私なりに配慮して、R18まで踏み込んではいないと思われますが……。
なによりそういった話題が苦手な方はご注意ください。
「織斑は残るように、以上」
放課後前のホームルームにて、ちー姉はまるで思い出したかのようにそう宣言した。以上といいつつ呼び出した本人であるイッチーに号令をかけろというのもなかなかに鬼畜の所業に思えるが。動揺しながら号令をかける様にイッチーの心情が計り知れるよ……。
そしていざ放課後になると、クラスの面子たちは何事もなかったように解散を始める。居残りを申しつけられた者がいる中、長く教室に残るのは確かに得策ではないだろう。私は……う~ん、イッチーが怒られるなら一緒に居てあげたいけどなぁ。けどこの場合となると私は邪魔かも?
というか、ちー姉に呼び出された=怒られるってのが確定ってことでもないよね。もし本当に怒られたとかなら後でたっぷり慰めてあげればいいだけの話ですし。ふふん、恋人の特権って奴?だったらお楽しみは取っておくとして、今日のところは退散しておくとしよう。またね、ダーリン。……な、なーんちゃって!
1人恥ずかしい事を脳内で呟き、ワーキャー騒ぎながら教室を飛び出た。あー……恥ずかし、ダ、ダ、ダーリンって呼ぶだけでこんな顔が熱くなるとは。うーん、でも今のなかなか悪くなかったんじゃない?なんていうか、未だにイッチーってのより特殊な呼称があってもいいとは常々思ってたし―――
「くーろーのーっ!」
(ん……?ぬおっ、鈴ちゃん。どったの~そんな慌ててさー)
とりあえず自室へ向かおうと歩を進めていると、前方から凄まじい勢いで鈴ちゃんがやってくるではないか。心なしか形相が怒ってるときのソレだけれど、今日は特になにもした覚えはないけどなぁ。走ったせいで乱れたらしい息を整えるのを待つと、鈴ちゃんは勢いよく私の顔を見上げてこういった。
「傷、みせなさい」
(あっ、なるほど……)
そう問われて、そういえば今日は鈴ちゃんと会ってなかったかなんて思う。隠してたってわけではないけど、昨日までガーゼで保護してたからかな。それで今日の私がガーゼで創を覆っていないのを聞いて、組が違う鈴ちゃんは経過をみに来たと。
(うん、別に私は1つも気にしてないし)
「ああああああああっ!?やっぱり残ってるじゃんあの小娘ぇーっ!」
(ふぉおおおおっ!?ちょっ、まっ……なんで私にキレるんすかねぇ!)
髪の毛で少し隠れてしまう右頬の傷を完全に晒すと、鈴ちゃんはただ事ではないと表現するかのように大絶叫。後に何故か私の服の襟首を掴みながら激しく揺らされてしまう。取り乱すほど心配してくれるというのは伝わったけど、こりゃ少し理不尽じゃないですか鈴さんや。
「お2人共、なにごとですの!?」
「おのれ、姉様を離さないか!」
「痛ぁーたたた!?ギ、ギブギブギブ!」
(い、いやいや……ラウラたんもやり過ぎだからね)
どうしたものかと困っていると、聞きなれた声が2つほど響く。片方はセシリーで、とにかく私と鈴ちゃんのカオスな様子に驚いているようだ。で、もう片方はラウラたん。私が絡まれていると判断したのか、速やかに私から鈴ちゃんを引きはがし転倒させ、腕ひしぎ十字固めで制圧してみせた。
痛みで鈴ちゃんも目が覚めたようだから離してあげなさいと身振り手振りで伝えると、ラウラたんは大人しくそれに従ってくれた。……けど、その褒めて褒めてみたいなのはどうなのよ。う~……実際に被害を被った鈴ちゃんには申し訳ないけど、とりあえずラウラたんの頭を撫でておこう。
「で、鈴よ、いったいどうしたというのだ」
「う……傷よ傷!あの女の事を思い出したらムカッ腹が立っちゃってつい……」
「それは解りますわ。よりにもよって黒乃さんの美貌を傷つけたんですものねぇ」
気を取り直して事情聴取が始まると、ラウラの厳しい表情にたじろぐように鈴ちゃんは白状した。開き直りも混じっているような気がしなくもない告白に、まさかのセシリーが完全同意である。……ってうぉう、なんかセシリアさん黒いオーラ出てません!?
