【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.3/10
21話~31話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.3/7
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。




31 「幾らなんでも怯え過ぎだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガ ル ル ア ア゛ ア゛ ッ ! !

 

 

「ぴぃいぃ~っ!? 」

 

ゴグバンダンビギバゲパゲンジョ(そう簡単に行かせはせんよ)

 

 インクで塗りつぶしたような真っ黒な黒毛をした狼の魔物、ブラックウルフの吠え声に怖がって悲鳴を上げ、頭を抱えてへたり込むミーシャへアラクネだが組み易しと見たか、地を蹴り飛び掛る一匹のブラックウルフ。だが、すぐにオレがミーシャを庇い、その間へと割り込んで噛み付かんと牙を剥き出しに口を開けたブラックウルフの喉元へ素早く手を添え、掬い上げるようにその身を跳ね飛ばす。

 

『落ち着いてミーシャ。

 アーズが守ってくれるから私たちに攻撃は来ないから、だから大丈夫』

 

 軽く恐慌しかけているミーシャへシャンフィが日本語でことさらに落ち着いた声音の声を掛けて落ち着かせている。

 

 跳ね飛ばされたブラックウルフは背中から地面に叩き付けられて「ギャイ゛ン゛ッ!? 」と鳴くも、残り二匹のブラックウルフは慎重に機会を窺っているのか牙を剥いて低く唸るばかりですぐには飛び掛ってはこなかった。

 

 

 

    突然の弐拾陸「いつもと違うとある一日・ぱーと1」

 

 

 

 突然だが、グランローア大陸の一週間は魔法の属性に倣うかのように地、水、火、風、光、闇(影)、天、無の八つの曜日からなる八日間だ。

 週始めの月曜は地の曜日、週終わりの土日は天と無の曜日、ついでに光と闇(影)の曜日は大体一週間の中頃にあるから水曜、といった感じだろうか。

 ちなみにひと月は5週ほどで一年12ヶ月、およそ一年480日だそうな。

 

 そして今日は光の曜日。我がアーズ工房の定休日だ。

 定休日、仕事休みというと現代日本を生きた前世持ちのオレたちには極普通のことだが、この世界ではそうでもないらしい。

 普通の店は何がしか余程のことでもない限りはどんな店でも年中無休が常識。庶民向けの店はそうしないと稼ぎが落ちるというのが大半で、そうでない貴族向けの店でも特定の日に店を―― しかも週一で ――休すむなど「稼げる時にとにかく稼ぐ」というこの世界の一般的店舗経営常識上ありえないらしい。

 まあ、(うち)はオレが世間になんとか溶け込むためにやっているのであって、稼ぐことが主目的じゃないし、置いてある商品のほとんどは元手があまり掛かっていないから、自転車操業だろうが赤字経営だろうが、最低でも生活費さえ賄えれば大した問題にならず、その上にヒートドラゴンの鱗を売って得た前金もまだ幾分残っているから、派手な贅沢さえしなければ週休一日くらい余裕なわけだ。経営方針についても今後は色々考えて行くつもりだし、鱗を売った後金も転移魔法が完成したら受け取りに行く予定だし。

 

 ともあれ、いつもなら買出しや趣味などに費やし、疲れがあれば休息に使うそんな日なのだが、今回はオレが冒険者ギルドのランクアップ条件を満たしたので、FからEランクへの昇格試験を受けるついでにシャンフィとミーシャに自衛のための実戦経験を少しでも積ませるため、試験や依頼とは関係ない狩りを行っている。

 

