【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.3/10
21話~31話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.3/6
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。




アーズ工房
28 「いらっしゃいませ! 」


 

 

 

 

 フストレーの街に留まり、工房を構えたオレの朝は早い。

 日の出よりも少々早く起き出して手早く身支度を整える。

 

『……んにゃ、ぼくおとこれすぅ~~………』

 

 同室で寝起きしているレイルはそのままに、中庭はタロウスの世話のために厩、牛舎へと向かう。

 

 馬糞袋を付けたタロウスを中庭に出し、牛舎の藁と糞を農業用熊手、ピッチフォークで専用ゴミ箱―― 【乾燥】と【消臭】の魔法を付加した木箱で使い捨てという贅沢な魔道具 ――へ投げ込み掃除していく。

 専用ゴミ箱は溜まったら街の外へ捨てに行く。穴を掘って埋めるので自然に帰るため問題ない。

 タロウスを牛舎に戻して餌をやる。

 

 ちなみに牛車は大きすぎてスペース的に置くことが出来ず、アイテムボックスに格納している。出来てしまった時はドン引きしたのは言うまでもない。

 なお、フェフたちクラン「翼の剣」面々には特殊な魔道具の使用による空間魔法だと伝えてなんとか誤魔化した。

 

 日が昇り、空が白み始めた頃にはタロウスの世話は終り、休むことなく次のはやての世話へ移る。

 牛舎から離れた場所に建てた真新しい鳥小屋からザジャデを出して、中庭に設置してある止まり木へとまらせると、空になった鳥小屋を掃除し、水を取り替えて餌となる肉の切れ端を餌置きへ置いて、ザジャデを鳥小屋へ戻してやる。

 

 こうしてタロウスとはやての世話を終えると、オレは【洗浄】の魔法で身体や衣服に付いた汚れや臭いを洗い流して【乾燥】で乾かし、とどめに【浄化】で綺麗に身を清めてから工房へ行く。

 

 

 店先や建物内の掃除をしてしまいたいところだが、それはミーシャの仕事として任せている。

 フストレーの街に帰ってきてアラクネであるミーシャが受け入れてもらえるか心配だったが、大きな問題は起きなかった。

 どうも、ミーシャと出会う行商前、宿屋の改築中に散々やった雑務系で、オレのことが街で良くも悪くも有名になっていたことで、ミーシャが受け入れられる下地が出来ていたようだ。連れ帰って来た後、工房が出来るまでは冒険者ギルドの雑務系を中心に一緒に仕事をやりながら街をあっちこっち行っていたんだが、驚かれる程度ですんでいた。

 

 「人を襲わない魔物然とした人外異形の強面なおっさん」か「人を襲わない下半身は兎も角美少女なモンスター娘」、 受け入れて親しくするなら誰だって後者の美少女を選ぶだろう。オレだってそうする。そしてそうするオレ自身が前者のおっさんなのが悲しい限りだが……

 

 まあ、それでもさすがにミーシャひとりで出かけさせるようなことはしていないし、不用意にひとりにもさせていない。万が一の備えも万全だ。

 

 

 閑話休題

 

 

 工房へ入ったオレはまずその日に何を作るか決めて、その準備をする。

 

 何分取り扱っている物が幅広い。一般向けの日用雑貨から冒険者向けの装備品までと色々作っているから、オレは作る物をその日その日で決めている。

 

 ともあれ、今日はミーシャの協力で紡いで貯まったアラクネの糸と、それを機織りした布を使った縫製にしようか。

 

 アラクネの糸で作った布は汚れに強く、耐刃性が高くて特別製のハサミと針が必要になる。なので型紙と一緒に専用のハサミや針などを用意し、作業卓にテーブルクロスを敷いてその上へ並べていく。

 ついでにミーシャたちが使う糸車と機織り機の調子も見ておく。インストール知識頼りで自作した物なので、毎日見ておかないと少々不安だ。

 

 そうして準備を終えたところでシャンフィたちを起こしに行く。

 

 朝食の用意はシャンフィとレイルの担当だ。

 

 

 

    突然の弐拾參「初めてのお客さま」

 

 

 カラカラカラ ギッタンパッタン

 

 工房内に響くのは糸車と機織り機の奏でる音。

 

 自ら出したアラクネの糸を糸車で細い糸へ紡ぐミーシャに、ぎこちないながらゆっくりと確実に機織りをするシャンフィ。

 工房にいないレイルは店番を任せている。

 

 そしてオレは型紙通り切った真っ白な生地をチクチクチクチクと、手縫いで縫製している。

 今作っているのは女性冒険者向けのミニスカートのワンピースとズボンのLサイズセットだ。

 完成したら魔法で染色する。普通の染色方法で色付けも考えたのだが、汚れに強いアラクネの糸の性質から試した普通の方法では糸であっても上手く染めることが出来ず、オレの魔法を使って染めることになった。

 

 今は真っ白な生地で服を作り、完成後に魔法で染色しているが、それではグラデーションくらいしか模様を付けることが出来ないのでいずれ、というか今日の夜にでも糸を染色して翌日辺りからデザインを皆で出し合って、それを織ろうかと考えている。