「ですが、黒乃さんはあまり気にしていないのでしょう?」
(う、うん……。別にもうイッチーが愛してくれればそれでいいかなって)
「はぁ……そういや黒乃ってそういう性格だったわよね」
「聖母が如く寛容さは姉様の専売特許だろ」
ラウラたん、それかなり地雷だから気を付けて。イッチーとの関係が進展してないと気にしてた可能性大だもん、別に大したことじゃないよ。なんかさ、イッチーってばこの傷に関して責任感が凄いみたいなんだよね。必要以上にこの傷を愛でるというか、日に1度は必ずキスを落とすくらいだ。
聖母なんて冗談じゃない……汚い女だよ、私は。だってこの傷がイッチーにとって楔になってるんだもん。この傷があればイッチーは私を心配してくれる。大丈夫、そんな傷なんか俺にとっては関係ないと―――そうやって私を愛でてくれる。だから私はこの傷を隠したり治そうとしたりしないんだ。
こんなのなくてもイッチーはずっと私を見ていてくれる。それは頭では解っているつもりでも、常に心の奥底には不安が募るばかり。だって、イッチーが好きなのって……本当に私なのかなとかって考えちゃう。……どこまでいったって私は、藤堂 黒乃にはなれないから……。
そりゃ、黒乃ちゃんとしてイッチーに接してきたのは私のが長いよ?黒乃ちゃんには悪いけどさ……。けど、やっぱり胸を張っていられないというかさ。……イッチーを好きになるたび、イッチーに愛でてもらうたび、こんな想いが膨れ上がってしまう。
「例の女にはそれ相応の報いを受けさせるとして、本人がさほど気にしていないならこの話はここまでだな」
「そうね……。あっ黒乃、誰かになんかいわれたらすぐ教えないさいよ!アタシがぶっ飛ばしてやるわ」
「それでは黒乃さんに鈴さん、もう少し別のお話を致しましょう。わたくしたちは休憩所に向かう途中だったのですよ」
(……そうだね、ありがとう)
本当……愛の重い女ですこと、喋れないで正解だったのかも知れない。喋れたらきっといろいろとイッチーに言ってしまっていただろう。面倒くさい女だと思われても仕方ないようなこと、沢山……さ。まぁ……いいか、私の汚い部分なんて悟られるはずはないんだし。
だからこれでいい、イッチーを繋ぎとめておけるならもうなんだっていいんだ。その点、マドカちゃんには感謝したいくらいだよ。こうして心配してくれる皆の前で考えていいことでもないんだけど……。まぁ、とりあえずはセシリーの誘いに乗って聞き手に興じますかね。
◇
(う~ん、案外話し込んじゃったな)
私にとってこの表現は似つかわしくないが、長時間をあの場で拘束されたのは確かだ。最後に至っては私がソワソワしているのを察したセシリーが、それとなくお開きにしてくれたわけだし。あれは本当に申し訳なかったな……。いち早くイッチーと一緒にいたいというのを見抜かれてしまうとは。
しかし、前々から不思議だったが皆かなり肯定的なんだよね。てっきり私とイッチーの交際を巡ってひと悶着あると思っていただけに拍子抜けだ。イッチーの為ならライザーソード発動もやむなしと思っていただけに気が楽でいいけどさ。一途な方だという自覚はあったけど、私って完全にヤンデレなんですかねぇ。
まぁいいや、病んじゃうくらい好きってそれはもう誰よりも愛している……という都合のいい解釈をしておこう。さて、イッチーはもう帰っているだろうか。もしそうならしばらくの間なにをしてイッチーと過ごそうか、なんて考えながら自室の扉を開いた。
「…………ただい―――」
「のわああああっ!?お、おかえり……黒乃!」
ありゃ、帰ってたのね……物静か過ぎるせいで逆に驚かせてしまったのだろうか。イッチーはバッと超速の反応をみせながら私を出迎えてくれた。ふむ……それはいいけどなんか喉が渇いたかも。落ち着く意味を込めてコーヒーでも飲みますか……。あっ、イッチーにもちゃんと聞いておかないと。
(イッチー、コーヒー飲む?)