 肝心のEランク昇格試験の内容は「大トビトカゲ六匹の討伐と皮翼12枚の収集」。

 大トビトカゲは中型犬くらいの大きさで二足歩行で走り、両腕に付いた皮翼で空を飛ぶ。

 かなりの飛距離を飛ぶようだが、鳥のようには自由に飛べず、飛ぶというよりは「跳ぶ」といったほうが正しいようだ。

 トカゲと名は付いているが、実際は亜竜の一種だそうで、それ故なのか縄張り意識が強く、街道近くに縄張りを作っては通りかかった旅人らを襲うとか。

 また、亜竜の一種だけあって皮翼を始め、その革はそこそこ良い防具の素材になるそうだ。

 強さは駆け出しの冒険者一人でも準備さえちゃんとすれば一匹ならなんとか狩ることは出来るそうだ。多少のケガを覚悟の上で。

 さらに六匹も見つけてとなると―― 必ずしも街道近くに縄張りを作っているわけではないので ――探し出すのも合わせると一日二日掛けてもクリアは難しい依頼、らしい。

 

 しかし依頼をやるのがオレである故に、街を出て早々に六匹見つけ出して狩り終えた。探すのと移動と狩るのを合わせて大体20分ほどで。

 定められていた依頼受諾から12日間の期限をマルッと無視で即日終了である。ギルドには悪目立ちしないよう、期日までは連日午後から夕方頃まで街の外へ出て狩りのふりでもしながら個人的に使う薬草などの採取をして過ごし、期限前日か当日に依頼終了の手続きに行こうかと思う。

 

 余談だが、レイルの時のEランク昇格試験は「冒険者ランクCの試験官との模擬戦」だったそうだ。

 だからオレもてっきり試験官と模擬戦になるのかと思っていたのだが、受付で提示された試験はギルドからの討伐系依頼。

 シャンフィが受付嬢から聞き出した話によれば、なんでも今まで受けてきた依頼内容や周りからの噂や評判などから推測して実力に不安のある者は模擬戦を試験としてその腕を計り、実力が充分の者にはギルドから依頼を出して依頼達成能力などを計るのだとか。

 

 しかし、この街に来てからオレはほとんど雑務系しかしていないのだが、いつオレの実力はギルドに知られたのだろうか? まさか、昇格試験が模擬戦じゃないのは俺が怖がられるあまり試験官をやる冒険者が誰もつかまらなかったとか、ないよね……… 

 

 なんてあるわけないか♪ HA HA HA HA HA HA ……………はぁ、ぼうけんしゃぇ………

 

 

 閑話休題(まあ、何はともあれ)

 

 

 狩りを行うということでシャンフィとミーシャには―― オレが壁役をやるとはいえ万が一、億が一もありえるかもと ――しっかりとした装備を用意した。

 

 シャンフィはアラクネの糸製の冒険者服(若草色のミニスカワンピにクリーム色のズボンのセット)を着込み、各種状態異常耐性付与の術式を縫い込んだ黄色のバンダナを留め紐代わりにして白い髪をポニーテールに。

 そして防具は薄茶色に染色したヒートドラゴンの革に物理防御力強化と魔法防御力を持たせる術式を刻み、その溝に金を流し込んだ厚さ6mmの銀板を張り合わせて用いた硬革の胸当て(ハードレザープレート)硬革の篭手(ハードレザーアーム)硬革の具足(ハードレザーグリーブ)のハードレザー軽装セット。

 腰に巻いたベルトには剥ぎ取り用ナイフとロッド型やナイフ型の各種護身用魔道具とそのホルダー、そして独自に開発した空間拡張と重量軽減の術式を縫い込み、一畳一間ほどの容量がある試作品のマジックウェストポーチが下げられている。

 狩りには護身用魔道具の試し撃ちとして中衛に就いてもらう。

 

 次にミーシャだが、やはりアラクネの糸製の冒険者服(薄い青色のワンピース)に丈が肘上まである白の指貫きグローブとシャンフィのバンダナと同じ付与効果を持つ薄桃色の大きなリボンで綺麗な濡羽色(ぬればねいろ)の長い髪をうなじの辺りで結い纏めている。

 防具はヒートドラゴンの革をベージュ色に染めて使い、物理防御力強化と魔法防御力を持たせる術式を縫い込んだ腰上丈で長袖のレザージャケット。それだけでは何なので護符(アミュレット)であるブレスレットふたつとペンダントも用意。

