【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.3/10
21話~31話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.3/7
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。




30 「これなんか似合うと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルショブンヂバサ(無色の力)パガギンロドヅゾギ(我が意の下 集い)ダンヅヅゾジドギブバスブグス(万物を等しく軽くする)、【レビテーション】」

 

 意識を集中し、少量の魔力を乗せて【浮遊(レビテーション)】の呪文を唱える。いつものイメージと魔力任せの魔法ではなく、ちゃんとした術式を組んでそれに則った魔法だ。

 

 魔法を受けてふわりと拳大の石が宙に浮き上がった。

 

 なぜ術式を組まずとも魔法を使うことが出来るというのに、わざわざ少ない魔力で発動する術式を組んで魔法を使っているかというと――

 

「お~」

 

 興味深い顔で宙に浮かぶ石を指でつんつんと突くシャンフィ。

 

 ―― そう、シャンフィとの約束であるオレ独自の魔法を教えるためだ。

 しかし、シャンフィへ魔法を教えるとなってオレがまず思ったのは、そのままではオレの魔法を使うことは決して出来ないだろうということ。

 なにせオレの使う魔法は法則も術理も術式もない、ただただイメージと馬鹿げた魔力量に物を言わせた魔法なのだから。魔力運用の基礎はなんとか教えられても、魔法そのものは教えることは出来ない。

 

 そこでオレはクラン翼の剣の魔法使い、マリーとの筆談で得たグランローア大陸の魔法知識を参考にして、少量の魔力で誰でも使えるように法則を考え、術理を作り、術式を組んだ。

 そうしてまず最初に作った魔法が【浮遊】、レビテーション。

 なぜレビテーションの魔法を最初に作ったかといえば、対象をゆっくりと宙に浮かせる魔法ゆえに、魔法で火を熾したり風を吹かせたりして加減を間違い二次被害が出ることもないため、そして魔力操作の練習にもなるために魔法修得に向いているだろうからだ。

 

ジヅゲンパボンバロンザバ(実演はこんなもんだな)

 

 宙に浮かべた石を掴み取り、掛けていた魔法を切る。

 

 ここ最近、仕事の休憩時間を利用してシャンフィに魔力運用の基礎を教えたりして、幾つかの魔法が出来上がるまで場繋ぎをしていたが、やっと一通りの魔法が出来上がったので数日前から法則と術理と術式、座学を教えて勉強させ、今日は中庭で簡単な魔法を軽く試してみようということになったのだ。

 

ラズパギババギジャデデリジョグバ(まずは一回やってみようか)

 

 そう言って石を地面に置いた。

 

「うん。

 ………無色の力、我が意の下 集い、万物を等しく軽くする。【レビテーション】」

 

 オレに促されたシャンフィは一度深呼吸すると、確かめていくように魔力を乗せてゆっくりと呪文を唱えていった。

 

 そしてふわりと地面に置かれた石は浮かび上がり――

 

 コトン

 

 ――と、すぐに落ちた。

 

「あぅ。

 も、もう一回」

 

 シャンフィは再び呪文を唱えるが、結果は変わらずほんの数cm浮いてコトンと落ちる。

 

「うー……」

 

ガギジョングヂパ(最初の内は)グバゲスジョシロバスブグスボドゼ(浮かせるよりも軽くすることへ)ギギビゾガギダゾグガギギ(意識を割いた方がいい)

 

 拗ねたようなシャンフィの様子に苦笑を浮べてアドバイスする。

 

「わかった。やってみる」

 

 オレのアドバイスに気を取り直して再チャレンジするシャンフィ。

 今度はふらふらと頼りないが、石はすぐに落ちるということもなく、地面から数cmのところで浮き留まっている。

 

 むーむむっ、と意識を集中しているシャンフィにオレは微笑をこぼした。

 

 【浮遊】を応用すれば、物や自身を浮かす以外に身を軽くして小さく地を蹴るだけで10mは高く跳べることも出来るようになる。

 いざという時の逃げ足に使えるだろう。

 無論、それだけでなく攻撃や防御の魔法を教えていくつもりだが。

 

 

 

    突然の弐拾伍「平凡なとある一日・ぱーと2」

 

 

 ― side:レイル ―

 

 

「ありがとうございました~」

 

 お店を出て行く冒険者のお客さんを笑顔で送り出す。

 

 チラシ配りの効果だろうか? 配ってから幾日かして大半はひやかしだけれど、お客さんがぽつぽつとお店に来るようになった。

 

 

 チリンチリン

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 お客さんを送り出して静まることしばし、ドアベルが鳴ったのでお出迎えの声を上げたけど、肝心のお客さんの姿はなく、扉がわずかに開いているだけだった。

 

「? 」

 

 なんだろうかと扉をよく見回して、視線を下げたら小さな人影が。それは6、7歳くらいの、頭に犬か狼を思わせる獣耳がひょっこりと顔を出している獣人の男の子だった。

 ビクビクとした様子で扉越しにお店の中を覗いてきている。

 

