。
また複数名による志し同じくする者たちの集まりを「クラン」という。
突然の拾弍「新しい出会いは冒険者」
『見つかった? 』
「
西(西南西)の方角はアルブレス聖王国を目指し、カランコロンカラカラと牛車を進めながらオレは【遠見】でカロロ村
で聞いた大きな狼の魔物、大狼探索を出発から続けているのだが、二日経っても未だ発見出来ていない。
『猟師さんの見間違いだったのかなあ』
「
御者台の隣りでタロウスの手綱を握りながらぼやくシャンフィに、もう一つの可能性を言う。
【遠見】使っても見付からないとなると、既にオレたちの行き先にはいなくなっていると考えるのが妥当だろう。見かけたという猟師の見間違いだったか、冒険者に狩られたか、もしくは西以外の方角に大きく移動してしまったか。
どれにせよ、今回は縁がなかったと諦めた方が良さそうだ。
いざという時のシャンフィの足の方は、何か別の、魔道具とかを作るとかを考えた方が良いかもしない。
自転車、スケボー、ローラースケートにインラインスケートなどを思い浮かべ、作るに当たってチートを使うか否か、使わないなら主要材質はどうするか、素材は揃えられるか、使う場合はと、それぞれに幾通りもの設計図を頭の中で組み上げる。
そうして御者をシャンフィと交代しながら牛車を進めて日が暮れて、休憩地点と思しき道の交わる開けた場所へ出た。
休憩地点に辿り着いたのは良いのだが、その休憩地点には先客がいた。
冒険者と思しき4人の男女、剣士の男性に魔法使いらしい格好の女性のヒューマー2人と鎧姿の赤いドラゴニアと僧侶らしい軽装のドワーフと思しき背の低い男の2人。それに森に2人分の人の気配が動き回っている。恐らく薪でも拾いに行っているのだろう。
で、やっぱり警戒された。
魔物のビックブルに牛車を牽かせているのは当然としても、オレにまでそういう目を向けんで下さい。ちゃんと服着てヒトらしい格好して御者台に座ってたんだから。
ひとまず会釈を返し、距離を置いて野営の準備、といっても寝るのは箱牛車の中でなので、夕食のためのカマドを作る程度なのだが。
タロウスの世話を終えるとシャンフィに薪拾いを任せて、ほど良い大きさの石を集めてカマドを作り、カマドに木炭をくべて魔法で火を点け、水を魔法で作り出して満たした鍋を乗せて湯を沸かしていく。
そして幌の牛車から降ろすフリをして以前に買った兎肉や野菜をアイテムボックスから取り出し、それぞれを一口大に刻んで鍋へ入れてお玉で
『わ♡ 、今日はカレー!? 』
「
薪拾いから戻ったシャンフィが嗅ぎ付けた匂いに喜びの声を上げる。
まあ、正確にはカレー味スープだが、野営故に手早く簡単に作らなければならないので仕方ない。固いパンにしみ込ませるならさらさらなスープの方が良いし。
固いパンなのは人目があるから。お隣の冒険者さんたちを気にしてだ。距離があるから大丈夫だとは思うが、そこは一応行商人、声をいつ掛けられても良いようにしておかねばね。怖がられてて可能性は低そうだけども。
シャンフィが拾ってきてくれた薪をくべてコトコト煮込むことしばし、食欲をそそるカレーの香りに待ちきれなさそうにそわそわと動く獣耳が四つ。
『
良く見ればシャンフィの隣りに座る狼の獣人らしき女の子がひとり。ショートヘアの灰色の髪に同じ毛色の獣耳、ふっさりとした尻尾をゆらゆら揺らして鼻をひくつかせたりしながらジーっと鍋を見つめている。
「シャンフィ
『ふえ? え、あ!? 誰!? 』
「? 」
シャンフィが驚いて日本語で
「あっと、あなた誰? 」
「リュコ? リュコはリュコだよ」
改めてグランロア語で問うたシャンフィに言葉を返す女の子。編み上げのブーツにピッチリとした黒のズボンと緑色の長袖に黄緑のミニスカワンピースを重ね着し、革のベルトと胸当てとグローブを身に着けたその身形から先客であった冒険者たちの仲間、恐らく薪拾いで森の中を動き回っていた気配のひとりなのだろう。
