八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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最終章ということで、過去のおさらいのような回です。
プラスしてフラグ建てもですかね……。


第119話 足跡を辿って

「なぁ黒乃、ここっていつもこんななのか?」

(うん、だいたいはね。早いとこ慣れた方がいいと思うよ)

「そう……アンタも苦労したのね」

 

 今日は地下施設の整備室のような場所に集合をかけられたのだが、そこでは研究員さんたちやメカニックさんたちがギャーギャーと騒ぎ立てていた。その内容は様々で、喧嘩腰だったり、逆に同意見で盛り上がっているようにみえる。

 

 私にとっては慣れた光景なのだけれど、近江重工と関わりのないみんなは少し引き気味だ。むしろ私の苦労でも垣間見たのか、同情にも似た視線を向けられてしまう。確かにいろいろと無茶振りをされた覚えはあるけれど、アイツも居ないしマシなもんさ。

 

「よう、お前さんら」

「おじ様……。おはようごさいます……」

「ああ、お早うさん。どうだ、今日は楽しみだったんじゃないか?」

 

 私たちが入り口付近で呆然としていると、先に到着していたらしいオジサンが声をかけてきた。かんちゃんの挨拶を合図にするかのようにして、私たちも揃ってご挨拶。向こうも返事をそれなりに、オジサンはアゴヒゲを触りながら少し頬を緩ませそう口にする。それに対して―――

 

「正直、不安が大きいですわ」

「このありさまを見て、申し訳ないですけど僕も……」

「そういう感情を抱けない方がどうかしている」

「お姉さんも全面的に賛成~!」

 

 オジサンの楽しみだったのではないかという問いに、候補生&国家代表はそれを全面否定。発言はしなかった鈴ちゃんとかんちゃんも同意見なのか、黙って何度も首を頷かせるばかり。それに対してオジサンは、こりゃ手厳しいねぇと全く心にもない様子で答える。

 

 まぁなにかって、この間のクリスマスのことも関係していたりする。なんであの日が休みだったかって、そもそも大半のメンバーがISを所持していなかった。じゃあそれがなんでかって、みんなは機体を近江重工に預けていたからだ。

 

 来たるべき決戦へ向け、様々な部分において近江重工仕様へ改造するためである。近江重工は、主にISの内部部品に関わるリーディングカンパニーだ。世界シェアは高いものの、自社製品を自社の研究員が扱った方がよりよいに決まっている。

 

 そもそも決戦の際には誰の目に触れるかもわからないのに、各国が生み出した専用機を勝手に改造しましたよなんて知れたら普通に国際問題だし。そのあたりを考慮して、見た目だけでは判断できない内部に関してのチューンナップ限定ということに留めたのだろう。

 

 というか、そもそも中身を拝見するだけで各専用機の開発チームからしたらマジギレものだろう。まぁデータの記録もしないし、すべてが終わったら元通り綺麗に改造し直しますみたいな契約書も書いてたし大丈夫でしょう。そもそも世界を救ったら許されちゃう? ……とかいう安易な発想はしない方が吉か。

 

「……って、そうそう。坊主、箒ちゃん。お前さんらの機体だが、申し訳ないが手を加えられなかった」

「それは何故です?」

 

 思い出したようにそういうけど、それってけっこう大事なことなんじゃないんですかねぇ。オジサン曰く、束さん製のISは造りが難解すぎて手出し不能だったそうな。下手に触って故障でもしてしまえば一巻の終わりだし、中止の命令を出した人は賢かったろう。

 

「元より私たちに責める道理もありません。今のスペックで切り抜けてみせます」

「文句言う筋合いじゃないってのは同意見っす」

「そうか、ならウチの連中も救われるってもんだ」

 

 あらやだモッピーってば男前……。いや、昔からこんな感じの子だったか。まぁ、この場に居る全員が同じような言葉を返していたことだろう。これにはオジサンも有難そうな表情を隠しきることができないのか、研究員さんたちをチラリとみる視線は優しさが込められているのがよく解かる。

 

「よし、そんじゃ今日から試運転ってことで。恐らく違和感を覚える部分もあるだろうから、なにかあったら少しでも意見をいってくれ。そんじゃ、この間のアリーナもどきに集合な」

 

