八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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正月回です。
地下施設に居る兼ね合いで、だいたたいタイトル通りの内容がメインですけど。


第121話 チキチキ! お年玉争奪戦!

「月並みだが、新年明けましておめでとう」

 

 仕方がないこととはいえ、私たちは地下施設で新年を迎える運びとなった。というわけで今日は1月1日、新しい年の幕開けである。今日から三箇日は全面的に活動休止ということで、そういう予定になるのは年末ごろには伝えられていた。

 

 私たちは少しでも一般的なお正月気分くらいは味わおうというオジサンの計らいで、振袖に身を包みながらレクリエーションルームへ集合していた。別に私も着慣れているということではないが、日本での生活が1年満たない海外組は特に珍しいらしく、かなり喜んでいる様子が印象的だ。

 

 ちなみにデザインはそれぞれのメンバーを連想させる柄で、色はパーソナルカラーで染められている。となると、オーダーメイドで織ったんだろう。私のだけ簡単に説明しとくと、白地にデカデカと黒い翼が描かれているデザインだ。白地なのは……多分だけど私とイッチーの関係性からだろう。

 

 私たちはオジサンの新年の挨拶に返すと、向こうもなんだか満足そうに頷いている。さては振り袖姿の美少女8人に鼻の下が伸びているとかじゃないだろうね。というか、このオジサンの場合は限りなく100%に近い確率でそれだろう。

 

「とりあえず堅苦しいのは抜きにして、こいつを受け取ってくれや」

「待ってました! 日本の正月といえばソレよね~」

「あら、ジャパニーズお年玉というやつですわね」

 

 オジサンはニヒルな表情を浮かべると、懐から9枚のポチ袋を取り出した。どういう経緯で根付いた文化かは知らないが、日本人で高校生くらいまでの少年少女が楽しみにしているとくればお年玉だろう。家庭によって大差は開くだろうが、やっぱ無遠慮にお小遣いせびっていいのは嬉しいよねぇ。

 

 とりわけ、オジサンからのとなれば自然に期待値も膨らんでしまう。元気にむしり取るようにする者、恐縮した様子で受け取る者と十人十色のリアクションを見せつつ、しっかりと全員にポチ袋が行き渡った。オジサンの中身をみてよいとの言葉を受け、全員が中を覗いてみるが――――

 

「……存外しょぼいな」

「ラ、ラウラ! タダで貰ってるんだから失礼だよ……」

「とはいえ、流石に千円札1枚ってのは……なぁ? 黒乃」

 

 そう、中には千円札1枚のみしか入っていないじゃないか。千円でも嬉しいっていう人たちには失礼かも知れないが、特に私を含めた代表候補性は割に稼ぎますからね。ラウラたんの反応もまた自然というか、思わず同意を求めてきたイッチーに対して頷き肯定してしまったじゃない。

 

 けれどシャルのいう通り、もらう側がいくら文句をいったってダメだろう。それはもはやクレームの域であり、筋が通っていない。ならばこの現実を受け入れるしかないと考えていると、オジサンはいきなりクックックと怪しい声を漏らし始めた。

 

「藤九郎……おじ様……?」

「なぁに安心しな、坊主はともかくお嬢さんらを失望させるつもりはねぇよ」

「どういう意味かしら?」

「ただ普通に渡したって面白くもねぇってこった。と! いうわけで!」

 

 あぁ……更識姉妹のおかげで、オジサンがどういうつもりなのか全てが解かった。これはきっと、テレビ番組的なノリだろう。新年とかになると、嫌でもそういう特番が増えるよね。私の予想が正しいことを示すかのように、オジサンは巻物みたいなものを取り出し、私たちへみせつけ――――

 

「新春、お年玉争奪戦の開幕だぁ!」

 