 腰にはシャンフィと同じ剥ぎ取り用ナイフや試作品のマジックウェストポーチを下げたベルトを巻き、その手には先端にテニスボール大の無属性の透明な魔石をはめ込んだ長さ1mの簡素な作りの初心者用「魔法の杖」。

 

 そう、装備からわかる通り、ミーシャには高い魔法の素養があった。

 というか、その身に備わっていた能力(チート)的に魔法『にも』、というべきか。

 恐らく本人にやる気や覚悟やらがあれば、武術を身に付けて戦うことも出来るのだろうが、ミーシャの性格から自ら前に出て戦うというのは無理なようで、本人もそう自己申告している。

 じゃあ前に出て戦えないなら魔法で後方から、ということになって物は試しとやらせてみたらオレと同様にあっさりと出来てしまったわけだ。

 その上、派手な攻撃魔法よりも仲間の攻撃力や防御力などを上げたり、敵の力を低下させたり動きを阻害させたりする補助系の魔法、いわゆるMMORPG(ネトゲー)でいうところのBuff(バフ)debuff(デバフ)といったものが得意、というか性格的にあっているようだった。

 

 なのでミーシャには狩りでは後衛で色々やってもらうことになった。

 

 そしてオレの装備は身軽で動き易いただの布の服、ではなくアラクネの糸製で厚手に作った冒険者服だ。

 上着は長袖を腕捲りの状態でベルト留めした紺色の服で下は逆間接の足を通し易いように大き目な作りのだぶっとした焦げ茶色の膝丈半ズボン。それに剥ぎ取り用ナイフを下げたベルトのみだ。

 まあ、身体を覆っている甲殻の防御力は半端ないし、耐寒性や耐暑性が強いのか寒さや暑さは意識しないとほとんど感じないし、この世界に目覚めた時に一糸纏わぬヒトからかけ離れた姿だったせいか、服を着てなくても特に羞恥心はないし、むしろ服を着るのはほんの少しではあるが窮屈で煩わしく感じていたりする。

 だから本当は服を着る意味はあまり無いのだが、「こんな魔物みたいな容姿だけども、ちゃんと知性あるれっきとしたヒトですよー」という主張のために毎日ちゃんと服を着ている。

 

 そんなこんなで準備万端でフストレーの街から出て、西の街道を徒歩で進むこと約1時間ほどのところにある森でちゃちゃっと大トビトカゲの狩りを終えて、実戦経験を積む狩りのついでに食べられる野草や香草を探しつつ森を進み、開けた場所に出たところで飛び出してきたブラックウルフ3匹に吠えかけられた。

 

 で、冒頭に戻るわけだ。

 

 

 なお、レイルはどうしたのかというと、早朝にギルドへ向かう際に一緒になったクラン翼の剣の面々が請けた依頼、「近隣の村に出たゴブリン(10匹前後)の討伐」で近隣の村、ジェンクの村までへ行くのに徒歩で六日掛かるということでタロウスと牛車を貸すことにしたオレはレイルを御者として付いて行かせたのだ。

 また、レイルには牛車をオレがいなくとも馬車同様に運用できるようにする魔道具と色々と作ってみていた試供品の中から対ゴブリン戦を色々考えて諸々の状況で使えそうな良さげな物を主に取説+α付きで詰め合わせて持たせて送り出した。

 それとついで、と言ってはなんだが、ハヤテが自由に飛び回りたそうにしていたので一緒に連れて行かせている。

 

 今頃は旅支度も終えて街を出立してしばし、と言ったところだろうか。

 

 

  ア ォ ォ ォ゛ オ゛ ン ッ ! !

