八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第1話 見た目は子供 頭脳はオッサン

 おっす、おらオス!でも生物学上ではメス!もっと詳しく言えば、心は男で体は女といったところだ。もはや何番煎じか数えるのも冒涜的で、出涸らし……どころかただのお湯が急須から注がれるレベルなんじゃないのかな。いやね、でもね……そんなテンプレ的な事にね、自分がなっちゃったらそれはもう……お湯だろうとなんだろうと、飲み干すしかないじゃない。つまり、受け入れるしかないって事。

 

「お~い黒乃!早く早く!」

 

 遠くで俺に向かって手を振るそれはもうイケメンになる未来しか見えないショタは、ライトノベル、インフィニット・ストラトスの主人公である織斑 一夏その人。見よこの……テンプレとしか言いようのないこの状況を。俺こと前世では大学生のお兄さんは、藤堂 黒乃って女の子に憑依転生している。

 

 う~む、そうは言いつつも……少しばかりイレギュラーな転生ではあるが。なんだっけ?良くは覚えていないのだけれど、流れとしてはこんな感じ。俺氏死亡→なんか神様っぽい人が出現→暇だから転生して楽しませろやボケェ→今ここ。このパターンは二次創作で見かけたことがあるが、いわゆる娯楽系転生って奴かも。

 

 つまりは日々に退屈した神様が、暇をしないために意図的に殺害され、強制的に転生させられるみたいな。まぁ……役得なんですけどね。インフィニット・ストラトスは、俺が望んで転生した世界だ。だって……男のロマンだろぉ!?フラグが立つ保証も無ければ、多少は命がけだよ!それでも、それでも女の子に囲まれてウハウハしたいやん!

 

 それが……それが、どうしてこうなったああああ!?何故にホワイ!よりによって女の子に憑依とかって、そりゃあんまりだよ神様ああああ!ISの世界観ってか、コンセプト潰しちゃったら意味ないよ!?女の子の身体は、それはそれで役得な時もあったりするけどさぁ……。

 

「黒乃……元気、無いのか?」

 

 お、おっと……あまり長考が過ぎたらしいな。イッチーが、心配した表情でこちらを見ているではないか。俺はそれに対して、首を横に振って応えた。それを見たイッチーは、何処か安心したような表情を見せる。ふむ……喋れたら良いんだけどね、この身体は喋れないのよ。

 

 どうやら神が、俺の行動に制限をかけているらしい。黒乃ちゃんの身体では、意志を伝える行為全般の大半を行えないのだ。つまりは喋る事は出来ないし、表情を作る事も出来ない。ついでに言えば……女性の胸を揉む等のセクハラ行動も行えん!畜生めええええ!子供で女の子ならば、いくらでもチャンスはあるのにいいいい!

 

 あの神……退屈しのぎに転生して来いって言ってなかったかな。こんな制限をかけない方が、よほど面白おかしく引っ掻き回せる自信があるのだけれど。まぁ良いや……女風呂というか、ちー姉とは一緒に良く風呂には入ってますし。あっそうそう……ちなみにだが黒乃ちゃんは、この世界におけるイッチーのファースト幼馴染にあたる。

 

 いやぁ……ビビったよ、目が覚めたら病院で……目の前にどっかで見た事のあるような美女とショタが居る訳で。そしたら黒乃ちゃんの両親は死んじゃったとかで、私が絶対に立派に育てるーとか言われて。そこから美女とショタが織斑姉弟だと気付くのは、かなり後の話となる。

 

「そっか、良かった!じゃあ遊ぼうぜ!」

 

 ふはははは、子供が元気なのはよろしいよろしい。現在の俺達は、小学1年生。まぁもう休みが明けたら2年生なんですけども。どうにも喋らなくなって表情が変わらなくなった俺は、相当イッチーに拒否られたものだ。そりゃまぁそうだよねぇ……いきなり幼馴染がこうなっちゃったらねぇ。

 

 こんなの黒乃じゃない!って言われた時には、けっこうショックだった。全面的にイッチーの言葉は、的を射てるけどね。何があったかは知らないけど、関係は良好になった。今日もこうして、イッチーに手を引かれて公園へとやって来たわけだ。頻繁にこうやって外に連れ回されるが、別に俺も運動は好きだから問題ないや。

 