「え、あ、いや、俺は……今はいい……。あ、ありがとな」
(そう?でもなにか欲しくなったらすぐいってね)
コーヒーカップをみせてみると、意味を察してくれたのか自分はいらないという回答が得られた。ん~……なんだか心ここにあらずって感じだけど、気にするほどのことじゃないのかな。どうしても必要な事があればいってくれるだろうし、手っ取り早くコーヒーを淹れちゃおうか。
ピリリリリ……
「なっ、携帯!?くっそ、こんなときに……。……あっと、黒乃。少し用事が出来たから生徒会室にいってくるな」
「手伝う」
「いや、大丈夫!なんでもすぐ終わる話らしいからさ、本当、ゆっくりしててくれ!」
私がイッチーに背を向けていると、ふと携帯電話が鳴った。なんだかイッチーはそれが忌々しそうだったけど、急用の原因が生徒会関係だからかも。なにか厄介ごとなら純粋にイッチーを支えたいし、なによりたっちゃんにイッチーを好き勝手されるのが耐えられない。
淹れたてのコーヒーがあるにもかかわらず手伝いを申し出るが、それはイッチーに断られてしまった。むぅ……まぁ、イッチーがそういうならしょうがないか。いってらっしゃい、なるべく早く帰って来てね。そうやって見送る間もなくイッチーは部屋を飛び出てしまった。
(ふぅ……)
愛しい人が不在というだけで、私の娯楽が散漫する室内ががらんどうに思えてしまう。コーヒーの苦みもなんだか別物に感じるような気もするなぁ。寂しさを紛らわすという意味を込め、イッチーのベッドへ腰かけてみることにした。スプリングがバウンドし上下するのに合わせて、フワリとイッチーの香りが舞う。
(あっ、この匂い……やっぱり好きだなぁ)
洗剤の匂いとか石鹸の匂いとかそういうのじゃなく、織斑 一夏の香りがするんだよね。表現するなら、陽だまりのような温かく柔らかい香り……かな。……どうしよう、出来心が浮かんできてしまった。私はまだ熱いコーヒーを一気に飲み干し、イッチーのベッドへ潜り込む。
(ふぁ……すっごい……。全身イッチーに包まれてるみたい……)
毛布を頭まで被るということは、当然ながらそこは密閉状態だ。イッチーの香りも閉じ込められた状態となり、どこにも逃げずにひたすら私の鼻腔を刺激する。あぁぁぁぁ……!なんだか頭がクラクラしてきた。酸素不足とかそういうのじゃなくて、イッチーの香りに充てられて頭が変に―――
(頭……頭?そういやなんか、枕の下になんかあるっぽい……)
なんかさっきから違和感を覚えるかと思ったら、どうやら枕の下になにか挟まっているらしい。いったいなんだろうかと手を滑り込ませてみると、なにやら箱のようなものが2箱ほどある。悪いとは思いつつも、正体不明の箱を思い切り引っ張り出した。
(さぁて、その正体はいかに!……っと。……ふぇ?…………ふぇええええっ!?ちょっ、ちょっと待って!これっ、これぇっ……!)