 実は最近、アーズさんのことを知っていて怖い物見たさか肝試しか、小さな子がおっかなびっくり覗きに来ることがある。

 まあ、みんなドアベルの音にビックリして覗き込む前に逃げちゃっていたんだけど。

 

「!? 」

 

「いらっしゃい」

 

 勇気を振り絞って逃げずにいるらしい男の子。目が合ったので、僕は出来るだけ優しく聞こえるように笑顔で声を掛けると、男の子は目を丸くしてコチラを見上げてきた。

 

「あ、ぅ……」

 

 カァーと顔を真っ赤にする男の子。

 そんな男の子の様子にああこれはと思い、僕は口を開いた。

 

「噂の怖い人は呼ばれでもしない限りは工房、お店の奥から出てこないから、お店には「お兄さん」しかいないよ」

 

 笑顔を浮かべながら怖くないよーと言いつつ胸に手を当てて自分を指し、しっかりと「お兄さん」を強調して「お姉さん」に間違えられたのを訂正する。

 初見で女の子に間違えられるのは慣れているとはいえ、間違え続けられて同性に好意を寄せられるのは痛い。なんか色々、お互いに。

 

「おにい、さん? 」

 

 首を傾げて意味がわからないといった様子の男の子。僕はカウンターから出て扉の方へ、男の子へと近寄る。

 

「おつかいかな? それとも何か欲しい物があって、探しに来たのかな? 」

 

「あぅ……」

 

 男の子の目線に合わせて問いかける。

 多分、怖い物見たさか肝試しだろうけれど、これを機に気軽に訪れてくれると嬉しい。子供向けの木剣にぬいぐるみやパズルといった玩具なんかも置いているから。

 

「ご……」

 

「ん? 」

 

「ごめんなさいっ! 」

 

 そう叫んで男の子はダァッと逃げて行ってしまった。チリリンッとドアベルの鳴る音と扉が締まるバタンという音を残して。

 

「ありゃりゃ」

 

 逃げられちゃったかぁ、と苦笑い。

 ちょっと性急すぎたかな。近づかずにおいでおいでの方が良かったかな。などと思いながらカウンターへ。

 

 今度、アーズさんにもっと子供受けの良い物を置こうか相談してみようかな。

 

 

 チリンチリン

 

 

 カウンターへ入る前に再びドアベルが鳴り、振り返れば狼の耳と尻尾を生やした女の子に腰まである金髪を一本の三つ編みした胸まわりの母性豊かな女の子、そして灰色の髪の柔和な感じの男の子という三人組。

 

「いらっしゃい、リュコちゃん、ファリンちゃん、キリーくん」

 

「こん」

 

「こんにちは」

 

「こんにちはー」

 

 挨拶もそこそこにリュコちゃんは入り口入って左側、冒険者向け商品が置かれた方へトトトと歩み寄り、ファリンちゃんとキリー君がその後に続いた。

 ファリンちゃんとキリー君。ふたりはブークさんに面倒を見てもらっているうちにクラン「翼の剣」でお世話になるようになり、そのまま馴染んで入団したらしい。

 

 今日は携帯食などの消耗品を補充しに来たようだ。

 リュコちゃんが携帯食のコーナーに噛り付いて目移りしている。

 携帯食は従来の干し肉や干しブドウなどから、僕たちには馴染み深いカロリーブロックなどが取り揃えられている。勿論カロリーブロックやスープの素を始めとした真新しい携帯食はアーズさんの手によるものだ。

 

 ファリンちゃんはリュコちゃんに付いて携帯食のコーナーを覗いているが、アーズさん特製アクセサリの護符(アミュレット)のコーナーが気になるのかチラチラとそちらに目が行っている。

 見た目はお洒落なアクセサリだけれど、冒険者向けということでアミュレットとしての機能はかなりの物になっている。

 例えば、羽のデザインのペンダントには俊敏性上昇の魔法効果が込められている。

 だからお値段は少々お高め、駆け出し冒険者のファリンちゃんにはまだ手が届かないんじゃないだろうか。

 

 キリー君は魔法効果を込められたアーズさん特製のナイフやダガー、ショートソードが置かれた魔法剣のコーナーを見入っていた。

 やっぱり大人しそうでも男の子。加えて曲がりなりにも剣士ともなれば、そういった物に心惹かれるのはわからなくもない。男の子なら一度は英雄譚に出てくる勇者や英雄に次いで聖剣や魔剣、魔法剣に憧れるものだしね。

 まぁ、魔法剣だけあってどれもお値段は少々どころではないお高めな一品ばかりだけど。

 

 

「アミュレット、何か気に入った物でもあった? 」

 

「な!? べ、別にッ」

 

 あんまりにもアミュレットのコーナーをチラチラと見ているものだから、気になってファリンちゃんへ話しかけるとプイッとそっぽを向かれてしまった。

 

「アミュレットは高いから、まだまだファリンちゃんたちには手が届かないだろうけど、普通のアクセサリの安い物なら手が届くと思うよ」

 

 ファリンちゃんの反応に苦笑しながらそう言って、僕は一般向けのコーナーへ進むとアクセサリコーナーはデザインの試作という理由もあって値段の安い木製品コーナーへ手を伸ばす。

