八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第19話 始動 八咫烏伝説(裏)

「お早う、黒乃ちゃん。今日の調子はどうかな?」

「…………。」

「そうかい、それは良かった。」

 

 刹那を受け取った翌日、昨日のピットに顔を出せと言われたのでやって来た。昴姐さんは、別の所で待機している。今日はどんな用事か知らないけど、鷹兄達作業チームが出迎えてくれた。とりあえず調子を聞かれたので、首を縦に振って大丈夫だという事を伝える。

 

「今日はまず武装の確認から始めよう。と言うか、まだ武装は取り付けてないからまずそこからだね。」

「鷹丸くん、準備できましたよ。」

「はい、ありがとうございます。それじゃ、刹那の展開をよろしく頼むよ。」

 

 俺は言われた通りに刹那を展開するけれど、何か妙に引っかかる言われ方をした気がする。取り付けてないって、いったいどういう意味だろうか。とにかく、準備が出来たらしいのでハンガーに立った。すると、ヘルメットを着けた男性達の威勢のいい声が響く。

 

「オーライ!オーライ!」

「黒乃ちゃん、少しだけジッとしててね。」

 

 鷹兄の言う通りにジッとしていると、刀が左腰に一本、背腰部分に2本、肩部分に刀の柄みたいなのが2本付いた装飾みたいなのが取り付けられる。え~っと、鷹兄……今のところ、剣しか取り付けてないんですけど?嫌な予感が全開な中で、鷹兄は1本ずつ丁寧に説明を始める。

 

「まず左腰の物理ブレードは、神立(かんだち)って名前の刀だよ。主にそれが主兵装っていう想定かな。」

 

 え、えぇ~……?主兵装って、これですか!?天井クレーンに吊り下げられてやって来たのは、某狩ゲーに登場する太刀()を思わせる大型の日本刀だった。鞘に雷の装飾を施してあるそれは、刹那の腰に存在するベルトのような部分と接続されている。

 

「けっこう取り回しが難しいと思うけど、僕らの見解として黒乃ちゃんなら問題ない……って認識さ。」

 

 俺のこれまでの戦闘データからするに、高機動近接機体である刹那はうってつけであるという見解らしい。刹那は神立含めて、7本のブレードしか装備されていないらしい。……なんでや!刹那だけにガン〇ム〇クシア!?なんてツッコミを入れていると、剣の構成もエクシ〇にそっくりであった。

 

「じゃあ、他も順番に説明するね。その背腰部分に仲違いに装着されているのが、それぞれ叢雨(むらさめ)驟雨(しゅうう)だよ。片方は大型物理ブレードで、片方は中型物理ブレードってところかな。」

 

 なるほどね……この腰のベルトみたいなデザインは、神立含めて刀を直接刹那に取り付けられるようにするためか。叢雨と驟雨……長さを統一していない所を見ると、2刀流で使えって事かも。適度な大きさなため、神立よりも取り回しがよさそうだ。

 

「で、次の2本は刹那自体に収納されてるんだ。名前は紅雨(こうう)翠雨(すいう)。イメージインターフェースでアクティブにできるようにしてあるから。」

 

 鷹兄の言われた通りにして見ると、刹那の太もも部分がガシャン!と開いて、中から短めの刀が左右の太ももから飛び出た。俺はそれを抜き取ると、鞘も鍔も存在しない事に気が付く。なんていうか、いわゆるドスって奴に似ているな。長さ的には、某オニワバンスタイルの人が使っていた小太刀ほどか。

 

「ISの戦闘に使うには、少しリーチが短すぎるでしょう?だからそれは、主に投擲用と思ってくれていいよ。」

 

 なるほど、投擲用か……ナイフとかを投擲するのは、一応近接武器にカウントしたい……って前世の友達が言ってたな。でも、上手くできるかどうか心配だ。投げナイフとかって、結構な技量が必要だろ?こと運動に関しては器用な俺だけど、上手くいくかな……。

 

「じゃあ、次。肩の部分に柄みたいなのがあるの解るかな?それ、引き抜いて……も良いけど、あまり乱暴にしないでくれると嬉しいな。」

 

