【凍結】 突然転生チート最強でnot人間   作:竜人機

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2016.2/21
1話~10話まで一部手直しに付き、差し替えました。

2018.2/25
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。



05 「オレの名は……」

 

 

 

 

 

ゴ ラ ゲ サ ヅ ヅ ヅ ヅ グ(お ま え ら ぶ っ つ ぶ す)! ! 」

 

 

 どらごん(にく)を前にして邪魔された怒りのままに叫んですぐさま右手を邪魔してきたゴブリンメイジたちに向けた。

 この時、オレは目には目を歯に歯を的なつもりで魔法的なものでドカーンとやり返してやるつもりだった。

 

 でも出てきたは魔法でもなければ某バトルマンガの気功砲でもなく――

 

 ドシュリッ

 

「ギャハベッ!? 」

 

「ギョべギャー!! 」

 

「ギャゲギャギャ!! 」

 

 獲物目掛けて喰らいつく蛇の如くゴブリンメイジの胸を刺し貫いた銀色メタリックな触手。

 

 手首下にあった例の窪みから伸びたそれはゴブリンメイジを貫いただけでは飽き足らぬと言うように、触手が生えたと驚愕するオレを置いてけぼりに耳障りな声で慄き喚き散らすゴブリンアーチャーたちに怒りを覚えたオレの意思を受けてそいつらにもすぐさま襲い掛かった。

 

 大きくたわみ、振られ、締め上げ、(うごめ)き、槍の穂先のように尖った鋭利な先端で掻き裂き突き刺し貫く。それらの攻撃動作を澱みなくまるで一個の生き物のように動いてみせる。

 そのくせ表面は銀色メタリックで細かな節々があり、日の光りを反射して―― 触覚も鈍く、自分の身体の一部と思えないことも相俟って ――機械的な印象を強く与えてくる。なんとも矛盾したヤツである。

 

 触手といえばR-18でエロエロの<自主規制>の<激しく自主規制>なイメージが強いんだが、コイツにはそんなイメージとは一切無縁、むしろ触手の前に「戦闘用」とか付けないといけないような気がしてくる。

 それはなぜか、機械的な見た目もさることながら根元を持って振り回すと思わず某人気作品シリーズ一のヒゲダンディの名セリフ「ザクとは違うのだよ! ザクとは! 」を叫びたくなるから。

 

 これまで通りなら触手が出てきたところで右から左に流すことが出来ずに自分にどん引きしているところだが、今はそんな余裕はない。

 

 空腹なのだ。

 

 腹が減っているのだ。

 

 お腹が空いているのだ。

 

 そして何よりご飯の邪魔をされて頭にキているのだ、このオレは。

 

 どん引きしている暇があらばこそ、さっさと怒りの矛先であるゴブリンども(障害)血祭りに上げ(取り除き)、誰にも邪魔されない自由で救われた時間、スーパーにっくにくご飯タイムに直行したいのだ。

 

 戦闘用触手を頭上でり2回3回と大きく思いっき振り回して付いた遠心力に任せて横薙ぎの振るう。

 

「メーーーシーーー! 」

 

 そしてご飯への渇望と邪魔された怒りを叫びつつ勢いのままぐるりと一回転。オレに向かってこようとしたが、ゴブリンメイジたちの最後、瞬殺ぶりに動揺し動けずに囲う形にだけになっていたオークとゴブリンたちを纏めて薙ぎ倒す。

 殆どが弾き飛ばされるが、残りの運の悪い奴らに至っては戦闘用触手の切っ先に当たり掻きれて(はらわた)をブチ撒け、首が裂かれ千切れて飛んだ。

 

 

 全て終った後でわかったことだが、この戦闘用触手にはフッ素加工かマーブルやダイヤモンドなコーティングされているのか、どういう仕掛けなのか皆目わからないが、血の脂はおろか血の一滴、いや液体一滴すら付着していなかった。

 振り回してるせいにしてもありえないことだろう。まあ、使った後に身体ん中に戻すしかないんだから助かるちゃ助かるのだが。根元とかから自切できれば一番良いんだが。精神衛生的に。

 

 

  オ゛ ル゛ ル゛ ル゛ ル゛ ル゛ ル゛ ル゛ ル゛ ゥ゛ ゥ゛ ゥ゛ ゥ゛ ゥ゛ ……… 

 

 

 元から騎士との戦いで数を削られていたオークとゴブリンはそれで一掃。そしてどらごん(にく)はオレが来た時から牙を剥いて威嚇の声を上げてこちらを睨み続けていた。

 

 まさかにくのくせに、もといドラゴンのくせにオレ如きに恐れを抱いているというのか?