予想外というか、誰もこんなものがこんなところにあるなんて思いもしないはず。だって、その、なんていうか……コ、コンドー―――避妊具!そう、避妊具が出てくるんだもん!え、え……?これは、つまり、そういうこと……なんだろうか。早い話が、イッチーは私と―――
(エ、エッチしたいってこと……だよね?)
考えるだけで身震いが止まらない……。いずれは身体も捧げたいと思っていたけど、そういうの……イッチーは遠慮するだろうなって思ってたから。……むしろイッチーの方から私の総てを奪い去る準備をしてくれていたなんて、これを喜ばないでなにを喜べっていうの!
しかも行為には及んでもしっかり避妊する意思があるということは、ずっと先の未来までを描いてくれている証拠だもん。いずれはイッチーの子を授かるとして、学生の身分の内は避妊具を使ってくれるのも嬉しくてたまらない。あぁ、こうしてはいられないじゃないか!
イッチーがいつ私を襲ってくれるか解ったもんじゃない。とにかく急いでシャワーを浴びなくては!……あっ、コーヒー飲んじゃったから歯磨きだけじゃなくて胃のケアもしとかないと……。さほど時間のかかる用ではないといっていたし、あまり悠長にしてはいられないぞ。
我を忘れてシャワー室へ飛び込むと、秒で制服と下着を脱ぎ捨て栓を捻る。勢いよく流れ出始めたのは水だが、そんな些細なことは気にならなかった。時間はかけずに、かつ丁寧に身体中の隅々まで洗い流すにはお湯に変わるまで待っている暇はない。
(……こんなもんで大丈夫かな?う~ん、自分じゃ自分の匂いって解んない……)
余すとこなくキレイにしたつもりではあるが、やはり少しでも汚れとか臭いがしたら嫌だ。どちらかといえば最低限のマナーに部類されそうな気がするが、とにかく好きな人には好印象だけ与えたいって話。まぁ……あまり気にし過ぎても仕方がないか。
身体を拭いき洗面所で髪を乾かせば、バスタオルを巻いて室内へ戻った。本当になんとなくの行動なんだけど、ベッドの上に放置した避妊具を前にして正座している私が。保健の授業で習ったりはしたが、実物をみるのは初めてだな。最近は配ったりする学校もあるとか聞いた事ある。
(……開けちゃえ)
箱を開封してしまえば足がつくが、偶然みつけて単に興味を持ったという手も使える。紙パックの箱を少しずつ開いてみると、中にはみた事あるような連なった状態の避妊具が。端の方の1つを切り離して手に取ってみると、ますます私の知識に収まる見た目となった。
(この状態といえば咥えゴムだよねー)
だよねーなんてさも常識のように言ってはいるが、まぁ2次元での定番かな。でも私から誘いたい場合はそういうのも必要になるのだろうか……?……少し練習してみようか。というわけで、未開封の避妊具を唇で挟むように咥えてみる。……これだけではどうも色気が足りないような。
比較的簡単に色気が出せるとなると……う~ん、やっぱり四つん這いだろうか。今でいうとバスタオルの状態なわけだが、四つん這いになって胸元を押さえつつ……こう、中身が露わになるかどうかのチラリズムみたいな?ん~……自撮りでもして研究してみようかな。
「ただいま!」
(…………タイミング、悪いでござんすダーリン……)
「あ…………」
み・ら・れ・た!みられた、よりによって咥えゴムの練習なんかしてるところなんか目撃されちゃったよ!イ、イッチーってば引いてる?どうしよ……羞恥心で混乱してるから動けない。なんかイッチーの方も石のように固まっちゃってるし……。い、痛い……沈黙が痛い……!
「す、す、す、す……済まん黒乃ーっ!とりあえず説明させてくれーっ!」
(せ、説明って……その台詞はこっちもなんですけど!?)
