1話~10話まで一部手直しに付き、差し替えました。
2018.2/25
1話~31まで設定見直しにより一部設定変更+グロンギ語ルビ振りに付き手直し、差し替えました。
「【
自身に【浮遊】の魔法を掛けて崖沿いに横に伸び出た木を目指して浮き上がる。
絶壁の崖から横に伸び出た木は意外に確りと根付いていて幹も太く、枝振りも良い。常緑樹らしく深い緑の厚い葉を茂らせていた。
木を見下ろせる高さまで浮けば、そこに寝心地悪そうな葉のベッドに横たわる少女の姿。
雪のように真っ白な髪と眉。そして耳の上、頭頂部の左右にある一対の自己主張激しい大きな獣耳が少女を獣人だと教えてくる。
森の中、道なき道を歩いたせいだろう、足を始め肌が露わになっているところは大小様々な掠り傷で一杯になっている。
『たすけ……て………おとうさ……かあさん』
か細い声で紡がれる言葉と宙を彷徨い伸ばされた手。
近づく前に拾い聞いた「お父さん」「お母さん」「逃げて」「死んじゃう」という言葉と合わせて連想するに、恐らくはこの娘は両親と一緒に山賊か魔物に襲われて一人逃がされた、といったところだろうか。
ここまでに獣や魔物に襲われずにいたのは不幸中の幸いと言えるが、不幸に見舞われた当人には幸いと言えるかわらないだろう。
少女への哀れみなのか、少女の目元に溜まる大粒の涙に胸打つ物があったのか、宙を彷徨っていた手が力なく落ちるのを見た瞬間に咄嗟に掴み取っていた。
「
安心させようと通じないとわかっていながらそんな言葉まで口にして。
この時まで、少女への同情からひどく感傷的になっていたせいなのか、オレは獣人の少女が何語を口にしていたのか、自身が理解できる言葉を少女が口にしていたことに気付けていなかった。
突然の漆『少女』
まず始めにしたことは少女に【眠り】の魔法を掛けて眠りを深くすること。
いや、ほら。助けてる間や手当てしてる間に目を覚まして驚かれて怖がられて暴れられたら大変じゃないか。オレの精神的ダメージが。
少女を姫抱きに抱き上げて下へ降り、手当てのために寝かせておける安全な場所を探す。結界を張れば簡単に安全は確保できるんだが、気持ち的に不安というか心配になる。
少なくとも擦り傷に効く薬草を見つけてくる間は一人にしなければならないから。
治癒魔法で治すのは少し気乗りしない。
細胞を活性化して瞬時に傷や怪我を治すっていうのがどうにも怖い。
生き物の一生での細胞の再生回数とかってのは決まっていてテロメアがどうのっていうのをTVで聞いたことがあるからだ。確かクローンについてのサイエンス番組だったか? 治癒魔法での治療のし過ぎで老化が加速するとか寿命が縮むとか笑えない話だ。
細胞の活性じゃなく怪我をする前の状態に巻き戻すなんていう治癒魔法もあるが、これも巻き戻しすぎとか失敗を考えると使うのが怖い。
今のところ魔法は失敗していないが、何分オレの魔法はイメージ有りきだからイメージに失敗する可能性もないわけじゃない。だから自分じゃない他人の身体でぶっつけ本番の治癒魔法とか怖すぎる。
幸いインストール知識に薬草学も薬学知識もあるから傷に効く薬草を数種類を見つけて良い薬を調合できれば痕も残らないはずだ。多分。
そんなわけで少女を気遣いつつ足早に崖から離れて再び川下へ進み、森の中へ。
触覚と額の逆三角形に並ぶ三つ目により周辺の物体をCGのワイヤーフレームのように見、透視するように感知できる超感覚にソナーのような探索系の魔法を合せる大盤振る舞いで周辺地域を探索。少女を寝かせられる安全な場所を探す。
贅沢を言えば急な天候変化にも対応できる場所が良い。無ければ自作すれば良いが、薬草を探す時間を喰われるのは痛い。
「………
木々に囲まれた低い崖にぽっかりと口を開けた小さな洞窟を見つけることが出来たことにそんなことを独り言ちる。
まあ、クマっぽい先客の影もあったが問題ないだろう。
パチ、パチチッ………
赤々と燃える釜戸の火に乾いた枝をパキリとへし折って放り込む。
御誂え向きの洞窟を見つけたあの後、クマっぽい先客に食肉と毛皮に進化してもらい、獣臭漂う洞窟内を掃除して【換気】と【浄化】。魔法で洞窟内を住み良い形に加工―― 某ドラまたな少女が主人公の名作ファンタジーモノに出てきた、地精に働きかけて穴を作る魔法を参考にしてやってみた ――。
まず雨水が入らないように入り口より中を高くして天井部を補強と共に余裕で立って歩けるくらいに出来るだけ高く取り、煙突代わりに出入り口上方へ繋がる穴を開けて、その下に川原から持ってきた石を並べて釜戸を作り、最後に空気が
少女を寝かせることにした毛皮は確りと川で洗い、仕上に【浄化】と【乾燥】の魔法を掛けてピカピカのもっふもふにしてある。
手間を掛けた分か、寝心地は悪くないようで少女はスヤスヤと眠っている。
沁みて起きやしないか少しヒヤヒヤしながら少女に塗った傷薬は、低級ポーションの原料にもなる赤くギザギザした葉を持つ傷薬の薬草、「赤切り草」を中心に新しく採集できた傷に効く薬草を一緒に念入りに磨り潰し混ぜた物だ。
なお、乳鉢や乳棒は川原から持ってきた手ごろな石を加工、【強化】した物を洗って【浄化】で消毒滅菌して使用した。
パチパチ、パチ………
少女が目を覚ました時、怖がらせてしまうとしても驚きや混乱が少なくすむように出来るだけ距離を取るために、オレは少女からも釜戸からも離れて壁に背中を預けるように座っている。
外はもうすっかりと日が落ちて、橙色に辺りを照らす洞窟内の焚き火のゆらゆらとした明かりを目立たせて不思議と気を落ち着かせる。
「……………」
とうとう少女が目を覚ましたようだ。怖がられるにしても悲鳴を上げられたり逃げ出したり気絶されたりしないだろうかと頭の中をぐるぐる廻る不安にもう心臓バックバク。
「
勇気を出して慎重に慎重にそれはそれは細心の注意を払ってことさらに、静かに、ゆっくりと、少女へ向けて言葉を紡ぐ。
オレを視認し、驚いて身を起こした少女にオレは内心あわあわと慌てて言葉を続ける。
「
そして言った後に「言葉通じないんだから落ち着くように言ったって意味ないじゃないのさっ!? 」と心の中で頭抱えて絶叫。
しかしながらオレの苦悩とは良い意味で裏腹に少女は大人しく、沈思黙考というように目を瞑って静かにしている。
言葉が通じた? いや、まさか、ありえないな………
気を紛らわせ落ち着けるために枯れ枝をポッキリと折って火にくべる。
「グロンギ? ゲゲル? ………」
「!? 」
しかし、唐突に少女が紡いだ言葉にオレの心臓は止まりそうになった。
この娘は、今、何って言った? グロンギ? ゲゲル?
