八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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ほとんど赫焉覇王・刹那の性能披露のためだけにある回です。
前話のあとがきで反撃開始とは言いましたが、本格的には今話以降でしょうか。


第129話 久遠転瞬

「ラウラ……。ラウラ! 気絶してる場合じゃないよ、黒乃が生き返って最終形態移行で!」

「う……む……。最終形態移行……? なんという、流石は姉様――――っておい、なんか今姉様が死んだことを示唆しなかったか!?」

「はぁ、お元気そうでなによりですこと……!」

「ったく、ホント心配かけるんだから……!」

「あぁ、今回ばかりは……ダメかと思ったぞ……!」

「黒乃様……。よかった……本当に……よかった……!」

「うんうん、やっぱり貴女が居てくれないと……ねっ!」

 

 間違いなく黒乃が息を吹き返し、自分たちの前に佇んでいる。その事実が信じられないながらも、これを喜ばずしてなんとするのか。シャルロットに起こされるまでは気絶していたラウラを除き、みんなして目に涙を浮かべながら黒乃の生還を祝福した。

 

「黒乃……黒乃ーっ!」

(うん? どわったぁ!?)

「黒乃……! 俺はまた、また……お前を……!」

 

 一夏は一目散に黒乃を目がけて突っ込み、タックルと表現する方が近いくらいに抱き着いた。一時は黒乃の復活に歓喜した一夏であったが、その涙の理由は懺悔からくるもの。またしても自分がふがいなかったゆえに黒乃が傷ついてしまった。そんなふうに湧き上がる後悔の念で涙が止まらない。

 

 黒乃からすれば心配をかけて申し訳ないという気持ちしかないのだが、とりあえず一夏を落ち着かせることに終始した。優しく背中をポンポンと叩いてみたり、後頭部を撫でてみたり。もっと慰めたいというのが本音のところ、そうもいっていられないのが現状である。

 

「くろちゃんってば、相変わらず追い込めば追い込むほど輝くんだから~。もう本当、また遊んでくれるなんて楽しくて仕方ないよ!」

「追い込むっていうか、彼女の場合は完全にアウトなとこから帰って来ますからねぇ」

「それでこそ私の見込んだ同種族! さぁさぁくろちゃん、もっと楽しもうじゃない!」

 

 勝ちそのものには喜びはしたが、科学者2人は実のところ満足なんかしていない。束なんかは新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃぎ、もう一度黒乃と戦えることの喜びを身体中で表現しているかのようだ。これをみるに、やはり戯れている時間はないだろう。

 

(よし、コンテニューもしましたし……やってやりますか!)

「やるのか、黒乃」

「無論」

「そうか……。なら最後まで付き合うぞ!」

 

 名残惜しいながらもスッと一夏から離れた黒乃は、腰に戻っている鳴神を抜刀。その切っ先をⅠ・Sに向け、戦闘の意志を示した。それを真横でみた一夏は、少しばかり苦い表情を浮かべる。いくら最終形態移行を果たしたとて、勝ち目が薄いと思っているのだろう。

 

 本当ならば人類なんて放ってしまい、束が世界を滅ぼすまで黒乃と過ごすというのも一夏としてはアリだ。だが、黒乃が戦うというのならそれに従わないわけにはいかない。前にも出なければ後ろにも下がらず、日常でも戦場でも隣に在り続けると誓ったのだから。

 

「名称変更されてるね。なになに――――ほほう! 赫焉覇王・刹那だって! う~ん、さながら混沌を統べる赤き覇王ってところかな。 か~っくい~!」

(あ、なんかそれもマジでカッコイイぞ!)

『お姉さん、言ってる場合じゃないでしょ……。要するに解析を進められてるってことなんだけど?』

「雷光に増設されてる8本のアレも気になりますねぇ。むしろ大きな変更はあれくらいでしょうか」

(わわっ、本当だ!?)

『お姉さーん……』

 

 王の名を冠した刹那を、束は妙に中二めいた言い回しで表現してみせた。未だに中二病の気が抜けない黒乃的には悪くないようだが、問題はそこではないとオリジナル。名称を見抜かれたというのなら、それは解析が進んでいるいい証拠だ。

 

 本人たちは隠す気もないかのように、というよりはあえて聞こえるようにしているのだろう。証拠に鷹丸も黙っていればいいものを、赫焉覇王・刹那となった状態の変化について言及してみせる。それまでの束を賞賛していた余裕は何処へやら、黒乃は一気に肝を冷やした。

 

(ま、まぁアレだよ、先制しちゃえばどうってことないさ!)

