2016.3/10
21話~31話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.3/5
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
22 「しゅびばひぇーーん」
「シャンフィ
『うん』
「
「………」
魔法を教えるという約束通り、シャンフィに魔法を教えていた。
まあ、まだ始めたばかりで、カロロ村でヴィント少年にした魔法の教えの焼き回しだが。
「
クラン「翼の剣」の
そして怖がられながら、少しでも街の人に慣れてもらおうと何とかカントカ仕事をこなしている。
今日は生憎の雨模様の天気なのもあって冒険者ギルドへは行かずに仕事を休み、そうして作った余暇を使って、夕食時まで宿でシャンフィに魔法を教えているわけだ。
シャンフィに、ヒトに魔法を教えることに至って、オレは自分のチート任せの魔法に手を加えることに決めた。
魔力さえ足りれば、いや、少ない魔力でもちゃんと使えるように、確りと術式を考え、構成してみようと。
幸いマリーとの筆談で、全てではないがグランローア大陸で使われている魔法の基本的な術式構成を知ることが出来たから、それを応用して上手くやろうと思う。
ひとまずは【浮遊】と【浄化】の魔法から始めようかと思案中だ。
突然の拾漆「トレイン少女? 」
小雨の降った曇り空の昨日がウソのように晴れた今日、採取の仕事を取って久しぶりに街の外へ出ている。
『はい、アーズ』
「スピア草
受けた採取の依頼は3つ。
乾燥させた根を煎じると眠り薬になるスピア草に低級ポーションの原料にもなる赤切り草。そして中級から上級ポーションの原料になる、羽を広げた鳥のような形の葉をした小鳥草。
それらを5から10個以上採取して、大体70L、中銅貨7枚ほどの収入だ。
「? 」
不意に何か聞こえたような気がして立ち上がり、耳をそばだてる。
『どうしたの? 』
「
「 い ~ や ~ ! ! 」
「! 」
『悲鳴!? 』
絹を裂くような悲鳴を耳が捉える。
悲鳴の聞こえた方角は森の奥へ視線を向ければ、立ち上る土煙。そして長い銀髪を振り乱して魔物たちから逃げる黒い肌の女の子の姿。
肌の色と尖った耳から見てダークエルフと見て間違いない。身に着けている物から、革の胸当てにショートソードを腰に下げていることから冒険者だとわかった。
恐らくだが、ギルドで請けた依頼で森の中へ入り、手に負えない魔物に遭遇したかして逃げたが追いかけられ、後は芋づる式に魔物を呼び込んでMMORPG、ネトゲ専門用語でいうトレイン状態に陥ったといったところか。
「 た ~ し ゅ け て ~ ! ! 」
涙を浮かべて必死に走るダークエルフの少女。その後ろ追うはゴブリン5匹に鳥、兎、猪、狼に熊の魔物たちが十数匹。
「あっ!? 」
それはシャンフィの声か、それともダークエルフの少女の声だったか。
ダークエルフの少女が木の根に足を取られて転んだのだ。
そしてオレは気付いた時には肩掛けバッグをシャンフィに放り渡し、魔物の群れに突っ込んでいた。
先頭を走っていた猪や狼を走り込むままに容赦なくサッカーボールキックで蹴り飛ばし、後続の猪と狼たちにぶち当てて怯ませ、続いて突然のオレの乱入に耳障りな声を張り上げるゴブリン5匹へ拳を叩き込み蹴り倒して黙らせる。熊の魔物たちが立ち上がり咆えるが、構わずにその顎目掛けて蹴り上げて頭を蹴り飛ばし、拳を叩き込んでフッ飛ばしていく。
そんなこんなで粗方の魔物を撲殺する頃には兎や鳥の、小動物の魔物は早々に逃げ出し始めていたが、ふと思い付き目に付いた隼っぽい鳥を一匹捕まえた。こう、戦闘用触手をぬるっとやって。
「大丈夫? 」
「へ、え?? あの、魔物が……あぶな………」
「ああ、うん。危なかったね。だけどもう大丈夫だよ」
「へ? 」
「
「はい?」
振り向いたダークエルフの少女と視線が交差する。
「………」
「………」
しばしの沈黙の後――
「 ひ、 ひ ぃ ~ ~ ん 、出 ぇ た ぁ ~ ~ ~ ! ? 」
――そんな悲鳴を上げてシャンフィに抱き付いた。
今まで散々怖がられて来たけど、オバケ扱いは初めてだ。
「しゅびばひぇん」
鼻水たらし涙目で謝って来るダークエルフの少女。
あれからギルドカードを見せるなどしてどうにか落ち着かせ、オレは魔物やオバケではないとなんとか誤解を解いた。