「この鉄棒、いつ見ても高いよな。俺もいつか、手が届くようになるかな?」

 

 そう言いながらイッチーが背伸びをしながら手を伸ばすのは、小学校高学年向けほどの鉄棒だ。更にイッチーはジャンプしてみたりするが、手は届かない。でも大丈夫さイッチー、君は公式設定で172cmまでは伸びるからよゆーよゆー。しかし……こうも一生懸命になられると、なんとか届かせてやりたいものだ。

 

 そう思った俺は、イッチーの背後に回って腰へと抱き着く。そのまま勢いを付けて、力の限りイッチーを持ちあげた。ファイトーッ、いっぱぁーつ!イッチーの足は余裕で地面から浮くが、それでも手は届かなさそうだ。う~む、これでダメなら他に方法は無いだろうな。仕方が無いので、俺はイッチーを降ろす。

 

「ダメか……。でもありがとな、黒乃。……そうだ!今度は逆でやってみようぜ!」

 

 フッフッフ、マイフレンド・イッチー……残念だが、君の助力は気持ちだけ受け取っておこうじゃないか。前世でのお兄さんはね、オツムはパーだったけど……運動には自信があるのさ!さて、しっかり手に砂を付けて……と。俺は鉄棒の支柱へと向かってジャンプすると、三角跳びの要領で支柱を足場に再度ジャンプ。そのまま鉄棒にガシッと掴まった。

 

 そこから腕をピンと張って、腰を鉄棒より上へ出るようにする。そして後方へと飛び出て勢いを付けると、後は振り子のように重力へと身を任せる。ある程度の位置へ来れば、身体を前へと振り出す!こうして俺の身体は鉄棒の上で逆立ちするような形となり、前へ振り出すのを繰り返せば……大車輪の完成だ。俺は鉄棒を支点に、グールグールと回転を繰り返す。

 

「黒乃、すっげー!」

 

 フハハハハ!どや、どや?凄いやろイッチー!いやぁ良いねぇ、子供の尊敬の眼差しって。それも全て、いわゆる転生特典のおかげだ。チートっぽいのはダメって言われたけど、前世の技能はそのまま引き継いで転生している。つまり俺は強くてニューゲーム状態なのさ。融通が利く神で助かったぜ、思ったよりも良心的だよ。

 

 手も痛くなってきたので、俺は大車輪を中止した。完全に動きが止まったのを見計らって、パッと鉄棒から手を離してスタイリッシュに着地して見せる。フッ……決まったぜ。くぅ~!一回こんな台詞を言ってみたかった。

 

「黒乃、黒乃!ブランコをどっちが大きく漕げるか勝負しようぜ、アレだったら俺も負けないぞ!」

 

 負けず嫌いなイッチーは可愛いのぅ。おっしゃ、お兄さんも負けないぞ~。っと、ブランコに向かって走るイッチーを追いかけようとしたが、俺はある物が気になった。それは、視線の先にある公園の藪だ。藪に生えている枝の一本に、見た事のない模様の蝶々が止まっているではないか。

 

 外来種かな?それとも単に、俺が見た事が無いだけかも。でも……綺麗だなぁ。……捕まえたりしたら、イッチーは喜ぶだろうか。虫とか嫌いだったら、それはそれでイタズラにもなるし……捕まえてみる事にしよう。そう決断した俺は、ゆっくりゆっくり藪の方へと歩みを進める。

 

「お~い、何やってんだよ黒乃!早く勝負しようぜ!」

 

 むっ……む~ん、イッチーがそう言うなら、急いだ方が良いのかもしれない。勿体ないかもだけど、コイツはスルー安定だな。バイバイ、蝶々!俺はクルリと反転して、イッチーの待つブランコの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 突然だが、私……いや、私達と言った方が正しい。私達織斑姉弟には、両親が居ない。これも適当な表現では無いな。正しくは、居た。その上で両親は、私達を捨てたのだ。生まれたばかりの一夏と、まだ幼かった私を残して……。恨みを抱いたかと聞かれると、案外そうでも無いのかもしれない。

 

 なぜなら私達は、近所の住民に恵まれていたからだ。大半が可哀想だと視線を送るだけだったが、あの人達は違った……。藤堂夫妻は、私達にとって救いだった。どうしようもなく無力だった私や一夏を、本当の家族同然に育ててくれた。私達には、血の繋がりはなくとも藤堂夫妻こそが本当の両親だった。

