八咫烏は勘違う (新装版)   作:マスクドライダー

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第23話 セシリア嬢との因縁

1時限目の授業が終わり次第に、隣の席のイッチーが話しかけてきた。俺はイッチーの質問に対して、静かに首を横に振って応える。学生って身分の人で授業が疲れないってのは、よっぽどの特殊体質としか思えない。愚問という奴だよ、イッチー……流石って何を持って流石なの。

 

 ちなみにイッチーが余裕そうな態度であるのには、それなりに理由という物がある。イッチーは原作にて参考書と電話帳を間違えて捨てた……なんて言ってたが、それは俺が未然に防いである。イッチーがISを動かせると発覚してから注意深く不要な雑誌類を溜めてる所を見てると、普通に週刊誌と一緒に縛られてるから驚いたよ。

 

 ま……しょうもない事でちー姉に叩かれるのもなんだしね。それに、後から教えてくれなんて言われても困る。俺の為でもあるし、イッチーの為でもある言わばWIN-WINって事さ。あ~……しっかし、今の授業は基本中の基本だったな……。昴姐さんに教わった事をリピートするのは、正直……苦痛かな。

 

 そう考えていると、眠気の方が勝って来たかも……。タイミング的にあのイベントも起こるのだろうし、争い事には巻き込まれたくないからスルー安定だ。俺はホームルーム後の休憩時間と同様に、腕と脚を組んで居眠りの体勢に入った。するとどうだ……だんだん……意識が……遠のいZzz……。

 

「ちょっとよろしくて?」

「おい、黒乃。なんかお前に用事みたいだぞ。」

 

 Zzz……Zzz……。そう言えば、俺って寝言とかってどうなのかな……Zzz……。寝言もやっぱり、全く出て来ないんだろうか……Zzz……。ハハハ……日頃喋る事が出来ない反動で、とんでもない事を口走っていたりして……Zzz……。例えば?例えば~……セクハラ発言とかセクハラ発言とかセクハラ発言とか……Zzz……。

 

「ちょっと、聞いていますの!?」

「なぁ……少し落ち着けって、黒乃も今に……。」

「貴方は黙っていて下さいます?わたくしは、彼女に用があるのです。」

「……お前にはあっても、黒乃には無いかもしれないけどな。」

「貴方、さっきからなんなのですか……。」

 

 ん、ん~?少しばかり眠っていたけど、やはり彼女が来ちゃっているみたいだ。セシリア・オルコット……いや、むしろセ(シリ)ア!ほんっとにあれだぞ、セシリーのケツはアレだぞ……単純にエロくて最高。いや、ケツもさることながら、全体のプロポーションで言うとISヒロイン勢で彼女が最もバランスが良いと思う。異論は認める。

 

 いやホント、アニメ2期のバニー姿なんか素晴らしいの一言に尽きる。後ろから思い切りケツを撫でまわしたい。って、セシリーが来てからケツの話しかしてないな。でも、どんなに素晴らしいケツの持ち主でも……初期のセシリーは争いの種でしかないわけで……。イッチーには申し訳ないけど、やっぱり無視させていただきたく方向で……。

 

「とにかく!ミス・藤堂……いい加減に反応を示しなさいな!」

 

 な、何ぃ!?俺に用事だと……。は、はい……今すぐ立ちます!てっきりイッチーに用事だと思っていたもので、俺は慌てて椅子から立ち上がった。少し立ち上がる勢いが強すぎたせいか、セシリーがビクッとなった気が……。いや、それも含めて大変に申し訳ない。して、オイラにいったい何のご用かしら?

 

「オホン!同じく代表候補生として、挨拶をと思い参上(つかまつ)りました。わたくし、セシリア・オルコットと申します。以後お見知りおきを、ミス・藤堂。」

 

 なんだろうか、今とんでもなく皮肉を言われた気がする。裏を返すと、俺が挨拶も出来ない礼儀知らずとでも言いたいんじゃ……?い、いや……いくらなんでも、セシリーだってそこまで酷くないはず。握手も求められているし、それに応えって……って痛たたたた……セシリー、力みすぎ力みすぎ!