 だとしたら拍子抜けどころかガッカリだ。やっぱりドラゴンはどんな種類であっても「強く・雄々しく・カッコ良く」なければ。

 小型種とかならいざ知らず、小山以上の身の丈のくせに相対したのが異形とはいえ人程度の小さな生き物だというのに怯えを見せるドラゴンなどドラゴンじゃない。

 

 こいつはやっぱり「にく(・・)」で充分だ。

 

 

  オ゛ ル ! ?

 

  ……ッ グ ル オ ア ア ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ッ ! !   

 

 

 一瞬ビクついたと思った次の瞬間見下されたと察してプライドが傷ついたのか、怒髪天の咆哮と共に踏み込んでその巨体を捻り、尾による攻撃を繰り出してきた。

 

 踏み込みを目にしたオレはすぐさま戦闘用触手を引き戻し収納。余裕を持って自慢の脚力で高々と上空(・・)へと跳び、尾の攻撃を躱す。

 

 見下したがゆえの慢心か、それとも実戦など本来したこともない経験のなさゆえか、空を飛ぶ翼も力もない者が上空へ逃げるなどという下の下の下策を選択してしまったと気付いたのは――

 

 

   グ ア゛ ア゛ ァ゛ ッ ! ! !

 

 

 ――ブレス攻撃を碌に身動き出来ないところへ喰らおうかという直前だった。

 

 あわやという寸でのところで咄嗟ではあったがここへ来る時にやった「空を蹴って進む」方法で危機から脱出できた。ただ代償に森に突っ込み受身も取れずに木々に激突して幾本もへし折ってしまった。そして地味に痛い。

 

 

   ゴ オ オ ウ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ン ッ ! !

 

 

 痛みが引き始めたところへ聞こえてきたにくの勝ち誇ったような機嫌良さげな雄叫び。

 

「………」

 

 それを聞いたオレの心にゴブリンに邪魔された怒りとは別にイライラがフツフツと湧き上がってくる。

 最初ビクついて怯えを見せていたくせに、必殺のファイヤーブレスは直撃せずに避けられたというのに、ダメージを与えたわけでなく、自滅によってこっちが勝手にダメージを負ったというのに、すぐ痛みが引くような小さなダメージだというのに。

 

 なにを。なにを勝ち誇っているのだ、この「にく」は。

 

 空腹と併せたイライラした気持ちに苛まれながら立ち上がったオレは森の外へ目指し、肩を怒らせ歩き出て行く。

 

 わけもわからず突然死んで目が覚めたら異世界に居て異形(バケモノ)になってたなんて、自分にドン引きして現実逃避していても内心では、心の底では残してきてしまった父や母のことが心配で仕方なく、気がかりだと言うのに。

 目の前にいる本物のドラゴンは自分の知るドラゴンとはかけはなれた矮小な器で、目の前のオレという敵に臆した挙句、オレの自滅をまだ倒せても居ないのに勝ち誇って見せる。

 

 この怒りは理不尽だと思う。勝手な思い込みから来る単なる言いがかりで、八つ当たりだ。

 

 でも、自分の身に起きていることはもっともっとずっとずっとずっと、理不尽だ。

 

 なら、これくらい許されても良いだろう。

 

 もとから狩るか狩られるかのつもりで着たんだから。

 

 

「 ず ぁ あ あ あ  ぁ あ  ぁ あ ぁ  あ ぁ あ  ぁ  あ あ あ あ あ あ あ ! !  」

 

 

 森を出て数歩、開口一番感情のままに天へ向けて雄叫びを上げた。

 

 ギシンッという音と共に拳を握って広げていた両腕、前腕部にあった数本の角のような突起が伸び変形し剣となり、両足の踵(裏)から伸びていた爪も同じように伸び変形し、ギザギザと鋸状をした両刃の大鎌に形を変えた。今のオレの怒りを表すように。

 

ゴラゲゾボソグ(お前を殺す)! 」

 

 狩って飯にする気満々だが、敢えて宣言する。今持っている全力で殺すと。

 

 にくが喚めいているが、もはや聞く耳はない。

 オレはおもむろに前に倒れるように前掲姿勢に、地に両手と片膝を突き、スパイクよろしく足の爪を地に突き立ててクラウチングスタートの体勢をとり、足の逆間接を畳むように膝にありったけの力を込め、踏み込む。

 

 

     ゴ  ッ  !  !

