11話~20話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.3/4
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
「すごーい♪ はやいはやーーい♪ 」
ハンドルと二つの車輪の付いた木製のボードに乗り、軽快に滑らせるシャンフィ。牛車の周りを並走しながら上機嫌に喜びの声を上げてる。
あれこそ作り出してから試行錯誤を重ねて完成したアーズ∀'s印の魔道具キックボード試作一号。シャンフィはすっかり気に入った様子だ。
その速さは予定通り走る馬と並走できるくらいで、およそ1馬力はある。
舗装されてない道、ある程度の悪路を想定して車輪の大きさは直径15cmの大きさにしてある。それに合わせボードも大きくして車輪周りなどの要所要所に金属で補強した。
これに魔道具キックボードはボード部分に回すことで速度上昇効果を生むローラーがあり、一定速度以上になると車輪の側面とボードの裏面(地面側)に刻んだ術式の紋様が大気中のマナに反応して起動し、埋め込んだ無属性の魔石を魔力源に魔法を発動して自走。地面から30cmも浮き上がるようになっている。
そう、浮き上がることでどんな悪路でも安全に馬と並走できるほどの速度で走破できるというわけだ。
ゴムタイヤやサスペンションを用いれないことへの苦肉の策、と言ったところか。まあ、もし用いていたら大型化してしまい、重くて持ち運びに不便になっていただろうが。
ともあれ、魔道具キックボードは今後シャンフィに使い心地を聞き、使用後の状態を調べ、随時改良していく。そうして安全性と量産性を高めた物を売り出そうかと考えている。
それにしても、こう物造りをしていると工房が欲しくなるな。宿だとゴミが出ないよう、出てもすぐかたせるように気を使わないとならんから、あまり集中できないし。とは言え、一つところに留まるのもなあ。
「
『わかってるーー♪ 』
掛けた一声に、魔道具キックボードを乗りこなして牛車を追い越し、きゃらきゃらと笑って答えるシャンフィ。オレは苦笑を浮べた。
あの調子では休憩まで、昼まで走らせ続けるだろう。
突然の拾肆「とある噂」
― side:フェフ ―
シルルーワの街を旅の準備を整えて早々に出発してから、フリアヒュルムの国境を越え、アルブレスに入って数日。強面過ぎる、と言うか何と言うか、兎に角普通じゃない容貌の行商人アーズの牛車に俺たちクラン「翼の剣」が同乗させてもらって大体ひと月ほど。
実を言うと、アーズの多種多芸とも言えるその才覚には驚かされぱなしだったりする。
よっぽど鈍いヤツでもない限りひと目見れば相当に腕が立ちそうなのがわかるそのガタイ。使えると言う魔法は見たことも聞いたこともない独特な物。そして医術にまで精通する薬師で医者だというのだから見た目によらないとはこのことだろう。
そして新しく多種多芸ぶりに加わったのが、
「すごーい♪ はやいはやーーい♪ 」
今俺たちが乗る幌のかかった後部牛車と並走していたシャンフィが後ろ流れ、左へ大きく回りこんで追い抜いていく。
アーズ独特の魔法で普通の馬車と同じ速さで走る牛車をシャンフィが軽々と並走し追い抜けるのも、彼女の乗る奇妙な魔道具のおかげだ。
「乗り物の魔道具なんて初めて見たわ」
「つーか、あンなチッコイもンが馬みてェに速いッてのが、実際に見ててもオレは信じられねェンだガ」
「数十セルチほどだべが浮いとったべ。鳥が飛んどるように速いんと違うべか」
「………」