 

 そう……だったんだ。その本当の両親である藤堂夫妻は、もうこの世にはいない。今から1年ほど前の事だ。ある日に1人娘を連れて遠出をしていた藤堂家は、事故に巻き込まれてしまった。高速道路を走っている最中にトラックのタイヤがパンクして、藤堂一家の乗っていた乗用車へと突っ込んだのだ。そのまま乗用車は爆発炎上……。藤堂夫妻は死亡しその事故から奇跡的に助かったのは、娘である藤堂 黒乃ただ1人だった。

 

 ただし黒乃も意識不明の重体で、生死の境を長い間さまよう事となる。黒乃が目を覚ましたのは、事故から1週間後の夜明け頃だ。その際には、私も一夏も大手を振って喜んだのを今も良く覚えている。しかし、喜んだのも束の間だった。黒乃の様子が、私達の良く知っているものと全く違っていたのだ。表情は能面の様に凝り固まっていて、こちらの呼びかけには何も答えない。ただただ無表情で、こちらを眺めるだけだ。

 

 私はすぐに事故の後遺症を疑った。急いで医師にどうにかするよう頼むと、トントン拍子に精密検査が執り行われた。だが、私の予想に反して黒乃の身体には異常はみられない。ならば、残っている要因はただ1つ。精神的要因から来るものしかない。幸い黒乃の入院していた病院には、精神科医も在中していた。その精神科医に黒乃を診てもらうと、驚きの診断結果が下される。

 

 なんと精神科医は、精神的にも特に問題はみられないと言うのだ。ならばこの黒乃は、なぜこうなっているのだと問い詰めても……返って来るのは見た事も無い症例だとか、そんな言葉ばかりだ。ただ精神科医は、とある仮説を立てていた。それは、黒乃は自らの意思を自らの意志で伝えられない状態との事。大変にややこしい言い方だが、これはとてつもなく正しい言葉だった。

 

 例えば黒乃へ紙に自分の名前を書いてみてと言うと、スラスラとペンは動いて『とうどう くろの』と拙い文字ながらも記す。しかし、今どんな気持ちかと問いかけてみてはどうか。先ほどまでのスムーズさは何処へいってしまったのか、黒乃の手は紙の上でピクリとも動かない。喋る事に関しては、もっての外だった。極稀に首を動かしてくれれば良い方で、酷い時には簡単な呼びかけにすら反応はみられなかった。

 

 精神科医が言うには、これらの症状が事故との関連性があるかどうかと聞かれれば不明と言う事らしい。いったい……黒乃が、黒乃の両親が何をしたと言うのか。善良でお人好しと言う言葉が良く似合う人たちが、何故こうも不幸な目に合わねばならない。いや、こんな考えではダメだ。黒乃は、生きていてくれたのだから。私の両親が愛した子だ。藤堂夫妻が居なくとも、私と一夏があの子の家族である事は変わらない。私の弟も妹も、私がこの手で立派に育てなくては。そうしなければ、天国の2人を心配させてしまう。

 

 そう誓ってから、もうすぐ1年が経つ頃となる。当初の一夏は、変わってしまった黒乃を受け入れられないでいたようだが、黒乃の中身までは変わっていない事に気が付いたのだろう。そもそも私がどうこうと言う事では無いのだが、弟と妹の仲が良い事に越したことはない。しかし私は、なぜ貴重な休みを使って、公園の藪に隠れながらコソコソと2人の事を見守らねばならんのだろうか。いや、自問自答せずとも答えは簡単だ。それもこれも全て、私が隣に居る友人に、黒乃の事を相談したのがまずかったのだ。

 

「へぇ~へぇ~……。あれが、ちーちゃんの言ってた……え~っと、なんて名前だっけ?」

「……藤堂 黒乃だ。」

「ふ~ん、そうだったね。まぁなかなか可愛いんじゃない?ウチの箒ちゃんには、遠く及ばないけど。」

「なぁ……。別に、隠れて見る事は無いんじゃないか。」

「え~……だって、興味も無いのにわざわざ見に来てるんだし~。自分から接触する必要はないも~ん。」

 