 

「……それにしても、正直期待外れですわね。入試の際に試験官に勝ったのは、わたくしだけのようで……。」

「……おい。黒乃に嫌味言いに来ただけなら、今すぐ帰れよ。それに、試験官になら俺も勝ってるぜ。もしかして、女子だけではってオチじゃないのか?」

「フンッ、そんな品の無い男性を飼っているのがまず程度の低……は?あ、貴方……今何と仰いました!?」

「は?だから試験官には俺も勝ってるって言ったんだよ。」

 

 期待外れって言われましても、試験を基準にするなら的外れだよ。だって俺、試験を受けてすらないのに合格してるんだもの。本当にそれが不思議で不思議で……。って、あり?いつの間にか、原作と似た流れになって来たな。話の入り方は違うが、これが運命力って奴なんだろうかね。

 

「フ、フフフ……フンッ、男性なんかに後れを取るとは、まだまだですわねミス・藤堂。」

「さっきから……!俺の事を馬鹿にするのは良い……けど、これ以上黒乃を……。」

「…………。」

「黒乃……。……解かった。」

 

 はいはい……どうどう……。怒ってくれるのは嬉しいけどね、喧嘩腰なのはいかんよイッチー。争いってのは、何も生み出さんもんです。今にもセシリーに飛びかかりそうなイッチーを手で制すと、大人しくそれに従ってくれた。よしよし、聞き分けの良い子は好きだぞ~っと♪……ヴォエっ!自分で言ってて気持ち悪くなった……。

 

「良い判断ですわね。その調子で、しっかり飼いならしていただきませんと。」

「このっ……!?」

「……ところでミス・藤堂。アンジェラ・ジョーンズと言う名に、心当たりはありませんか?」

 

 う~ん、何か知らんけど……セシリーには嫌われてるっぽいなぁ。大人しくしたイッチーを見るや否や、またしても挑発みたいな行動を取ったし。まぁそれは置いておくとして、唐突な質問だ。もちろん、専用機を貰ってすぐの模擬戦相手だし……アンジェラさんとの模擬戦は、俺の海馬にしかと焼き付いている。それを肯定する為に、俺は首を縦に振った。

 

「そうですか……。それならば、ご覚悟願います。アンジー姉様の敵は、わたくしが取らせていただきます。」

 

 か、敵……?確かに結果的には俺の勝ちだったけど、そもそも専用機VS量産機だったしフェアな戦いでは無い。それに加えて、仇敵みたいな言われ方をするのが納得できないけど……?あくまで模擬戦だよ?なんたって、あんなにも敵意むき出しで噛み付いて来たんだろ。

 

「クソッ!言いたい事ばっかり言いやがって……。黒乃、お前は悔しくないのかよ!?」

 

 いや、全然悔しくないから反応に困るな……。俺はきっと、産まれてくる際に敵対心や下剋上精神を親の腹に落として来てしまったに違いない。そうだねぇ、イッチーをどうやって落ち着かせよう……。飼う……イッチーを飼うかぁ……。まぁどっちかと言えば、犬だな。俺はイッチーを椅子に座らせると、頭を抱き寄せてワシャワシャしてみる。

 

「なっ……!?」

 

 それはもう、動物大好きの老紳士なみにワシャワシャワシャワシャ……。お~よしよし、大丈夫大丈夫。イッチーが怒る事はなぁ~んにもないんだからね~……。つーか、正直なとこもっと落ち着きを持ちやがり下さい。イッチーがいつ暴れ出すかってね、お姉ちゃん心配だから。

 

「くっ、黒乃……もう大丈夫だ、落ち着いたから。その……離してくれ……!」

 

 おろろ、イッチーにしては随分と新鮮な反応を見せてくれた。イッチーは俺の腕から強引に抜けると、顔を真っ赤にして俺から目を逸らす。まぁ……そりゃおっぱいが顔に当たり放題だもんね。でも別になぁ……イッチーに触られたくらいでどうって事ないし。それこそ、ペットに触られて騒がないのと同じ……なのは、イッチーに失礼か……。

 

 とにかく、イッチーになら例え揉まれようが見られようがどうって事はない。あ、あと弾くんとか鷹兄とかも。数馬(カズ)くんは……がっつき過ぎで怖いからNG。本当に、彼は前世の俺を見ているようだ。なんというか、思わず世の女性に謝罪してしまったぞ。

 

「黒乃、何かあったらすぐ相談しろよ?」

「…………。」

 

 こうやって俺の事を心配してくれての行動だから、イッチーは憎めないというか……。俺としては、この後に大人しくしてくれれば言うことなしなんだよねぇ。それこそ俺の事を引き合いに出されると、イッチーはセシリーに噛み付く可能性は大きい。今から気が重いけれど、ま……なるようにしかならないよな……。

 

 

 

 

 

 

『日本に……ですか?』

『ええ、少し模擬戦をしてほしいって依頼されたの。なんでも将来の有望株らしいわ。』

『なるほど……。では、わたくしの未来のライバルですわね!』

『フフッ、そうね。私が身体を張って偵察に行ってあげるわ。私が居ない間も、サボっちゃダメよ……セシル?』

『はいっ、アンジー姉様!』

 

