八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第12話 レッツ・コマンド入力!

『そうではない……というか、無茶な制動をするなと何度言わせるつもりだ!』

 

 はい。ISを動かし始めたは良いですが、何故かちー姉に指導されてて半泣きな俺氏です。こんなの絶対おかしいよ!ちー姉は既に世界を取ってて時の人だよ?それをお前……初心者の木偶の棒に本気で指導をしてらっしゃるのさ。座学はもっぱら昴姐さんだけど、逆に実技はもっぱらちー姉なこの状況をどうにかしてくだしあ。

 

 なんで今怒られたかって聞かれますと、まぁ……怒られても仕方が無いかなとは思う。現在は主に飛行の訓練を行っているのだけれど、俺の飛び方はどうにも危なっかしいらしいのだ。だってマニュアル操作が難しいんだもん……。どっちかと言わせれば、俺の変な癖が出ているってのが正しいかもだけど。

 

 俺はいわゆるゲーマーという奴で、腕も悪くない方だと自負している。ISをゲーム感覚で操作している気はないが、手で機械を動かす=コントローラーを握っているみたいな思考回路になってしまう。そのレベルで毒されているのはヤバイ奴だという自覚はあるけれど、どうにもゲーマー魂が疼いてしまうのだ。

 

 早い話が、魅せプレイと表現すれば解りやすいかも知れない。ISで例えるならば、急降下から地面スレスレに急上昇する……とか。今さっき怒られたのは、まさにそれをしたからだ。自分でやってて自分で怖いんです。早急にこの癖を改善せねば、そのうち俺は見てから回避とかしたくなってしまうぞ……。

 

 やばいね、想像してるだけで胃が痛くなってしまう。なら止めておけばいいと思うかもしれないが、でもなぁ……ガイアがもっと俺に輝けって言ってるんだよなぁ。いやいや、そんな物は幻聴だ。俺は何のためにISを動かしている?そう!あくまで自衛の手段を学ぶためだ。ここで怪我したら本末転倒もいい所だよ。

 

「おい、聞いているのか?」

 

 え……?やばい、全然聞いてなかったんですけど。と、取りあえず……俺は肯定を示すために、首をコクコクと2度ほど頷かせた。ちー姉の様子を見る限りは、別に疑っている様子は見られない。その点、黒乃ちゃんの身体は便利なもんだ。俺だったら目が泳ぎまくって、確実にバレてしまっていただろう。

 

「なら構わん……。昴のせいで、打鉄はそれ以外は配備されていないのだからな。大事に扱えよ。」

 

 そうそう。今俺が操作しているのは、量産型訓練機として名高い打鉄である。それは不思議だと思っているんだけど、どうなのだろうか。俺の記憶が正しければ、打鉄は第2世代型のISだ。今俺が中学1年だから、ISが世に出て1年弱だよ?少し早くない?

 

 もしかして、俺&黒乃ちゃんっていう原作にはない要素のせいで……色々とイレギュラーが発生してるからとかかな。どうかそれだけは勘弁してほしい物である。だって、IS学園でイレギュラーが起きても困るし。それでなくてもハードモードなイベントの数々が、エクストリームハードになってしまう。

 

 それがゲームの話なら俺は燃えるけど、ゲームはゲームでもデスゲームだけはマジ勘弁。俺は、平穏にIS学園で生活できればそれで良いんだよ。陰ながらイッチー達のてんやわんやを眺められれば十分なんだよ。まぁ……力になれる事があれば、協力くらいはするつもりだけど……。

 

「では、もう1度最初から始めるぞ。少しでもミスがあれば、出来るまで繰り返す。」

 

 うわぁお……鬼教官っぷりを遺憾なく発揮してますなぁ。ま、だからこそのちー姉ってのはあると思うけど。それにしても、もう1回か……ワンモアセッ!よしっ、ちー姉による訓練は千冬ズ・ブートキャンプと名付けよう。……って、下らない事を考えている場合では無いな。

 

 とにかく俺は、その場から跳びあがって上空へと躍り出た。さっきも言ったが、今は飛行訓練だからね……飛ばないとお話にならない。え~っと、始めはゆっくり飛んでそこから加減速。空中での上昇下降、180度ターンしてまた頭から。そんで、宙返りしつつ急降下から急上昇……でワンセットだな。よしっ、気合入れて行きますか!