 隣で伏せている彼女は、篠ノ之 束と言って私の友人だ。そういえば、彼女との出会いもちょうど1年前だったか。なぜ仲良くなったかは、正直よくは覚えていない。まぁ……なんとなくの流れだろう。それにしても、観察とはなんだ観察とは。私の妹をモルモットのような言い方をするのは聞き捨てならんが、いつもの事だと思って諦めるしかないな……。彼女はある意味で、黒乃よりよほど性質が悪い。

 

 天才を自称し、彼女の眼には興味をもった対象以外は石ころ同然に見えるのだ。それがたとえ家族だろうと例外では無く、妹以外はどうでも良いようだ。天才と馬鹿は紙一重などと言ったりはするが、どうにも束はそんな枠には当てはまらない何かを感じる。ああ、やはり……黒乃の事を話したのは間違いだっただろうか。天才を自称するだけあって、その頭脳は確かに優秀そのものだ。だからこそ私は思ってしまった。束ならもしかすると、黒乃を元に戻せるかも……と。

 

 束は黒乃を見て欲しいと言うと、相当に渋った。束からすれば、石ころの様子を見てくれと言われているのと同然なのだから、それは渋りもするのも解る。しかし、黒乃を元に戻せる可能性があるのならば、わずかな望みだろうと私はそれに賭けたかった。頭も下げたりしたのだが、今となってはとてつもなく無駄な行為だったな……。何か、藪に隠れているこの状況が急に恥ずかしく思えて来た。

 

「束。私から頼んでおいてなんだが、もう帰ろう。別にお前が興味を惹かれる事なんて、起きやしない……。」

「ごめんちーちゃん……。今さ、束さんの目の前で凄く興味を惹かれる光景が繰り広げられてるんだよね。」

「何……?少し貸せ。」

 

 にやけた顔で束は双眼鏡を覗いていたが、それを多少乱暴に奪い取った。そして双眼鏡で黒乃を捕捉すると、私は絶句するしかなかった。なんとまだ小学1年生であるはずの黒乃が、鉄棒競技の代表選手も顔負けな大車輪を披露しているではないか。確かに黒乃は運動が出来る方だと記憶していたが、果たしてこれは運動神経が良いの一言で片づけて良いものなのだろうか。黒乃を良く知る私からすると、これでは突然に超人的になったようにしか思えない。まさか事故にあって目覚めると、超人的な力を得たといようなドラマみたいな話しなのだろうか。

 

「酷いよちーちゃん!知ってれば束さんも飛んで来ちゃうのに~!」

「い、いや……。私も初見だ。いつの間に、あんな……?」

「初見?それはおかしな話だよ。誰に習ったのか、いつ練習したのかとか、色々と面白い疑問が増えるよねぇ。」

「……言えている。アレはどうにも、慣れた動きに見えるな。」

 

 だとすれば誰だ、黒乃にあんな危険な技を教えた不届き物は。これが一夏なら白状するまで問い詰めるのだが、もちろん黒乃は聞いても答えてくれないだろう。答える事が出来ない……が、正しい表現だが。というか一夏、女の子がそんな危険な技を披露して、感心している場合では無かろう。普通は止めるぞ、普通は。いや、むしろ私が止めるべきだ。これ以上は危なかしくって見ていられん。黒乃は良い子だから、話してはくれずとも注意すれば今後は止めてくれるはずだ。

 

「わーっ!?ちょっと、ちーちゃん!せっかく興味が沸き始めたんだから、大人しくしてて!」

「なっ!?離せこの……!黒乃が怪我でもしたら……。」

「ああっ、ホラホラちーちゃん。あの子もう止めてるよ。」

 

 束は私に被さって、邪魔をさせまいと必死に抵抗を仕掛ける。しかし、黒乃が大車輪をしている間も思ったよりも短かった。それならそれで良いのだが、やはりとてつもなく複雑な気分だ……。今日は帰ったら、遠回しに危ない事をするなと注意しておこう。私はそっと胸を撫で下ろすが、束は残念そうに唸りながら黒乃の監視を続けた。

 

 私は黒乃よりも、束の方へと注意を向ける。黒乃が、こいつのぶっ飛んだ行動に巻き込まれなければ良いが。その要因を作ったとなれば、私はとんでもないミスを犯したとしか言いようがない。どうか余計な事を思い付くなよ。そう念じながら束を眺めていると、私の思惑とは逆に愉しそうな様子へと変わっていく。