「それにしても、なんであんなに魔物に追い駆けられてたの? 」
「はい、実は……」
涙目ながらに語られた話によると、一念発起で親元を離れて冒険者を目指し、フストレーの街へやって来て冒険者になったものの、魔物が怖くて街中の雑務系依頼をこなし、宿賃を稼ぐのがやっとの毎日を送りながらも最近やっと昇格資格を得て試験を受け、どうにかこうにか合格してFからEにランクアップした。
ランクアップを機にいい加減怖がってもいられないと、冒険者なんだからと自分に言い聞かせて採取系の依頼を取って森へ。
しかし初めての薬草採取に右も左もわからず、気付いたら深く森に入りすぎていて、一匹のゴブリンに遭遇。見つかって逃げたら次々と魔物に追われたと。
彼女、体の線は細いが筋肉の付き方は実用的だ。ゴブリンくらい倒せそうだが、どうも実力に反して気が弱いようだ。
「えっと、その体格と装備ならゴブリン一匹くらい仲間を呼ぶ前に倒せただろう、だって」
「うう、男らしくなくてしみましぇん」
「え? ………男? 」
「あ、はい。僕、男です。
よく間違えられるけど……」
『お、男、の娘……』
「シャンフィ? 」
『ほとんどが
女の子と思っていたら実は男の子だったということに必要以上に驚き、何かブツブツ言いながら戦慄するシャンフィ。一体どうしたのだろう?
確かにここまで美少女然としているのに性別は男だというのは種族的に容姿の整ったエルフ―― この子はダークエルフだが ――だとしても信じ難いものはあるが、そこまで驚くことはないと思うんだがな。
何か前世の記憶の琴線に触れるものでもあったのだろうか?
「シャンフィ、
『ふぇ……はっ!?
私ってば一体………か、過去生に、引き摺られて、いた? 』
声を掛けられたことで我に返ったのか、シャンフィは先ほどの自分を鑑みてか、獣耳をヘタらせてうつむき震え始める。
「シャンフィ……」
困惑して怯えているのかとシャンフィに手を伸ばし、気遣おうとしたのだが――
『男の娘、アリだねッ! 』
――手が肩に触れる寸前に、バッとうつむけていた顔を上げると親指をビシッと立てたサムズアップサインを繰り出して非常にイイ笑顔でそんなことをのたまった。
ああ、何かシャンフィの「男の子」のニュアンスがおかしいような気がしてたけど、
しかし、前世の記憶に引き摺られるほど男の娘に反応したってことはシャンフィの前世は腐女子とかだったのかね? いや、前世が女性だったとは限らんか。グロンギ語をそらで翻訳できる特撮好きな女性て、さすがにオタクでもいそうに無いだろうし、男の娘好きの腐男子って奴だったのかね?
まあ、シャンフィの前世の性別は
そんな感じにイイ笑顔のシャンフィに呆れているとダークエルフの少女、もとい少年が声を上げた。
『あの、もしかして君も転生者? 』
聞き慣れた日本語で、気になるワードを口にして。
ダークエルフの少年、名をレイル。歳は15歳。冒険者のランクはE(ウッド)。
そして本人も自覚するヘタレ。
前世は虚弱体質で、それが祟ったのか16歳の時、風邪をこじらせて肺炎となり亡くなったらしい。
そうして気が付いたらファンタジー世界はダークエルフの両親の下に生まれた男の娘、もとい男の子になっていたという。
前世の記憶が目覚めたのは4歳頃で、それ以来 生前虚弱体質で出来なかった色々なことや、やってみたかったことにチャレンジしようと頑張って来てたらしい。親元を離れ冒険者になったのもその一環だという。
ちなみにクウガは見ていないそうなので、グロンギ語の会話は無理そうだ。覚えてもらうという手もあるが、無理強いするのもな。
『僕以外にも転生者がいるなんて……
き、聞いてください! 僕、僕………』
『うんうん、前世の記憶があると色々悩みとか出るよね。私も苦しんだからわかるよ。
でもアーズなんて記憶で悩む以前に、前世と姿どころかヒトとかけ離れた種族になちゃって大変なんだから』
『ふぇ?……』
私ばかりに注目せずに三人みんなで話そうね、と言うようにオレの話題を出したシャンフィ。それを聞いたレイル少年はオレに視線を向けてしばしの沈黙。
『転生者、なんですか。アーズ、さんも……』
「
お互いが転生者だと理解してから言葉を交わすことしばし。
『そういえば、アーズ、それ何? 』
シャンフィが指差した先は、オレの両手で包むように捕まえている隼っぽい鳥の魔物。全長は48cmほどあるだろうか。
