八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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ちょっとクロエ関連で一話使います。あしからず。
必要な回ではあるのでね……。


第126話 クロエ・クロニクル

 白煙を上げて横たわるは、感情を持たずして任務を忠実にこなす鉄器の兵たち。あるものは原形を残さない程の凹凸が目立ち、あるものは小さな部品をそこらへ撒き散らし、あるものは頭から股まで両断されている。役割をこなしつつ大破。それが彼らの辿った末路だった。

 

 彼らを打倒したはずの彼女らだが、脱落者は出なかったものの疲弊が凄まじい。機体的には紅椿の絢爛舞踏もあるのでまだまだといえるだろう。しかし、この様子からして神経を擦り減らしながらの戦闘だったのだろう。こういう時、いの一番に口を開くのは彼女である。

 

「ったく、しぶとっ!」

「そういう機体構成みたいだったからね」

「見事に……目的果たされた……」

「端から足止めしか視野に入れておらんか」

 

 頬にこびりついた土ぼこりを拭い取りつつ、鈴音は恨みがましい目つきで鷹丸改良型ゴーレムシリーズの残骸を見やった。勿論向こうからしても、専用機7機が相手ならば勝ちが薄いことなんて解かっていたはず。しかし、箒の呟き通りにクロエの戦いを邪魔されなければそれでいいのだ。

 

 戦闘時間と結果的に専用機持ちたちを疲弊させられたことから、3機は十分に役割を果たしたといえよう。事実、一応は対黒乃を想定した機体なため、実のところ大金星でもあるのだが。後半は数の有利でアッサリとした運びとなったのも否めない。

 

「姉様たちはどうなっている」

「次々とビルが決壊してった感じだけど、どっちの攻撃かまでは確認してられなかったわね」

 

 ラウラがハイパーセンサーで黒乃たちの戦域を確認しようとするが、土煙が酷くてよく解からないというのが正直なところか。赤黒かったり黄金だったりの光が瞬いたと思えば、そのたびにビルが崩れ落ちていったせいだろう。楯無は、フムフムといった様子で顎に手を当ててみせた。

 

「ともあれ、援護しない理由がありませんわ」

「ん、休憩も十分だしお姉さんたちももう一仕事――――」

 

 セシリアのいう通り、戦況が解からないのならばこちらから向かえばよい。足止めされようがなんだろうが、まだ戦闘が終わっていないのならやるべきことはある。リーダーである楯無も全面的に賛成なため、蒼流旋を担ぎ直して出撃命令を――――出そうとしたその時だった。

 

 空中には、これまでにない規模の閃光が轟く。あの異様なまでに大きい電撃の球体を目にしたところで、黒乃と一夏が秘策を使ったと理解が及ぶ。ならばここで駄弁っている場合などではなく、秘策が成功か失敗かによっては両者の命すら危うい。専用機持ちたちは、誰ともなく2人の反応を目指して飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

(確実に当てはしたが……)

(自分たちでもなにがどうなんだか……)

 

 絶対的必殺といっていい攻撃を当てたにも関わらず、黒乃と一夏に油断はない。ここまでくると弱気になっていると取っていいのかも知れないが、こんなことで終わった気にはなれないのだろう。雷撃の球体が収束を始めると共に注意は深くなっていく。

 

「まだ……です!」

「やっぱりか!? 黒乃、隠れてろ!」

(は、はい!)

 

 完全に球体が消え去ってみると、その中心に居たのは翼を蛹のように包ませたクロエの姿だった。メタトロニオスはType Fの人用改修機。ともなれば、翼にエネルギー反射のコーティングは施されている。それをもってしても防御は難しかったらしく、クロエは見る限りボロボロの状態だ。しかし、果敢にも攻撃を仕掛けてくるではないか。

 

 バサッと翼を一気に広げると、ライフルを装備して黒乃に向けて発射。一夏が雪羅の盾を発動させて防いだことにより無傷で済んだが、白式のほうもそろそろエネルギーが底を尽きかけていた。もっとも、それは刹那もメタトロニオスも似たような状態なわけだが。

 