 

 

 

 ― side:レイル ―

 

 

 お昼を取った午後。制服代わりの水色のエプロンを着て、広めの店内でぽつんとひとり店番中の僕。

 

 僕らのお店、「アーズ工房」の店内は元宿屋一階の酒場だっただけあって広めに間取りを取っている。大体、元の酒場の半分くらいの広さ。 

 入り口入って左手の壁際に冒険者向けの品物を並べた棚が置かれ、反対の右側に凡そ一般向けの品物が置かれた棚が並んでいる。

 そしてカウンター近くにはサロン風のスペースがあり、小さなテーブルとイスが置かれている。アーズさんが趣味と称して望む人、受けてくれる人にお茶とお菓子を振舞うつもりで作ったものだ。

 

 まあ、接客はほとんど僕がやるんだけどね。アーズさんはどう考えても接客業向きじゃないし、本人もそれをわかっているから僕を店番にしたんだろうし。

 

「それにしても、お客さんが来ない……」

 

 立地が悪いのだから当然と言えば当然なんだけれど、でもご近所の人くらい覗きに来ても良いと思うんだけど。

 やっぱりチラシ配りくらいやればよかったかな? ひやかしでもいいから誰か来ないものかな。

 

 

 チリンチリン♪ 

 

「!?」

 

 と、カウンターにうつ伏せになって思っていた矢先に入り口の扉が開き、備え付きの鈴が鳴った。

 

「いらっしゃいませ! 」

 

 すぐさまシャキッと身を起こし、出迎えの声を上げる。

 

 入ってきたお客さんは革鎧を着込み、背中にカイトシールドを背負い、バトルアックスを腰に提げた赤肌のどこか見慣れた顔の竜人(ドラゴニア)……

 

「て、なんだブークさんか……」

 

「オイオイ、随分なオ出迎えだナ」

 

 竜人のブークさん。工房と店を間借りしているクラン、「翼の剣」のひとりでパーティーの盾役を務めているヒトだ。

 

「折角客を連れて来てやッたッてのに」

 

「お客さん、ですか? 」

 

「おう。

 ほら、入ッて来い」

 

 そう言って自分の後ろへ、店の外へ声を掛けて店内へ入ってくるブークさん。その後に続くように入って来たのはヒューマーの女の子と男の子。

 

 女の子は気の強そうな感じの子。腰まである金色の髪を一本の三つ編みしていて、それで、その、とっても母性豊かなようで、目のやり場に困ります。

 赤茶の服に黒のズボンを穿いた動きやすい軽装で、マジックロッドを腰に差していることから魔法使いのよう。

 

 男の子は柔和な感じ

で髪は灰色で短く切り揃えてる。薄い水色の服に革の胸当て、腰に剣を差していることから剣士なんだろう。

 背は隣りの女の子と大差ない、低すぎず高すぎずとi

ったところ。

 

 安物だけど真新しい装備品なんかを身に着けてるところを見るに駆け出しの冒険者さんってところかな。……… ぼくもまだ駆け出し同然だけど。

 

「へぇ~、表通りから外れた場所にあるからどんな胡散臭い店かと思ってたけど、なかなかおしゃれじゃない」

 

「失礼だよ、ファリン」

 

 高飛車な物言いの女の子を気弱そうに窘める男の子。ファリンっていうのが女の子の名前かな。

 

「紹介するぜ。コッチの嬢ちャンがファリン、コッチの坊主がキリーだ」

 

「ファリンよ」

 

「ぼくはキリーです。よろしく」

 

 女の子、ファリンちゃんは高飛車に、男の子、キリー君は大人しい感じに名乗る。

 

「僕はレイル。店共々どうぞよろしく」

 

 スマイルゼロ円、ニッコリ笑ってご挨拶。今後ともどうか御贔屓に、と出来る限り爽やかな笑顔を浮べる。

 

「さて、見ての通りコイツらは駆け出しのヒヨッコなンだが、なンか良いもン見繕ッてやッてくンネえか? 」

 

「良い物見繕って、て、もしかして試供品目当てですか」

 

 工房と店を間借りしていることもあり、拠点完成のお祝いと宣伝と実用試験を兼ねて魔導具キックボードを始め、試用が必要そうな装備品や魔導具を「翼の剣」に試供品として渡しているのだけれど、さすがにクラン外の部外者に試供品は渡せない。

 そう伝えると――

 

「そう、固いこと言うなヨ。

 前途ある後輩に先輩からの餞別ッてヤツでヨ。顔立たせてくれや」

 

 ――と、ブークさん。

 

「なんかブークさんらしくないですね。

 ヒトの面倒なんて全部フェフさんに放っちゃっていそうなのに」

 

「あのナ、オレだッてヒトの面倒くらい見るッての。

 まあ、乗り掛かッた船ッてのもあるンだがナ」

 

 乗り掛かった船とはどういうことかと聞いてみれば、ブークさん曰く、前から評判の悪かったという冒険者が先輩風吹かせてファリンちゃんとキリー君のふたりに絡んでいたところを助けて知り合った。