 決戦の日も徐々に迫ってきているということで、そう機体の操作感覚に時間を取られている場合でもない。かといって、ここを妥協しているようでは勝てないだろう。それこそ束さんがいっていたが、コンディションは万全に整えなくては。

 

 オジサンの指示を受けた私たちは、ぞろぞろと地下アリーナを目指した。私、イッチー、モッピーは手伝い程度で、他のみんながチューンナップされた専用機をいち早く慣れるようにサポートせねば。私にできることは……なんだろ? 逃げ回って追いかけられるか、はたまたその逆かな……。

 

 まぁ、その都度みんなの方からなにか頼んでくれるだろう。だって私だし、伝わらないし。ハッハ、やっぱり時々だけどいってて悲しくなってくるぜ。だから反動でイッチーがいろいろ察してくれるのが嬉しくて堪らないのかもねー。

 

 って、惚気てる場合でもないな。意識を集中させると、専用機を預けていたみんなは既にそれぞれの待機形態へ戻していた。目の前を6人が通過していったのを確認すると、その後を着いて歩くようにして歩を進める。更に私の後ろをイッチーとモッピーが歩くような陣形になり、みんなしてアリーナもどきを目指す。

 

 

 

 

 

 

「機体の調子よ過ぎるんだけど!」

「わたくしも同感ですわ! ただ――――」

「よ……よすぎて……感覚が変……」

「そうか? あまり違和感はないが」

 

 はーん、この反応をみるに、やっぱり近江重工ってアイツ抜きでも精鋭ぞろいなんだ。アイツが1人頭抜きんでてるせいで目立たないんだろうけど、確かに試運転中の動きは外野から見てもいいように感じる。ただ、それが全てというわけでもなく、本人たちが感じているようにぎこちなさも見受けられる。

 

 というより、性格によるところも大きいのかも知れないな。いわゆる右脳タイプ、左脳タイプというふうに分類されるアレだ。鈴ちゃんとラウラたんなんかはずっと調子よさそうだし、逆にセシリーとかんちゃんはやり辛そう。残りの2人はまぁなんというか、どちらにも当てはまらないというか――――

 

「パーツによって、僕のリヴァイヴでもこんな動きができるんだ!」

「今なら黒乃ちゃんにも捕まらない気がしてくるわね!」

 

 シャルとたっちゃんは特に調子がいいようにみえる。この2人はあれだね、天才型とでも表現するのがピッタリだ。何気にシャルも瞬時加速をやってみたらできたみたいなことはいってたもの。たっちゃんはいわずもがなというか、そのせいでかんちゃんとの確執が出来ちゃってたんだし……。

 

「なんだかみんな、楽しそうだ―――なっ!」

「性能の向上を実感できるのは楽しいのでは―――ないかっ!」

 

 結局のとこ、原初の幼馴染組は暇してるわけでして。かといってなにも練習しないのは時間が勿体ないということで、今は私の訓練に着きあって貰っている。イッチーとモッピーに左右から同時に近接攻撃を仕掛けてもらい、私はそれを疾雷と迅雷で防ぎ続けるというもの。

 

 単純に反射神経を鍛えたいというか、接近された際の防御をもっとどうにかしたいというか……。逃げるのは簡単なんだけど、あまり無遠慮にQIBやOIBを使うとすーぐガス欠だからなぁ。とりあえず今のところはちょうどいいけど、まぁ2人ともかなり手加減してくれてるっぽい―――

 

「……タンマ、ちょっと待て黒乃」

(あ、うん、どうぞどうぞ)

『なぁ箒、お前どのくらい本気でやってる?』

『私は全力のつもりだ。しかし、一太刀も当てさせて貰えん』

『だよなぁ。俺も一応は本気でやってんだが。ってなると、この訓練は意味あるのか?』

 

 火花を散らして疾雷と雪片がぶつかったところで、イッチーはいったん手を止めて待ったをかけてくる。付き合わせているのだから休憩くらいは自由にどうぞ、という意味で首を頷かせた。するとイッチーとモッピーは、なにやら秘匿通信で会話を始めたみたいだ。

 

 これは別に心配する間でもなく、前後の流れからして作戦会議かなにかだろう。そこまでして私に当てたいのかとは思うけど、それだけ真剣に協力してくれている証拠だろう。うんうん、持つべきものは愛する人と幼馴染だよね。