『ん、気を取り直していこう!』

 

 自らの失態を誤魔化しつつ、黒乃は腰にぶら下げた鳴神をゆっくりと鞘から引き抜いた。美しい波紋を描く刀身が煌くと同時に、OIBの予備動作をとる。すると新たに増設された8本のユニットもスライドして展開。雷光が放つ翼型のエネルギーとは違い、細長い刃のような形状だった。

 

「……綺麗」

「ああ、なんと美しい……」

 

 それに翼のほうのエネルギーを電撃に例えるとするなら、刃にも似たエネルギーは細かい光の粒子が奔流しているようにみえる。肉眼でもとらえられないような赤い粒子が弾け、赤黒い電撃がスパークする様は、I・Sとはまた違う禍々しさの中にも神々しさと美しさを兼ね備えているかのようだった。

 

(そんじゃ、レッツラ!)

『ゴー!』

「は、速っ……!? ま、まだ速くなんの?!」

「いい加減に彼女はどこを目指しているんでしょう……」

 

 刹那から刹那・赫焉になった際も雷火が雷光へ進化し、もとより高かった機動性に拍車をかけた。今回も新たに備わったユニットがサブスラスターの役割でも果たしているのか、その速度はより顕著なものとなっている。もはや人間が出してよい速度には思えない外野は顔をしかめた。

 

(でやぁぁぁぁっ!)

『――――損傷軽微』

「あ……当たった……!」

『お姉さん!』

(解ってるよ、当てさせて貰ったってのはさ!)

 

 文字通り目にも止まらぬ速さでI・Sとの距離を詰め、すれ違いざまにその胴体へ一太刀を浴びせた。これまでまったくダメージを与えられなかった相手に初撃が入った。これは思わず場を湧かせるが、黒乃とオリジナルはそれが意図したことだというのを理解している。

 

 要するに適度なダメージに抑えつつ、赫焉覇王・刹那の性能を見極めてやろうということだ。実際、損傷軽微と呟いていたが、軽微とする必要のないほどの掠り傷でしかない。それゆえ黒乃も同じく、向こうがこちらを見極めているうちに、自身も最終形態移行した機体に慣れるつもりでいる。

 

(黒乃ちゃん、右旋回!)

『了解、出力調整は任せて!』

「あの速度で急旋回!?」

「サブスラスターが旋回性能を向上させてるんだよ!」

 

 これまで高機動状態では旋回性能がネックだったが、どうやらサブスラスターのおかげでそれはなくなったようだ。つまり黒乃は、曲がる前に左翼のサブスラスター4基の出力を上げ、逆に半分の右翼4基の出力を落としたということ。

 

(へへん、けどそれだけじゃないよ! 黒乃ちゃん任せていいかな)

『うん、お姉さんは刹那の操作に集中して!』

(標的補足! マウント解除! 行ってらっしゃい!)

「あ、あれはもしかしなくても……ビット兵器!?」

「ソードBTとしての役割も持っているのね!」

 

 8基のユニットが雷光からパージされて宙を漂ったかと思えば、それはI・Sめがけて飛んでいくではないか。放つ粒子がまるで刃のような形状をしていたのは、楯無の呟き通りソードBTとしての役割もあるからのようだ。黒乃たちのやり取りからして、自立兵器という線は薄いだろう。

 

『磁力操――――』

(させませんけどーっ!)

『続けていくよ!』

 

 I・Sは磁力操作でソードBTを無効化する魂胆だったのだろうが、それは黒乃の攻撃によって阻まれた。当然ながら刹那本体のほうがソードBTよりも速く、軽く追い抜いてすれ違いざまにまた一太刀。その後I・Sを待っていたのは、ソードBTによる八方からの攻撃。

 

 同時、または時間差をもたせつつ8基のソードBTがI・Sに迫る。突き刺さりはしないながら、ソードBTの刀身はI・Sの装甲を削るようにして通り過ぎていく。うち2本は黒乃のほうへ向かい、残った6基はI・Sへの攻撃を続行。

 

 サブスラスターとしての役割を放棄していたが、ソードBTとして使用したことで黒乃は余裕をもって旋回できたというわけだ。そして黒乃は2基のソードBTをしっかり掴むと更に加速。そのまま残った6基のソードBTに合わせるように同時攻撃を仕掛けた。

 

(せいっ! はあっ!)