リザがシャンフィの乗る魔道具を物珍しげに見つめれば、ブークは訝しげに見つめ、ロドスはそんなブークに苦笑を浮かべ、マリーは魔法同様アーズ独自の魔道具に興味深そうにしている。
「お~~~」
「止めとけリュコ。お前が乗って、もし壊しでもしたら折角貯めた資金が弁償で全部パーになる」
そして俺ことフェフは、目をキラキラ輝かせてシャンフィの乗る魔道具を見つめていたリュコを押し止めていた。
あんな大きさで人が乗って馬並みの速さで走れる魔道具。世話のいらない馬代わりになる乗り物となれば、例え物を載せることができなくとも、その利用価値は高いはず。どれだけの値が付くかわかったものじゃない。
「む~、リュコも乗ーりーたーいー」
「頼むから、我慢してくれ」
俺はシャンフィが魔道具を乗り続ける間、昼になるまでリュコをなだめ続けたのだった。
― side:リザ ―
夕暮れ迫る頃、私たちはアルブレスに着いて初めての街、「プリロ」の門を潜った。
まず向かったのはアーズの牛車を預けられる商人宿。そこへアーズとシャンフィのふたりがチェックインし、私たちは彼らと別れて冒険者向けの安価な宿を探すため、ギルドへ向かう。
ついでに依頼も何かないか見ておかないと。この時間じゃ、あまり良いのはなさそうだけど。
「う~」
「リュコ、いつまでもふてくされてないの。
アーズも、もう少し改良したら乗せてくれるって言ってたでしょう」
お昼からふてくされているリュコをあやす。
リュコはシャンフィの乗っていたあの魔道具に乗りたいとアーズにせがんだものの、まだ試作品で色々手直しをしなくちゃならないからと―― シャンフィを通して ――言われ、結局 乗せてもらえず、それから今までご機嫌斜めなのだ。
ここまで機嫌が悪いのが長引くのはリュコにしては珍しい。まあ、夕飯になれば機嫌も直るだろうけれど。
「今乗りたい」
「我が侭言わない」
ぺしり、とリュコのおでこを軽く叩く。む~、とおでこを両手で押さえて見上げてくるリュコに苦笑を浮かべ、「いつまでもぐずって歩いてたら夕飯、食べそこねるわよ」と歩みを促した。
翌日、フェフたち男ども三人は依頼探しにギルドへ朝一番に向かった。うまく良い依頼を見つけてくれると良いのだけど。
そうして残った私たち三人、私とマリーとリュコは買い出しへ。旅に必要な消耗品、携帯食や救急用品にポーションなどの補充に―― ここのところはケガをするようなこともないから救急用品やポーションの補充は必要ないけれど―― 道具屋へ向かった。
「あむあむ」
「ほら、汚れてるわよ。
女の子なんだから、もう少し綺麗に食べなさい」
「………クス」
買い出しを終えてギルドへ立ち寄る道すがら、リュコに屋台で串焼きを買ってあげたのは良いのだけれど、女の子らしくない豪快な食べっぷりで口にまわりを汚してしまっている。それをハンカチで拭いてやれば、微笑ましそうに私たちを見つめるマリー。………お母さんと娘みたいって言うのはなしよ。私はまだ成長が遅くなる二十歳前の若い
「………お仕事、ちゃんと取れていると………良いですね」
「まったくね。ホーム購入のためにも、少しでも良いのが取れていれば良いのだけれど」
ジトッと睨めば視線を逸らし、話を振ってくるマリー。目くじら立ててまで怒ることもないかと乗ってあげる。これがフェフたち男どもだったら容赦はしないけど。
ともあれ、私たちがギルドへ立ち寄る理由、それは依頼探しをフェフたちだけに任せると、また取り損ねで不運続きになりそうだから。
「………」
「どうしたの? 」
しばらく歩いていると、考え込み始めたマリーに気付く。今朝も何か考え込むそぶりを見せていたけれど、何か悩み事かしら?