 刹那はレーザーブレードならともかく、ライフルのレーザーを一撃もらえば装着者の生命に関わる。メタトロニオスに限れば、いずれかのブレードでの攻撃はおろか、威力次第だが殴ったり蹴ったりで完全にその機能を停止させることだろう。

 

「はぁ……はぁ……!」

「もう止めろ、決着はついた!」

 

 機体の心配よりもクロエの心配をするべきなようで、ライフルを握る手は空を揺れ、意識そのものを保つのが限界なのか、メタトロニオスがふらつき続けている。いや、まずは気力だけでISを展開していられる精神力を褒めるべきだろう。齢12にしてとんでもない経験を積んできたことがよく解かる。

 

 だが、一夏はそんなものをみせられて、口を挟まずにいられない。自身の言葉がクロエにとって侮辱に価するなんて理解している。殺す気でかかっていた自身が発していい台詞でないのも同じく。しかし、それでも、こういう性格だからこそ、いわゆる主人公というポジションに収まっているのだろう。

 

「っ……!」

 

 そんな言葉を投げかけられ、クロエは遥か後方にそびえる塔に居る束と鷹丸をハイパーセンサーで捉えた。2人とも全く心配する様子はなく、ただにこやかな笑みを浮かべているだけだった。人によっては非情と取るだろうが、クロエにとってはそれで十分である。そう、失望されていないのならそれでいい。

 

 クロエ・クロニクルにはなにもない。大人の都合で生み出された挙句に失敗作と罵られ、蔑まれた記憶しかなかった。だがそれは、ある日を境に一変したのだ。自らを天才と名乗る不思議な女性と、なにを考えているのかサッパリな胡散臭い男性と出会ってから。クロエの世界は――――

 

「ダメです――――」

 

 クロエ・クロニクルには親が居る。血など全く繋がってはいないが、自身に幸せを与えてくれた両親が。利用するための偽りならば、それはそれでいいと思えた。例え偽りだろうとも、クロエにとっては紛れもなくそれ以上のものはないのだから。

 

「失望させるのはダメなんです――――」

 

 利用してくれるのならそれでいい。必要とさえしてくれるのならクロエはそれでいい。だとしたら、利用価値すらないと思われてしまった時――――いったい自分はどうなってしまうのだろう。今クロエが考えているのは、ただそれだけ。そうなってしまったら、またなにもなくなってしまう。

 

「ですからどうか、どうか私と戦ってください! 私にはそれしかできないんです! お2人に報いるには、それしかないんです!」

(クロエちゃん……)

 

 それは心からの懇願であり、その言葉が出てくる要因は間違いなく恐怖だった。必要とされないことは、きっと死よりも恐ろしいのだろう。主に黒乃と戦って勝利することが束と鷹丸の望みであり、それを叶えるためだけに自分は存在している。

 

 もはや自分と戦う気が失せ始めている2人に対し、まるで怯えるかのような願いであった。戦ったところで結果は視えているというのに。場合によっては命すら落としてしまうかも知れないのに、それでもとクロエは叫び続けた。両親を失望させないためにも、どうか己と戦ってくれと。

 

「だからパパ、ママ、見ていてください。お2人の娘であるクロエ・クロニクルはまだ戦えます! 必ずやお2人の悲願を!」

「おい、もうそれ以上は――――」

「私がそうならば、あなたもそうでしょう――――メタトロニオス! お2人の産み出した機体ならば、私の声に応えなさい!」

 

 まだ自分は戦えるから。だから私を見捨てないで。クロエの言葉を子供らしく要約するとしたらそんなものだ。言葉そのものは大人びていようと、内容に関しては愛されたい一心の子供でしかない。戦闘中のクールな様子が欠片もないクロエを、一夏はもはや見てはいられなかった。

 

 悲痛な表情で再度降伏を要求してみるも、もはやクロエにはその声すら届いていなかった。どうにか戦闘を継続させよう、ただそれだけ。ここまで追いつめられる少女が居ていいはずもない。いって無駄ならば、絶対に殺さぬよう完全決着をと、一夏が雪片を構え直そうとしたその瞬間のことだった。

 

(眩しっ! こ、この光はまさか……!?)