 開かれた巻物には、墨汁らしき筆跡で争奪戦の3文字が堂々と刻まれていた。これにはポカンと惚けるしかない者もいるようだが、そもそも勝負とかその類に似た表現が好きなメンバーたちは早くも闘志を燃やしているようだ。まぁ、確かにそういわれたらやる気が出るのも解からなくないけどね。

 

 オジサンから説明された内容は至って簡単。正月遊びに逐一賞金をかけて上乗せしていくというものらしい。お金が欲しければ奪い取れということなんだろうが、なんだか全力で行くのは意地汚い気が――――なんていうかと思ったか馬鹿め。

 

 お金があって困ることなんてあるだろうか。いや、ない。とりわけ正月は祝賀ということもあり、諸々がプライスダウンするのがお約束。それはアニメグッズも例外ではなく、福袋なんかに案外掘り出し物が混ざったりしているのだ。今回は、大量買いの軍資金にさせていただこうじゃないか。

 

「でも、ポケットマネーですよね。本当にいいんですか?」

「安心しな、信用や信頼はなくても金だけはある!」

「最低なことを清々しくいい切られても困りますよ!」

 

 シャルはこういうとき相変わらず遠慮しというか、遠回しに別に無理しなくてもええんやでとオジサンに問いかける。まぁそこは近江クオリティ。とてつもなくいってはならんことをサムズアップしながら放ちやがりましたよ。シャルの鋭いツッコミもほどほどに、いよいよお年玉争奪戦の開幕だ。

 

「というわけで第1種目は――――カルタだ!」

「ふむ、小耳に挟んだことはあるな」

「えっと、確か読み札の頭文字と同じ絵札を獲ればいいんだよね」

「なるほど、シンプルですわね」

 

 意気揚々と宣言された最初の種目は、正月遊びの代表格ともいっていいカルタだ。私たちにとっては馴染み深いが、ヨーロッパ組には縁遠いのでは。と思ったのだが、意外にもキチンとルールを把握しているようじゃないか。流石にセシリーはご存じなかったみたいだが、ルールそのものが単純だから問題なさそう。

 

「さてさて、絵札の方に使うのはコイツだ」

「……四角いプラスチックにしか見えませんが」

「まぁ焦るなって。箒ちゃん、こいつでどうだ?」

 

 私たちが円になって座った中心には、モッピーのいう通りプラスチックのような透明の板がバラバラに配置された。しかし、オジサンはこれを絵札と主張するではないか。これには一同がなにを馬鹿なという顔つきになるが、オジサンがドヤ顔で指パッチンをしてみせると、絵柄が浮き出てくるではないか。

 

 曰く、近江重工の技術により開発されたモニター……の試作品らしい。なるほど、私たちを体よくモルモットにする算段なのね。ちゃっかりしている気はするが、向こうは私たちにお金を与えるのだから妥当かな。まぁ、それをお年玉と呼んでいいのかは微妙だけど。

 

「気になるレートだが、う~ん……実質49枚だから1枚千円ってとこか」

「うぉっ、いきなり飛ばすな」

「ふふん、お姉さんが全部かっさらってあげるわ!」

「最大……4万9千円……」

 

 カルタは【ん】を除いた49音の頭文字の読み札と絵札で一組だ。んから始まる言葉といえば、ンジャメナとかそれなりの数があるようだが、まぁ日本的には管轄外かな。さて、かんちゃんのいう通り、全てを1人が独占すれば最初の千円を合わせて5万円になるわけだ。おお、これは気合が入りますなぁ。

 

「よし、お前さんら準備はいいか? 早速始めっぞ。いぬも歩けば――――」

「はい! フフン、どうよ。まずアタシが1枚――――」

「鈴ちゃん、お手付きな。1回休み」

「はぁ!? なんでよ!」

 

 まず1枚目、どうやら近場にあったらしく鈴ちゃんが素早く札を抑えた。してやられたと反省していると、なんだか様子がおかしい。確かに鈴ちゃんが奪取したはずなのに、お手付き宣言が入るじゃないか。これには抗議が止まらないようだが、それなりに理由があるらしい。