 

 

 唸りながら様子見していたブラックウルフの一匹が唐突に大きく吠えて威嚇して来たと思った瞬間、残りの一匹が隙を突くようにミーシャを宥めるシャンフィ目掛けて襲い掛からんと素早く駆け出した。

 一匹が吠えて気を惹き付け、もう一匹が作られたその隙に攻撃に出るとは、本能的な行動なのかちゃんと頭で考えてやってるのかわからないが、低ランクな魔物(ケモノ)にしては大したものだ。

 

ザバサバンダンビギバゲパゲンジョドド(だから簡単に行かせはせんよっと)

 

 もっとも、経験の浅い駆け出しの冒険者くらいなら引っ掛かるかもしれないが、広い視野以外に敏感で高性能な感覚器と超人的反射神経を持つ―― というか持ってしまっている ――オレ相手ではその程度の虚実では意味はない。

 オレの横を抜けようとしたブラックウルフに後ろ回し蹴りを繰り出す。無論コレで倒してしまわないよう手加減つきで。感じとしては足を振りぬかずに突っ込んできたブラックウルフの鼻先に足の裏が壁になるように置くといったところか。

 

 ギャウンッ!?

 

 文字通りに出鼻を挫かれたブラックウルフが悲鳴を上げて勢い良く地面をゴロゴロと転がり、隙を作ろうと吠えた方のブラックウルフも動きを見せたが、オレが軽く睨みをきかせることで牽制し、その動きを一時押し止める。

 

「シャンフィ、|ビララゾグヅバグジョグビギデデブセミーシャ《ミーシャに魔法を使うよう言ってくれ》」

 

『あ、ほらミーシャ、ホントに大丈夫だから。魔法使って援護! ね! 』

 

「ぴぃぃう……

 ()パバダダ(わかった)ガンダデデ(がんばって)リグ(みう)

 

 シャンフィの言葉もあって涙目ながらギュッと両手で杖を持ってなんとか立ち上がるミーシャ。

 

「a、【アースバインド】! 」

 

 杖を構えて狙いを定めたミーシャはオレが睨みをきかせて動きを止めているブラックウルフへ細かい詠唱をすっ飛ばし魔法を放つ。

 

 グァッ!?

 

 自らが立つ場所に異変を感じてその場から飛び退こうとしたブラックウルフだが、放たれた時点で既にミーシャの魔法は発動し終えている。一瞬で捏ね上げた粘土の形を変えるかのように地面が盛り上がり、飛び退いたブラックウルフを飲み込むように纏わり付ついてその動きを完全に封じてしまう。

 ミーシャもオレと同じでイメージした魔法を―― オレほどのバカ魔力はないみたいだが ――魔力任せで発動させることが出来た。その上にミーシャはイメージを固めるのが上手いのか、最初期のオレのようにイメージを固めるための呪文詠唱を必要とせず、すぐに魔法の名前を言うだけで魔法を使うことができたのだ。

 

 

ロボグゲビザシャンフィ(シャンフィも攻撃だ)

 

「りょーかい!  【スリーピング】」

 

 オレが最初に跳ね飛ばしたブラックウルフが戦線に復帰よろしく、最大の障害であるオレをまずどうにかしようと向かってきたのを頭に拳骨を落とすように軽く叩いてあしらいシャンフィへ指示を出す。

 そうしてオレの言葉に従ってシャンフィは腰のベルト、ホルスターのひとつに収めていた長さ30cmのロッド型魔道具を引き抜き、今あしらったブラックウルフへその先端を向けて発動キーを唱えるとロッドを装飾するように刻まれた紋様が薄っすらと光り、魔道具に込めてある魔法のひとつが発動。光りの粒子が標的となったブラックウルフの頭上に生まれ、キラキラと降り注いでは消えていく。

 

 ガウ!? ガ…… Zzzz………

 

 ブラックウルフはあっという間にフラフラしだし、ドサッと倒れると寝息を上げ始めた。

 