 

 

 という音と共に加速。空気抵抗を物ともせず懲りずにファイヤーブレスを吐こうと大きく息を吸いだすにくを尻目に、その顔目掛けて突撃するように頭上を飛び越え、にくの頭を飛び越え過ぎ様に二回転一回捻りですり抜け、そのまま背を飛び越えて見せる。

 

 着地際に身体を大きく捻り、尻尾と足を振って付けた勢いでにくの尾の付け根へエルボーを叩き込むように肘の刃を突きたて骨ごと人の胴二、三人分あるだろう太さの尾を一刀両断。

 着地と同時にまた飛んで間合いを離せば遅れて血飛沫が噴き出した。

 

 

 ゴアアアァアァアァアアア゛ア゛ア゛ア゛ウ゛ッ!?

 

 

 尾を根元から切られ、血を流す痛みを訴えるにく。そして怒りも露わにコチラへ振り向こうとするが、オレが腕と踵の刃を元に戻すと共に立ち上がるとその動きを終えることは叶わず、頭から額へ大きく割れ、間欠泉のごとく血を噴出し、首が地面にゴトリと転がり落ちた。

 

 タネ明かしはにくへ突撃し、その頭上をすり抜けた時にやった二回転一回捻り。

 なんのことはない、前転から遠心力や体重の乗った踵落としで踵の鋸状両刃の大鎌を「力」を込めて脳天に落とし、空いた足で軽く入れた蹴りの勢いで前転、梃子の要領で大鎌を動かして額まで掻っ捌き、にくの首の上で身を捻り、横回転させて「力」を込めた腕の刃で両断。

 

 即死しなかったのには少し驚いたが、恐らく込めた「力」が原因と思われ。いわゆる「魔力」とか「気」ではないかと思う。

 それでおっそろしく切れ味が増していて、にくは自分が死んでいることにも気付かずにい、といったところだろう。

 

 

 ともあれ、やっと肉にありつける。

 

 

 まぁ、ありつく前に解体が先だけどもね。

 

パガギパダンヅヅゾジドギブバスブグス(我が意は万物を等しく軽くする)リバロビダジュダグゴドブ、バゼビグブ(水面にたゆたうごとく、風に浮く)スジュグ(浮遊)ンジュシバゴ(の揺り篭)

 

 【浮遊】の魔法を唱え、切り落とした尾と尾っぽ側を上に肉を持ち上げ、まず血抜きを始める。にくの解体で血抜きは大事だ。やらないと生臭くなるし、何より凝固した血によって腐りやすくもなるからだ。

 

 こういった処理の経験があるのかというと、ない。全く、ない。

 

 ないのに何故血抜きの重要性を知っていて解体出来る気でいるのか?

 答えは例の頭にインストールされている知識や技術だ。 

 

 やっとにくにありつける、と思った瞬間に解体方法やらが頭に浮かんできたと言うわけ。

 

 便利だが、気持ち悪いし気味が悪い。その内に慣れてしまうしかないのかもしれないが、やはり、気持ち悪い。

 

 と、血抜きは終ったな、って血生臭!?

 辺り一面にくの血でビチャビチャだ。血溜まり、血の池、血の海だこりゃ。

 腹減ってるからってなんで気付かないかな。このままってわけにはいかんよな。血の臭いで魔物が寄って来るだろうし、仮にもドラゴンの血だ。何か土地に悪い影響が出そうな気もするし、街道沿いらしいから、そのままには出来んだろうな。洗い流すとして、魔法で水を出すにしてもどれだけの水量が居るんだか。

 

 もう不浄として浄化、消滅させた方が早いか。場を清める感じで。

 

グデデンズジョグゾガサギビジョレス(全ての不浄を洗い清める)ジョグバ(浄化)ンギズブ(の雫)

 