 

「取った札をよく見てみな」

「へ……? へ、な、なんで!? アタシが取った時には確かに犬も歩けば棒に当たるだったのに!」

「見ざる聞かざる言わざる、だな」

「というかこれ、定期的に絵柄が変わってないかな……?」

 

 鈴ちゃんが取った札をよく確認してみると、それはいから始まる犬も歩けば棒に当たるではなかったようだ。横から覗き込んだモッピーの証言では、見ざる聞かざる言わざるだそうな。そんでシャルの発言を皮切りに撒かれた札を見ると、確かにパッと点滅しては札型モニターに映る絵柄がシャッフルされているらしい。

 

「カッカッカ! オジサンがそう簡単なゲームを仕掛けるわけがないでしょうに!」

「だったら始める前に言いなさいよ!」

「いやいや、聞かれなかったもんでな」

 

 出たよ、出た出た……またしても近江クオリティで後出し系のやつ。確かにオジサンが仕掛けてきたのになんの警戒もしなかったのはあるが、相変わらずなそのパターンはもう飽きが来た。いいさ、目にものを見せてやろうじゃないの。後で後悔しないように。

 

「じゃあ聞きますけど、取った後に絵柄が変わったりしないでしょうね?」

「そこについては安心しな、取った時点で正解ならそれ以降に変化することは故障でもない限りありえねぇ」

「そ、ならいいのだけれど」

 

 よしよし、たっちゃんいいことを聞いてくれた。実はそれだけ聞いておきたかったんだが、私が質問できたらこんな苦労する人生を送ってませんよということで。オジサンの回答を聞き、ようやく安心できたというものだ。さて、後は集中――――

 

「ま、安心しな。隠してたのはホントにそれだけだからよ。んじゃ、続きいくぜ。鯉の滝――――」

(そこじゃぁぁぁぁい!)

「は、速っ……!? い、今のはどうだ!」

「……変わってねぇ、セーフだな。お嬢ちゃん、まずは千円だ!」

 

 オジサンが読もうとしたであろう札は、鯉の滝登り。それをゲーマー特有の反射神経で察知した私は、対応する絵柄へ勢いよく手を伸ばした。幸い最速は私だったようで、私の動きに合わせようとした人もいるが時すでに遅し。取った札を手中に収めてみれば、絵柄に変化はなく文句なく私に千円が加算された。

 

「流石ですわね」

「うん……。次こそは……」

「よし、読むぜ! と――――」

(うおらぁああああっ!)

「もはや頭文字しか聞かせてもらえてないんだけど!?」

 

 私の反応速度に対してセシリーは悔しそうな表情をみせるが、今回に限り誰が相手だろうと手加減してやるつもりはない。半ば視線をスルーするような形で、絵柄が変わる札の方へ集中して目を配る。そしてオジサンが次の頭文字を発音した瞬間、バシンと床を叩くような形で札を奪取。

 

 当然ながら絵札には変化はなく、これで更に千円追加っと。あまりの速さに思わずそういう感想でも出たのか、シャルのツッコミが入るではないか。え、ええい……惑わされないぞ、今日の私は辛口なのだ。容赦とかは考えるな、集中集中……。

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、ちょっと一夏!』

『なんだよ、わざわざ秘匿通信なんかで話しかけて』

 

 カルタがほぼ黒乃の独壇場で進む中、ふと一夏の白式に通信が入った。相手はどうやら鈴のようで、気づかれることを防ぐためか素知らぬ顔をしている。それに合わせて一夏もカルタへ集中するふりをすると、端的にいったい大仰なことをしてなんつもりかと問いかけた。

 