 今から丁度1年前のあの日、アンジー姉様は日本で仕事があるとイギリスを発ちました。もちろんわたくしは、快く姉様を送り出しましたが……あんな事になるのなら行かないで……と言いたかったですわ。きっと、本人も予想だにしなかったでしょう。まさか、2度とISに乗れなくなってしまわれるなんて……。

 

 アンジェラ・ジョーンズ……アンジー姉様は、わたくしにとって師であり姉であるお方でした。わたくしがISに乗り始めて以来、ずっとお世話になって……。立派な国家代表となった姿を見せる事こそ、最高の恩返しだとわたくしは思っておりましたのに……今になっては、叶わぬ夢ですわ。

 

 アンジー姉様が日本へ向かって数日間は、別の方に指導をしていただいていました。いつお帰りになるか心待ちにしていると、わたくしの耳に入ったのは……姉様の完全引退の報道でした。あまりに突然の事で、わたくしはしばらく呆然とするしかありません。日本で何かあったに違いないと、自然に察するわたくしがいました。

 

『どういう事か、説明して 下さいますわよね!?』

『……すみません、アンジェラさんに口止めされてまして。』

『口止め……?詳しく聞かせて下さい!わたくしには、知る権利がありますわ!』

『そこに関しても申し訳ないですが、私も詳しく知らないんです……。アンジェラさんが、何も話してくれなくて。』

 

 報道を聞いたその日に、わたくしは現在の担当者を問い詰めました。残念な事に、大した情報は得られず終い……。歯痒くて仕方がなかったわたくしは、気がつけばその場から走り出していました。本人に話を聞くべく、しばらく奔走した結果……ついにわたくしは、アンジー姉様を見つける事に成功しました。

 

『アンジー姉様!』

『セシル……。』

『……どちらへおいでですか?』

『…………。』

 

 アンジー姉様の手に抱えていたのは、大量の荷物。それは恐らく、職場に置いていたものだとわたくしには解ります。アンジー姉様は、わたくしの質問に答える事はなく、ただ目を伏せるばかり。あまつさえ、その場から立ち去ろうとするではありませんか。

 

『お待ち下さい姉様!いったい……日本で何があったのです!?』

『……ごめんね、セシル。私はもう無理なのよ。』

『答えになっていませんわ……!わたくしは、まだ姉様に教えていただきたい事が山ほど……。』

 

 わたくしの懇願するような言葉も、アンジー姉様には全く響かないご様子。背を向けたまま、黙り込んでしまわれました。わたくしは、なんとか姉様に留まっていてほしく、紡ぐべき言葉を模索し続けた。ですが、姉様の方が先に口を開き……わたくしにこう告げたのです。

 

『クロノ・トウドウ……。』

『え……?』

『この名前、覚えておきなさい。そしてもし出会ったら……間違っても戦ったりしてはダメ。……私みたいになりたくなかったらね。』

『姉様……?アンジー姉様!』

 

 アンジー姉様は、そう言い残して振り返る事なくわたくしの前から消えてしまいました。クロノ・トウドウ……その方が、姉様の完全引退に関係しているのですね。わたくしは、この時に誓ったのです。クロノ・トウドウを倒し、姉様の無念を必ずや晴らすと。そうして月日は流れ、ようやく……ようやくですわ。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

「おい、黒乃。なんか、お前に用事みたいだぞ。」

 

 IS学園へ来れば、必ず会えると思いましてよ……ミス・藤堂。いいえ、『八咫烏の黒乃』とお呼びした方が良いのかしら?それはこの際……どちらでも構いませんわ。わたくしが話しかけたのは、とりあえずミス・藤堂を見極める為……。今はまだ、当たり障りのない呼び方で問題ないはずです。

 

 しかし、ミス・藤堂はわたくしの言葉に反応すら示さない始末。声が出ない等の症状は存じていますが、今のは明らかに無視ですわ!くっ……わたくし程度は、相手をする価値もないと仰るつもりですね。いいでしょう、それならわたくしとしても考えというものがありましてよ。

 

「ちょっと、聞いていますの!?」

「なぁ……落ち着けって、黒乃も今に……。」

「貴方は黙っていて下さいます?わたくしは、彼女に用があるのです。」

「……お前にはあっても、黒乃には無いかも知れないけどな。」

「貴方、さっきからなんなのですか……。」

 

 わざとらしく声を荒げて見せても、ミス・藤堂は反応を見せません。すると、関係のない男性の方がわたくしに喧嘩腰で話しかけてくるではありませんか。彼は織斑 一夏……。織斑先生の弟さんであるのは、周知の事実ですが……ミス・藤堂との関連性が見えませんわね。

 