 さっき肩に取りつけたのは、やっぱり刀だったのね。でも気になるのが、鞘が無くて柄だけってところかな。それもだけど、鷹兄の気を付けて引き抜けって台詞も気になる。よ、よし……念には念を入れて、ゆっくりと抜いてみる事にしよう。ゆ~っくり……ゆ~っくり……。

 

「それはレーザーブレードの疾雷(しつらい)迅雷(じんらい)だよ。エネルギー兵器だから、パワーダウンには気を付けてね。」

 

 た、確かに……レーザーブレードなら気を付けた方が良いね。右手が疾雷で、左手が迅雷みたいだ。それぞれレーザーブレードと言うよりは、バリバリと青紫色の電撃が集約したような見た目をしていた。さて、これで7本全部だな。そう思って俺が疾雷と迅雷を仕舞っていると、鷹兄は続けて喋る。

 

「後ね、武装って言っていいか微妙なんだけど……。両肘と両膝に、霹靂(へきれき)って名前の仕込刀が着いているんだ。これもイメージインターフェースの操作だけど、肘や膝を曲げるのが飛び出す合図だよ。」

 

 う~ん……それは、刀7本のコンセプトからは外れるな。だからきっと、意表を突いて使う用途なのだろう。とりあえず右肘だけ霹靂とやらを出してみると、刹那の肘から鮫の背びれのように湾曲した刃が飛び出た。続けざまに左肘、右膝、左膝と出してみるが、何処にも問題は無さそうだ。

 

「大丈夫?どれも問題は無さそうかい?」

「…………。」

「そうかい。だったら僕も満足だよ。」

「でも鷹丸さん、なんで拡張領域(パススロット)に仕舞わないんですか?」

「え、そっちの方がカッコイイからだけど……。」

「あ、あぁ……はい……そうですか……。」

 

 なんでこの機体が、全ての武装を常時装備なのかが解った。完全に鷹兄の趣味みたいだ。素朴な疑問をぶつけるかのように女性職員が質問すれば、さも当たり前の事のように返され黙るしかないらしい。でも確かに、鞘から抜いたほうがカッコイイってのは解ってしまうなぁ……。

 

「じゃあ、模擬戦しよっか。鶫さん、ご案内してあげて。」

 

 ちょっ、ちょっと待ってよ鷹兄!いきなり過ぎて心の準備が……。お、落ち着け俺……心の準備は、昨日の内に出来ていたはずだ。いったん刹那をチョーカーに戻すと、前から歩いてくる女性が。……って、ちー姉?今ごろドイツなハズなのに、なんでここに居るのだろう。

 

「久しぶりだな、黒乃。一夏と2人で元気にやってるか?」

「アンタが模擬戦するって聞いて、緊急帰国したんだってさ。ホントこのシスコ……ぐはっ!?」

「黙れ適当人間。黒乃、この人は……紹介しなくても解るだろう。」

「ハイ、ミス・黒乃。私はアンジェラ・ジョーンズよ、今日はよろしく。」

 

 あっ、テレビで見た事ある人だ!確か、イギリスの元国家代表……アンジェラ・ジョーンズさん。引退して現在は後進の育成に尽力してるとかで、表舞台に立つ事は少なくなったみたいだけど……まさかこんな所で出会えるなんて!……って、あれ?今から……元国家代表と模擬戦すんの!?

 

「ま、今日はお手柔らかにお願いね。」

「良く言うよ……。黒乃、アンジーは手加減とかしないからね。まるでどっかのシスコ……グフゥッ!?」

「黙れダメ人間。」

「ちょっ、適当は認めるけどダメ人間はナシでしょ!アンタらのせいで、最近は普通に仕事してるでしょうが!」

 

 そう言いながら向こうのピットに行ったであろうアンジェラさんの姿が見えなくなると、昴姐さんが俺にそっと耳打ちした。しかし、シスコンとちー姉を称しようとしたのが2度目もばれてしまったようで……昴姐さんは勢いの良い腹パンを喰らう。さっきもそうだったのに、姐さんには反省の2文字は無いのだろうか。

 

 でも、漫才を見せてもらったおかげか……少し緊張が解れてきた。狙ってやったって事は無いだろうけど、それでも感謝せずにはいられない。俺は2人に一礼してから、カタパルトへと移動した。そして再度刹那を纏い出撃良しの合図が出るまで、とにかく心を落ち着かせる。