『――――――――』

 

 黒乃は双振りのソードBTで連撃を加えつつ、マウントを元の状態へ戻して離脱。当てさせてもらっているとはいえ、かなりの攻撃を与えることができた。エネルギーは疑似絢爛舞踏で半永久的に回復されてしまうとして、機体そのものへのダメージがあるのとないのではかなり違うだろう。

 

『エネルギー増幅』

(まぁそうなるよねぇ。倒そうと思ったら一撃で消し飛ばすしかないのかな)

『私たちの専売特許ではあるけれど……』

 

 金色に輝くI・Sを前に、解かっていながら販促だろうと顔をしかめるのを止められない。ならばエネルギーなど関係なしに機体を一撃で葬り去ってはという話になってくるが、タイミングを考えなければ疑似零落白夜で防がれるのがオチだろう。

 

「……あのさーくろちゃーん! なにか隠してるならもったいぶらないでみせてよーっ!」

(……そこまで解析されちゃった?)

『多分それはないと思う。刹那から内容は伝えられたけど、私たち自身が半信半疑だからね』

 

 どうしたものかとI・Sをみつめていると、少し機嫌を損ねたような束が大声を張り上げた。まず黒乃たちがなにかを隠している点について、これは間違いなくイエス。使用するのを躊躇わずにはいられない内容だったせいだ。

 

 かといって束がそれを見抜いていたかと聞かれればばれはノー。単なる勘の類であり、最終形態移行を果たしたのに、サブスラスター兼ソードBTが増設されるだけで済むはずがないという考えからだ。これを受けた黒乃は、別に束のいう通りにしようというわけではないが――――

 

(やろう、黒乃ちゃん。私たちを信じるせっちゃんを信じないと)

『……そうだね。うん、やるっきゃないよ!』

 

 使うのを躊躇うとなれば、それなりに危険が伴うのかも。しかし、それを推したとして、使わなければ我らが刹那の主第一主義に報いることはできないだろうと決心を固めた。そして黒乃は、雷光からエネルギーを放出。まるでエンジンのように吹かして前方にQIBを発動――――と同時に、不可解な現象が起きた。

 

『――――未知のダメージを感知』

「み、みんな、聞かせてほしい。俺には黒乃が一瞬消えて――――」

「気が付けば奴の背後だ、間違いない。一夏、私も確と見届けた!」

 

 黒乃が消えて鉄が擦れるような音がしたかと思ったら、I・Sの背後に黒乃がいるではないか。比喩として消えるような速さと表現される刹那ではあるが、それではあまりにも説明がつかない。QIBにしても、OIBにしても、はたまた天翔雷刃翼だろうと、物理的に一瞬で距離を詰めることは不可能だ。

 

 それだけに、一夏は自分の目がおかしくなったことを一番に疑った。が、そんなことをする必要もなく、残った専用機持ちたちも一夏と似たような光景しか目に映らない。I・Sは機械なだけにより混乱を起こしているのか、理解不能という旨の言葉をひたすら呟いていた。

 

(……大丈夫っぽい! エネルギーもQIBぶんしか減ってないね!)

『良心的で逆に怖いけど……。ここはガンガンいっちゃおう!』

(おうさ!)

「ま、また消え――――と思ったら現れ……ああもう、どうなってんのよ!?」

「きっと単一仕様能力なんだろうけど……。ワ、ワープする能力……なのかな?」

「……それだと……ダメージを与えられていることに気づけないのはおかしい……」

 

 しばらく動かないでいた黒乃だったが、機体や自分の体に問題がないか確認を行っていたようだ。結果としては異状なし、これほどにまでよいことはない。それならばと意気込んだ黒乃は、再び前方へQIB。と同時に姿を焼失――――させたかと思えばまた現れを繰り返し、どんどんI・Sにダメージを与えていく。

 

 周囲からみるとそうとしか説明がつかず、シャルロットのようにワープする能力を覚醒させたと推理するのもおかしくはない。しかしそうではないのだ。もしワープ能力ならば、簪のいう通りいつの間にダメージを与えたかどうか解らなくなることはないはず。

 

