大体予想通りの展開だと思われますが勘弁してください<(_ _)>
2016.3/10
21話~31話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.3/6
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
幼いアラクネの額に触れさせていた指をそっと離す。
「
怯えるアラクネに言葉は通じないだろうが、敵ではないと雰囲気だけでも通じればと言葉をかける。
「……ぴ? 」
恐る恐るといった様子で顔を上げるアラクネに、こんな面じゃ意味ないだろうと思いつつ、落ち着かせようと笑顔を向ける。
「テイム、したんですよね。大丈夫なんですか? 」
心配そうに声を掛けてきたレイルに力強く頷いて応えることで、テイムによって無害化したと伝える。
とは言え、このアラクネを、この子をテイムして無害化したというよりも、オレが保護者になって守るという意味合いの方が強い気がする。あの追走劇での様子で、この子は人を害するような気性ではないように思えるから。
「
未だ怯えている様子のアラクネを宥めるように、乱れた髪を指先で整えてやる。
「
「!? 」
「ぴぃぃっ!
突然アラクネがグロンギ語を喋り出したことに驚いたが、その当人のうろたえぶりに逆に落ち着くことが出来たオレは、すぐに頭をめぐらせ原因を考える。
「
追い駆けていた時と今の違いを考えて、何がしかの外的要因による物とすればソレしか思いつかない。
テイムには荒々しい気性を大人しくしたりするなどの色々な効果があるのだが、その中でもコチラの意を解するようにする物が作用してグロンギ語を理解して喋れるようにしたのではないだろうか? 何故グランロア語や日本語ではなくグロンギ語なのかは多分、オレの力を注いでいるからそれが作用したのだろう。ホントに多分だが。
ともあれ、アラクネという半身とは言え人間に近い姿を持った者にテイムを使った結果、と考えるのが妥当か。今後のことを考えると安易に実験だとかはできそうもないから確証は持てないが。
「ぴぃぃーぃ!?
「
落ち着かせるために髪を梳かすように頭をゆっくりと優しく撫でてやりながら、もう大丈夫だから、怖いことは終わりだからと声を掛ける。
「……
そうして少女は大粒の涙を零してまたぴぃぴぃと泣き出して、しがみ付いてくると支離滅裂ながら自身のことを話し出した。
聞き取れた話の内容を要約すると以下の通り。
学校で階段から足を滑らせて気を失い、気が付いたら見知らぬ場所で蜘蛛のオバケに、アラクネの子供になっていた。
身に覚えのない知識が頭の中にあって、元の自分の顔や名前が思い出せなくて怖い。
毎日何十匹もいる姉妹同士で繰り返される共食いから必死に逃げて隠れて生き延びて来た。
成長してからは隠れるのもままならなくなり、怖い姉妹達から逃げ回るのももう限界で、先日の夜に巣から逃げ出して来た。
どうもこの子は………
「転生者、
「ぴ? 」
「日本、東京、平成、
「!?
コチラを見上げる涙で潤んだ瞳へオレは力強く頷いた。
突然の弐拾「君の名前」
「大陸外の言葉とは言え、まがりなりにも魔物が人の言葉を話すなんて、この目で見ても信じ難いわね」
「……アラクネの上位種、アルケニクィーンは人語を解し、喋ったそうですが」
「それ本当なの? というか、アルケニクィーンなんて名前の魔物、聞いたことなんだけど」
「……何分、昔に読んだ、古い書物の記述なので………」
オレとアラクネが会話しているのを見て、不思議そうにしているリザにマリーが自分の知識を拾い出して言うが、どこか自信なさげだ。
「あ、あの~、もう大丈夫なら、その子の格好、どうにかなりませんか?