 それで先輩冒険者があんなのばかりだと駆け出しのふたりに思われるのは我慢ならない、新米の面倒を見るのも先輩冒険者の勤めだと、しばらくふたりの面倒を見ることに決めたと。

 で、自分たちのクランを紹介するついでに折角だからとアーズ工房の試供品を融通してもらおうと店に連れてきたらしい。

 

「そういう訳で頼む。安いもンで良いからナンか見繕ッてくれ」

 

「ハァ……しょうがないですね」

 

 溜め息一つ。アーズさんにお伺いを立てようと店の奥にある工房へ向かおうとした時、ファリンちゃんが熱心に冒険者向けのコーナーに飾られていたマネキン、女性用の冒険者用衣服を見ているのに気付く。

 飾られている衣服はミニスカートのワンピースとなめし皮のベルトとズボンのMサイズセット。色は夕日を思わせる茜色のグラデーション。スカートには花の刺繍が施されていてなかなかおしゃれな逸品。

 

「それは我がアーズ工房謹製の冒険者服。汚れに強くて刃物に強い逸品中の逸品ですよ」

 

「へぇ、ここ、こんな物まで作ってるの。

 良いじゃない。おしゃれだし」

 

「ただし、お値段は10(リオム)もしますけど」

 

「!?

 10リオッ!? 」

 

 驚いてバッと服に触れていた手を離し、身も離すファリンさん。

 

「正確には9L98(セウン)ですけどね」

 

「た、大して変わんないわよ、それ! 」

 

「何しろ、希少なアラクネの糸を使って特殊な技術で作り上げた代物ですからね。これでも赤字覚悟の特価価格なんですよ」

 

 苦笑しながら高い値段の理由を説明する。

 

 アラクネの糸は希少だ。何しろ、凶悪なモンスターであるアラクネをどうにかしないと普通は手に入れられない。まあ、手に入れられても危険と労力に見合わないから好んで手に入れようとするヒトもいないけれど。

 仮に容易に手に入れられても多分、他のところで出来るのは糸を紡いで布にするまで。裁断したり縫ったりきれいに染めたりはウチでしか、アーズさんでしか出来ないだろう。

 

「アラクネの糸って、もしかして街で噂になってる? 」

 

「ええ、どんな噂を聞いたかは知りませんけど、街に住んでるっていうアラクネは、ミーシャはウチの娘ですよ」

 

 ミーシャの噂を聞いたらしいキリー君にすごく良い娘なんですよ、と笑顔で答える。

 

「そろそろ戻ッてきてくれネえか」

 

「あっと、すみません。

 それじゃあアーズさんに聞いてきますね」

 

「いや、聞くよリもダンナ呼ンで来てくれヨ」

 

 促がされたので工房へ向かおうと思えばそんなことを言ってくるブークさん。まがりなりにも初めてのお客さん。リピーターになってもらうためにも、ここは僕ひとりで上手くやらないといけないのに。

 

「何分ヒヨッコどもだからナ、ダンナの目で見て確りした物を選ンでやッて欲しいのヨ」

 

 それって安い物でも良いって、言ってたことと矛盾するんじゃないだろうか?

 

 なんかおかしいと思ってブークさんの顔を良く見たら目が笑っていた。意地の悪そうなニヤニヤした微笑みたいな感じに。

 ファリンちゃんとキリー君に目を向けた後、僕はハァと溜め息を吐いた。折角のリピーター候補が逃げなければ良いんだけど。

 

「わかりました、呼んで来ます。

 でも、アーズさんの手が空いてたら、ですからね」

 

 連れてくるとは限りませんからね、と釘を刺して改めて店の奥にある工房へ向う。

 

 

「ダンナは強面だからなあ、ツラ見てビビるなヨ」

 

「ふん!

 駆け出しだろうがひよっこだろうが、私たちは冒険者なんだから、ちょっと怖い顔のおじさんくらいにビビるわけないでしょ! 」

 

「えっと、ぼくは、ビビる、かも……」

 

「キ・リ・ーィ! 」

 

 

 などと楽しそうな声を背に聞きながら。

 

 

 結果だけを言えば奥から出てきたアーズさんを見てふたりは小さな悲鳴を上げて怯えを見せ、ブークさんがそれを見て盛大に笑い、アーズさんはちょっと落ち込んだ。

 

 なお、ふたりに渡した試供品は下級ポーション2つに使用回数制限付きの試作魔道具、障壁を張れる木製の篭手の「試製・守りの篭手」と、この前シャンフィに護身用に渡していた「試製・烈風の木剣」だった。

 

 「試製・守りの篭手」はファリンちゃん、「試製・烈風の木剣」をキリー君に下級ポーションと一緒に渡すとブークさんは「それじャア、早速これかラひと狩り行くゾ」とファリンちゃんとキリー君のふたりを連れて店を颯爽と出て行った。

 

 ふたりが「自由気まま、気の合う仲間と共に」を標榜するクラン、「翼の剣」に加わるのかよりも、ウチのリピーターになってくれるかどうかのほうが気になったのは僕だけだろうか?

 

 

 

 

 

 

         To Be Continued………

 


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