 ああ、そう言えば……ミス・藤堂の数ある二つ名に『ブリュンヒルデの愛弟子』……というのもありましたわね。もしかすると、その繋がりかしら。それにしてもこの方、男性の癖して度胸はピカイチですわね。そこは評価に値しますが、今はただ邪魔なだけですわ。ここは、押し通すのが良いでしょう。

 

「とにかく!ミス・藤堂……いい加減に反応を示しなさいな!」

 

 わたくしが最大限に声を大にしてそう言うと、ミス・藤堂はようやく立ち上がってくれました。勢いがよすぎて少々驚きましたが、これでようやくまともな会話ができますわね。……こちらを見据えるミス・藤堂は、何処か不機嫌な様子み見えますわ。もしかして、彼を馬鹿にするような事を言ったからかしら。それならば……。

 

「オホン!同じく代表候補生として、挨拶をと思い参上仕りました。わたくし、セシリア・オルコットと申します。以後お見知りおきを、ミス・藤堂。」

 

 まぁ……何をするにも、まず挨拶からですわね。八咫烏様は、わたくしの事など存じないようですし。わたくしが右手を差し出すと、ミス・藤堂は力強く手を取ってくるではありませんか。しょ、少々……力強過ぎやありませんこと?さ、先ほどの仕返しのつもりですわね。

 

 そう思うと、わたくしの手にも力が入ってしまいます。くっ、生身では非力なわたくしですが、流石に眉1つ動かさずに対抗されるのはショックですわ!負けじとわたくしも、余裕の表情をキープしないと……。で、ですが……このくらいにしておいてあげましょう。

 

「……それにしても、正直期待外れですわね。入試の際に試験官に勝ったのは、わたくしだけのようで……。」

「……おい。黒乃に嫌味言いに来ただけなら、今すぐ帰れよ。それに、試験官になら俺も勝ってるぜ。もしかして、女子だけではってオチじゃないのか?」

「フンッ、そんな品の無い男性を飼っているのがまず程度の低……は?あ、貴方……今何と仰いました!?」

「は?だから試験官には俺も勝ってるって言ったんだよ。」

 

 な、なんという事でしょう……直接ミス・藤堂を挑発するのではなく、彼の方をわたくしに噛みつかせる作戦が台無しですわ!?織斑先生の弟さんとは言え、そこまでやれるような方ではないと思っていましたのに……。取り乱してしまいましたが、まだまだやりようはあります。

 

「フ、フフフ……フンッ、男性なんかに後れを取るとは、まだまだですわねミス・藤堂。」

「さっきから……!俺の事を馬鹿にするのは良い……けど、これ以上黒乃を……。」

「…………。」

「黒乃……。……解かった。」

 

 見た目通りに冷静ですわねミス・藤堂……。ですが、安心しました。この程度で頭に血を登らせてしまうような方なら、それこそ本気で失望してしまいます。だけれど、これはこれでアンジー姉様がああなってしまったヒントが全く見えてきませんわ。もう少しばかり、探りを入れてみましょう。

 

「良い判断ですわね。その調子で、しっかり飼いならしていただきませんと。」

「っ……!?」

「……ところでミス・藤堂。アンジェラ・ジョーンズと言う名に、心当たりはありませんか?」

 

 ストレートにアンジー姉様の事を問いかけると、ミス・黒乃は首を縦に振って答えました。……ひとまず安心しましたわ。もし覚えていないと反応しようものならば、わたくしは本気でミス・藤堂を軽蔑せざるを得ませんもの。この人にとって姉様は、どう映っていたのでしょうか。

 

「そうですか……。それならば、ご覚悟願います。アンジー姉様の敵は、わたくしが取らせていただきます。」

 

 結局ミス・藤堂の本質は見えませんでしたが、宣戦布告だけは済ませる事が出来ましたわ。後は、彼女と戦える場を待つのみ……。用事の済んだわたくしは、大人しく席へ戻る事に。席からミス・藤堂の様子を再度確認しようと視線を送ると……随分お熱いお2人が目に入りました。

 

 た、大衆の面前であんな……抱擁して頭を撫でるなんて……!……よく解らないお2人ですが、とにかく仲がよろしい事だけは十分に伝わってきましたわ……。わたくしにとってのアンジー姉様のように、織斑さんを奪われたら……貴女はどんな反応を見せるのでしょうね?ミス・藤堂……。

 

 ……わたくしとした事が、物騒な考えが浮かんでしまいました。わたくしにとって重要なのは、ミス・藤堂に勝つ事だけですわ。勝って、証明するのです。アンジー姉様の引退が、決して無意味ではなかったという事を……。そのためには、日々精進……ですわね。わたくしは、静かに次の授業の準備に取り掛かりました。

 

 

 




黒乃→なんかセシリーにえらい嫌われとる。
セシリア→アンジー姉様の敵……!


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