 

『それでは、発進をお願いします。』

 

 合図と同時に、一気に雷火をフルブースト。相も変わらずとんでもない速度の出る刹那だが、今回は全ての武装を着けているので重量感が違う気がする。重量感=安定感……で良いのか?まぁいいや、頭は良くないから考えるだけで無駄だ。

 

「とんでもない機体ね……。でも、私も負けないわよ。」

 

 ラファールを纏ったアンジェラさんは、刹那の速度に驚いている様子だ。それでも強気で不敵な笑みを見せながら、俺にそう宣言して見せた。こっちこそ負けませんという意味を込めて、俺は大きく頷いてアンジェラさんを見据えた。そして静かな時間がしばらく続くと、その時は訪れた。

 

『試合開始。』

「まずは小手調べ!」

 

 甘い、栗きんとんよりも甘いぞアンジェラさん!こちらは専用機……小手なんて調べる必要は何処にも無い!アンジェラさんは、正確な狙いでアサルトライフルを撃ってくるが、刹那の速度で難なく掻い潜っていく。あっという間にアンジェラさんに接近できた俺は、途中で抜いておいた神立で斬りかかる。

 

「っ!?流石に速いわね……。」

 

 刹那は一撃離脱が旨で、恐らく止まったら負けって奴だろう。すれ違うようにアンジェラさんを斬ったが、攻められる内はとにかく強気に行かなくちゃな……。俺は急速旋回して、再びアンジェラさんを正面で捉えた。武装は……しまっている暇も無いし、このまま神立で!

 

「じゃあ……こんなのはどうかしら。」

 

 グレネードシューター……?どういうつもりか知らないけど、そんなのますます当たりはしないぞ。爆風で巻き込む算段かな?それでもこの刹那には、QIB(クイック・イグニッションブースト)がある。アンジェラさんがグレネードを撃って爆発の瞬間に、安全圏へQIB(クイック・イグニッションブースト)を……。

 

「それっ!……そこっ!」

 

 それは一瞬の出来事だった。グレネードシューターから弾頭が飛んで来たかと思えば、すぐさま武装を変更してスナイパーライフルを取り出した。そしてなんとアンジェラさんは、自らが放ったグレネードの弾頭を見事に撃ち抜いて見せる。さ、最初から爆煙を煙幕として使うつもりだったのか!

 

 くっ、文字通り煙に巻かれてしまった……。だけど落ち着け、アンジェラさんの位置はハイパーセンサーで補足している。これがある限り煙幕なんて意味が無いのだから、やるべき事はとにかく急いで煙の中から脱出する事だ。そう思った俺は、アンジェラさんとは逆方向……右側にQIB(クイック・イグニッションブースト)をした。

 

Welcome(ようこそ)♪」

「…………!?」

 

 は?なんで!?飛び出した方向に合わせて、何故だかアンジェラさんが待ち構えている。本当はここでもう1回QIB(クイック・イグニッションブースト)を使って回避するのがこの刹那のコンセプト何だろうけど……間に合いまへーん!英国出身らしく妙に発音の良いウェルカムと同時に、アンジェラさんは俺の腹部にショットガンを押し当てた。

 

 ……ショットガンんんんん!?いや、タイムタイム……ぎゃああああ!腹部にショットガンを連射されたああああ!それもリロードが必要になるまで連射されたおかげか、とんでもなくエネルギーを削られる。おまけと言わんばかりに、アンジェラさんは俺を蹴り飛ばして距離を取った。

 

 しかし、何でハイパーセンサーが変だったのだろう?そう思って良く見てみると、何かフワフワと球体みたいなのが浮いていて、それにラファールの反応がある。もしかして……ダミーモジュールか何か?……ずっちー!そんなんアリかよ、元国家代表のする事かよ!