 つまりⅠ・Sの機体に刻まれる傷は、完璧に黒乃が現れるよりも前にできているということになる。本当にみればみるほど理解が追いつかず、専用機持ちたちは揃って援護も忘れてしまう。それとは真反対のように、科学者2人はというと――――

 

「いやいやいやいや、意味解んないよこれ。束さん特性の超スローカメラにも影すら映らないんだけど!」

「その時点で超スピードとかワープの線はゼロですね。かといって、単純にステルスとかそういう類でもなさそうだ」

「だよねー! だとするとこれアレだよたっくん、とんでもない仮説が立てられちゃうよ!」

 

 みるからにI・Sが追い込められ始めているというのに、むしろここにきて最も楽しそうな表情を浮かべて解析を進めていた。自分たちの頭でも理解不能なことを解き明かす。それこそが楽しいのだといわんばかりの様子だ。だからこそ黒乃との戦いは止められないのだというのが見て取れる。

 

 とはいえ、実のところもう確信に迫る部分まではきているのだが。鷹丸が導き出した結果の通り、超スピードやワープなんていう能力ではない。もはや黒乃は神の領域に達していると表現してもなんのそん色はないのだから。刹那の新たな単一仕様能力とは――――

 

『磁力操作――――』

(久遠転瞬!)

 

 外面からみるとI・Sが全くの無抵抗にみえることだろう。しかし、そうではない。このように創造した単一仕様能力の発動そのものには成功しているのだ。しかし、それはまったく意味を成さない。なぜならば、それこそが新たな単一仕様能力――――久遠転瞬の能力なのだから。

 

『磁――――』

(てやぁ!)

『――――損傷、徐々に増大中』

 

 黒乃がQIBで前に飛び出ながら久遠転瞬を発動させたかと思えば、目の前に繰り広げられる景色がおかしい。そう、先ほどまで発動させていたI・Sの磁力操作が、発動させる前の時点まで巻き戻っているのだ。そしてI・Sは防御をする暇もなく、またしても鳴神の斬撃を喰らってしまう。

 

 神の領域、というのはつまり――――久遠転瞬の正体が時空間移動能力であるからだ。I・Sが単一仕様能力を発動させる前の時間に飛び、それを妨害することで細かく未来を変えているのである。これにより、外面からするとなにも抵抗できていないようにみえるのだ。

 

 更にいえば久遠転瞬の発動中、黒乃は別の次元にいるとも表現してよい。だからこそスロー再生にも映らないし、攻撃そのものを認識することが不可能なのだ。つまり、もはや今の黒乃を前にして、なにをしようとも無駄なのである。ただし、発動そのものにはある程度の条件が必要のようだが。

 

「わけ解からな過ぎるからあくまで仮説! 束さんが思うにアレは時空操作能力! アレが発動してる間、くろちゃんはどっか別の次元に退避してるとかそんなん!」

「ですよねぇ。だとしたらあの粒子の正体はタキオンかなにかですかねぇ。……サンプル回収して研究したいですね」

「そこは我慢で! だとすると発動条件は雷光とソードBTの連結時のみに限定されるだろうね」

「ついでにいえば、一定の速度が出ていないと発動そのものもできないみたいですね」

(くっ、天才相手だとこうも簡単にバレちゃうか……)

『っ!? お姉さん、2人を気にしてる場合じゃ――――』

『磁力操作』

 

 スローにしても影すら映らないとなれば、束からして導ける答えは1つだった。見事にそれは正解に近いもので、発動条件に至っては完全に見抜かれてしまっている。単にBTが外れている時には消えない、止まった状態から消えないという相違点からでもあるが。

 

 端からみると理解不能な能力なはずという確固たるものがあったせいか、早くも正解を出されて黒乃は苦い表情を浮かべた。しかし、その一瞬は命取り以外の何者でもない。オリジナルの警告もワンテンポ遅く、待っていたのはI・Sの磁力操作であった。

 

(やっべ……!?)