「………アーズさんて、すごいですよね」
「アーズ? まあ、確かに」
すごいわよね。主にあの容姿は。あれで行商人っていうのは未だに信じられないわ。一応冒険者でもあるらしいけど、冒険者として名を上げようとか本業にしようとか考えてないみたい。商人より冒険者の方がよっぽど合っていそうなんだけれどね。
まあ、それは置いておいても医者で魔導師で、さらに魔術技師の上に使う魔法は独特すぎる代物だし、ひとつだけとはいえ作って見せられた魔道具も独自の物で、売ればどれくらいの値が付くのか想像も出来ない物だった。
きっとあの牛車とやらもアーズの手が加えられているのだろう。大きく揺れることなく道を進んで行く乗り心地の良さは、もう他の馬車に乗れなくなるのではと思うほど。
積まれている荷が入れられた大小の宝箱や樽もその作りを見るに、もしかしたらアーズ手製の魔道具なのかもしれない。
「………話が出来れば、良いんですけれど」
ほう、と頬に手をついて溜め息を吐くマリー。まるで恋する乙女のようだと勘違いしそうだけれど、多分シャンフィ越しではなく、直に魔法について詳しい話がしたいのだろう。口下手なマリーにしてはヒトと自分から話したいというのは珍しい。
しかし言ってはなんだけど、いくら人となりは紳士でも、あの真っ白
………そういえば「ドラゴンに襲われたウィータ姫の噂」に出てくるのも真っ白な怪物だったわね。
確か、領地への視察に出られたウィータ姫一行をドラゴンが襲い、護衛の騎士団を追い詰め、あわやのところへヒトほどの身の丈の「白い怪物」が現れて、あっという間に獲物としてドラゴンを狩り倒して結果的にウィータ姫を救ったっていう。
アーズたちと会う前、フリアヒュルムのギルドで聞いたことだけど、信憑性は少々疑わしい。ヒトくらいの大きさのモノがたった一匹で巨大なドラゴンを瞬殺するなんてありえない。
ドラゴン殺しなんてものは、ちゃんとした頼れる仲間と万全の準備があって叶うもの。まして騎士団を追い詰めるようなドラゴンをとなればなおのこと。
大方、護衛の騎士団は追い詰められたというほどではなく、騎士団との戦いでドラゴンはそれなりのダメージを負っていたのだろう。
それにしても、信憑性は別にして「白い怪物」か。実はアーズなんてことは………
「まさかね」
「? リザ? 」
「なんでもないわ。
さ、行きましょう」
バカな妄想を軽く振り払い、マリーとリュコのふたりを促してギルドへ向かう。二、三日ほどで終らせられそうな討伐系が見つけられれば良いんだけれど。
― side:アーズ ―
グランローア大陸中央、フリアヒュルム皇国から西へ進み、とうとう国境を越えてアルブレス聖霊国に入ることが出来た。
国境でもひと悶着あったような気がしないでもないが、「いつものこといつものこと」と自分に言い聞かせて受け流し、王都は芸術の都と呼ばれる緑と水の自然豊かなエルフと獣人たちの国へ第一歩を踏み入れた。
国境越えから数日、アルブレス聖霊国で最初の街となるプリロの街に到着し、オレたちは先程宿を取ってフェフたちと一時別れ、別行動中。
そして何をやっているかと言えば、商人宿で取った二人部屋で一休憩入れ終え、預けた牛車から荷を降ろすフリをして、アイテムボックスから取り出したチートで作った品を売るために道具屋に来ている。
現在の所持金は―― 盗賊から巻き上げた分を入れても ――まだ晶貨3枚強、350
冒険者ギルドで採取系の依頼をこなしているとはいっても、その収入は微々たる物。馬車を預けられるような商人向けの宿は高く、出費の方が大きい。その上に行商も上手く行かないときてはなおさらで、ぶっちゃけ赤字続きだ。
所持金が晶貨3枚以上の大金の上、チートで元手なく売る品物を作れるから破産になるということはまずないだろうが。
まあ、そんなわけで街の道具屋へオレが作ったポーションを売りに来たわけだ。
ちなみに売るポーションは市販されている物よりわずかに質が良い程度の物で下級、中級、上級の三種類をそれぞれ四角い小さなビンに入れて十二個1ダースづつ、財布袋も入れた肩掛けのバッグに入れて持ってきている。
そして今、買い取りを頼む前に、興味に駆られてオレもシャンフィもどんな物が売られているのか、店内を見回しているんだが。
「………」
ビビられていた。
カウンターに立つ、店主か店員であろうエルフのお兄さんに滅茶苦茶ビビられていた。
オレたちが店に入った瞬間、エルフのお兄さんは顔を上げて「いらっしゃいませ」とにこやかに言おうとしたところで硬直。オレを視界に入れた途端にビビッて固まってしまった。
オレが声を掛けて正気に戻したら、確実に叫ばれるだろうな。
「シャンフィ、
ここはシャンフィに全て任せるのが無難だろう。
『あ、うん。私が買い取りお願いするね』
「
苦笑しながら請け負うシャンフィへバッグを渡し、オレはカウンターに背を向けて商品棚へ。
「あの、すみません」
「はっ、あ、はい。な、なんでしょう、か」
「買い取りお願いできますか? 」
「あ、あぁ、はい。できますよ。品物は何ですか」
ポーションを売りに来たからか、自然と棚に並べられた四角いビンのポーションに目が向いた。
下級ポーションは大銅貨1枚に銅貨20枚の120
原価は大体値段の6、7割くらいだろうか?