 

「箒ーっ! 悪いんだけど絢爛舞踏お願いしていいーっ?!」

「まったく、人を便利な充電器みたく扱いおって。済まない2人とも、少し行ってくる」

 

 難航しているらしい作戦会議の終わりを待ち受けていると、遠くの方で鈴ちゃんがブンブン手を振ってモッピーを呼び寄せた。どうやらマドカちゃんに電池呼ばわりされたのを気にしているらしく、ぶつくさ呟きながらゆっくり候補生&国家代表の元へ向かっていった。

 

 モッピーも自分がエネルギーを増幅させた方が早いことは解かっているのだろうし、誰かが変に煽って小競り合いにならなければいいけど。なんなら止めることも視野に入れて観察を続けようと思ったのだが、こちらはこちらで呼ぶ声が響くではないか。

 

「嬢ちゃん、少し顔を貸してくれ。全然関係ねぇんだが、別件の用事を思い出した」

(それはいいんですけど、別件ってのをハッキリさせてほしいな)

「……お前さんの遭った事故について進捗だ」

 

 私を呼ぶ声はオジサンのもので、聞けば黒乃ちゃんとそのご両親が遭遇した事故について新たな情報が浮かんだようだ。アイツが離脱した後も調査の方をオジサンが引き継ぎ、定期的に調べておいてくれたらしい。なるほど、なら聞かないわけにもいかないね。

 

「すみません、それってなんの話なんですか?」

「ん? 嬢ちゃんから聞いて――――はないよな、言いたくてもいえねぇんだから」

 

 どうやら私とオジサンのやりとりが理解できないらしく、イッチーは少し顔色を悪くしながら問いかけた。イッチーにとっても黒乃ちゃんのご両親は親だったみたいだから、本当は話してあげたかったのだけれど……。ご存知の通り私にそれは不可能だから、手の打ちようがなかったっていうのが正直なところ。

 

「よし、おさらいも含めて坊主にも1から話すことにしよう。ただし、お前さんの両親の死についてのことだぞ。本当に大丈夫なんだろうな?」

「だったらなおさら知らなきゃならない」

「だろうな……。なら場所を変えるぞ。恰好は……まぁそのままで構わん」

 

 イッチーがこの話に加わるには、あまりにも情報量が少なすぎる。しかし、イッチーには知る権利も知る覚悟もあるようだ。その顔から本気度を悟ったのか、オジサンがそれ以上の問いをすることはない。ただ不安はあるらしく、私の手を取るイッチーの手はいつもより冷たく感じられた。

 

 そしてオジサンに連れてこられたのは、以前にもボードゲーム大会にて利用した会議室にも似た部屋だった。適当な椅子に腰かけると、まずはイッチーへの説明からということに。流石に忘れたということはないが、私もおさらいということでしっかり聞いておくとしよう。

 

 黒乃ちゃんとご両親の遭った事故に違和感を覚えたらしいアイツが調査を始めたのが事の起こりだ。なんでも、私を助けた何者かがいるだとか。その何者かの正体や目的は一切が不明で、解かることといえばソイツが事故を発生させた張本人ではないということのみ。

 

「黒乃を助けた……はずなのに目撃証言がない? 本当に犯人では―――」

「ないな。お嬢ちゃんだけ生かしておく理由はねぇ」

「……随分と言い切りますね」

「オジサンだったら殺しとく」

 

 目撃証言がないせいでなんともいえないが、イッチーのような感想を抱くのは節理。私だって似た感想だ。助けてもらっておいてなんだが、なぜご両親は救えなかったのだろう。そのあたりは、オジサンの言葉が逆説的に作用するかも知れない。

 

 確かに、ご両親を殺害するのが目的なら黒乃ちゃんを生かすメリットは全くない。あまりにもそうハッキリというオジサンの目は、なんというか……笑ってなかった。この人は最善手を取るのならどんなことでもするタイプなのだろう。なんだ、やっぱり似た者親子じゃないか。

 

「んで、それよか進捗ってのは……まぁ、こっちもあんま役に立つような情報じゃねぇんだが。この車両炎上に伴って搔き消されたブレーキ痕についてだ」

 