しかし、冒険者なら数え年で15以上のはずだろうに、シャンフィが歳の割りに確りしているせいもあるのか、この子が童顔だからなのか、どこかシャンフィよりも幼く見える。
「あっちにいる冒険者さんたちのところの子、だよね? 」
「うん」
「あの、アーズ、この人が怖くないの? 」
「うん」
「なんでこっちに来たの? 」
「うん」
「………明日は晴れのちぶた」
「うん」
名前を答えてからはそれっきりでシャンフィの声に碌に応えていない様子のお嬢ちゃん。煮込み中のカレースープに釘付けで、
お手上げポーズを見せたシャンフィから、名前を聞いたところから今のやり取りまでのことを聞き、苦笑する。このリュコお嬢ちゃん、見た目だけでなく、その言動も子供っぽいようだ。
苦笑しつつ、もう充分煮えたカレースープをお玉でかき回し、チートで作った木のお茶碗にすくって味見。カレー粉を少し加え、塩胡椒で味を調える。
別のお茶碗にカレースープをよそい、
しかし、オレはスイッとその手をかわして一言。
「ダデダベセダビジュグカヒイザサギバ、ゴジョグチャン」
「えっと、食べたければ20
「むぅっ、ケチー! 」
「ケチで結構、仮にもオレたちは商人だ。格安で物を売っても、意味もなくタダで物をやるほどお人好しじゃあないって」
「うう~」
く~きゅるる~とお腹を鳴らし、潤んだ目で上目使いに睨んでくるケモミミ少女なリュコお嬢ちゃん。
なにこのかわいいいきもの………
……………はっ!?
あ、あぶないあぶない。うちにもかわいいいきものさん(シャンフィ)がいなかったら、危うく貢いでしまうところだった。
「ボセパラゾグゼゾゾンギダギンゲンバビブドジャガギビ、サラザラバブグシゾチョグゴグギデヅブダダボグギンリョグゼガジヅベギダドブゲギスープ……」
「えーと、これは魔法で保存していた新鮮な肉と野菜に、様々な薬を調合して作った香辛料で味付けした特製スープ。
食材の乏しい野営で食べられるなら、普通一杯3
付け加えると、このスープ作れるのって、今のところアーズだけだから、この機を逃したらもう二度と食べられないよ」
「う~」
お腹をきゅくるく~と鳴らしながらリュコお嬢ちゃんはカレースープの入った木のお茶碗を見つめ続けた後、おもむろに懐から小さな可愛らしいピンクのリボンが付いた革袋、財布を取り出すと銅貨20枚を抜いて手を突き出した。
「はい、20K」
降参だと言うように耳と尻尾を垂らしてそう言った。
「ラギゾガシ」
「毎度あり、だって。
あ、お椀とスプーンは食べ終わったら返してね」
「うん、わかった」
中銅貨2枚を受け取り、カレースープの入ったお茶碗を差し出して手渡す。
リュコお嬢ちゃんは手に持ったお茶碗をふうふうして一口飲むと、すごく美味しいと言葉なく表現するように、コレでもかと満面の微笑を浮べて仲間の下へと帰って行った。
さて、これを切っ掛けにお隣の冒険者たちとお近づきになれれば良いんだがな。
リュコお嬢ちゃんのような娘と一緒に旅するヒトたちなら、きっと面倒見の良い、良いヒトたちのはずだ。そうあってほしい。
こっちも一応だが、冒険者でもあるし、同業者とは気の良いヒトたちなら仲良くしたいし、旅は道連れなんとやら、向かう先が一緒なら、牛車に乗せて行くのもやぶさかじゃない。
さあて、アーズ特製カレースープ、お買い求めして頂けるや否や、だな。
俺の名はフェフ。23歳、ヒューマーの男だ。
両手剣「ツヴァイハンダー」を愛剣とする剣士。そして「自由気まま、気の合う仲間と共に」を標榜するこのクラン「翼の剣」のリーダーでもある。