 

「わ、笑って……!?」

 

 はい……?あっ、これドイツの時と同じ現象が起きてるな……。どうやら心的ストレス……と言うか、死に目に会うと笑顔が出てしまうらしい。いやぁ……スミマセン、怖くなったら笑えてくる性質でして……。アンジェラさんの顔付を見るに、相当ドン引きされてるみたいだ。

 

 いや~……しかし、どう攻めたもんかな。ゲーマー的分析をするに、アンジェラさんは後手に回るタイプの敵だ。こちらの動きを的確に潰して、確実にダメージを入れてくる。後出しの強みとなると、ゲーム的に例えるならパリィか。後出しをさせない方法があるとすれば……。

 

 ……後出しも出来ないくらいの速度で、こちらが先手をとってしまえば良い。刹那ならばそれが出来る。エネルギーがごっそり減るからアレだけど、やるしかないな……。俺は神立を鞘に納めて、OIB(オーバード・イグニッションブースト)を発動させる。雷火から黒い炎の放出される轟音と共に、俺は心の中でこう呟く。

 

(セブンスソード……〇ンダム!)

「なっ……は、速っ……!?」

 

 俺は真っ直ぐ突き進むと同時に、両太ももから紅雨と翠雨を引き抜いて、アンジェラさんへと投げつけた。胴体を狙ったつもりだったけど、空中で逸れて肩装甲に突き刺さる。……ってか、当たった!人間やってみるもんだな……。アンジェラさんは離脱を始めようとするが……遅いんだな、これが!

 

 OIB(オーバード・イグニッションブースト)してから、本当に一瞬でアンジェラさんの目の前まで辿り着く。そして続けざまに腰背部から叢雨と驟雨を引き抜き……アンジェラさんの胴体を十字に斬り裂く!更に更にぃ!叢雨と驟雨もラファールに突き刺す。これも焦ってしまったせいか、刺さったのは腕部か……それでも構わん!次行くぞ、次!

 

 俺は更に両肩から交差させるように、迅雷と疾雷を抜く……と同時にX字に切り伏せる!よしっ、続けてアンジェラさんの胴体を斬りつける事に成功した。おまけに取っといてよ、アンジェラさん!俺は振り抜いた迅雷、疾雷をラファールの脚部に突き刺しておいた。そしてコイツで……止め!

 

 神立の鞘をアタッチメントから取り外して、居合のようにしてアンジェラさんの胴体をもういっぺん斬り裂く!その一撃が決め手になったのか、ラファールのエネルギーは空となった。決まった……セブンスソードコンビネーション!ぶっちゃけ悪ふざけ半分でやってみようと思ったけど、まさかこんなに上手くいくとは……。

 

『し、試合終了……。勝者、藤堂 黒乃……。』

 

 試合終了のアナウンスは、何処か戸惑った様子でそう告げた。そうか、あの笑顔を人前で晒すのは初めてだからか……。そりゃそうだ、誰だって引くよあんなもん。今は落ち着いたおかげで、元の無表情に戻ってるけど……。普段がこうやって無表情な分だけ、反動も大きいのかもなぁ。

 

 あ、すみませんアンジェラさん……刺さった6本の刀返して貰いますね。それを言葉に出来ないから、黙って急いで叢雨、驟雨、紅雨、翠雨、疾雷、迅雷を引き抜いてそれぞれの鞘に仕舞った。そしてペコリと深々と頭を下げると、ピットへ向かって飛んで行った。

 

「黒乃……。」

 

 ピットに戻ってまず俺を待ち受けていたのは、ちー姉だった。何か言いたげなその顔は、まるで俺に対して遠慮しているように見えた。あ~……悪いけど、ちー姉……少し疲れたからさ、今言えないなら後にしてくれれば嬉しいな。俺はそれが伝えられないから、俺はちー姉の横を刹那を解除しながら素通りしようとした。

 

「待て、黒乃……!今のは――――」

 

 まぁ当然ながら肩を掴まれて制止させられる訳で。今のは……ねぇ。どうやったって説明がつくはずが無いので、俺はとにかくさっきの模擬戦の感想を述べようと努めた。そうだなぁ……こういう時には、少しばかり格好をつけてやるのも良いでしょう。

 

「また……死に損ねた……。」

「っ!?」

 

 ちー姉の制止を振り切りながら、俺はそう呟きながら更衣室へと歩いて行く。フッ……今のはかなりクールに決まったんじゃないだろうか。セブンスソードも上手く入るっていう奇跡が起きたし、今日は怖くなければ言う事なしだな。さて、着替えは……しない方が良いかも、まだ刹那を動かす可能性もある。だったら、少し携帯を弄りながら待っていようかな。

 

 

 


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