 眠りの魔法【誘眠(スリーピング)】。

 その名の通り、というか補助魔法といえばすぐに思い付く魔法のひとつ。対象を深い眠りへ誘うお馴染みの魔法だ。

 眠りを深くしすぎると睡眠薬の多量摂取と同じ危険に陥る可能性を念のために考慮して、その加減を考えて術式を作るのには少々苦労したが、そのおかげで魔法抵抗力が高いか誘眠耐性でもない限りはさした抵抗もなく効果を発揮する。ヒトや獣、獣系の魔物など睡眠を必要とする生物へ対しては正に「こうかはばつぐんだ」。

 その上、完成した魔法は高い即効性に反して副作用などは一切ナシ。それどころか目覚めはすっきり爽快。不眠症に悩まされている方へ絶賛お勧めの逸品に仕上がっている。

 

 ちなみにこのロッド型魔道具(正式名称:未定)、【スリーピング】の他に四つ、計五つの魔法が込めてあり、魔力を流してロッドの先を対象へ向けてそれぞれの魔法の名称をどれかひとつ唱えるだけで呪文詠唱なしにその魔法を発動することが出来る。

 我ながら護身用としてはなかなかの逸品に仕上がったと思う。

 使用メリットは呪文詠唱によるタイムラグと隙の少なさに使用者の適性に関係なく少ない魔力で五種類の魔法が一定の効果で使えること。

 デメリットは込められた魔法は固定で変更は出来ないこと、最大でも中級下位クラス相当の魔法五つ以外使えないこと、どれだけ大量に魔力を注いでも一定以下の効果しか出ないことなどだ。

 

 

「次はそっち! 【冷凍びーむ(フリーズショット)】」

 

 シャンフィは魔法が上手く決まり気を良くしたのか続けてロッド型魔道具を振るい、別の魔法を発動する。狙うはオレに蹴られてさっきまで地面をゴロゴロ転がっていたブラックウルフ。

 

『ああッ!? 』

 

 だが、そのブラックウルフはシャンフィに仲間がやられた―― 眠らされた ――のを見てシャンフィを警戒していたからか、シャンフィの動きと同時に動くことで、ロッドから撃ち出された一条の青い光線を辛くも避けてみせ、光線は地面に中って小さな氷塊を作りだした。

 

「ミーシャ!」

 

「s、【スピードダウン】! 」

 

 攻撃が外れたショックで隙だらけになっているシャンフィを庇うように動きつつ、手が空いているミーシャへ声を掛ける。行動を促されたミーシャはすぐにシャンフィの攻撃を避けたブラックウルフへ向けて魔法を掛ける。

 放ったのは攻撃性の低い素早さ低下の補助魔法だったが、シャンフィがショックから持ち直す時間を作るのには十分なものだった。

 

「こ、今度は外さないよ! 【ショックウェーブ】! 」

 

 動きの遅くなったブラックウルフへ衝撃波の魔法をロッドから放つシャンフィ。宣言通りに今度は攻撃が中り、ブラックウルフは衝撃波で弾き飛ばされるままに木へと叩き付けられて昏倒した。

 

 もがき続けてはいるものの抜け出せる気配が一向にないミーシャの魔法で動きを封じられている一匹、眠りの魔法でグースカ眠っている一匹、そして今木に叩き付けられて気を失った一匹。

 

デギジャ(ていや)

 

 キャウンッ!?

 

 魔法で動きを封じられているブラックウルフに拳骨一発、ちゃっちゃと気絶させて完全に戦闘不能に、抵抗出来ないようにする。

 実は今回の狩りは予定を決める際に話し合い、出来るだけ生け捕りにする方針にしていた。その理由は調教(テイム)のため、ではなく。ミーシャの『魔力吸収(マナドレイン)』のためだ。

 

 ミーシャは触れた他者、ヒトや魔物の持つ魔力を吸収することができ、吸収した魔力によって成長進化することが出来るらしい。最初は「ならばバカ魔力を持っているオレの魔力を吸わせれば良いのでは」と試してみたのだが、どうもオレのチートさんが仕事をしているらしく、試した際、ミーシャは一切魔力を吸うことは出来ず、逆に少なくない魔力を無駄に消費してしまったのだ。