まあ、クランと言っても今はまだ拠点もない、ただのパーティーなんだが。
「今日も干し肉とパンだけか」
日が暮れて辿り着いた休憩地点で野営の準備中、これからの晩飯へ愚痴をこぼす赤い肌のドラゴニアの男。
こいつはブーク、歳は25で頭を除く全身鎧とカイトシールドとバトルアックスを愛用する重戦士にしてパーティーの盾役。
俺とは7年来の付き合いの気心知れた親友で、クラン「翼の剣」のサブリーダー。何かと頼りになる相棒だ。
細かいことは気にしない、やや脳筋気味なところが玉に瑕だが。
「薪拾いへ行っとるリザとリュコが兎か何か、見つけてくれるんを祈っとくべ」
田舎訛りでブークの愚痴に答えたのは、カマドを作っていたずんぐりとした短身の三十男、ドワーフのロドス。これでも僧侶で女神ナートゥーラを奉る「ナトゥラ聖教」の信徒であり、パーティーの回復役にして参謀役でもある。普段は後衛に徹して俺たちを補佐してくれているが、その気になればメイス片手に前衛でも充分通用する奮闘を見せてくれる、頼もしいクラン最年長のご意見番だ。
ちなみにリザはクォーターエルフで、片手剣を使う女剣士。リュコは狼の獣人で、PT最年少の16歳の女の子で弓使いだ。今ふたりには薪拾いに行ってもらっている。
「あの、馬車が………来たみたい、です」
小さな声でつば広のトンガリ帽子にローブを纏った少女が言う。
彼女はマリー。17歳のヒューマーで、その出で立ち通り魔法使いだ。
少々内気で口下手な娘で、お師匠さんに卒業試験だと15になると共に放り出されて冒険者になった娘だ。
右も左もわからない冒険者になりたての頃にリザと出会って以降 気も合い、俺たちと出会うまで二人一緒に冒険者をやっていたらしい。
と、マリーの言葉に彼女が見やる方へ目を向け、耳をそばだてれば確かに馬車らしい音が聞こえてきた。ただカランコロンってベルの音は何なんだろうか?
そうして夕日に照らされてやって来たのは馬車ではなかった、いや馬車ではあると思うのだが、大きな箱馬車を引いていたのは馬ではなくて、一頭のビックブル。牛の魔物だったのだ。
しかもその御者台に座っていたのが、虫の魔物か亜人と思ってしまうような相貌をしている、見たことも聞いたこともない人種の人物だった。
思わず身構えてしまったが、他の三人も同様だったので、俺は悪くないと思う。
その、変わった相貌の人物、男性はこちらの態度に気付いたのだろう、一瞬顔をしかめるような雰囲気を出した後、何ごともなかったように軽くこっちに会釈すると、連れの獣人の娘と野営の準備を始めた。
ビックブルの世話を終えると白い獣人の女の子は森へ薪拾いに行き、残った男性はカマドを作り、箱馬車の後に繋がれていた幌馬車から鍋と炭を持ち出すとカマドに炭をくべて魔法で火を点けた。ここまでは良い、初級下位の火の魔法なら調整次第で火種起こしに使えるというのは聞いたことがあるし、そのために不得手でも火の魔法を修得する者もいるくらいだ。まあ大概はそれ用の安い火属性の魔石か魔道具などで火種起こしをやるのが普通だが。
驚かされたのは水の魔法で鍋に水を張ったことだ。
火の魔法同様、初級下位の水の魔法も調整してやれば飲み水の確保は出来るらしいが、コップ一杯の水の確保でも魔力消費がバカにならないという。それを水属性の魔石もなしに苦もなく鍋に水を張るなどとやってみせた。
あの男性、相当な魔力を持った魔導師なのだろうか? 魔法使いとして男性に興味を持ったのか、マリーが恐々としながらもその様子をチラチラと見つめて窺っている。
「何者なんだろうな、ありゃ」
「さあナ、魔物とかじャネーのは確かだろ」
俺が油断なくあの男性に気を割いていると、さっさと腰を下ろしたブークが男性の出で立ちや一緒にいた獣人の女の子のことからか、そう返してきた。