「キタ――――――――」

「本当にISが応えて……?」

「キタキタキタ――――」

「くっ、その前に止めないと!」

 

 まるでクロエの叫び声に応えるかのように、メタトロニオスが眩い光を放ち始める。黒乃、一夏、クロエは一度この経験を積んでいるからこそここに立っているといっていい。だからこそ、御法度であろうが今止めなければ取り返しのつかないことになってしまう。

 

 一夏は残されたエネルギーを全て雪片弐型に集約し、零落白夜を発動。本音ならば瞬時加速で一気に間を詰めたかったところだが、確実性を取るのならば刃の方が向いている。そして今まさに零落白夜で形成された刃がメタトロニオスに触れようかという瞬間――――

 

「ぐああああ!」

(イッチー!)

 

 発せられる輝きが一層強くなったと思えば、まるで波動のように周囲へ拡散。その衝撃に伴い、一夏は大きく吹き飛ばされてしまう。空中でなんとか姿勢を正してメタトロニオスを視界へ捉えてみれば、そこにはより神々しさを増した機体が浮いていた。

 

 白色を基調としてアクセントに金色が施されていた配色だったが、それが逆転しているのだろうか。しかし機体の端々に伸びるラインは虹色に輝いており、まるで鼓動が脈打つかのように、七色がループするように変色を続けている。そしてなにより、アンロックユニットらしき大きな輪を背負うようなその姿。それが天使らしさを助長しているのかも知れない。

 

「キタキタキタキタキタキターッ! ねえねえねえねえ、たっくん見てる!? くーちゃんがくろちゃんより先に成し遂げたよー! 前人未到の最終形態移行(ファイナル・フォームシフト)!」

「はいはい、見てますからそんな身を乗り出さないで下さいねー」

 

 最終形態移行――――その予兆を感じ取った時には既に興奮を隠し切れなかった様子だったが、機体の全貌が露わになってしまってからは暴走と取っていい。興奮のあまり身を乗り出し過ぎで、背後で鷹丸がスカートを掴んでいなければとっくに転落しているだろう。

 

 至っていつも通りの雰囲気を醸し出す鷹丸も、実のところかなり興奮していた。その証拠といわんばかりに、束を掴んでいない方の手は忙しそうに空間投影型ディスプレイのキーボードを叩いている。束も束で、掴まれたまま解析を開始した。

 

「なんということでしょうか……。まさか本当にこうなると誰が思います?」

(本当にそうだよもう!)

「くっ、これで振り出しか……!」

「ええ、これでまだ戦えます! さぁ、箒様が到着次第に再戦といきましょう!」

 

 自分でやり遂げた進化を信じられなかったのか、クロエはしばらく身体中を眺めて目をパチクリさせていた。しかし、本当に新たな段階へ辿り着いたのだと理解した途端、まるでメタトロニオスに感謝するかのよな表情を浮かべて感極まってしまう。

 

 黒乃と一夏からすれば絶望的といっていい状況だが、クロエはあくまで全開の2人を打倒することにこだわるつもりらしい。再戦するのなら箒と紅椿による絢爛舞踏にて回復してからだ。そうやって堂々と宣言してみせたクロエだったが、不可解な事態が発生した。

 

「……!? う、腕が勝手に……? づっ!? カハッ……!」

「な、なんだ? 様子が変だぞ……」

(じ、自分で自分の首を……?)

 

 ひとりでにメタトロニオスの腕が動いたかと思えば、それは迷いもなくクロエの首を掴んだ。遠くから異変を察知した黒乃と一夏だが、それがクロエ本人の意志と反していることくらいは想像がつく。だとしたらいったいなにがどうなって、クロエが苦しむ結果となっているのか。

 

「まさかとは思うが、束さん!」

「それは濡れ衣だよー! 束さんも解析中だからちょっち待って!」

 

 もし第三者の影響とするならば、考えうる可能性として束と鷹丸はあげなければならない。閃いた一夏は怒鳴り散らすように問い詰めるが、向こうからも苛立ったような返しが戻ってきた。とするのならば、いったい何者の仕業だというのだろうか。すると――――