『なんか黒乃の様子がおかしくない? あの集中っぷりっていうか容赦のなさ、まるでお金に執着してるみたいなんだけど!』

『……確かに海外組がいるのにあんな本気なのはおかしいとは思うけど、金に関しては絶対あり得ないと思うぞ?』

『それはアタシも同じ見解よ。あるとすれば、勝負なら勝つ……とか』

『つまり、あっちの黒乃だな』

 

 普段の黒乃は女神だとか聖母だとかで表現され、かなり美化に美化を重ねられている。それだけに、金銭に対する執着もないに等しいと思われているようだ。そんな理由で訝しく思った鈴音が一夏にこの話題を持ち掛けたわけだが、全然そんなことはないので安心してほしい。

 

 むしろ今の黒乃はお金のことしか頭にないくらいで、勝ちにこだわるとか八咫烏とかは斜め上もいいところだ。今までそういう執着が露見しなかったとするなら、それは賭けに関わる機会が少なかっただけのことだろう。賭けは金を失う可能性もあるが、今回はノーリスクだからこそ全力なのである。

 

 一夏と鈴音の中でいらぬ考えが芽生えてからしばらく、結局のところで黒乃は1人で過半数以上の札を獲得。内心で懐が温かくなったことに喜びつつ次の競技へ。藤九郎が用意したのは独楽で、曰く回した秒数により金額が加算されるとのこと。つまりは個人技といってよさそうだ。

 

「日本人でも難しいもんなぁ。じゃあレートは1秒五千円でいくか?」

「10秒で五万円だぞ!? なんだか金銭感覚がおかしくなりそうだ……」

「奇遇ねラウラちゃん、私もよ」

 

 9人全員が挑戦したことはないということで、藤九郎は高めのレートを提示した。これには驚く者が多く、普段はお嬢様なんて呼ばれている楯無でさえそうであるらしい。だがこれには気合も入るというもので、しばらく設けられた練習時間ですら白熱した様子だった。

 

 コツを教え合ったりアドバイスし合ったりしていると、藤九郎が本番を始める旨を伝える。適当な順番で次々と独楽を回していき、上手くいった者とそうでない者のテンションの落差が激しい。自分との戦いであるだけに、失敗はより悔しいのだろう。そして最後に、黒乃の順番がやってきた。

 

(要するに長く回せばいいんだよね。そいつを誤魔化すには――――)

「お嬢ちゃん、いつでも始めてくれ」

 

 当然だが正確な秒数を計るために藤九郎の手にはストップウォッチが。秒以下は全て切り捨てというルールを厳守ということなのだが、黒乃はそれを誤魔化すある秘策を用意していた。その秘策とはつまり―――独楽回しにおける技を披露することである。

 

(ふははは! どうじゃ!)

「10点!」

「10点……!」

「10点!」

「お嬢ちゃん優勝!」

「黒乃だけ競技が違うよね!? 明らかに技術点みたいなのが加算されてないかな!?」

 

 どこで覚えて来たのか、はたまた携帯等で調べてやってみたらできたのか。黒乃は回転しているかどうかを誤魔化すために技を披露した――――のだが、いつの間に用意したのか、一夏、箒、簪の3人がバラエティー番組よろしく10と書かれた札を上げ、意味もなく黒乃の優勝が宣言された。

 

 今日は凄まじくシャルロットのツッコミが冴えわたり、これではまるで体操競技のようだと指摘を入れた。とはいえ、見事なことに間違いはない。というわけで、特別ルールが適応されてこれまで挑戦した8名の最長記録にプラスして技術点のボーナスということで落ち着いた。

 

 その後も近江重工の謎技術を用いた正月遊びは続く。空中でいきなり羽根の機動が変わる羽根つきだとか、ランダムで重さが変動するお手玉などなど。やはりそれにもルールに適応した賞金が加わり、9人のやる気を最大限まで引き出した。

 

 最終的には全員が万単位の賞金を獲得し、更に藤九郎から遊びに着きあってくれた礼という名目で一万円のボーナスが与えられた。どれだけ悲惨な結果になっても、こうして最低でも一万一千円は確保できる算段だったらしい。そんな中、1人桁違いなのが――――

 

(んはー! 趣味に使えるお金がこんなに!)