たしかに魔物とかではないのだろうが、あの異形といえる容姿には少なくない恐れを抱いてしまう。何度も魔物と対峙してきた一端の冒険者だってのにな。
「ただいま」
「今日も不作よ。小鳥一匹見つかりやしない」
あの男性にどう対応すべきか俺が悩んでいたところへリュコとリザのふたりが薪拾いから戻って来た。
リザが溜め息を吐きながら言うとおり、薪以外ふたりは何も持っていない。これでナシャの村から立って六日連続だ。ちなみにナシャの村に着くまでは日を置かずに何がしかの魔物と遭遇していた。俺たちで手に負えないようなのには出くわさなかったのがせめてもの救いだろうか。
まあ、無属性だが幾らか質の良い魔石を魔物から採れたのだから、良い方に考えておこう。
「護衛の依頼ば取り損ねる、自分たちの足で旅しれば連日魔物に出くわす、狩りに失敗する。おらぁたち、なんぞ呪われとるんだべか」
「よしてよ、呪われてるなんて。僧侶のロドスに言われたらシャレにならないわ」
目的のために資金を貯めて節約を始めてから、ここのところの不運続きを愚痴ったロドスにリザが不機嫌そうに言葉を返す。
俺もリザ同様否定したいが、こうも立て続けにとなると今目指している「シルルーワ」の街に着いたら、教会でお払いか祝福を受け直したほうが良いかもしれないとか思えてくる。出来れば出費はあまりしたくないんだがな。
「ん? なんかすごく良い匂いがするわね」
「ああ、ほら。リザたちが薪拾いに行っている間に馬車? が来てな。その人たちの晩飯だろう」
スープを作っていたのだろうあの男性の下から、なんとも食欲をそそる匂いが漂って来ていた。
「ねぇ、馬車って馬が牽く物よね」
「ああ」
「馬が見当たらないし、なんか普通じゃない牛がいるんだけど」
「ああ、そうだな」
「アレはヒトなの、というかなんでリュコがあっちに行ってるの」
「ああ、多分ってリュコ!? 」
当然の疑問を口にしていくリザに返事を返していたら、最後に聞き逃せない言葉を聞き取り、あの男性の方へ慌てて目を向ければリュコが鍋の前に男性の連れの女の子と一緒に陣取っていた。
「何やってんだ、あいつッ」
「見たまンまだロ。匂いに釣られておこぼれもらいに行ッたンだロ」
薪をカマドにくべて火を点けていたブークが気楽そうに言う。
「リュコちゃん………」
「ハァ………あの娘は、本当に怖い物知らずね」
心配そうに声をこぼすマリーにリュコの行動に嘆息するリザ。
リュコは怖い物知らずというか天然というか、歳の割に幼いせいで好奇心が強く、ちょっと目を離すと危なっかしい真似をやっている。そのくせ運の良さと危機察知能力はヒト一倍、いや二倍という野生の本能の持ち主という娘で、親代わりの俺たちとしてはホトホト困っている。せめてもう少し大人になって自重を覚えてくれ。
「しかし、リュコがあんも無警戒に近づくとぅとば、あん御仁ば見た目とちごうて気の良きヒトばしれんな」
ロドスの言葉に俺は「なるほど確かに」と思った。リュコの危機察知は場や状況だけでなくヒトを見る目にも働く。
天使のような笑顔と甘い言葉で言い寄ってくる者でも、何がしかの害をもたらす者なら、その腹黒さを見抜き、リュコは何にも釣られることなく蛇蝎の如くその人物を嫌うし、逆に泣く子も黙る強面悪党面の者でも害を加える者でないなら、根が善人であることを見抜いてリュコは懐く。
つまり、あの男性は後者ということか。
俺はそう思い至ってやっと気を緩めることが出来た。リュコが心配なのに変わりはないが。
「んふ~♪ 」
そうしてスープの満たされた木の食器を両手に上機嫌に帰ってきたリュコ。ヒトの気も知らないでと本当にコイツは。
「ずいぶンと美味そうナ物もらッてきたナ」
「うーうん、20Kで買った」
「おいおい、金取られたのかヨ」