「
『テイムするんだ、じゃあ名前考えないと♪ 』
『あの、テイムって何かするんですか、そのファルケモンに』
『ファルケモン? 』
『はい、その鳥の魔物の名前です』
コイツはファルケモンというのか、隼っぽい外見だけじゃなく名前までそれっぽいとはな。
ふむ、名前は
「
『「ハヤテ」か、良いんじゃない』
シャンフィの同意を得られたのでコイツの名前は「ハヤテ」に決定。
よし、名前も決まったし、テイムと行こう。
と、意気込んでもそう難しいことをするわけではないんだが。手で触れて力を流すだけ、と簡単なものだ。ただ今回はタロウスをテイムした時と違ってちょっとした術式を組み込んでみた。
『あの、だから、テイムってなんですか』
『あ、ごめん。
テイムって言うのはね、アーズの力で動物や魔物を手懐けて使役できるようにすことなの』
『魔物を手懐けるって?! そんなことできるんですか、アーズさんて』
『うん、他にも色々出来ちゃうよ。
なんてったって本人もドン引きするほどのチートだから』
『チートって……』
『あ、他の人には内緒ね。
悪いヒトとかに知られると、ね』
『ああ、ありますよね。悪用とか考える人に親しい誰々が捕まって~って』
『そうそう、だから秘密ね』
『ああ、ハイ。秘密にします』
にっこり笑って人差し指を唇に当てた可愛らしい仕草をして、「ね」というシャンフィに、ほんのり頬赤くしてうつむくレイル少年。
ボーイ・ミーツ・ガール、ではなく百合な雰囲気がかもし出されているように見えるのは気のせいか。
『あ、終った? 』
「
テイムし終えたファルケモン、ハヤテを空へ投げるように放つ。ハヤテは翼を広げてあっという間に空へ舞い上がった。
そしてピルルルルルッと口笛を吹き、腕を掲げればハヤテが舞い戻り、オレの腕へと止まる。
『本当に手懐けられてる』
『すごいでしょー』
自慢気にしつつ、シャンフィはオレの腕に止まった疾風を優しく撫でる。これからよろしくねというように。
『あれ、このマーク』
そうして撫でている内にハヤテの額と胸に浮かぶ∀'sの紋様に気付いた。
そう、これが組み込んでみたちょっとした術式。額や胸元など身体の何処かに∀'sの紋様を刻むというもので、ようはテイムされた魔物であることを示す証明書だ。
『どうせなら、かわいいマークの方が良かったかも』とはシャンフィの言。
要研究のようだ。
ともあれ、いい加減街に戻ろうとなり、レイルの薬草採取も手伝いながら採取を早々に終わらせたオレたちはギルドで換金した後、レイルが泊まっている安宿の一階、酒場でくつろいでいた。
まあ、店主と周りの客がくつろげているかどうかは、深く追及しないでくれ。
『へぇ、行商人をやっているんですかあ』
『正確にはやっていた、になるのかな?
工房を持つことにしたから』
『工房ですか? 』
『うん、知り合った冒険者さんたちクランのホームを間借りしてね』
『今は改築中で本格始動はまだだけど』とフーレジュース―― オレンジのようなフルーツを絞ったフレッシュジュース ――を飲みながら続けるシャンフィ。レイルは感心しきりだ。
オレはというとシャンフィと同じくフーレジュースを飲みながら筆談で話に加わる。
[ところでレイル。君はこれからどうするんだ]
同じ日本人からの転生者、ということで藁紙にグランロア語ではなく日本語を書いてレイルに見せる。
『これから、ですか? 』
[そうだ。
今のままでは冒険者として大成するどころか、一人前になることもままならないだろう]
『それは……』
本人自身自覚しているヘタレな性分で、今のままではダメなことは理解しているようでうつむいて押し黙ってしまう。
オレはシャンフィに目配せすると頷きが返され、それを良しとして一文を藁紙に書き込み、差し出した。
[レイルさえ良ければだが、一緒に来ないか]
『一緒に、ですか? 』
[一人で一人前になるのが無理なら、仲間を作って一緒に一人前になればいい]
『でも、でも僕、僕はヘタレで臆病で……足、引っ張っちゃうだろうし』
レイルは尻すぼみにそんなことを言うが――
『もう、転生者同士助け合おうって言ってるの!
返事ははっきりと、はいかイエスかヤーかダー。さあどっち! 』
『……はい! 』
――シャンフィが勢いのままに一刀両断した。
かくしてオレはシャンフィに次いで新たな仲間を得ることとなったのだった。