 

 タネさえ解ればこちらのものだといわんばかりに、8本のソードBTは磁力操作で引っ張られ、無理矢理にでもマウント状態を解除されそうになってしまう。故障でも起こされたらたまったものではない。二進も三進もいかなくなった黒乃は、自らの意志でマウントを解除。

 

『操作射程圏外への進入を確認』

(操作範囲まで把握されてたか……。どうしたものかね)

『拾いながら戦うのは現実的じゃないよね』

 

 外れたソードBTたちはすさまじい勢いで弾き飛ばされ、八方向の遠い彼方へと吹き飛ばされてしまった。あえて重力操作で潰さなかったのは、オリジナルの呟きを現実のものにする意図でもあるのだろう。もっとも、I・Sにとっては保険程度にしかなり得ないが。

 

 回収しつつの戦闘は非現実的。しかしI・Sと相対するのに久遠転瞬は必要不可欠。反則級の能力を備える者同士、発動条件がないI・Sに軍配が上がるのは当然のことではある。が、裏を返せば久遠転瞬さえ使えればどうにかなるともいえよう。

 

(……黒乃ちゃん、やっぱりここは回収を――――)

『……ううんお姉さん、あれ見て!』

「みんな、BTは拾ったか!」

「ああ、問題ない。故障もしていないようだ」

「このくらいしか出来ないのは悔しいですが……」

「なに言ってんの、こうなったからには大事な役目よ!」

「そうだよ、黒乃に届けさえすれば!」

「I・Sとやらも鉄屑同然というわけだ」

「最終的には……消し炭……」

「というわけでみんな、気合入れてお届けするわよ!」

(みんな……!)

 

 どうにかなるのならば、起死回生を狙って回収するしかない。苦しい選択ながらそれを選ばねばならないのではとオリジナルに相談を持ち掛けるが、それと同時に8つの影が宙に浮いた。位置は八方でバラバラだが、1つ1つが同じ方向のみを見据えている。

 

 久遠転瞬の発動に必要となるソードBTは8本、黒乃を除いた専用機持ちの総数も8名。おあつらえとはこのことか、一夏たちがその手に希望を携えて現れた。かなり遠方ではあるが、黒乃を包囲するかのように陣取っている。黒乃はハーパーセンサーでなく、己が目でそれを確と見届けた。

 

 しっかりとその瞳に、みんなの雄姿を焼き付けねばならない気がしたから。しかし、そうもいってはいられない。向こうからすれば久遠転瞬を使用可能になった時点でほぼ負けが決まる。となれば、死ぬ物狂いでそれを止めにかかるだろう。

 

 方法としては2つ。一夏たちの回収したソードBTのうち1本を破壊するか。または、8本のソードBTが刹那に連結しきる前に黒乃を殺すかだ。どちらにせよ、誰しもが命を懸けねばならないことは明白。ではあるが、もはや今更のことだった。何故なら9人は――――初めから命なんて捨てる覚悟なのだから。

 

(ねぇ黒乃ちゃん)

『ん、どうしたの?』

(仲間って……最高だね!)

『全面的に同意!』

「黒乃が動いた……! みんな、なんだっていい、どんな方法でも構わない! 絶対にコイツを黒乃の元へ届けるんだ!」

 

 一夏に至っては男女の関係という枠組みとなるが、黒乃にとって専用機持ちたちは大切な友人であり仲間であるという認識だ。無言無表情となる呪いのせいで他者にあまり好かれないのは仕方のないことだ。普段は自分にそう言い聞かせ、おちゃらけて、誤魔化してきた。だが、いくら黒乃でもそこまで無神経な人間ではない。

 

 時には本気で憤りを覚えたり、ただ悲しみだけが募るような言動を取られた経験なんて数多にある。だが目の前に居てくれる8人は違うんだ。いつだって自分に笑いかけてくれる大切な仲間なんだ。そんな当たり前のことを最終決戦の場で再確認させられた黒乃は、心の内にひどく勇気が湧いてくるのを感じた。

 

 だから黒乃は動き出す。人類なんてどうでもいいが、いち早く最高の仲間と笑いあう明日を取り戻したいから。そう、すべては当たり前の明日を取り戻すためだけに。そんな想いを込めた刃が届かないはずがない、負けるはずがない。黒乃はそんな確証にも似た自信とともに鳴神を握りしめ、I・Sへと肉薄した。

 

 

 




刹那の武装面に関してはガンダムエクシアがモチーフです。
刹那・赫焉もダブルオーライザーがモチーフみたいなもんです。
赫焉覇王・刹那はダブルオークアンタ……の要素はもちろんありますけども。
対話とかはちょっと関係なくソードBTのみですね。
それに時空間移動を習得してもらわないとこの先が困るので。

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