 

 なので身を守る護身に力を付けるため狩りを行い、狩った獲物に魔力吸収をやろうということで反対1、保留1、賛成2の賛成多数でやることが決定した。

 ちなみに反対は狩りそのものへの参加を怖がったミーシャ、保留は無理にやることはないんじゃないですかと自分も同じようなことをやることになったら嫌だなーと顔に書いてあったレイルで、賛成は備えれば憂いなし&襲われた際に相手を怪我をさせずに無力化するのにも力は必要という意見でオレとシャンフィだ。

 

ガガ(さあ)ミーシャ、マナドレイン()

 

「ぴぃい……」

 

『大丈夫だよ。ほら、触っても起きないから。

 魔力を吸い切れば相手を気絶させられるでしょ? なら、ささっとやれば怖いことなんて何にもないって』

 

 意識のなくなったブラックウルフ三匹を川の字に並べてミーシャを促すが、こんな状態のでも怖いのか、身を小さくして近づこうとしない。

 そんなミーシャにシャンフィが怖がる必要はないからとブラックウルフを片手でモフモフモサモサと触ってみせる。

 

「ぴぅぅ……

 ()ゾンドグビザギジョグヅバンザジョベ(本当に大丈夫なんだよね)

 

『うん、大丈夫大丈夫。こんな風にペンペンしても起きないから』

 

「ぴ、ぴぃいぃい!? 」

 

 シャンフィが今まで触っていたブラックウルフの頭をぺしぺしと叩いてみせるが、ミーシャにはとんでもない暴挙だったらしく、恐れ戦きズザザザーと勢い良く後退り、背後にあった木にぶつかりかける。

 

「・・・・・・ギブサバンロゴヂゲグギザ(幾らなんでも怯え過ぎだ)、ミーシャ」

 

 溜め息ひとつ吐いて頭を抱える。本人から聞き出した前世の年齢から考えるとどうも保護してからのミーシャは少々幼児退行しているところがあるようだ。

 身体に精神が引きづられているのかなんなのかはわからないが、個人的分析というか見解としてはそれプラス転生直後の環境による過度のストレスと、そから一気に開放された現在のほぼ不自由のない安心できる環境。加えて頼れて甘えて良い存在―― 主に同性のシャンフィ ――がいることが起因してるのではと考えている。

 

 ともかく、マナドレインをした後にはこのブラックウルフ三匹へ血抜きを兼ねた止めとオレ指導による剥ぎ取りをシャンフィとミーシャにさせる予定なのだが、この調子ではそれもまともに出来るのやら。

 

ララバサンバ(ままならんな)ボセパ(これは)

 

 

 結局、ミーシャに嫌われるのを覚悟で厳しくあたり、ブラックウルフへマナドレインをさせ、泣いて嫌がろうとも必要なことだと強く説き、さらに厳しく言い聞かせて止めを刺させ、剥ぎ取りもしっかりと行わせた。

 そうして森で狩りを続けること3度目の、最後の剥ぎ取りをする頃には怖がり涙目の半泣きながら、オレが厳しく指示しなくともなんとか能動的に止めを刺して剥ぎ取りを行えるようになってくれていた。

 

()ヅバセダ(疲れた)……」

 

キョグパゾンドグビジョブジャダダ(今日は本当に良くやった)、ミーシャ。

 |ヅギンドギロボンバギンボドゾギバゲスジョグ《次の時にも今回のことを生かせるよう》、ガンダソグバ(頑張ろうな)

 

 日暮れ近くになったこともあり、狩りの終わりを告げたとたんにミーシャが大きく息を吐いてクタッと脱力する様を見て、フッと微笑(えみ)を浮かべたオレはその頭をポンポンと優しく撫でて労った。

 