 呪文と共に捧げ持つようにした両手の間にバスケットボール大の淡い光りの玉が生まれ、間もなく弾けて血抜きで汚れた辺り一帯に光りの粒が雫のように降り注ぎ、イメージ通りに血の海を不浄として浄化していく。

 辺りに満ちた光りが消えた時には血抜きで出来た血生臭さも血の海も元からなかったかのように綺麗に消えていた。

 

 さて、これで心置きなく解体作業に移れるが、やるならやはり水辺でやるべきだろう。魔法で水を出してまで街道らしい場所に陣取ってやることじゃないしな。

 

「………………」

「…………………………」

「…………………」

「……………」

「………………………」

「………」

 

 【浮遊】を掛けたままのにくに目を向ければ、何か複数の視線を感じ、はたと我に返る。

 

 あれ、最初にこのにく(どらごん)と戦ってた人たちは?

 

 と、宙吊り状態のにくの向こう側に目を向けてみれば、武器を構えた鎧の人たちが20人弱ほど。【遠見】で見た騎士たちが警戒も露わな視線をオレに向けていた。

 

 騎士たちは目が合った瞬間剣や槍の切っ先をオレに向けて身構えて警戒を強めた。誰もが誰も「次は自分たちの番か? 」「ドラゴンの次は得体の知れないバケモノ相手か」などとといった感じの怯えまじりの目で見てくる。

 

 

 いや、わかってる、かってるよ。あからさまな敵意や殺気を向けられていないだけマシなのは。うん。

 

 でも、わかっていても、やっぱり辛い物は辛い。

 

 ここは逃げるようにこの場を去るのが正しい選択だろうな。あぁ、でもオレのいない、知らないところでもバケモノ呼ばわりされるのは嫌だな。

 名乗るにしたって肝心の名前が今のオレにはないし、何より喋る言葉は全てグロンギ語に変換されるし、日本語始め元の世界の言葉が通じるかも怪しい。思い返せばオレがここへ降り立った時に赤い女の子が叫んだ言葉、意味不明で聴いたこともない言語だった。

 どん引きチートなのにこの世界の言葉は翻訳されないって、痒いところに手の届かないチートだな。

 筆談って手もあるけど、言葉がわからない以上は文字も似たり寄ったりだろうし、もういっそ適当な名前考えて、イニシャルマークかシンボルマーク作って渡すか?

 

 新しいオレの名前、ってあんま長く無言の睨み合いみたいな状態が続くのはまずいか?

 こっちは良くても向こうが良いとは限らんし、手早く考えないと。

 

 名前名前名前、オレの新しい名前……… ああもう、「あああああ」で良いや。で略して「あ's」、a's(アーズ)で。

 そんでシンボルマークは「a's」を弄って「a」を大文字にして逆さの(ターンエー)に、で少し左に傾けて「'」と「s」を稲妻っぽい鋭角な感じにして、完成と。

 

 さて何に書くか。と、にくの角にするか。

 

 辺りを見回して丁度良い物はないかと探せばにく(どらごん)の生首に生えている立派な角が目に入り、ソレに決める。

 なお、オークやゴブリンの装備品もあったがなんか違う気がしたのでもとより却下した。

 

 そうと決まればと腕を挙げ、角の付け根目掛けて戦闘触手を打ち出して突き刺す。

 なんか騎士たちが騒いだが気にしない気にしない。

 ブンと振るように腕を動かして戦闘触手をたわませてもぎ取り、地に落ちる前に戦闘触手を絡めて引き寄せる。

 

 角は成人男性ほどの大きさで、何かマークを彫るなら大きく描けて丁度良さそうだ。

 

 彫る道具は魔力だか気だかを込めた指で。ちゃちゃちゃっとやってしまう。

 

 出来上がったらぽいっと騎士たちの方へ放り投げる。ちょっと騒がしいが気にしない気にしない気にしないったら気にしない。

 

 立つ鳥、後を濁さず。【浮遊】させてるにくに戦闘触手を巻き付けてさっさと立ち去る。

 

 

 早く飯にありつくために、にくを解体するために水場を求めて立ち去ったオレはこの時、気付きも考えもしなかった。

 

 ちょっとした縁や因縁が出来てしまったことを。

 

 

 

 

 

 

      ドグ・ヂヂ・ボンデギビジュジュゾ(To Be Continued)………

 

 


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