は、裸で、その、目のや、やり場が……」
「そう思うんなら自分の服を脱いで差し出すくらいしなさい、アンタは」
コツンとレイルの頭を叩くリザ。二人の意見はもっともだと思ったオレはアラクネから離れると自分の上着、薄緑に染めた長袖を脱ぎ、アラクネの少女へ被せるように着せた。
少々、というかかなりダボダボで、袖に腕を通しても手が出ずにぷらんぷらんになっている。まあ、ちゃんとした服を用意できるまで良しとしよう。これはこれで可愛いし。
「
「ぴぃ……」
村に行こうかと続けて言おうとしたその前に、この子がオレと同じで前世の名前を思い出せないことを思い出し、それを口に出すとアラクネの少女は目に見えて落ち込んだ。
これは失言だったと反省し、すぐにこの子の名前を考える。
女の子らしい可愛い名前、可愛い名前……… ぱっと思いつくのは「マリア」とか「シルヴィア」とかなんだが、この子のイメージに合わないな。かと言って日本人ぽい名前というのも戻れない前世のことを意識させたりしてダメな気がするし、もっとこう、少女っぽい名前はないのか少女っぽい名前は。
うーーん、「ミリィ」、「ルーリー」、「ティレル」、「レイシャ」、「ミーシャ」……… 「ミーシャ」? ミーシャ、ミーシャか。うん、ミーシャにしよう、なんかしっくりきた。
もっと可愛くて良い名前がありそうな気もするが、オレのネーミングセンスではこれが限界だろうし、これで行こう。
「ミーシャ、
「ミーシャ? 」
「
「ミーシャ……
名前を反芻するミーシャ。表情から見て、どうやら気に入ってくれたらしい。オレがホッとしているところへ声がかかった。
「……おい、こりゃあ、どういう状況なんだ? 」
誰の声だと顔を向ければココまで森を案内してくれたサンザ村の猟師、キーゴさんが弓を片手に警戒した様子でコチラをうかがっている。
「ぴぃっ」
ミーシャは厳つい顔で自分を睨むキーゴさんを怖がってか、慌ててオレの後ろへ隠れてしまった。
「ああ、大丈夫です、もう大丈夫なんです。
アーズさんがこの子をテイムして無害化したから」
「ていむ? なんなんだそりゃ」
「え、あー、えーと……
テイムっていうのはアーズさんの持つ独自の魔法でですね……」
レイルがわたわたと手を振ってミーシャを庇うようにキーゴさんの前に出でると事情を説明しだした。
曰く、テイムとはアーズさん独自の魔法で、動物や魔物を従属させることができる。
曰く、テイムされた動物や魔物は大人しくなる。
曰く、テイムされて大人しくなった動物や魔物はアーズさんの言うことをよく聞くようになる。
曰く、このアラクネはアーズさんにテイムされて、もう無害で人を襲わないからもう大丈夫!
曰く、兎にも角にももう大丈夫なんです!!
以上、ヘタレのレイルにしては強気で勢いのある説明で、キーゴさんを納得させることが出来た。
そうしてオレたちは村への帰路へとついた。
『そっか、大変だったね』
「ぴぃぃ」
村に帰りついたオレたちを出迎えたのはシャンフィと、村の脅威はどうなったか気に掛けた村長達だった。
そしてアラクネを連れ帰ったことで村人達が一時戦々恐々とするが、レイルたちの説明のおかげと小柄なミーシャの怯え具合でなんとか一応の落ち着きを見せた。
レイルたちが村長達に説明している間 オレはというと、シャンフィにミーシャのことを説明していた。
ミーシャはずっとオレの後ろに隠れるか、オレのズボンの端を掴んでくっ付いているかしていたが、シャンフィが同じ転生者で日本語とグロンギ語を話せるとわかるとぴぃぴぃとシャンフィに泣き付いた。やはり言葉が通じる上に日本語も話せる同性の方が安堵も大きいのだろう。
ふたりが仲良く出来るか少々心配だったが、杞憂で何よりだ。
しかし、オレだけでなくミーシャもいるとなると、このサンザ村以降の村での行商は諦めた方が良さそうだ。
村に逗留させてもらえるかさえわからないからな、素直に街へ戻って冒険者ギルドの仕事をしている方が得策だろう。
はあ、また赤字か……
オレ、商人に向いてないのかなあ、やっぱり。