「ぴぅう……

 ガ、ガンダス(がんばる)

 

『よーしっ、ミーシャの今日のガンバりと次もガンバるために、今日の夕飯はミーシャが大好きな「クリームシチュー」にしよっか!! 』

 

「ぴいっ♡ 」

 

 シャンフィが笑顔でミーシャの手を取って元気付けるようにそう提案をすると「今泣いた烏がもう笑う」の(ことわざ)よろしく、ミーシャもパァッと明るい笑顔を浮かべ、シャンフィへ元気良く応えてみせた。

 

「クリームシチュー()

 

 肉はブラックウルフの他に角ウサギなども狩れたから全く問題ないし、ホワイトソースを作るための牛乳と小麦粉、オル麦粉は昨日買い足したばかりだから良いとして、野菜はどうだったか? 今日の料理当番、本来はレイルだったから今朝は確認していなかったな。

 じゃが芋、人参、玉ねぎ、テト芋とカージニとキャギ葱は色々と料理に使えるから買う時は多めに買っているし、まだ幾らか残っているはずだから大丈夫か? 足りなければ今回採れた食用に出来るキノコを入れれば良いかね。

 帰ったら冷蔵庫の中、要確認だな。

 

 どうでも良いことかも知れないが(ウチ)には冷蔵庫がある。といっても魔道具ではなく、(こおり)冷蔵庫または冷蔵箱(IceBox)と呼ばれる日本では大正(1912年~1926年)頃から電気冷蔵庫の普及する昭和30年代(1955年)頃まで実際に使われていた物と同じ物で、上部の戸棚に氷塊を入れて下部の戸棚へその冷気を流し、食物を保冷するというレトロな代物だ。

 最初は魔道具で現代日本の最新型冷蔵庫ばりの物を作ろうかと思っていたのだが、シャンフィとレイルから待ったが掛かった。なんでもグランローア大陸で冷蔵庫は―― 性能はともかくとして ――既に発明されていて、魔道具製の冷蔵庫は中級以上の貴族か豪商くらいの家が持っているもので、一般家庭は魔道具製冷蔵庫なんて物は高価過ぎて買えないし、どころか住んでいる村によっては冷蔵庫(そんな便利なもの)があること自体知られてなかったりするらしい。

 それで街に住む少し裕福で生活に余裕のある家庭や資金に余裕のある飲食店などが冷蔵箱を持っているものなんだそうだ。

 シャンフィたちにそう説明され、フェフたちクラン翼の剣と同じ屋根の下で暮らすことになる以上、あまりに非常識すぎる物を作って置いておくのはまずいのではと話し合った結果、自重して―― 牛車始め自重は今更な気もしないでもないが ――大き目の冷蔵箱を作るにとどまった。

 まあ、熱伝導やら断熱やら素材やら、見た目的にわからないだろうところは思いっきり凝ったりしたけれども。

 後、冷蔵箱へ入れる氷だが、これは冷蔵箱を取り扱っている魔道具販売店が製氷専用の魔道具で氷を作っており、その店と契約して定期購入するか、別売りのある程度安価な長時間かけて水を凍らせる魔道具で氷を作ることで用意することになるそうだ。

 

 家の冷蔵箱の氷? 補充が必要になったらオレが魔法でチンカラホイっと作ってますが何か?

 

ゴセジャガジュグザンンジュンヂンダレビ(それじゃあ夕飯の準備のために)ジガゴヂスラゲビザジャブバゲソグバ(日が落ちる前に早く帰ろうか)

 

 そうシャンフィとミーシャに声を掛け、家路へとついたのだった。

 

 

 

 

 

「……バンドババダヂビバダダバ(なんとか形になったな)

 

 大きく息を吐いてそう独り言つ。

 時刻は深夜、場所はレイルと二人部屋の自室。今日からしばらくレイルがいないので気遣いで明かりを落す必要もなく、魔法の明かりを灯したまま書斎机に着いて黙々と魔法の研究を行っていたのだが、それが今、やっと一段落付くことができた。