 そうそう、爆発炎上した車のすぐ傍らにブレーキ痕らしきものがあったらしい。しかし、それは燃える炎がアスファルトを焼くことによって搔き消されてしまったみたいなんだよね。これが何者かに繋がる唯一の手掛かりともいっていいと思うんだけど……。

 

「どうにもこのブレーキ痕な、タイヤや車輪の類じゃないらしい」

「えっと、つまり?」

「なにかしら金属類である可能性が高いってのを導き出すので限界だな」

 

 アイツがこれをどこまで再現した画像かは知らないが、確かにタイヤだったりするなら溝の部分とかが見たら解かるはず。確かにこの写真では端から端まで黒いブレーキ痕になっているが、金属類っていったいなんだろ。2本の間がほぼ等間隔だし、なにかの乗り物であることは間違いなさそうなんだけど。

 

「この痕についてもう1ついえることは、よく見たら形が不自然ってところかね」

(不自然……? あ、ホントだ……確かに始点と終点に鋭角がみえるや)

 

 そういわれてよーく目を凝らして観察してみると、確かに始点と終点が尖っているようにみえる。具体的に言えば、始点となる部分は全体が1つの三角に。終点となる部分は3つの三角形が飛び出ているのが確認できる。しかし、やはりこれも手掛かりになるようなものでは―――

 

「……? この感じ、どこかで見たことあるような……」

「坊主もか? 実はオジサンもなんだよねぇ」

 

 えぇ……ホンマでっか、つまりなにも感じていないのは私だけということになりますが。な、なんでこんな痕に見覚えがあるんだろう。男2人してう~んと考え込んでいるので、とりあえずは私もポーズだけはとっておく。ホ、ホントになんで見た覚えが―――

 

「そのうち思い出すかも知れねぇから頭の片隅に置いとくとしてだ。も1つ解かったことな。相変わらず役には立たない可能性が高けぇけどよ」

「……父さんの車のドア部分ですね」

 

 オジサンが差し出した写真には、真っ黒焦げになった車が映し出されていた。話の流れからしてお父さんの車と察したらしいイッチーは、少しばかり渋い表情をみせる。……車が燃える前に亡くなっていたの、救いなのかも知れないな……。

 

「火災のせいで部品が溶けちまって解かりづらかったが、やっぱいっぺんこじ開けられてるみたいだぜ」

 

 確かこれについてもアイツが言ってたな。お父さんの車のドアは、誰でも私を助けることができるように開けられておいた可能性が高いって。その後オジサンが引きついだ調査にて、それは確定したということか……。なんでこじ開けるだけにとどめておいたのだろう。

 

 それが正体不明なのと関連性があるのは解かるが、助けたことそのものすら悟られたくないとなるとよっぽどだな。逆に、そうまでするなら私が目撃でもしたらどうするつもりだったのだろう。でも別に事故を引き起こしたのはアンノウンじゃないわけで、う~ん……。

 

「……あのバカならなんか気づいてんのかも知んねぇが―――」

「「…………」」

「おっと、済まない……。今のは忘れてくれ」

 

 こう手詰まりだと、あんなヤツの力でも借りたいもんだ。しかし、オジサンの呟きは幾分か地雷だった。正直なとこ、裏切った人のこととかどうでもいいし私は平気なんだけどさ。どちらかというなら、私が心配しているのはイッチーの方。

 

 あまり私のことで怒って欲しくはないけど、イッチーは未だにアイツに対しての殺意を抱いているようだ。宥める必要はなさそうだけど、ギリギリと歯を食いしばってなにかに耐えているのが良く解かる。オジサンもそんなつもりじゃなかったんだろうけど、珍しく素直な謝罪をみせた。

 

「ま、進捗っつってもこんなもんだ。亀の歩みにも劣るが、解かったことは全部知らせてやっからよ」

(足踏みしてるよか全然マシだよ)

「そいじゃ、オジサンは上へ戻るぜ。訓練、頑張ってな」

 

 車のドアが破壊されていたのなら、私を助けたアンノウンが存在していることは確定した。それが解かっただけでも進歩だと思うし、オジサンがそう悪びれることじゃないと思う。むしろお礼を言わなきゃならないくらいで、足早に去っていく前にキチンとお辞儀をしておいた。