 

 まあぶっちゃけた話で、ISの操作は普通に出来ている方だと思う。変な癖さえ出なければ、こう……ヒョイヒョイっと飛んでいられる。うんうん、良い調子だぞ。残るは急降下と急上昇のみだ。空中で綺麗な円を描くように宙返りすれば、俺は地面に向けて一気に高度を下げて行く。

 

 このトップスピードが出てる時は……流石にけっこう怖いな。でも大丈夫、ISに乗っている限りは死にはしない。……っていうくらいには気楽でいれば俺はできる子だ!うっし、そろそろちー姉の指定した上昇のタイミングだぞ……。早すぎてもダメ、遅すぎてもダメだ。

 

 ハイパーセンサーで地面との距離感を確認しつつ、俺はタイミングを見計らう。…………っ!今だ!……と、意気込んだまでは良いんだ。俺の中でまだ焦りがあったのか、打鉄を操作するトリガー的な物に乗せていた指が滑ってしまって、思った操作が出来なかった。

 

 慌てて修正しようとするが、時すでに遅し。素早い指捌きで追加入力こそ間に合ったが、打鉄の制動は先ほど怒られたムーヴの完全再現になってしまう。スピードを落として地面に着地に成功するが、俺は背筋が寒くなるのを感じる。何故なら、ちー姉がとてつもなく良い笑顔で近づいて来るから……。

 

「黒乃~。私はさっきなんと言った……うん?賢いお前ならば解るよな?解るだろう?頼むから解ると言ってくれ。」

「…………。」

「こ・の……馬鹿者がっ!」

 

 い、いや……落ち着いてよちー姉。確かにさっきのは、ギリギリを故意で狙ったけど……今のは単なる操作ミスなんですって。ってのが、喋られればなんだけどなぁ……。でもどのみち、喋れても言い訳は聞きたくないって一蹴されるだけだろう。でも、どうにかわざとじゃないのは解ってほしいんです。

 

 まぁ無理だよね。俺は打鉄を装着したまま正座させられて、ガミガミと長い間説教を喰らう。これが学園の先生になったら、説教だけで済まなくなっちゃうんだから恐ろしい。バリア貫通出席簿アタックなら大歓迎だけどね。罵倒して貰えるうえに叩いて貰える……我々の業界ではご褒美です。

 

 俺の中では、説教とは毛色が違う。もっとシンプルに……言われた通りに出来んのか、このノロ臭い豚が!……とか言われながらちー姉に踏まれたい。いや、割とマジで。ヒールだったらなお良しとも言っておこう。ま、説教もご褒美だと思って乗り切るしかないね……。

 

 そうして説教を乗り切れば、ちー姉の言ったマニフェスト通りに完璧になるまで反復練習が続く。午後からの練習だったけど、気付けば夕暮れ時ではないか。昴姐さんの帰れというお言葉が無ければ、もっと続いていたかもな……。前途多難だけど、IS学園に入学できるように頑張らないとね……。

 

 

 

 

 

 

「実技は教えんとは、どういう意味だ?」

「言葉通りの意味ですけど。嫌だよアタシ、あの子とサシでIS動かすとか。」

「……お前は、黒乃を何だと思っている。」

「得体の知れない何か……かしら。あの子自体が悪い子じゃないってのは、勿論アタシだって理解してるわよ。」

 

 黒乃への指導の諸々の調整を昴と相談すれば、急に実技は教える気が無いなどと言い出す。理由を問う限りは、黒乃から感じた異様な雰囲気の事をまだ引きずっているのだろう。昴としては、黒乃がISを動かすのを快く思っていないのだから考えられない事ではないが……。

 

「実技、千冬が教えたげな。ここならいつでも好きな時に使って良いから。」

「昴……お前な、少し真面目に――――」

「言っとくけど、アタシは大真面目だから。アタシの勘って良く当たんのよね。あの子と戦うなって、アタシの勘がそう言ってるわ。」

 

 実技を教えるのならば、いずれは模擬戦を行わねばならん時もくるだろう。昴が野性的な勘を備えているとなれば、自ら餌になりに行く事は無い……とでも言いたいのか?それすなわち、黒乃はあっと言う間に自分よりも強くなると見越しているらしい。

 

「……解かった。そこまで言うならそれで良い。ただし……。」

「心配しなくても、座学だけならキチンとやるわよ。実技やらない分は、徹底的にね。」

 

 昴は適当な奴だが、筋は通っているし面倒見も良い。きっと子供も好きだろうから、その内に黒乃を心から応援してくれると嬉しいが。それはそれとして、話が固まったのだから私も暇を作らんとな。ほとんど昴に丸投げするつもりだったせいか、しばらくは都合が悪い。私の日取りがキチンと解るまでは、昴に座学の方を進めて貰おう。

 