顔を真っ赤にしたイッチーがいきなり説明させてほしいと叫ぶ。なんのことかと理解が及ぶまでしばらくかかったが、そもそもどうして避妊具がこんな場所にあるかという事情を話してくれた。するとどうやら、ちー姉がいらない心配をした結果のこれらしい。
いや、いらない心配ってか大事なことだとは思うよ?けど流石の私も学生の間に妊娠する気はないなー。イッチーが今すぐにでも子供が欲しいっていうならまた違ってくるけれど、そんな性格じゃないのは私が1番よく解ってますし。ま、それはともかくとしてだよ……。
要するにちー姉的には避妊さえしちゃえば後はよろしくどうぞっていいたいんでしょ?学園内ではしないようにも釘を刺したようだが、ここまできといて我慢できるほどイッチーは女々しくないはず。むしろ昂りを鎮めるためには遠慮なく、その……私を使って欲しいなって思うし……。
(さすればえいやっ)
「なっ……。ま、待てって、話聞いてたか?タブーは破る気ないというか、守らないと……だな」
(無理しなくたっていいんだよ……。ふぅ~っ……)
「ぬふぅぅぅぅ……!?」
私が避妊具の封を破り捨てると、イッチーはなんだか焦った様子でそれを止めに入った。そんなに目をそらしながらじゃ説得力ないよ?こうやって耳に熱~い息をかけただけでほら、全身で反応しちゃってるじゃん。フフッ、いまさっきのイッチーも可愛くていいかも。
「はむっ……」
「うっ!?ぐっ……!」
私は次なる一手として、イッチー耳を甘噛みしてみる。もっと反応するイッチーがみたくなったというのはあるが、とっととイッチーのスイッチを切り替えようと思ったのが大部分だ。ほらほら、イッチーだって私にしたい事あるでしょ?いっていいんだよ、私はあなたのためならなんだってできるんだから……。
「待て、待ってくれ黒乃……全然なにがしたいのか解んねぇよ。悪戯とかのつもりなら今すぐ―――」
(ん……?もしかしてこやつ……)
「ん、なんかいいたそうだな。どうした、いえそうか?」
「しないの?」
「っ……!?」
調子よく耳をハムハムしていたというのに、殊の外されている本人からストップがかかった。やっとその気になったのかと思ったら、まさかのなにがしたいか解らんとのお達しである。……これはおかしい、なんだか噛み合ってやしない。だからこそ私は問いかける。え、しないの!?……みたいな感覚でだ。
いやさ、っ……!?じゃなくてだね、それむしろ私のリアクションだから。っていうかなんですか、女の子にここまでさせといて手を出してくれませんか……。軽くショックですとも、えぇ……。え、なに、ホントにしないの?私準備万端だよ?襲ってくれないの……?
……私の身体は藤堂 黒乃という人間のいわば被り物だが、最近はイッチーの趣味に合うようにいろいろ気をつけているんだけどな。髪とか肌の手入れもちゃんとしてるし、カロリー制限もしてる。おっぱいも大きい方がいいみたいだからバストアップためにいろいろやってるんだけどなぁ。
実際に数センチほど大きくはなった。けど、それに気づいてくれなんて我儘はいわない。ただ……ただね、ここまできたら、私を大切にしたいとかそういうのいらないから……!そうでないと、私が今までしてきたこととか……魅力に繋がってないのかなって、ショックだもん……。
……ダメだ、ホントに私って面倒臭いや。とりあえず現状ではイッチーの鋼のような意志を砕くことはできなかった、ただそれだけのことだ。なにも焦ることはない、学園ではしない……という姉との約束を守ろうってだけのことなのだから。けど、もう1回……もう1回だけ聞いておこう。
「……だ、だから……学園ではしない……ぞ」
「しないの?」
顔を近づけて再度問いかけてみると、イッチーの瞳が大きく揺らいだのが解る。それと仄かに目が潤んできているようだ。それらが胸中でせめぎあう葛藤を顕著に表しているかのよう。悩み、苦しみ、それでも1つの答えを導き出そうと必死なんだろうと思う。