「容赦なく十数万単位でむしっていったな」

「それでこそ……黒乃様……」

「簪、そこまでくると妄信の域だから」

 

 一万円札、五千円札、千円札をそれぞれ大量に獲得した黒乃は、もはやお年玉と呼ぶには不相応ともいえる金額に内心で頬を緩ませる。あまりの容赦のなさに違和感を覚える者も増えるが、簪は安定して目を輝かせるばかり。小烏党ナンバー2は伊達ではないらしい。

 

 全ての競技が終了したわけだが、箒やシャルロットあたりは今更になっても本当に貰って大丈夫なのかというわだかまりが消えない。しかし、藤九郎はなんのと笑い飛ばすばかり。男性である一夏はともかく、文句なしの美少女である女子8名にお金を配るのは全く痛くないらしい。

 

 事実、ポケットマネーでテーマパークを貸し切りに出来る富豪だ。なにもそんなに心配することはない。とはいえ、いくら遠慮のない方である鈴音や楯無も少しばかり引っかかりがあるようだ。そこは年長である楯無が音頭を取り、全員でキチンとお礼の言葉を述べた。

 

「おう、どういたしましてだ。せいぜいそれを好きなように使ってくれや。オジサンにとっちゃそれが1番幸せだかんな」

「あー……確かに、急に入ってきたけどなにに使おうかしら」

「それを考えるのもまた一興、ですわね」

 

 競技の方に熱が入り過ぎたのか、最終的に得たお年玉をどうしてくれようかと鈴音は眉を潜める。随分と贅沢な悩みだと笑みを浮かべつつ、悩む鈴音をからかうようにセシリアはそんな言葉を呟いた。それからしばらくは、みんなしてやいのやいのと使い道を吟味していたが――――

 

「社長ーっ、失礼します!」

「暇人勢でついた餅、できあがりましたよ!」

「お、そうか。悪いねぇ。よっしゃお前さんら、遊んだあとは食え食え!」

「はいはい、専用機持ちのみなさまご案内!」

 

 レクリエーションルームに数名の研究員が飛び込んで来たかと思えば、餅が完成したとの一報を伝えた。どうやらこのあたりの面子が、クリスマスでも好き好んで近江重工に居残りしていた勢のようだ。この様子をみるに、無理矢理やらされたわけではなく、進んでみんなの分の餅をついたらしい。

 

 予想外のサプライズに、専用機持ち全員はほっこりとした雰囲気に包まれる。そして研究員の先導に従い、つきたての餅を目指して一直線。研究員なだけにもち米からなにまでこだわりぬいたようで、信じられないくらい普通に美味しく仕上がった餅に舌鼓を打つ一同であった。

 

 

 

 

 

 

「今日はよく遊んだな。なんか、ああいう馬鹿騒ぎって久しぶりな気がする」

(そうだね、盛り上がったよね)

 

 研究員さんたちが作ってくれたお餅をいただいた後は、自然に解散の流れになった。今日はイッチーのいう通りによく騒いだし、夕食の時間までみんなと顔を合わせることもなさそう。とりあえずゆっくりしたいのもあるし、私はベッドに座ったイッチーに寄り添うように腰掛ける。

 

「まぁ、欲を言えば普通の正月を迎えたかったって気もするけど」

(あー……。振袖は見せられたけど、初詣くらいはしたかったかも)

 

 なるべくなら隠蔽はできた方がいいだろうし、なにより私たち総出で地上に出たらそれこそ大騒ぎだろう。なんかもう、美少女揃いってだけで取り囲まれるイメージしか湧かない。う~ん……でも、不思議とセシリーやたっちゃんあたりはノリノリで撮影に興じる想像をしちゃうや。

 

「おせち」

(ほぇ?)