そうすると買い取りの売り値はおおよそで下級は70~80Kくらい、中級は400~500Kくらい、上級は1~2Cと数Kくらいといったところだろうか? それとももっと安いか?
三種類十二個ずつの3ダースだから…… まあ、大体70C前後くらいか。幾分希望的予想ではあるが銀貨50枚ほどもあれば商人向けの良宿の宿代一月分くらいにはなるかな。
『アーズ』
「シャンフィ、
『うん、74C400Kで売れたよ』
銀貨74枚と大銅貨4枚か、充分以上だな。
上々の成果に笑顔で頷いて、差し出されたバッグをシャンフィから受け取り、エルフのお兄さんにビビられつつも礼儀は大事と視線を合わせて会釈一つして店を出る。
この後は少し街を見て回ってから冒険者ギルドに行こうと思っている。
折角エルフの国に来たのだから、エルフたちの街での営みを垣間見たいじゃないか。
まあ、2:5:3くらいの感じで獣人とヒューマーの方が多いんだけども。
プリロの街の表通りを一頻り見て周り、満足したオレとシャンフィは予定通りに冒険者ギルドへ来たのだが。
「あら、シャンフィにアーズ」
「リザさん、こんにちわ」
依頼掲示板の前でリザたち三人と鉢合わせた。
夕食は一緒にしようということになっていたから丁度良い。彼女達の予定が空いているようなら、ここのギルドはカフェが併設されていることだし、しばらく時間を潰すのも良いかもしれない。
「何か良い依頼ありました? 」
「全然。一応見に来てみたけど、やっぱりこの時間じゃダメね。
フェフたちが良いのを見つけてくれていれば良いんだけど」
「討伐系の良い依頼って、朝の早い内になくなっちゃうらしいですね」
「そうなのよ。
まあ、だからフェフたちには早朝に宿を出てもらって、ギルドに来てもらってたんだけど。
不安なのよねぇ、男どもだけに任せておくと」
リザとの会話で苦笑いを浮かべるシャンフィ。中々会話がはずんでいるようだ。その間のオレはと言えば、既にめぼしい薬草採取の依頼をピックアップしをえていた。
報酬は依頼四つ分合わせて大銅貨三、四枚程度の物だが、宿代の足しにはなるだろう。
普通はこれだけ依頼をいっぺんにやったら、目当ての薬草を探し出すのに2、3日以上かかるだろうが、オレならすぐに見つけられるから一日か半日で達成できる。
「シャンフィ」
『あ、決まった? 』
「
依頼掲示板から張られている依頼書を取り、シャンフィに声を掛け、受付カウンターへ。
早く筆談できるようになりたいところだが、読み書きはまだまだ勉強中だ。幸いグランロア語には五十音のひらがなのような基本文字があるので習得はそれほど苦ではない。ただ、幾つもある単語を憶えるのに少々手間取っているが。
現在の目的地、「フストレー」の街に着く頃までには何とか筆談できるようになっていると思う。
そんなことを考えつつ、受け付け手前でシャンフィに茶色のギルドカードを渡し、怖がらるだろうから今回オレは喋らずにシャンフィに任せることにした。