「んー、商人だからタダで物やれないって」
座ってパン片手に一人食べ始めたリュコにブークが問いかければ、そんな答えが返ってきた。あの男性、商人だったのか。
「うま~♡ 」
黄色いスープにほろりと解れたテト芋に火が通って透き通ったキャギ葱、赤いカージニは色添えになって匂いと共になんとも食欲をそそる。それをリュコは実に美味しそうに食べる。
スープに浸けたパンも味がしみて美味そうだ。
「………美味そうだナ」
「ピリっとしてうまーいよ♪ 」
「肉、入ッてるナ」
「うんっ♪ 」
「あッちのヒトらは商人で、20Kで買ッたンだナ? 」
「ほうはよ」
よだれを垂らしそうなブークの声にはうはむと食べながら応えるリュコ。そしてブークは「よしッ」と一人立ち上がり、男性の方へと歩き出した。
「あ、おい、ブーク! 」
「いい加減、食費ケチッてナいちャんとしたモンが食いたいンだヨ、俺は。例えば火の通ッた肉とか肉とか肉とかナ」
「そっだら、おらぁも一緒さ行くべさ」
だからちょっくら一杯買ってくると言うブークにロドスが続き――
「ふたりが行くなら私も行くわ。マリーはどうする? 」
「あの、はい……… 行きます」
――皆で行けば怖くないとばかりにリザとマリーまで続いて、俺ひとり残される。いや、傍でリュコが美味そうに晩飯を食ってはいるが。
「あー………俺も行く! 」
頭をガシガシ掻いて悩んだ挙句、俺も買いに行くことを決めた。美味そうな物を前にひとりお預けなんて御免だ。
リュコお嬢ちゃんにカレースープを売ってしばし、リュコお嬢ちゃんに続いてそのお仲間さんたちが買い求めにやって来た。
俺が喋ると一瞬揃ってギョッとされたが、なんとかシャンフィ通訳の下で話をし、聞いたところによると、ココのところやたら運が悪いらしく、本来なら商隊の護衛の仕事をしながら馬車に乗せてもらい、街から街への旅のはずが、その護衛の仕事にあり付けず、仕方なく自分たちの足で目的の街へ移動するはめになったらしい。そして運の悪さは旅の間も続き、魔物に日を置かず襲われるわ、狩りもうまくいかないわで、旅の食事はずっと固パンと干し肉と水だけという味気ない食事が続いていたらしい。
そこへやって来たオレたちとリュコお嬢ちゃんとのやり取りは正に渡りに船だったようだ。
「ズグンヅズビドパガギバンザバ、ゴセザ」
「不運続きとは災難だな、それは。だって」
「ああ、まったくさ。なんだってこう、うまく行かないのか」
「深く考えすぎナンだヨ、お前は。
まだ大金すられたとか、
フェフと名乗った焦げ茶色をした髪の青年が肩を落として言えば、ブークという赤肌のドラゴニアの青年がまだマシな状況だと粗野な言い方で暗くなるんじゃないと諌める。
ちなみにオレの言葉については聞かれるままにエテジエのティグリスさんにした時と同じに答えた。
オレは別の大陸から何がしかの魔法の事故でグランローア大陸に跳ばされて来た、シャンフィが通訳をできるのはオレ独自の儀式魔法による契約によってうんたらかんたらと説明してある。
オレ独自の儀式魔法のくだりで、おっかなびっくりながら魔法使いのマリーというお嬢さんに興味を持たれたのには、細かく聞かれるんじゃないかとちょっぴり焦ったが。
ともあれ、目的のカレースープ購入を終えてリュコお嬢ちゃんの待つ自分たちのカマドに一度戻った5人。
そして夕食を終え、お椀と匙を返しに来たフェフとブークとこうして今、話し込んでいた。
「………」
話の合間にチラリとリュコお嬢ちゃんたちの方へ目をやるシャンフィ。リザという剣士のお嬢さんが気になるようだ。まあ当然か、何しろ目下のところ旅の目的が「エルフとエルフの街を生で見たいからアルブレス聖王国を目指す」だからな。
彼女の小さいながら尖った耳から見てハーフエルフとかいったところかね?