「次の正月は、キチンと正月らしくしよう。2人で一緒におせち料理でも作ってさ、箒のとこにお参りにいって。千冬姉にお年玉を貰う!」

(アハハ、そういえば律儀に用意してくれてるもんね)

 

 新年をよい年で過ごせるようにと願いを込められたおせち料理、か。……あれ、そしたらむしろ今食べとくべきな気も……。ま、まぁまぁ晩御飯でワンチャン――――ってそんなことはどうでもいい。思いを馳せるべきは、イッチーと迎える次の正月だ。来年の事を言えば鬼が笑う、なんていうけれど。

 

 うん……なんだか、想像しているだけでもう新年が待ち遠しいよ。イッチーと一緒に台所に立って、料理して、それ食べて……。モッピーの神社で願うのはきっと、いつまでも一緒に居られますように……だったんだろうなぁ。うん、来年こそはその願いを届けにゆこう。

 

「というか、みんなの前だったから自重してたが――――」

(はい?)

「綺麗だぞ、黒乃。新しい年にしかみれないのが残念なくらいだ」

(待ってました! も~……その言葉を待っていましたともぉ!)

 

 やっと褒めてくれたとブーブー文句をいうほどではないが、その言葉を期待していただけに喜びも大きい。というか、わざわざ脱がなかったのもイッチーのお言葉待ちだったからだからね。というわけで、少しばかり遅いぞ~という冗談交じりの不満を醸し出しつつ、イッチーの腕の中へ飛び込む。

 

「よしきた、新年初ハグ。……んでもって――――」

(あなた……。んむっ……!)

 

 イッチーはギュッと私を抱き留めると、その数秒後には少し力を緩めた。そして、私に熱のこもった視線をぶつける。その目はまさに愛しい者へ向ける視線そのもので、私は顔に熱が集まるような感じを覚えてから静かに瞳を閉じた。

 

 待ち受けるというほどの間はなく、次の瞬間にはもう唇が重なり合った。これが今年に入って初めてのキス。これから何度だろうと新しい初めてがやってくるのだろうが、生憎いろいろと時間がない。決戦にしてもそうだし、私のタイムリミットにしたって……。

 

 久々に味わう焦燥を振り払うかのように、私は自然に大胆になっていった。いつものされるがままのような感じではなく、私の方から積極的にイッチーの口内へ舌を滑り込ませる。イッチーは私の気持ちを察したかのように、受け入れるかのような動きに終始してくれた。

 

 それからしばらく、名残惜しいが唇を離す。イッチーは私に対してなにかいうわけではなかったが、そういう時もあるよなとでもいいたげではあった。なんだか急に恥ずかしくなってしまい、イッチーの顔を直視できない。しかしイッチーは、俯く私をまた抱き留めると――――

 

「これからもよろしくな」

(うん……)

 

 イッチーが私の不安をどこまで感じ取ったかは解からないが、この優しい抱き留めかたからしてなにかを察知されたとは思ってよさそうだ。それでいて、イッチーはそれを知らないふりをしてくれているらしい。……ごめんね、ちゃんと言葉にできるなら、とっくの昔に打ち明けているのだけれど。

 

 いや、謝っても仕方のないことだ。伝えられないからと妥協するつもりはないけれど、甘えるところはきちんと甘えておかないと。この先どうなるか解からないからこそ、あなたの隣に居たいという想いも強くなる。だからイッチー……これからもよろしくね。

 

 

 




黒乃→そりゃ私だってがめつくなる時もありますよ!
一夏→勝負事は妥協しない……。あっちの方の黒乃なんだろうか。

金!金!金!代表候補生として恥ずかしく(ry

ちなみにですが、黒乃の金遣いは周囲が思ってるほど大人しくはなかったり。
好きなアニメのボックスを衝動買いすることもしばしば。
最近で一番高かった買い物は、完全受注生産のフィギュアだそうです。

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