 

「……いったい何者なんだろうな、黒乃を助けてくれた誰かって」

(うん、本当にね。まず人間かどうかが怪しいような気もするけど……)

「会って礼がいいたいもんだな。もちろん、目的にもよるんだが」

 

 イッチーは礼を言わねばという発言の後に、思い出したかのように目的にもよると付け加えた。確かに、ロクでもない目的の為に私を生かしたってんならぶっ飛ばさなきゃ。でも普通に、単に、私を助けたというのなら、うん……間違いなくお礼を言わないと。

 

 今この瞬間に至るまで、苦しい事や辛い事が沢山あった。けど、それも含めて今の私だと思う。今の私だからこそ、イッチーに好きになって貰えたんだと思う。今の私があるのはそのアンノウンのおかげでもあるのだから、お礼くらいは言わせてほしい。本当、何者なんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

「…………刹那……?」

「たっくん、刹那がどうかしたの?」

「いえいえなんでもありませんよ。ただの独り言ですから」

「そ、なにかあるけどいえないんだね~。釣れないね~くーちゃん」

「構ってもらえないからといって私にじゃれつかないで下さ―――ちょっ、どこを触って……!」

 

 束さんの元に来てからも暇をみつけて過去の事故について調査はしていた。そんな中、とある再現写真を眺めていると、呟くような声で刹那と発音してしまう。人、自然が奏でるのに限らず、ありとあらゆる雑音が排除されたこの根城では、普通に周囲の人物に聞こえてしまったようだ。

 

 ISのこととなると聞いておかないわけにはいかないのか、束さんは間髪入れずに聞き返してくる。しかし、自分で建てた仮設ながらあまりにも突拍子がない。こんな根拠も現実味もない仮説を束さんには聞かせるまでもなく、適当に誤魔化したが彼女はそれが不服らしい。

 

 僕に適当な対応を取られたと判断したのか、作業の手を止めてクロエの方へ一直線。フラストレーション発散の矛先が向いてしまったのは申し訳ないが、これも母子の戯れだと思って耐えてもらうことにしておこう。後で2人にはそれぞれ謝っておくとして―――

 

(さて、このブレーキ痕が刹那のものである可能性がある件についてはどうしようか……)

 

 黒乃ちゃんの遭遇した事故は約10年前だ。そんな時期には刹那は愚かISすらこの世に存在しなかった、なんてことは当然ながら理解している。しかし、前から見覚えがあるなと思っていたこのブレーキ痕……似ているという言葉で片付けるのはあまりにも安直だ。

 

 思い立ったと同時に空間投影ディスプレイを起動させ、刹那に関する記録を漁ってみることに。しかし、残念ながらアスファルトや地面に刹那のブレーキ痕の映像ないし画像はなさそうだ。だとしたら、刹那の脚部裏の面積とかを洗い直して、速度の想定とかをして再現してみるしかないか。

 

 しかし、もし一致したとしたらそれはいったいなにを示しているのだろう。さっきもいったが、事故は約10年も前。なのに刹那がその時間、そこに居たという証拠になってしまうんだよねぇ。それは流石にあまりにも非科学というか、いくらなんでも信じ難い。

 

 それにもし刹那だったとして、パイロットは黒乃ちゃんなのだろうか。あまりにも現実的ではない考えだが、あの機体を扱えるのは後にも先にも黒乃ちゃんだけだ。でも前提からして理論として成立しない。でもブレーキ痕はほぼ間違いなく刹那のもので―――

 

(……結論を急ぎすぎか。とりあえず、検証するところから始めてみよう)

 

 僕としたことが、検証もしないうちにそう決めつけてしまうとは。なにはなくともまず検証、だね。まずはブレーキ痕が刹那のものであるという確証を得てから、それからもっと深く考えていくことにしよう。暫定的にそう方針を決めた僕は、戯れる2人を尻目に刹那のデータを洗いざらいピックアップしていくのであった。

 

 

 

 

 




黒乃→練習つったって、軽くね、軽く。
一夏&箒→本気でやってるのにまるで歯が立たないな……。

たぶん今は100%意味が解からないと思うので、深く考えないことをお勧めします。
恐らく真相解明はVSクロエ戦が終わってからになるでしょう。

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