まさか………
まさかまさかまさかまさかまさかっ!?
「ッ!?
グロンギ語が、言葉が通じるのかこの娘には!?
焚き火を飛び越えて行きたいのをすんでで堪えて駆け寄るように回り込む。
言葉が通じるなら、聞いてほしい、聞かせてほしい、何でも良いから兎に角話がしたい。
『ご、ごめんさい! 意味まではよくわからない! 』
だが返って来た言葉は無情な物だった。一瞬期待してしまっただけに落胆は大きい。いや、言葉が通じなくともこの娘の言葉を理解できるだけでも……… て、ちょっと待て!?
この世界の言葉はオレには理解できない言語のはずだ。それなのに今この娘が口にした言葉は理解できた。というか助けた時もそうだったような? もしかしなくともこの娘が喋っている言葉は日本語なのか?
それなら諦めた方法が使えるはず。
オレは急いで地面に書き込みはじめ、[お前、日本語を話せるのか]と書き上げると少女が読みやすいように後へ下がった。
『………ごめんなさい』
しかし、返って来た言葉はまたも期待を裏切る………
『カンジはまだ読めないです』
物ではなかった。
「くッ………
あ っ は っ は っ は っ は っ は っ は っ は 」
笑った。
この世界に
涙が出そうなほど盛大に腹の底から。
『つまりアーズは憑依っぽい転生者ってことですか』
[そうなるな。
しかし、この世界は本当にMoLOに似た世界なんだな]
あれからオレは筆談で日本人の転生者で寝起きなどに無意識に日本語を口にしてしまうクセがあった少女、シャンフィと互いに知っているってことを話していた。
そうしている内にシャンフィは最初は漢字などにふりがなをふって漢字の読みを教えていたのも、前世の記憶が刺激されたのかあっと言う間に漢字が読めるようになっていた。さすがに字画の多い難しい漢字はまだ読めないようだが。
ともあれ、情報交換でオレがわかったことはこの世界がやはりMoLO、『
……… 盗賊については、後で必ず狩りにいく予定の決定だ。完膚なきまでに徹底的に。
シャンフィが寝入った後でだが。
くきゅ~~
『あう………』
[肉があるから焼くか]
可愛らしい腹の虫が鳴り、オレはアイテムボックスを開いていそいそと夕食の準備を始める。元クマっぽいのの肉と調味料代わりになる香草を出すのと一緒にそのままで食べられる木の実をシャンフィに渡すのも忘れない。
………………………………………
………………………………
………………………
………………
………
その日は不気味なほど映える月が大きく夜空に輝いていた。
「な、なんだアレ!? 何なんだよアレはぁっ!! 」
「ヒ、ひぃイっ!? Ba、ばバばバ化けモォ゛っ!? 」
「来るな! ここ、こっちに来るンなばぁああ゛あ゛っ!! 」
「お、おおお、おっオ゛カ゛ア゛チ゛ャーーン゛ッ!?! 」
略奪したお宝を寝かせたアジトで機嫌良く酒盛りに興じていた荒くれども、盗賊たちは突如現れた白き異形に、蹂躙されていた。
異形には剣も矢も歯が立たず、魔法はより強い魔法で弾かれた。そして異形が腕を振るえば盗賊たちの手足が千切れて血
自分たちが頼りにしてきた力が一切通用しない盗賊たちが、異形を相手に出来たことは恐慌に陥り、逃げ惑うことだけ。
「
しかし、その場から逃げ延びることは誰一人として成せず、ただただ恐怖に
異形は盗賊たちを誰一人殺さず、
手足が千切れ、折れた骨が臓腑に刺さって血を流すままに任せて盗賊たちを捨て置いた。
後は血の臭いに釣られて獣か魔物が、出血少なく運良く生き残れそうな者にも止めを刺すだろうと。
異形が何故そうしたのかはわからない。
自らの手で殺す価値も無いとそうしたのか、殺意を持って直接にヒトを殺めることを忌避したからなのか。
一部始終を見ていた夜空に輝く月も、そして事を成した異形自身にも、わからなかった。
こうして先日、とある街道で暴虐の限りを尽くして略奪行為を行なった暗闇狼と名乗る冒険者崩れの盗賊団は、一夜にして壊滅したのだった。