私はかなりイッチーの逃げ場をなくす行為をしたことだろう。それでもしないというのなら、イッチーにとっての誓約は私が考えているよりもずっと重いということ。だったら私もこの場ではもうなにも望まない。だって、それは私を大事にしようとしてくれている裏返しなのだから。
けどね、ちっぽけなプライドとかでそれを守ろうとしているのなら笑わせる。キミが思ってるほど女の子っていうのは神聖じゃないんだよ、特に私は……ね。だからイッチー……キミの中に我慢がひとかけらでもあるのなら、私はそれをなんとしてでも打ち砕く。
だって我慢なんて必要ないんだもん。キミは私のモノで私はキミのモノ。私たちを結ぶのは混じりけのない愛情。ならばどこに我慢する意味が生まれる?愛し愛されたいという想いが直接的行為へ移り変わるのは節理。だからしたいならしたいといってほしい。
そういう意味を込めたしないの?……だ。結果は、思った以上に効果があったとみていいのだろう。イッチーの視線はだんだんと私を舐めまわすようなものへと変わり、それに伴って息も荒くなり始めているようだ。そう……それでいいんだよ?ほらイッチー……私の総てを奪って―――
「黒乃っ!」
「っ…………!」
ベッドへ押し倒されたと思ったら、なにもする暇もなく唇が重ねられた。受け入れる体勢が整っていないというのに、イッチーはそんなのお構いなしに強引に舌を捻じ込んでくるではないか。誕生日の際とは比べるまでもなく、私への気遣いなんて皆無だというのが良く解る。
けど、これがいいしこれでいい。私が被虐体質であることが関係しているのか、イッチーを好きになってからはモノ扱いされたいという歪曲した願望があった。ひたすら本能のままに、欲望のままに、私をぶち壊してしまいそうなほどに乱暴な愛情表現をずっと望んでいた。
イッチーの舌は私の口内を暴れまわり、余すところもなく味わいつくすかのようで……乱暴なことこの上ない。しかし、望みが叶ったという想いが強いのか、私の脳はどんどん喜びを悦びへ変えていく。思考を奪い、書き換え、上書きし―――私の知的な部分なんてなにも残らない。
大きな水音が響き、舌と舌が絡み合い、唾液と唾液が混ざり合う。五感を総動員してそれら総てが快楽へ変わっていく。むしろ残ったとするならばそれくらいだ。あぁ……気持ちいい。キス、気持ちいい……。強引なモノ扱いキス気持ちいいよぉ……!
そんな私にとって最高な貪り喰らうかのようなキスはしばらく続き、もはや息も絶え絶えのような状態になってしまう。だけどそれはイッチーが私を求めてくれている証拠であり、それもまた悦びでしかない。本当に、これで窒息しても構わないとも思ってしまう。だがそれはダメだ……何故かって、これからが本番なのだから。
「黒乃」
「…………?」
「愛してる。愛してるから―――お前が欲しい」
「う……ん……」
あぁ……その言葉を待っていたよ。私も好き、大好き、愛してる。けど言葉だけでも想うだけでも足りないの。想いが溢れて、行き場をなくして、それを伝えられないから。だからこそ、私の総てを捧げたい。私の初めてを―――キミに奪い去ってほしい。
キスの影響で蕩けてしまった脳みそをフル回転させ、それらの考えを整理させた。そして私はそのまま両腕を大きく広げ、いつでもこの腕の中に飛び込んでいいのだと表現する。イッチーは僅かに口元をグニャリと歪めると、次の瞬間には大げさな程に私へ覆い被さった。こうして、熱く激しい放課後が幕を開け―――
黒乃→え、ここまできといてしないの!?
一夏→学園ではしないつもりだったんだけどなぁ……。
実際の所でR18なエピソードって需要あるんですかね……?
そのうち活動報告で尋ねてみましょうか。