 

「これ、機体が流動してる……? そんな特殊な金属は使った覚えが――――それとも最終形態移行の影響? どちらにせよこれは――――ねぇ、たっくん」

「恐らく結論は同じかと。あの行動は強いて言うのなら、メタトロニオスそのものの意思です」

 

 成分分析からしてそういう結果が出たようだが、現在のメタトロニオスを視認する限りは確かにそういうふうに見える。だんだんとクロエの四肢が露わになり始めているところからして、束と鷹丸はとある1つの考えを導き出した。

 

「う、ぐ……ああああああああっ!」

「ひ、引っぺがされた……のか……!?」

 

 やがてクロエの絶叫とともに、その身体が完全にメタトロニオスから引きはがされた。科学者2人の見解と相違ないようで、身体が露出する際の様子はズルリと粘液から脱出したかのようだった。そのまま見守ることしばらく、黄金の流動体は――――再び人の形を成し始めた。

 

 近世代のISは四肢に装着され胴体部は存在しないのが基本だが、腰や胸にあたる部分が形成されていくのがよく解かる。やがては頭部も形作られていき、ビジュアルはどこかクロエの面影があるように感じられる。ただし、目や口といったもの彫刻像のようなものと表現するのが近そうだが。

 

『機体の再構成が完了』

(しゃ、喋った!? ってことはAIでも積んでた……?)

 

 ノイズ混じりなうえにエコーがかかって聴き取り辛くはあるが、メタトロニオスは確かに己の意志でクロエに似た声を発した。これを束たちが最初からこれ狙いでAIを積んだのではと勘ぐる黒乃だが、科学者2人の手が止まらないところをみるにそうでもないらしい。

 

「僕らに1つも心当たりがないとすれば、要因はやっぱり最終形態移行ですよね? とすると推測が浮かぶんですが」

「だよねー。やっぱり考えられるのは――――コアが自我を持った結果かな」

 

 束と鷹丸が望んだのは、ひたすら黒乃との真剣勝負のみ。外野に関しては小癪なマネで排除したが、後腐れが残るようなことはなに1つ行ってはいない。だからこそ、2人にとっても目の前で起こる事態が理解できてはいないのだ。

 

 しかし、そこは腐っても類稀なる頭脳の持ち主なだけに、確証はないながらも結論を導き出すのは早い。2人の見解は合致しており、それはISのコアそのものが自我をもったゆえとのこと。その結果こうなったということは、コアがクロエを不要と判断したのだろうか。

 

『バイタル正常、気絶を感知。安全確保のため一時撤退』

 

 それまで首を持った状態を継続していたが、メタトロニオスはクロエを大事そうに抱えて一直線に塔の方へ飛行を始めた。どこから見てもクロエを送り届ける目的だったため、黒乃も一夏もただその様子を見守った。そうして、クロエは束の腕の中へ。

 

『安全の確保を確認』

「うん、それはいいんだけどさ――――キミ、なんでくーちゃん切り捨てたわけ?」

『精神バランスの均衡が大きく崩壊。よって、戦闘継続に不要と判断』

 

 束はクロエを引きはがしたことが不満なのか、殺気すら感じる口調でメタトロニオスを問い詰めた。そこは機械なため凄みもせず、いけしゃあしゃあと地雷を踏み抜くような発言を繰り出した。一瞬だけスクラップにしてやろうかという考えが過ったが、そこは堪えてさらに問い詰める。

 

「へぇ、じゃあキミだけで勝てちゃうってことだ」

『肯定』

「…………たっくーん?」

「まぁ、とりあえずやらせてみましょう。それから判断しても遅くはないです」

「……せいぜい束さんたちを楽しませてよね」

『戦闘継続許可を確認。標的補足。戦闘開始』

 

 人であれば回答に躊躇いも見られたかも知れないが、メタトロニオスはよほど勝算でもあるのか勝てると即答した。どこから算出された根拠なのか疑ってかからずにはいられなく、束は鷹丸に問いかけた。鷹丸としてはなにもさせずにいるのは勿体ないという考え。気に入りはしないが、束はそういった回答になるのは承知している。