「あのお姉さん、エルフ? ですよね」
「ん? ああ、リザか。あいつはクォーターで、生まれはアルブレスじゃなくてフリアヒュルムだって言ってたな。
エルフは愛郷心とか愛国心が強くて、アルブレスから滅多に出てこないから、アルブレス以外じゃ珍しいよな」
「なンだ? エルフに何か用でもあンのか? 」
「用があるわけじゃないんですけど、今私たちって、ひとまずの目的地にアルブレス聖霊国を目指して旅してるから、それで気になって」
「おい、おいおい。こりャあ運が廻ッてきたか」
「ブークっ」
シャンフィの言に突然上機嫌な声を上げるブークとそれを諌めるフェフ。
会話の流れをシャンフィに訳してもらって察するに、フェフたちもアルブレス聖王国を目指しているといったところだろう。護衛を雇う必要性はないが、こちらとしてもご一緒するのは構わない。短いながらこれまでの様子から見て、オレへの恐怖心や警戒心はないようだし。
「えっと、お前さんたちもアルブレスを目指しているのかって言ってる」
「あー、まあ、そうなんだ………」
歯切れ悪く答えるフェフ。遠慮しているのだろうか? それともやっぱりオレみたいな異形とはご一緒するのは勘弁願いたいとか思われてたりするのだろうか?
「俺たちャクランでナ、「翼の剣」つうンだ。デ、集まッて結束しはしたが、腰を据えて仕事をするためのホーム、拠点がネえ」
「おいっ、ブーぐぇッ!? 」
「だが、以前仕事の拠点にしてたアルブレスの「フストレー」ッて街にちョいと伝手があッてナ。他より安く拠点にナる物件を手に入れられそうナンだわ」
止めようとするフェフの顔を片手で押しのけ、話を続けるブーク。
ああ、オレも友達欲しい。
「アルブレスに行くなら、俺たちをアンタらの馬車? に乗せてッちャくれネえか。
その間は乗せてもらう分、確り護衛をやるからヨ」
「………っ、すんません、こいつ考え無しの遠慮なしなもんで。
あー、でも、もし乗せてもらえるんならお願いします。護衛料を取ろうとか思ってませんから」
ブークは「まあ、アンタは腕が立ちそうだから護衛ナンぞいらンかもだが」と付け加え、その手から逃れたフェフがブークの無遠慮をわびつつ、礼儀良く頼んでくる。
「特に目的のある旅をしてるわけではないし、アルブレスまで送るくらい構わないぞって」
オレを怖がらない相手は貴重だ。そんな相手たちと旅を共にできるならこちらとしても望むところ。「旅は道連れ、世は情け」だ。
「ありがたい、助かる! 」
「ハッハァッ! ホントーに運が廻ッて来たか、こりャ」
シャンフィを通した俺の言葉を聞くとフェフは礼を言い、バンバンとその背を叩いてブークは喜びの声を上げた。
こちらこそ一緒に旅をしてくれるということへ礼を言って喜びたい、こんな異形な身の上だけに。
そうして翌日。
幌牛車の方に彼らを乗せて出発した。