 かなりスケジュールはきついが、定期的に暇を確保する事ができた。本格的に黒乃へISの指導が始まる。初めは、もちろん歩行から教えたのだが……私は唖然とするしかない。様子を見る為に適当に動いてみろと言えば、黒乃はまるで動かすのが初めてではないかのように楽々と操作してみせる。

 

 指定したラインの通りに走ってみろと言えば、黒乃は誤差0で線上を走りきる。私は思わず、頭が痛くなってしまう。かなり厳しめにするつもりだったのに、これでは指摘する部分が見当たらない。どうしたものかと悩んでいると、黒乃の視線が気になった。その目はまるで、早く次にいこうとでも言いたげだ。

 

 ……黒乃に限って、つけあがるという事はあり得んだろうが。しかし、ひとまずは叱咤をしておく。その代わりと言ってはなんだが、いろいろと手順をすっ飛ばしても良さそうだ。初心者向けの動作は省いて、私流で行っていく。指示を出せば、どちらにせよ黒乃は完璧にこなすに違いない。

 

 だいたいは、私の想像通りだった。飲み込みが早いなんて速度では足りずに、黒乃はドンドンと技術を吸収していく。特に心配は無さそうだ。そう判断した私は、予定を大幅に前倒しして飛行訓練を行う事にした。しかし……それまでの安心は、儚くも私の中から消え去ってしまう。

 

「そうではない……というか、無茶な制動をするなと何度言わせるつもりだ!」

 

 今までの黒乃とはうって変わって、空中での動作は最早メチャクチャだ。我流で動かしているのは解るが、まだそういった段階ではないだろうに……。今の急降下からの急上昇なんかは、見ていて胆が冷えるぞ。だがまぁ、地面に激突しないのは称賛に値価する。ほぼ一発だったわけだが、そろそろ何が起きても不思議ではなさそうだ。

 

「黒乃……。気持ちは解るが、もう少し落ち着きをもて。今は飛ぶだけだが本来は戦闘中だ。そんな飛び方では、しょっちゅう地面にぶつかるぞ。」

 

 黒乃はこちらを見ながら話を聞いている……のか?どうにも今のは上の空に見える。この子に限って、説教臭いだのは考えていないだろうが……。判断に困った私は、再度黒乃に聞いているかと問いかけた。すると黒乃は、2度ほど大きく頷いてみせる。……杞憂だったか?

 

「なら構わん……。昴のせいで、打鉄はそれ以外は配備されていないのだからな。大事に使えよ。」

 

 昴の奴め、本当にまともに仕事をしていない……。黒乃に教えるだけならば、別に私も打鉄で構わんのだが。もう1機ないのかと聞けば、それしか配備していないと言われた日には……いい加減に頭痛がしたものだ。昴の事はとにかく、黒乃の指導を続けなくてはな。それならば、もう1度通しで飛んでもらうか。

 

「では、もう1度最初から始めるぞ。少しでもミスがあれば、出来るまで繰り返す。」

 

 脅すような事を言ったが、注意さえすれば難なくこなすだろう。教え甲斐がない気もするが、手がかからないのは黒乃は常だ。そう考えている間に、黒乃は空中へと躍り出た。そうして、教えた通りの飛行を開始する。うむ、やはり美しい。流れるようなその動きは、見るものを魅了する。

 

 黒乃自身の容姿も大いに関係しているだろうが、何かと整っている方が都合は良い。とにかく、問題はここからだ。黒乃が急降下を始めたのを、注視しながら見守る。現時点では、まだ注意すべき点は見当たらんが、やけに速度が出ている気がした。

 

 この段階で嫌な予感がしたが、今から止めた方がかえって危ない。そのまま静観を決め込んでいると、嫌な予感通りに黒乃は先ほどと同じく地面スレスレの急上昇を見せてくれる。続けざまの始末に、私の頭部からピキッと微かな音が出た。私は黒乃にノッシノッシと近づいて、心から言い放つ。

 

「黒乃~。私はさっきなんと言った……うん?賢いお前なら、解るよな?解るだろう?頼むから解ると言ってくれ。」

「…………。」

「こ・の……馬鹿者がっ!」

 

 黒乃の返事がないことなど解っていたが、どういう意図だったのかを考慮できんのは考えものだ。どちらにせよ、叱ってやるべき時にはそうしなければ。私は単に黒乃を責めぬよう言葉を選び、説教を開始した。一応は反省してもらわんとらなんので、とりあえずは正座させておく。

 

 長時間叱ったが、いつまでもガミガミ言っていても仕方がない……。反省したのならば、行動で示してもらわねばならん。説教を終えると、訓練を再開した。流石の黒乃も反省したらしく、それ以降は危険な飛行は見られない。その反面で、何処か動きがぎこちなくなってしまったが……。