 

 どうやら束ないし鷹丸の命令に従う気はあるらしく、許可が取れたと判断してから臨戦態勢に入った。これまでにない速度で突っ込むメタトロニオスだが、不思議なことに武装を展開する素振りをみせない。とはいえ黒乃と一夏に油断はなく、迎撃のために警戒を強めるが――――

 

「これは……まさか!?」

 

 メタトロニオスの背負っている輪から朱色をしたエネルギーの翼らしきものが現れたかと思えば、それはだんだんと本体へ取り込まれていくではないか。この一連の動作をみただけで既視感を感じた一夏だったが、どうやらそれは似ているという言葉では片付けられない。

 

『排除』

「やっぱりこれは……!? 黒乃!」

(は、はい!)

 

 メタトロニオスが両手を突き出したかと思えば、そこから発射されたのは金色に輝く大出力のレーザー。真横に全速力で移動することにより直撃はしなかったが、自分たちより背後にあった建造物等が軒並み消滅したことに動揺を隠せない。なにより――――

 

「今のは……なんでだ!? あれは間違いなく刹那の――――黒乃の!」

(神翼招雷……!)

 

 翼として放出した部分といい、それを増幅しながら撃ち出すシーケンスといい、どこをどう取っても刹那に目覚めた単一仕様能力である神翼招雷だった。最終形態移行に伴って似た能力が覚醒した、というのは考えにくい。だとするならば、今起きた事実の正体とは――――と考えを巡らせているその時だった。

 

(う、嘘でしょ!?)

「今度は絢爛舞踏だって!?」

 

 メタトロニオスを金色の光が包んだかと思えば、ハイパーセンサーにてエネルギーが急速に回復していくのが確認できた。今度はどこからどうみたところで絢爛舞踏である。ここまでくれば単一仕様能力をコピーする能力でも備わっているのではと考察できるが、黒乃にはどうもそれだけで済むとは思えなかった。

 

「黒乃、一夏! なにやらよく解からん状況だが、とにかく私の手に触れろ!」

「箒か! 悪い、助かっ――――」

 

 どうやら刹那と白式のエネルギー回復を優先したのか、箒が先行して2人の元へやってきた。箒は2人へ向けて精一杯手を伸ばし、同じく2人も紅椿に触れようと手を差し伸べる。しかしだ、いくら双方が手を差し伸べたところで、それが届くことはなかった。

 

 不思議なことに、思ったように前へ進まないのである。なにが起きているのかと周囲を見渡してみると、メタトロニオスがなにかしらをしているようだ。とはいっても、それは手を差し伸べているだけ。とにかくなんとか妨害をしてやろうと一夏が決意したその時。

 

(な、なに……? 機体がガクンって――――ってええええ!? おちっ、落ちるぅ!)

「PICの故障!? いや、これは――――」

「重力が異常な数値を示して――――ダメだ、間に合わない!」

 

 ふいに機体が急激に下降したかと思えば、後は地面に引っ張られるかのようにして3人は墜落していく。慌てて原因の究明に入ってみるも、機体そのものに異常は見当たらない。むしろ異常とするならば物理法則の方で、3人の周囲数メートルのみ重力の数値がおかしいのだ。

 

 それが解かったところでなす術はなく、3人は仲良く地面へ叩きつけられた。幸い刹那も白式もそれに耐えられるエネルギーは残っていたようで、とりあえず黒乃も一夏も無事だ。ただしかなり効いたのには間違いなく、景色が歪むような感覚に足元をふらつかせてしまうが。

 

「ほ、箒……頼む」

「任せろ。黒乃、大丈夫か……?」

(うん、なんとか大丈夫っぽい……。にしてもいったい……)

 

 箒に引き起こされるような形になりつつ、手の接触もあり絢爛舞踏を発動させながら立ち上がる。これでほぼなにを喰らっても即死、という状態だけは免れた。だが神翼招雷といい絢爛舞踏といい先ほどの異常な重力といい、不可解なことが多すぎる。黒乃は心中で眉を潜めながらメタトロニオスを見上げた。