 後は実際に使い、試していきながら不具合を見つけて是正したり、より効果的に、より効率が良くなるように改良していくだけだ。

 

ルブバスゲギセギ(無垢なる精霊)、|パセヅゾギダダベゲンシダンシンリヂドバガン《我集い束ね千里万里の道と成さん》。パガギガガギギレグババダゼパセゾギザバゲ(我が意が指し示す彼方へ我を誘え)、【転移の門(ゲート)】」

 

 早速魔力を操作し、発動した魔法を見るべく、まずはと最小最低限の魔力量を使い、制御イメージを入り口は目の前30cmほど先に、出口が背後へ、部屋の真ん中ら辺へ開くようにイメージしながら完成したばかりの魔法の呪文を唱える。

 

 フォ オ オ オ ン ム ゥ ゥ ン ン ………

 

 と、そんな重低音が厳かに響くとイメージ通りに目の前の30cmほど先に空間が歪み始め、水面に広がる波紋が固まったような「転移の門」の入り口が現れる。最小最低限の魔力で発動させた故、その大きさは子犬か子猫が通れるくらいの小ささだったが。

 そして後ろへ振り向けば入り口と同じ大きさの出口もちゃんと現れていた。

 

「ふむ」

 

 ひとまずは成功、無事に発動した。

 しばらく入り口と出口へ視線を交互に向けて魔力の流れを見つつ、「門」を維持するための魔力消費が毎秒または毎分どれだけあるのかを探るよう意識する。まあ、消費量を探ると言っても感覚的なものな上に馬鹿魔力なので、一般人的にどれくらいの消費魔力量が適正なのかもわからないんだけれども。

 ともあれ、ひとしきり素の「門」の様子を確認したオレは次に机のペン置きから自身謹製の万年筆を手に取り、その端を持って入り口へゆっくりと差し込み、「門」を通過する際の変化の確認を始める。

 

 フォンンっといった低音と共に万年筆はスッと特に抵抗もなく「門」を潜り、その身の半分が部屋の真ん中にある出口から姿を見せた。

 

「……ロンザギバギバ(問題ないな)

 

 魔力消費に変化はなく、問題なく維持されているし、万年筆を「門」を切り裂くようにその端、(ふち)へ動かして行くが抵抗が生まれて万年筆は進まず、「門」の中心部へ押し流されるように戻される。

 それらの確認を終えるとオレは万年筆を「門」から引き抜いてペン置きへと戻し、今度は自分の腕を「門」へ通してみるが不具合らしい違和感はないし、魔力消費などに変化もなかった。

 

 腕を引き抜いて魔力供給を断ち、魔法発動を終了させて「門」を閉じる。

 

ジョギ(よし)

 

 ひとつ頷くと次は人が通れる大きさで展開しての実験へ。先ほどよりも多く魔力を使い、出口は中庭になるようイメージを固めて再び呪文を唱え、「転移の門」を開く。

 

ラリョブ(魔力)グボギゴゴグギダバ(少し多過ぎたか)……」

 

 ポリポリと頭を掻き、改めて開いた「門」がヒト一人が通るには少々大きすぎる―― 天井と壁スレスレに部屋一杯に広がってしまった ――のを見て自分の馬鹿魔力に呆れつつ、気を取り直して「門」を潜るべく一歩を踏み出す。

 

 フォ ン ン ン ………

 

 響いた低音を耳にし小さな抵抗を体に受けながら足を進めれば、すぐに肌を撫でる夜風と月の淡い光りを感じ取る。辺りを見渡せば見慣れた中庭に立っていた。

 

ジョギジョギ(よしよし)ロンザギバギド(問題なしと)

 

 後は長距離での実験をこなしてトライ&エラー、試行錯誤を繰り返していくだけだと一頻り満足気に頷くオレだった。

 

 

 

 

 

         To Be Continued………

 


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