 ちょっと迷って手に取ったのは金色の髪に似合いそうな、愛らしい羽の彫刻がなされ、白や淡い黄色などに染色された木製の髪留め。

 

「ほら、これなんてファリンちゃんに似合うと思うよ」

 

「別にアクセサリが欲しかったわけじゃ」

 

 と言いつつ差し出した髪留めをチラリと見つめるファリンちゃん。

 

「でも、まあ……折角、勧めてくれた、わけだし」

 

 そう言って髪留めを手に取ってくれた。

 

「に、似合う、かな? 」

 

「う、うん、とっても……」

 

 髪留めを髪に挿してはにかむファリンちゃん。こんな表情もするんだとちょっとドキッとした。気が強くていつもツンツンしてるから意外な一面を見れた気がする。

 

「キリーも、似合うと思う? 」

 

「え? ああ、うん。似合うんじゃない? 」

 

 振り向いてファリンちゃんと髪留めを目にするものの、魔法剣に夢中でとてもそっけない態度のキリー君。

 

「………」

 

 そしてムスッと機嫌を急降下させるファリンちゃん。

 

「えっと、あの」

 

「なによッ! 」

 

「あー、ははは……」

 

 なんとか宥めようと声を掛けてみたけど、あまりに不機嫌なファリンちゃんに僕は恐れをなしてしまい、笑って誤魔化した。

 

 結局 髪留めは買ってもらえたものの、ファリンちゃんはその日 一日終始ご機嫌斜めだったらしい。

 

 

 

 ― side:アーズ ―

 

 

「ふぅん」

 

 街も寝静まった真夜中。時刻は凡そ10時頃。明かりを灯さぬ暗い自室でオレは唸り声を上げた。

 何をやってるかといえば、レイルが寝息を立てているのを後ろに机について数枚の藁紙と手製のペンを手に魔法の研究を行なっていた。

 正確には魔法の研究の前段階。どんな魔法を作るのか、その魔法をどういう術理や術式で実現化するのか、などといった思索であるが。

 

 今考えているのは長距離移動のための転移魔法だ。

 

 ちなみに、明かりを灯さないでいるかといえば、就寝につくレイルへの気遣いと真っ暗な夜でも見ようと思えば暗視装置(ナイトスコープ)を装備した、どころではなく普通の昼間のように物を見ることが出来るから。夜目が利くどころではないチートぶりだ。我ながらチート乙である。

 

 ともあれ、転移魔法だ。

 転移魔法というと思いつくのは「瞬間移動」という言葉。今いる場所から一瞬で違う(できれば任意の)場所へ移動する。いわゆるテレポーテーションだが、これを行なうには三次元座標の算出というすごく難しい計算が必要で、それを本能やら感覚やらで簡略できても、やはり長距離移動にはあまり向いていない。

 なにより「魔力など条件を満たしさえすれば誰でも扱える」、そんな術理や術式で三次元座標の算出を簡易に行なえるのかと考えると無理という他ない。数学の発達していない世界で三次元座標の算出を、などと言っても理解できるわけがないのだから。

 というか、数学の発達した世界の一般人でも三次元座標の算出なんてやれといわれて出来るもんじゃない。

 

 他にないかと頭を悩ませ、そこで思い付いたのはゲーム、某竜のクエスト、DQに出てくる一度行ったことのある町へ瞬間移動する魔法、「ルーラ」。

 空へ飛び上がって目的の町へと瞬間移動するといった感じの魔法だ。

 ただ、DQの某アニメでは瞬間移動というより、飛行による超高速移動といった感じで着地時に衝撃があるようだった。

 これは制御をミスしたら着地に失敗してケガをするのではないだろうか? それに物の運搬にも向いていないような気がする。ガラス製品などのワレモノを運ぼうものなら着地の瞬間にガシャーンと割れそうだ。

 

「ふんぅ」

 

 また唸り声を上げつつ、再度考える。

 そうして今度思い付いたのは、タヌキ似の某未来から来た青いネコ型ロボットの秘密道具、どこにでも行けるあの「ドア」である。

 扉を開いて長距離の移動をショートカットし、目的地へ移動する。これならワレモノを運ぶのも扱いの注意さえすれば大丈夫だろうし、扉を大きくすれば馬車も通れるから大きな物や大量の物を運ぶことも出来る。

 魔法で扉や門、ゲートを作り出して目的地へと繋げて移動する。距離やゲートの大きさは込める魔力量で変化するようにすれば戦争などで下手に悪用されることもないだろうか? 後は、犯罪に使われないための対策として簡単な結界で転移を妨げられるように術式を考えれば大丈夫か。

 

ジョギ(よし)ボセゼギデデリジョグバ(これで行ってみようか)

 

 そう独り言つとオレは転移魔法「ゲート」を開発研究すべく、思考加速(アクセルアップ)同時並列処理(マルチタスク)を用いて頭の中でシミュレートを繰り返して術理、術式を考えては藁紙へと書き込んでいった。

 

 

 

 

 

         To Be Continued………

 


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