 

 もしやとは思うが、打鉄の操作に違和感を覚えているのか?……思ってみれば、その可能性は十分にある。なにせ、昴の管轄に置かれていたのだから。整備不良等々……原因は様々だが、挙げていけばキリがない。これは、昴を問い詰めなければならなくなった。するとタイミングの良い事に、昴からの通信が入る。

 

『ちょっと、そのへんにしときなって。弟くん、この時間まで家で1人は可哀想でしょうが。』

『……了解した。今日のところは切り上げる。』

 

 こうして時々まともな事を言い出す故に、この対馬 昴という女はよく解らん……。昴の発言は至極正しく、私は大人しく従う。黒乃に打鉄を片付けるよう言えば、その間に私は昴へと接触を図る。昴は何か用事かといった表情だが、こちらとしては聞いておくのは必須だ。

 

「昴。1つ聞きたいのだが、打鉄は整備されているのだろうな?」

「うん?当たり前でしょ。いくらアタシでもそのくらいはするわよ。」

 

 話を聞けば、昴は私がスケジュールの調整をしている期間に、専門の業者へここの打鉄の整備を任せたらしい。なぜそんな事を聞くのかと、逆に質問される。そこで私は、黒乃の飛行に関する出来事を話してみる。昴は興味はあまりなさそうだが、原因を考えている様子だ。

 

「飛行で無茶な動きを……ねぇ。確かに黒乃なら、いっぺん注意したら止めてくれると思うけど。」

「私の考え過ぎで、単なる操作ミスかも知れんがな。」

「もしくは、打鉄の方が黒乃に着いていけてないとかね~……アハハハ。」

 

 昴は冗談のつもりで言ったかも知れんが、私はその言葉を聞いて思わずハッとなった。私が閃いたような表情を見せたせいか、昴の笑い声は徐々に小さくなっていく。恐らくだが、自分で言っていて思ったのだろう……。黒乃ならば、そういった事実もあり得てしまうと。

 

「ちょっ、ちょっとタイム……。もしそうだとしたら、あの子はいったいどんなスピードで操作入力してんの?」

「昴の予想が正しいのならば、打鉄が処理不全を起こすほどの膨大な入力回数だろうな。」

「地面にぶつからないって事は、正しい操作って証拠よね……。だったら、雑な操作じゃなくて1周廻って超絶繊細な操作って事か……。」

 

 機体の方が着いて来れていないのだとすると、それで平然と飛んでいられる黒乃はとんでもないぞ。2度目の注意の後に黒乃の動きがぎこちなくなったのは、つまるところ手加減という事か……。束、なかなかお前の第1と定めた目標は難しいらしいぞ。黒乃が本気を出せるのは、いったいいつになる事やら。

 

「あ~……も~……。あの子が戦闘を始めたらって、想像するだけで嫌だわ。」

「模擬戦……か。私は、判断を誤ったかもしれん。」

「は?どったの急に……。」

「私の前に、余所と模擬戦を組んだ。」

「は……?はああああ!?最悪……あ~……最悪。絶対にアタシが文句言われるパターンだわこれ……。」

 

 いざ模擬戦を始める前に、どうしても客観的な視点で黒乃の戦闘技量を見ておきたかった。そのため、余所の養成所で黒乃と同世代の操縦者を捜した。何故か解からんが、妙に黒乃と戦いたがっていた者がいたもので……。キャンセルも効くだろうが、先方がやる気な分だけ顔が立たん。

 

 相手の実力は、全く以て私は知らん。だが、何故だろうか……黒乃が圧倒するビジョンしか見えなくなってきた。……黒乃の望みは、相手を殺さない程度に本気を出す事だ。それにうってつけなISの戦闘となると、やり過ぎなければ良いが……。

 

「1つ聞くけど、千冬は同行するわよね?」

「いや、その日はあいにく忙しい。だから映像の記録も頼んだ。」

「マジ……怒って良い?あの子の面倒とか、アタシみたいなのに勤まる訳ないじゃん。」

「少しはまともに働くと言う事を学べ……。では、確かに頼んだぞ。」

 

 そう言って昴の元を後にすると、ドアをくぐった辺りで『アホー!』と聞こえてくる。……あれで私より年上か、世界には様々な人間が居る物だ。さて、黒乃は……もう更衣室だろうな。もしかすると、待たせてしまっているかもしれん。私も早く着替えて、今日の所は帰るとしよう。

 

 

 




黒乃→まぁ、なんとなく上手な方じゃない?
千冬→ISの方が追いつけん操作技量か……。


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