 

「3人とも大丈夫!?」

「ちょっと、なによ今の!?」

「遠目でみてたけど、アレはなにもしてなかったように感じたわね」

「けど……なにかあるには違いない……」

「最終形態移行――――未だ謎だらけ、ですわね」

 

あれだけ派手な墜落をされれば心配にもなるもので、残りの専用機持ちはメタトロニオスに目もくれず3人と合流した。ただの墜落なら皮肉を込めて一瞥くらいあったのかも知れないが、あまりにも不自然で不可解なだけに焦るような言葉しか出てこない。

 

『本機は――――』

(はん?)

『私はISの完成形。辿り着くべき地点の具現』

「奴はなにを言ってるんだ……?」

「さぁ? とりあえず自信たっぷりっていうのは解かるわね」

 

 ノイズ混じりだった音声はだんだんとクリーンになり、己の呼称が本機などという機械的なものから私という人間的なものへと変貌を遂げた。これだけでコアが学習能力を発揮しているということは想像は着くが、次いで出る言葉までは意図を図りかねる。

 

 要約すれば自らに不可能はないといったところなのだろうが、それだけいわれたところで楯無のような反応を示すのが一般的だろう。しかし、後方で構える科学者2人には今のヒントで十分だった。むしろ憶測が確信に変わったといったところか。

 

「アハッ……アハハハハ! すごいよこれ! くーちゃん切り捨てた時はどうしてやろうかと思ったけど、まさかこんな……ねぇ、たっくん!」

「ホントですよ! いやはや、クロエには頭が上がらないですねぇ」

「ちょっとアンタら、なにか解かったってんならとっとと吐きなさいよーっ!」

 

 クロエを切り捨てたという部分から、あまりメタトロニオスが気に入らなかった様子の束だが、それは正反対といっていいほどに変わった。それは鷹丸も同じくで、2人してペラペラとよく解からない用語を交えてはしゃぎながら議論を交わし続ける。

 

 致命的に相性が合わないのか、鈴音は無駄と解かりつつも声を大にして全貌を吐けと呼びかけてみる。すると一瞬にしてコンソールを操作する手は止まり、2人してニヤついた笑みを浮かべて遠くの専用機持ちたちを眺めた。そして――――

 

「いいよ、聞いたとこでショック受けちゃうだけと思うけどさ!」

「あの機体が神翼招雷と絢爛舞踏を使ったのには、あの機体自身の所有する単一仕様能力が関わっているということさ」

「その能力がなにかって? せ~のっ――――」

「「単一仕様能力を創造する単一仕様能力ってわけだよ!」」

 

 束と鷹丸が目撃したのは、メタトロニオスの内部データに新たな単一仕様能力が書き加えられていたこと。それに加え、だんだんと表示されている単一仕様能力が増えていったことの二点。2人が宣言した創造する能力も含め、現在は4つの単一仕様能力を備えているようだ。

 

 つまりメタトロニオスがこれまで創造したのは、エネルギー倍加、エネルギー増幅、重力操作の3つということだろう。神翼招雷と絢爛舞踏に似ていたのは、参考にした可能性は考えうる。どちらにせよ、束の言葉が本当ならば、メタトロニオスはまだまだできることが増えていくということだ。

 

「これはもう玉座に侍る者(メタトロニオス)どころの騒ぎじゃないよ!」

「ISの完成形という発言に差異はないですねぇ」

「そうだね、まさにISの中のIS――――あっ、いいこと思いついた! 名称変更~っと……」

 

 頂点の座につくべくISという意味を込めてメタトロニオスと名付けたが、最終形態移行に伴い万能ともとれる能力が覚醒してしまった。もはやそれを超えるふさわしい名でも考え付いたのか、束は嬉々としてコンソールを操作し、金色の機体へと新たな名を授ける。

 

「ISの中のISってことでシンプルイズベスト! 機体名、インフィニット・ストラトス!」

 

 

 

 




いつからクロエがラスボスだと錯覚していた?
はい、というわけで真のラスボスご登場でございます。
RPG的に例えるなら第2形態とでも思ってください。

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