 

「ねぇ、ちーちゃん。あの子……本当に何者なのかな。」

「なんの話だ。」

「だってあれ、絶対私達に気づいてるもん。」

「何……?」

 

 またしても束から双眼鏡を奪うと、遠くにいる黒乃を眺めた。するとどうだ。黒乃は凝視という言葉すら生易しいほどに、私達の隠れている藪を見ていた。そしてあろう事か、こちらへ歩み寄って来る。馬鹿な……。これでは束の言う通りに、まるでこちらに気づいてるかのようだ。偶然と思いたかったが、私達の他に近づく要因が思い当たらない。

 

「へぇ。誰かいるって解って、そのうえで近づいて来るんだ。」

「…………。」

「表情から読み取れないけどさ、恐れてる風には見えないね。う~ん……すごいや。」

 

 黒乃は歩みを止めずに、みるみる内にこちらへ近づく。馬鹿な……。本当に、馬鹿なとしか言いようがない。もしも隠れているのが、不審者だったらどうするつもりだ?黒乃……お前は、隠れている者に手を伸ばして、いったい何がしたい?黒乃……お前は、どうしてしまったんだ。

 

「お~い、何やってんだよ黒乃!早く勝負しようぜ!」

「…………。」

 

 ブランコの近くにいる一夏が、手を振りながら黒乃を呼んだ。着実な歩みだった黒乃は、ピタリと制止して振り返った。駆け足でブランコへと向かう黒乃を見て、私は安心感が胸に宿る。それは、別に隠れているのがばれなかったとか、そんな理由ではない。私はきっと、私の知らない黒乃に怯えたのだろう。

 

 妹を普通でないとか、そんな言い方は私だってしたくない。しかしあれでは、私の知っている黒乃とはかけ離れている。まさか、こんな事が待ち受けているとは。不安を拭いきれない私に対して、束のテンションは割り増しになっている。その興奮の仕方は、まるで仲間でも見つけたかのような感じだ。

 

「むふふふ……。良いね、あの子!凄く気に入っちゃった!」

「……断っておくが、私の妹に余計な事をするなよ。私は、お前に何をするか保証ができん。」

「ん~……。それこそ、保証は出来ないかな。見るだけで解る異常性を、あの年で持ってる子なんて初めて見るもん。」

「私の妹は、異常などでは……!」

「そうかな?ちーちゃんもさ、本当は解ってるんでしょ。あの子は、確実に普通じゃないよ。」

 

 束の言葉は、図星である事に違いはなかった。ほんの少しだろうと、黒乃に対して疑念が沸いたのは否定しようがない。私は言い淀む他ないが、その事が悔しくてたまらなかった。黒乃の事を心から信じてやれない私自身に、どうしようもない苛立ちを感じる。

 

「ま、普通なんて言葉は、価値観の押し付けでしかないんだけどね。何をもって普通じゃないとするかは、ちーちゃん次第だし。だから、私の言葉は気にしなくたって良いよ。」

「…………」

「あ、そうそう。あの子が何を考えているか知りたいしさ、例の件はしっかり承るよ。」

 

 そう言うと束は、隠れながらほふく前進でその場を去る。日頃は運動と無縁だろうに、束のそれは異様に速度があった。もしや、家ではあれで移動しているのか……?そんな事は、気にするほどの事でもないな。私は盛大にため息を吐くと、黒乃へともう一度視線を向ける。

 

「黒乃……。いずれは、話してもらうからな。」

 

 束は承ると言ったのだから、黒乃が元に戻る可能性が少し増えた。もはや手段など、私にとってはどうでもよく思えた。今は話してもらえなかろうと、元に戻った暁には今の出来事に関して事細かに問い詰めてやる。だから黒乃……。お前は、お前の思う通りに生きればいい。私がいつまでも、その姿を見守っていよう。

 

 ただ、やはり危険な遊びは感心しない。元気なのはいい事だが、何にでも程度というものがある。無いとは思いたいが、本当に怪我をする前に対策を取らねば。それならば、帰ってプランでも練る事にしよう。私も見つからんように気を付けないとな……。黒乃が油断がならん事が解ったので、私は最大限に気配を消して公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 




黒乃→綺麗な蝶々を見つけた!
千冬&束→やだ……あの子……こっちに気付いてる……。


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